兎の女神のヒーローアカデミア   作:眼球舐めは通常性癖

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ワラワ寮生活を始める

 8月中旬。あの夏季合宿から暫く後に雄英敷地内に新しく出来た寮“ハイツアライアンス”に私達は集合する事になった。中心に大きく1ーAとあるそれは学生寮にしては随分大きな規模で、一階部分は共通してるけど2階部分より上は左右に建物が分かれてる感じ。おそらく男女で個室を分ける為だろう。

 

 それほど離れてない距離には1ーBや他の学年の寮もある。幾らこの世界の建築技術が優れているとはいえついこないだ寮の案内が来て直ぐに建設したとは考え辛い。以前から準備を進めていたのだろう。

 

「とりあえず1年A組。無事にまた集まれて何よりだ」

 

 寮の前で相澤先生が私達を見渡してそう言った。みんなも追随して頷いているけど本当にこのメンバーが集まれたことが嬉しい。入学して直ぐの襲撃とこの間の襲撃。もう私達は2回もヴィランに襲われて無事生き延びているのだ。危機を乗り越えることで生まれる結束と仲間意識は相当なもので、多分雄英1年の中ではもう一番仲の良いクラスになってると思う。……そうであってくれ。

 

 一番懸念だったのが相澤先生だ。私たちの命を守るとはいえ生徒にヴィランとの個性を使った戦闘を許可した先生へのパッシングは相当強そうだった。謝罪会見もしてたし、学校に残れても担任からは外される可能性は高かっただろうに。

 

 全寮制の面談に来てくれて内心大丈夫だろうなとは思ってたけどやっぱり継続してくれてホッとした……。だって本当に相澤先生から新しい担任に変わるのなら挨拶も新しい担任がするのが常識的に正しい。それでも新しい担任が直ぐには見つからなかった可能性もあったからビクビクはしてたんだけどね。

 

「当面は合宿で取る予定だった“仮免”取得に向けて動いていく」

 

「そういやあったなそんな話!!」

 

 切島くんが驚くのも頷ける。すっかり忘れていた話だ。……そういえば合宿の間に相澤先生に提出しろって言われてたレポートのことを思い出した。まぁあんなことがあったんじゃ出来ないし時効だよね時効!

 

「轟、切島、緑谷、耳朗、葉隠。この5人はあの晩あの場所へ爆豪・大筒木救出に赴いた。途中で巡回中のヒーローに見つかったがな」

 

 ファッ!!??? えっ……どういうこと?? 挙げられた人の様子を窺うが皆あえて視線を合わそうとはしなかった。

 

「その様子だと行く素振りは皆も把握していたワケだ。……本来なら爆豪と大筒木以外は除籍にしているところだが、ヴィラン連合は捕まったものの昨今のヴィランの動きが急速に活発化しているのも事実。オールマイトという平和の象徴が雄英で教鞭をとり始めてからの今までの襲撃を踏まえると、この機に乗じたヴィランが模倣犯としてどんな馬鹿をしでかすか想像がつかない以上、今雄英から人を追い出すわけにはいかないんだ」

 

「正規の手続きを踏み正規の活躍をして信頼を取り戻してくれるとありがたい」

 

 正論だけにやたら空気が重い。相澤先生は先行して『元気に行こう』とハイツアライアンスに入って行ったけど私達は『じゃあ行こう!』と続いて入れる雰囲気では無かった。

 

 爆豪くんは上鳴くんと切島くんと何やら高町式交渉術のOHANASHIをしにいったみたいだ。私も救出に来てくれていたらしい響香と葉隠ちゃんの元に。先ずは葉隠ちゃんから、

 

「……葉隠オヌシあれだけ怖い思いをして抜け出してくれたのに、また来てくれたのか?」

 

「へへッ! 一度関わっておいて後はお任せってのはカッコ悪いじゃん? それにあの時一番怖い思いをしてたのは大筒木ちゃんでしょ。ヒーロー目指す者として無視出来なかったのさ!」

 

 ……は? 天使か? こんな天使が世の中にいて良いのか? いや、良い。

 

「葉隠……抱き締めてよいか? 多分肋骨折れると思うが」

 

「それはいやーーーッ!!!」

 

 逃げ惑う葉隠ちゃんを追いかける私。ふざけて後ろから捕まえた所でついでとばかりにあの時の服一式(洗濯済み)を渡しておく。普段ほとんど裸なくせにこれは恥ずかしかったらしくイヤンと恥ずかしがっていた。……叡智だ。

 

