兎の女神のヒーローアカデミア 作:眼球舐めは通常性癖
一次試験の条件を達成した私達。既に待機場には轟くんや爆豪くん、上鳴くんや切島くん。八百万ちゃん、梅雨ちゃん、響香。あっちの端には障子くんの姿もあった。
(え〜と、ひぃふぅみぃ……私達3人も合わせて11人が既に1ーAで条件達成か)
残りの10人を白眼で様子を窺ってみる。それぞれちょっとずつ距離は離れてるけど目立つ口田くんの操る鳥たちの元へ集結しているっぽい。今の所突破人数は80人弱、300名という上限内には十分突破出来そうな感じだ。イケメンくんの個性で分断された時はどうなるかと思ってたけど無事全員達成できそうでまずは一安心。
「え〜!? 緑谷たち士傑生に襲われたの? 良く無事だったなぁ本当」
「うん麗日さんと大筒木さんとの協力でなんとかね。皆はどうだったの?」
「私達は聖愛高校の方達に狙われましたわ」
「ケロケロ、厄介な人たちだったわね」
やはり個性を知られている私達は対抗策を練られているらしく、八百万ちゃんたちは結構ガチガチに追い詰められたらしい。それでも個性特訓や必殺技で地力を伸ばした彼女達や八百万ちゃんの作戦が光って返り討ちに成功。
気になる皆の突破方法を語っていると競技場の方から残りの1ーA、10人が揃ってやって来た。上手くやり遂げた顔、合否を聞くまでもない。これで1ーA勢揃い。
暫しの談笑の後に、公安の人のアナウンスで300名通過との知らせが入った。どうやら士傑や傑物の人も一次は全員通過した模様。普段の仮免試験よりこの時点でかなり落とされてるみたいだけど二次ではいったいどんな試験をするのだろう?
(ここらでいきなりペーパーテストとかされたら私合格する可能性ゼロだよ。マジで中忍選抜試験の真似事カンニングで突破するしか無くなっちゃう!?)
「カグヤ……緊張で震えてんの?」
「こ、これは武者震いじゃ」
「あっそ」
響香が冷たい……。
いよいよ二次試験開始。一次試験で使った会場が公安の人がボタンを押すと各所で爆破が突然起きた。動揺する受験生の私達に告げられた試験内容は先ほどの爆破に巻き込まれた一般人という体の『要救助者のプロ』を私達がバイスタンダーとして救助するという試験。
一般市民でなく仮免許を取得した人はこういった災害での個性を使った救助活動も請け負うことが出来る。善意の一般市民の個性を使った救助がかえってプロの邪魔になったり、二次災害を引き起こすことも珍しくない。ヴィランを倒すだけがヒーローでは無い。本来こういった災害時にこそヒーローとしての資質が問われるということか……。
でもこんな訓練は正直今までやった事がない。一応机上で簡単な救護知識なんかは学んでるけど精々実際にやったのはAEDの使い方ぐらいだ。
合格基準に関しても曖昧で、救出活動を減点式で採点し終了時に基準値を越えていれば合格とのこと。間違った対処をしたらと恐れて何もしないでいればそれ自体が減点対象になるかもしれないし、ヒーローのやり方とはいえないだろう。
となると出来る事をやる、それしかないな。幸いにこの試験は受験生同士が直接競い合うわけじゃない。2年生や3年生の皆さんに本格的な救護は任せて他にやる事を探すか……。
マジの災害現場なら天之御中の始球空間にとりあえず送っておく手もあるけど、公安の人も言ってたようにプロのヒーローとして活躍するまでは取り敢えず使わない方向で。
試験が始まる前にちょっと士傑の人が来て話をした。一次ではお互い望まぬ結果となってしまったが二次試験では互いに協力していこうみたいな話だ。毛むくじゃらの人は見た目ちょっと怪しいけど、眼を見る感じ嘘ついてる感じも無い。
『そっちが最初に攻めて来たんやろがいッ!!』ってツッコミたい気持ちもあったけどここは我慢。見た目がちょっと怖くてビビった訳じゃ無いぞ……多分。
坊主頭の夜嵐くん? が若干轟くんとバチってたのが気になったけど、次の試験では競争するわけじゃないしきっと上手く協力するやろ。
二次試験開始。私はいつものように飛行で頭上から災害現場を見下ろす。建物も崩壊していていよいよ本当に状況がUSJに似てきた。爆破の影響か所々黒煙が上がっている。これが本当の災害現場なら下手をすると火災も発生しかねない。迅速な救助が求められるな。
幸いこういった要救助者の発見に関してはかなり適性のある個性だ。瓦礫に足を取られている人、爆破で扉が変形して閉じ込められてしまった人などを直ぐに発見。
「こっちに人が倒れておるぞ! 口田、鳥を使って助けを呼んできてくれ」
「わかったよ!」
周囲の状況を掴みやすい私や口田くん、響香が中心に要救助者を発見して、実際の救助は直ぐに助けないと命に関わるものでも無い限り他の人に任せて後回しだ。まぁ皆怪我したフリや血糊なんだけど、卓越した演技力も合わさって空気感は真に迫るものがある。