 次は響香のもとに。あ、目を逸らしている。これ事情聴取が済んだ後響香とパパさんママさんが迎えに来てくれたわけじゃなくて、パパさんママさんが響香と私を迎えに来てくれたってことだな多分。先に回収されたのが響香が先ってだけだ。

 

「それにしても危険な真似を……」

 

「はぁ!? アンタが自ら人質にならなかったらウチも行かなくて済んだんだけどぉ!?」

 

「いやそれは……正直すまんかった。ワラワも考えが甘かった」

 

 いざとなれば天之御中に逃げれば良いかと楽天的な発想だった。心配してくれた皆のことを考えると本当に気が重い。

 

「ほらっ、さっさと行くよ。アンタ変な所能天気だけど基本根暗なんだから。辛気臭いのは見てられないっての」

 

 ズルズルと引き摺られるようにハイツアライアンスの中へ。新築の匂いがする。一階部分は共同スペースで食堂、風呂場と洗濯、ダイニングやリビングも兼ねている。もう此処だけで普通の一軒屋よりかなり広い。ソファやテーブル、椅子なんかの調度品も豪華だ。リビングのTVもかなり大きく最新式。

 

 それぞれの個室は2階から。男女で別になってるけど1フロア8部屋の5階建て。部屋も一人で住むには十分なスペースだ。あんまり広いと逆に落ち着かない性質なので嬉しい。広い空間に行きたいなら始球空間に行けばいいだけだし。

 

 部屋割りは予め決められているらしく私は4階。隣の部屋は麗日ちゃんで更にその隣は芦戸ちゃんの部屋もある。既に荷物は部屋に送っているらしく、1日かけて部屋を作ることに。

 

 尤も私はそんな大きな荷物は無い。服も洒落っ気のカケラも無いし、家具も最低限だ。包丁や調理器具は雄英が準備するとの話だったので持って来てない。引っ越してくるにあたり一番苦労したのが漫画や本、ポスターの選定だ。

 

 そろそろ布教()るか……。

 

 

 

 色々と部屋の片付けが住む頃には日はすっかり暮れていた。夕飯は引っ越し初日で荷解きやらなんやらで自炊は厳しいだろうという雄英側の気遣いもあったのか特別にランチラッシュの用意してくれたご飯だ。明日からはお昼のランチラッシュのご飯を除いて私たちで当番を決めて作っていく必要がある。

 

 すっかり疲れた様子の皆だけど女子の皆はまだまだ元気一杯。仲のいい女子高生は集えば集う程男子では止められないエネルギーを発するものだ。特に元気な芦戸ちゃんは女子の間で部屋を見せ合いっこしようという話に。で、どうせ見せ合いっこするなら男子の部屋もどんなのか見ようよという流れに発展するのも思春期の女子からしたら何もおかしくない道理だった。

 

 不参加は梅雨ちゃんと爆豪くん。爆豪くんはなんとなく想像ついたけど梅雨ちゃんがこの手のイベントに参加しないのは意外だった。あまり顔に出ない事もあって梅雨ちゃんの機嫌が良いか悪いかさえ私にはまだ良くわからない。だからもっと知りたいって思う。

 

(後で部屋に行ってみよう……)

 

 

 女子はワクワク、男子はイヤイヤ始まった部屋披露大会。それぞれ個性が出てて面白かった。オールマイトグッズだらけの緑谷くんの部屋、障子くんのミニマリストっぷり、瀬呂くんのアジアンテイストなお洒落家具。砂藤くんの手作りシフォンケーキ美味すぎんだろ!

 

 そして途中峰田の下心たっぷりの誘導で女子の部屋も披露することになってしまった。響香の部屋は自宅の部屋とほとんど同じで楽器と好きなバンドのグッズが置かれていた。自宅の方はもっと趣味全開って感じだったけど流石に此処では少し抑えたみたいだ。

 

 葉隠ちゃんの部屋はすごく女の子らしくてすごく良い匂いだった……。

 

 芦戸ちゃんの派手な部屋に麗日ちゃんの可愛い女の子らしい部屋の後はいよいよ私の部屋。

 

「いや、正直予想がつかねぇな大筒木の部屋は……」

 

 切島くんから漏れた一言にうんうんと頷く男性陣。そんな大したもんでも無いから期待されても困るんだけど……。男子たちばかりかと思えば芦戸ちゃんと麗日ちゃんも頷いている。

 

「そうかのぅ?」

 

 扉を開けて皆を招くとそこには普通の家具と壁際の本棚に並んだ本。そしてポスターが貼ってあるだけの地味な部屋だ。あ、そういえばまだ洗濯機と乾燥機の使い方が分からなかったから外に下着とか干したまんまだ……まぁ良いか。

 

「おぅ……思ったより普通だな」

 

「この壁に掛かってるポスターの男の子たち、ちょっと薄着過ぎない?」

 

「この本にのってる男の子爆豪くんと轟くんに似てるかも! 何で抱き合ってるのかは分かんないけど!」

 

「葉隠……後でゆっくりとワラワが手ほどきしてやろう。まずは入門編としてこういうのが──」

 

「──止めろ馬鹿ッ!!」

 

「ハァ〜。何で女の子の部屋で男の体見ないといけねぇんだ……」

 

 思っていたものが見つからなかったのか、癒しを求めて外の星でも眺めようとしたのだろう。峰田がカーテンをさっと開く。

 

「うおぉおぉぉぉぉぉ! 燦然と輝く一番星発見だぁ!!!!!」

 

 あっ、そうかぁ。下着干したままだったか。そんなに喜ぶもんでもないとは思うけど……。私は下着は可愛い子や美人な子が身に付けている状態が神な訳で、下着単品を盗んだり愛でたりするのは理解出来ないんだよなぁ。ましてや私なんかの下着の価値なんてほとんど無いだろう。

 

「男子は出てって!」

 

「せや!」

 

 芦戸ちゃんと麗日ちゃんの号令に散らかるように出ていく男子たち。因みに真っ先に峰田は響香のイヤホンジャックで意識を奪われた。別にそこまでする必要もなくない?

 

(え、なんか皆怒ってる?)

 

 私を見る女子の皆の視線が怖い。漫画ちっくな表現でキュピーンと目が光って顔の細部が見えなくなるぐらいの光量だ。葉隠ちゃんのような『個性』をいつの間にか身に付けていたのだろうか。

 

「アンタ……反省しな」

 

「気ぃつけんとアカンよ大筒木ちゃん! 女の子なんやから!」

 

「ちょっとガード緩いよ大筒木〜」

 

「……今度レディーとしての振る舞いを勉強しましょうね」

 

「反省しなきゃ、だね!」

 

 目が、目が笑ってない。その圧に押されて私は激しく首を振って頷いた。

 

 

 一人部屋で反省し、合流した頃には部屋披露大会の優勝者を決める様子だった。私も投票して優勝は砂藤くんの部屋に決定! ケーキが美味しかったからという女子なら誰もが頷く理由で優勝した彼は嬉しそうに上鳴くんと峰田に弄られていた。

 

「てめーヒーロー志望が贈賄してんじゃねー!!」

 

「知らねーよ何だよ、すげえ嬉しい」

 

 なんかああいうの良いよなぁ。腐女子的な意味じゃなくてああいう馬鹿っぽい絡みは女の子同士じゃなかなか無いから羨ましく感じる。

 

 もうすっかり夜はふけて流石におねむの時間だ。明日から後期の始業までヒーロー基礎学も始まるし、寝る前にいつもの鍛錬をしないと。流石に誘拐されてた時は出来なかったからその分はちゃんとやっときたい。

 

 何やら皆は梅雨ちゃんが伝えたいことあるみたいだから外に集まってと言われて集まっていた。当然、私も行こうとしたけど麗日ちゃんに『大筒木ちゃんいると話し辛いみたいやから、ね』と断られてしまった。……悲しい。

 

 

 

 

 翌日。久しぶりの雄英での日常。まだあの襲撃事件の事を体が覚えているのか、体が疼いて座学に集中出来てない。異形系の個性由来の多動性が、戦闘の記憶でスイッチが入ったままの感じ。貧乏揺すりが酷くて何回か先生に注意されてしまった。

 

 そしてようやく待ち望んだヒーロー基礎学。

 

 相澤先生曰く、本来は“仮免”取得の為の夏季合宿がああいう結果で終わってしまったのでこれからはより本格的に“仮免”に向けた内容にしていくとのことだ。仮免の合格率は例年5割を切る。雄英受験に比べたら簡単じゃんと思うかもしれないが、雄英を含めたヒーロー学科に合格した優秀な人たちがちゃんと事前に学習・準備した上で5割を切っているのだ。

 

 雄英でさえ2年生で“仮免”受験するのがセオリー。1年の私達が“仮免”に合格するならよりいっそうの努力と荒療治が必要となる。続く襲撃やらなんやらで現場での対応力は身についているけど、学習計画は大きく遅れているのが現状。