思った以上に要救助者が多いので途中で私達索敵班は別れて行動。要救助者がいる建物の近くに3mぐらいの骨矢を撃ち込んで周囲にアピール。先端には一束の私の髪の毛を結びつけて目立つようにしておく。個性由来なのか一定の長さの髪の毛を維持し続けるようで、暫くしたらまた生えてくるから薄毛の悩みもご安心。しかしこれだけ長く質量のある骨矢を作り出すのは初めてで結構カロリー消費した。
戦闘面ばかり考えて、こういう戦闘以外でも使える個性のやり方を試していなかった自分の考えの甘さに気付かされる。
(ちょっとカグヤの印象に囚われすぎているのかもな……。彼女だって
「た、……助けて」
瓦礫の隙間から助けを求める声。女性とその奥には子供もいる。女性は足を瓦礫に挟まれて、奥の子供は意識不明……という設定。
「今助けるぞ!」
瓦礫を下から持ち上げて先ずはお母さんらしき人から解放。横に投げた瓦礫がズシンと重い音を立てて救助を待っていた人も驚いた感じだ。先ずは要救助者を安心させなきゃってさっき緑谷くんも要救助者本人に言われてた。だから笑顔を作って安心させよう。……なんか余計顔が引き攣ってるような? いや、そんなこと気にしてる暇も無いか。
圧迫されていた脚部が青痣(特殊メイク)で真っ青になっている。外傷は特に無さそうだけど下手に動かしても良いのか判断が付かない……。
奥の子供の意識はやはり無い。この子供が本当に怪我をしていた場合脳内で出血してるかどうかは私の白眼で分かるのだけど、これはあくまでそういう想定の話で実際に怪我をしてる訳じゃない。だったら一般的な対処を求められている筈。
心音を確認して気道確保、口に耳を近づけて呼吸をしているか胸元の膨らみと呼吸音から確認。まぁここで呼吸が止まってる筈は無いのだけど、とりあえず呼吸は出来てる確認ヨシ!
「奥方、この子の名前はなんと言う?」
「弘文、弘文です」
何度か呼びかけても答える気配は無い。
「……因みに血液型はなんじゃ?」
「A型です。私の事は良いので弘文をお願い! 助けてちょうだい」
脚を怪我しているとは思えない(まぁ、実際はしてないのだが)ほど迫真の勢いで私の肩を強く掴んで訴えるお母さん。怯みかけたけどオールマイトを見習って強く胸を叩き任せろと頷く。鈍く重く響く打撃音。
「……要救助者を驚かす。減点」
コソッとお母さん役の人に言われてしまう。いやそ、そんなつもりでは──ええぃ! こんな事に反応していては子供を助けるのに遅れてしまう!?
「ひ、弘文くんはワラワに任せよ。直ぐに此処にも救助を呼ぶからの! お母さんは救助が来るまで動かずにな。ワラワに任せれば大丈夫じゃ安心せい」
頭部を慎重に気道確保出来るように子供を抱える。そして髪の毛を操作して緊急の担架代わりに。大人の体重だったら支えるのがしんどくて無理だったろうけど子供一人ぐらいならギリオッケーだ。髪の毛で敵を拘束する技、実用的ではなかったので実現には至らなかったけど練習したおかげで急造の割りにこんな真似が出来た。何が役立つかわからないもんだ。
気絶した子を素人があんまり動かすのも良くないらしいけど、周囲は建物が崩壊して救急車の通ってくるようなスペースも無い。本当に急を要する状態だった場合の為に私は子供をこの場から動かす事を選んだ。
子供を髪の毛担架に包んで浮遊して動かそうとしたところ子供役の人が、
「おっと今私をあまり動かすと──」
薄目を開けて喋ろうとしたけど最後まで言い切る事は無かった。なにも私はこのまま担架に乗せて飛行で避難所まで移動させようとしたわけじゃない。黄泉比良坂を展開して裂け目から裂け目へと何度かに分けて救護所まで運ぶ。実質動いた距離はほんの僅か。下手に担架で運ぶ距離よりも圧倒的に短く負担もなかった筈だ。
それに気づいて子供(っていうか声からして完全に大人の人だったな)は減点まで言い切る事なく無事救護所に到着。救護の出来る他校の人に子供の名前と状況、輸血の為の血液型を教えて引き継いで貰った。
(ふぅ〜、めっちゃ疲れた精神的に)
子供一人助けるのにこんなに気をつけなきゃいけない。普段からこういう事をしている災害救助専門ヒーローには頭が上がらないな本当。
さっきのお母さんも子供と同様に、流石に重いから髪の毛担架じゃなくて上半身を抱えて救護所に運んだ時のことだった。
突如爆破がドーム内の観客席下から発生。救護所とはそう離れてない距離だ。爆破で壊れた壁からヴィランらしき、否プロヒーローのギャングオルカとそのサイドキックたちが現れた。
公安の人は想定通りと言わんばかりに
正直彼らがいたのは白眼で知っていた。でもてっきり仮免合格者への激励の挨拶か何かの為に来たのだと思っていた。まさかプロヒーローまで対処しなければいけないなんて……仮免毎年こんなにキツいの?