 

「そこで今日から君らには一人最低でも二つ……必殺技を作ってもらう!!」

 

「学校ぽくてそれでいてヒーローっぽいのキタァア!!!」

 

 ミッドナイトにエクトプラズム、セメントスにオールマイトと雄英教師陣が揃って今回の授業に協力してくれるらしい。まずはコスチュームに着替えて体育館γ通称『TDL』に。一見普通の体育館に見えるけど施設がコンクリートで出来ていてセメントスの個性で自在に訓練施設の内部を変形出来るという空間だ。

 

 必殺技。言葉だけでも心に響くかっこよさを追及するのは、合宿訓練で伸ばした個性伸ばしで得た力を技へ昇華することでヴィランや災害救助へ対処する『勝利への型』を決める為だ。まぁ単純に技に名前をつけた方がヒーロー業界で売り込みやすいってのもある。

 

 個性伸ばしも兼ねた必殺技の追求。

 

 技のヴィジョンが浮かんで黙々と取り組む人もいれば、とりあえず思い浮かばないので個性伸ばしをしながら考えてる人もいる。私は後者だ。

 

 必殺技って結構難しいな。本当に本気の必殺技なら共殺の灰骨があるけど、あれはガチで殺しちゃうから使え無い。私の個性って本家カグヤ然り殺意に極振りしてるからもっとこう非殺傷で複数相手に制圧出来る技が欲しいところだ。

 

 考えながら他の皆の様子を見る。轟くんの氷や爆豪くんの爆風が派手に飛び交っている中、エクトプラズム先生と話し込んでいる芦戸ちゃんの姿が目に入った。私は事情を知っている相澤先生とコソコソ話をして天之御中に入って帰って来た。

 

「芦戸」

 

「ん、どしたの大筒木?」

 

「これ……かなりの強酸なんじゃがオヌシの個性伸ばしに使えんか?」

 

 耐酸性のフラスコに入れた酸の海の液体を渡す。普通のフラスコじゃ溶けちゃってどうしようも無かったのでサポート科の特製フラスコを借りてとってきたのだ。酸の個性持ちの彼女なら酸にも耐性があるだろうからきっと個性伸ばしには使える筈だと前々から思っていた。

 

「おっ、かなりピリピリする!? すごい酸だねこれ! どこからとってきたのこれ?」

 

「サ、サポート科の知り合いから貰ったのじゃ」

 

 私の挙動不審さは気にならなかったのか、芦戸ちゃんは『ありがと!』と言って感謝してくれた。石さえ瞬時に溶けるほどの強酸をピリピリで済ます芦戸ちゃんの耐酸性には驚かされる。きっと素晴らしい必殺技を考え出す筈だ。私も負けていられない!

 

「大筒木少女はどうかな。何か必殺技の案は出来たかい?」

 

 ムッキムキフォームのオールマイトに話しかけられた。思わず頭を下げる。あのAFOとライバル関係だったらしいオールマイトの強さへの憧れはますます私の中で膨れ上がっていた。体が操られていなければ100%勝てなかっただろう。そんな奴をかつて降し、そして此間もAFOが弱っていたとはいえ再び勝った男。

 

 ただでさえオールマイト一強のヒーロービルボードチャートJPは神野事件で不動の地位を譲る気を感じさせない。

 

 ……気になるのはその絶頂の男オールマイトの体が入学の時より少しずつ衰えていっていることだ。やはり腹部の怪我は相当な負担なのだろう。

 

「いや、サッパリじゃ」

 

「じゃあ軽く組手でもしてみようか」

 

 打って来なよといわんばかりに胸を叩くオールマイト。大きすぎる胸を借りるのは逆に畏れ多いという感情すら浮かばないほど安心感がある。神野以降の戦うオールマイトの姿を見たいとばかりに周囲のクラスメイトも集まってきた。

 

 輪廻写輪眼を発動して、あえて正面から挑む。今はどれだけ自分の力がオールマイトに通じるか見てみたい。骨矢も今は封印。AFO然り脳無然り、一定以上の実力になると今の私の骨矢が通じない事が多い。どんな個性だろうとやはり個性を使うのは私個人である以上、回避なり攻撃なりの基本である体術の重要さを強く実感した今日この頃。

 

 命を奪われる恐れも無くオールマイトのような近接格闘のトップに訓練をつけて貰える雄英という最高の環境に感謝だ。

 

 まぁ1分も持たずに軽く伸されちゃったんだけどね!

 

 スローモーションに見えてもそれを無視するパワーと連撃でまともに撃ち合うことさえ出来なかった。トドメはプロレスじみたラリアットと腕ひしぎ十字固め。3カウントも待たずにギブアップだ。

 

 その代わり私自身の大きな弱点にも気づくことが出来た。

 

 投げ技、組み技だ。どれだけ見えたところで掴んで投げられたり、関節を極められると意味をなさない。今までは異形系由来の怪力と動体視力でなんとかなってたけど、力を受け流すのが上手い技巧系や密接戦闘時に体を掴まれる事を考慮しなければな。

 

 きっとオールマイトはその事を身をもって伝えたかったのだろう。

 

 あの憑依状態から妙に身体が良く動くからオールマイトにもワンチャン一発決められるかと思ってたけどかなり慢心してたみたいだ。反省、反省。

 

 やっぱり基本に立ち直って站樁や肉体修練に努める必要があるみたい。

 

 強くなるのに近道はあっても何もせずに強くなれる筈なんてない。日々の修練あるのみだ。

 

 

 色々と鍛錬しているとそれぞれ今のコスチュームでは物足りなかったり、追加で加えたりと必殺技に合わせてそれぞれコスチュームの改善案を考えてるみたいだ。

 

 正直私としては今のところそんなにコスチュームに関する改善案は無い。欲を言うならもうちょっと強度が欲しいぐらいかな。素材に髪の毛を多めに入れてもらえるようにして貰おうか……いやでも多めに入れても単純に強度が上がるとは限らないか。

 

 要望として一応コスチュームのデザイン事務所に一筆送っておこう。

 

 ……あ、それとついでに。

 

 サポート科の作業場に到着すると中から結構大きな声が聞こえた。この声、緑谷くんか?

 

「あっ、大筒木さん」

 

「どしたん? 大筒木ちゃんもコスチューム変更?」

 

「オールマイト相手にあそこまで食い下がった君がコスチュームで更なる自身の向上を目指すとは……僕も負けてられないな!!」

 

「いや、ワラワ速攻負けたのじゃが……。まぁちょっとのぅ。皆もコスチューム変更か」

 

 中には緑谷くんだけじゃなく麗日ちゃんと飯田くんもいた。そしてサポート科のパワーローダー先生と……おっぱいの大きな美少女だ。あれだ。確か雄英体育祭の時に一次試験で見たような気がする。……ぶっちゃけ殆ど心操くんに洗脳されて記憶が曖昧だけど。そっかサポート科だったんだ。

 

「あのぅ、コスチューム改造というレベルじゃないんじゃがここの袖の内側部分に細工をお願いしたいのだ。袖のこのキャラクターの所を着脱可能な感じで……」

 

 私の和服テイストな着物のコスチューム。現状その袖の内側は私が腕を伸ばした時に外から黒ゼツをモチーフにしたデザインが袖の内側の生地から見えるようになっている。完全に洒落っ気だけで今まで着けていた袖の黒ゼツデザインをいつでも着脱可能にしたくて此処に寄った訳だ。

 

「えぇ〜それ可愛ええやん。うち外さんでええと思うで」

 

「可愛いのは同感じゃが、まぁ色々と考えた結果かの……」

 

「……そうなんや」

 

 深くは説明せずに沈黙で濁す。すると何か深い事情でもあるのかと勝手に推測してくれて麗日さんは残念そうに笑ってくれた。

 

 すまない。本当に深い意味は無いんだ。

 

 ただいずれ黒ゼツ本人が安全だと判断できた時の為に、裾の部分を着脱可能にしておきたかっただけなんだ。今のデザインだと結構ぴっちり袖の部分が塞がれてるから多分黒ゼツが入るには狭いだろう。着脱可能にしておくことで黒ゼツ(本物)が入ってる時もよく注意してみなければ生き物だってバレない筈だ。多分。

 

 それだけの為に来たせいか可愛いサポート科の子にとって私の要望は興味を惹く対象にはならなかったのだろう。緑谷くんや麗日ちゃんと飯田くんには自分の開発したサポート用品を喜んで勧めている。

 

 何だか楽しそうだ。私がもっとコスチュームの改良案が浮かんでいたらあれに混ぜれてたかも……

 

「そのぐらいならササっとやっちゃうよ。コスチュームの仕様書を出して」

 

「うむ、お願いしますのじゃ」

 

 パワーローダーは大きな手だけど素早く私のコスチュームの袖の内側の生地を切り離して、端にファスナーをミシンで縫い付けてくれた。同様に切り離した本体部分にもファスナーを。私の肌に直接触れる可能性があるので金属製のファスナーじゃなくて柔らかい素材のファスナーをチョイスするあたり仕事が丁寧だ。

 

 軽く動いてみて特に肌に障る感触は無かった。着心地も以前と変わりないみたいでバッチリ。パワーローダーに仕様書の変更とついでに強度の向上についても一筆書いてもらってデザイン事務所に送って貰った。良い返事が返ってくるのを待つとしよう。

 

 圧縮訓練はそれからも毎日続いた。夏季合宿での遅れを取り戻して一年での“仮免”取得を目指してるんだ。生半可な覚悟では無理だ。午前と午後でTDLをB組と分け合って使用する日々で良い話が一つあった。なんでも仮免の受験は全国三か所で一年に二回行われるらしく雄英生同士の枠の潰し合いを避ける為に、A組とB組は別の場所で参加するらしい。

 

 どうせならB組の皆と仲良くしたいし凄く良いやり方だなと感心した。

 

 雄英生の個性は雄英体育祭で知られているだろうし、対策をとってA組とB組の受験場所は他の学校のヒーロー科の参加も多いのだろうか? 或いは雄英のブランドを恐れて参加しない三つ目の受験場所に受験生が殺到する可能性もあるか……。

 

 否、例年は2年からの受験が普通って話だし、試験内容によっては1年で参加する私たちは真っ先に狙われると考えた方がいいだろう。油断せずに頑張らないと!

 

 一つ、必殺技(?)というか捕縛技としてシンリンカムイのウルシ鎖牢みたいに髪の毛を操って捕縛する技を考えてみた。しかし結果はよろしくない。

 

 私の髪の毛はある程度自在に操る事は出来るけどウルシ鎖牢ほど強固ではないし、別に髪の毛がニョキニョキと伸びる訳でも無い。千本みたいに硬質化は出来るんだけど捕縛するという点においては向いてないんだよね。

 

 となると千本みたいに飛ばす兎毛針か。……それか一瞬だけ髪の毛全体を硬質化させて盾代わりのガード技……わざわざそんな事するぐらいなら本体の屍骨脈で骨ガードする方がナンボかタフだよなぁ。

 

 流石NARUTOのラスボス、非殺傷技の少なさよ……。

 

 

 

 必殺技習得訓練を始めて四日目。寮の暮らしもちょっとずつ共同生活の雰囲気は掴めて来たけどやっぱりまだ慣れない。気分的に慣れてないだけで友達と一緒に過ごすこの生活は楽しいんだけどね。薄着でつい歩き回る癖が抜けず響香に怒られたり、お菓子の食べカス溢して爆豪くんに怒られたりと油断ならない日々だ。

 

 食後。リビングのソファーで女子の皆とだらけつつ駄弁る。ここ数日の厳しい訓練で疲労の色は皆隠せない。必殺技の進捗も此処それぞれ。進んでる人もいればまだ個性伸ばしの段階だったりと色々な感じ。

 

 そんな中で麗日ちゃんの様子が変だった。疲れてボーッとしている訳でも無いみたいだけどなんか心ここに在らず……みたいな?

 

「最近ムダに心がザワつくんが多くてねぇ」

 

「恋だ」

 

「ギョ」

 

 分かりやすく芦戸ちゃんのツッコミに動揺して個性を発動してぷかぷかと浮かぶ麗日ちゃん。私は浮遊で浮かんで逃げようとしている麗日ちゃんを後ろからキャッチする。

 

「誰が好きかなんぞ……大体想像出来るじゃろ! ワラワ達は麗日を応援すべきじゃ」

 

 まぁ十中八九緑谷くんでしょこんなん。夏季合宿でも緑谷くん探しを手伝って欲しいって言ってたし、正直お似合いのカップルだと思うよマジで。こういうの茶化したいタイプの芦戸ちゃん、響香、私と違って純粋な応援タイプの葉隠ちゃん。後の八百万ちゃんと梅雨ちゃんは無理な詮索はしないとさっさと寝る流れに。

 

 恋バナ談義は大好きだけど当人にとってまだそれが恋愛感情だと認められないでいるなら話は別だ。外で自主練習を続ける緑谷くんを見つめるあの様子なら遅かれ早かれ自覚はする筈だ。揶揄ったり、手助けをするならそれからだと私も寝ることにした。

 

 それからあっという間に時は流れて、仮免試験の日は訪れた。

 

 

 

 

 

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