避難場所の変更? いや重傷患者もいるだろうから下手に動かすのも厳しいか。私の黄泉比良坂で一度に移動できる人数も精々二人ってとこだ。この状況で全員を移動させるにはちょっと対応が遅くなっちゃう。先ずはギャングオルカ相手に時間を稼がない事には話にならないってこと。
そこに居合わせたイケメンくんが地面を割って、轟くんが氷壁を張って一時的に救護所をガードするもギャングオルカやサイドキック達を留めておくには弱い。
「大筒木くん、こっちで協力して患者を運ぼう」
「オヌシは士傑の……。そうじゃな」
「うおおおおおお! 雄英と士傑の合同作業! 俺、燃えて来たっス!」
例の毛むくじゃらの士傑の人に声を掛けられ素直に頷いた。後ろには熱血夜嵐くんの姿もある。風を操る個性の彼は患者達の運搬にピッタリだ。あまり大きく動かすのが難しい怪我人は私の黄泉比良坂で慎重に、軽傷者等は夜嵐くんの個性で一気に運ぶ。途中障子くんや峰田、口田くんの1ーAや他校生徒とも合流しながら手分けして協力するのは不謹慎だけど少し楽しい。
どうやらギャングオルカ達の方は応援で緑谷くんや爆豪くん、梅雨ちゃん芦戸ちゃんに常闇くんも合流したらしい。爆豪くんが緑谷くんに対抗意識を持って時々チームワークが乱れる事もあったけど今の所抑えられている。
それにしてもうちの攻撃個性持ちが揃って攻めてるけど余裕を見せているギャングオルカのシャチっぽい個性は応用力もあって大変強い。ヒーロービルボードチャートで上位の実力者というのも頷ける。
「動くな!! ヒーロー連中は両手を挙げて下がれ!」
状況が落ち着きつつあり、私達にも油断が芽生えていたのだろう。新しい救護所の要救助者のHUCの皆さんの中に1人、刃物を体から生やす個性持ちの人が子供の首に刃物を突き立てて人質にとったのだ。
『おーっと此処で要救助者に混ざって潜んでいた大規模破壊テロリストの一人が救助者を人質にとりました! 受験生の皆さんはそちらも対応してください、本当もう眠いんで』
(仮免試験盛り過ぎってレベルじゃないじゃろ!! こんなんどうすればいいんじゃ!!)
投げだしたい程壊滅的な状況。白眼で凶器を持ってる人はいなかったし、まさか軽傷者の中にテロリストが混ざり込んでるなんて発想そのものが皆無だった。一応他にもテロリストが混ざってないか探してみたけど、正直誰がテロリストなんて分からん。人質になった人以外も全員怪しく見えてきたぐらいだ。
「先ずは落ち着きなさい。なにが目的だ?」
毛むくじゃらの士傑の人……こんな状況でも落ち着いてネゴシエートしようとする判断力から尊敬の意味を込めて『ムック先輩』と呼称しよう。ムック先輩は両手を挙げながら背中の毛を操ってテロリストに見えないように私達だけに伝わる形で文字を作る。
ほむほむ、『合図を出したら一気に確保する、それまでは犯人を刺激するな』とのこと。白眼で肉倉くんの肉塊が障害物に隠れてじわりじわりと近寄っているのが分かる。ここまでスペシャリストなムック先輩を見て私も負けたくない気持ちが湧いて来た。
負けじと、私も髪の毛を背中で操って口田くんにスゴク不恰好な『虫』の漢字を伝える。障子くんもそれを見て言いたい事に気付いたらしく、こっそり触手で複製器官を口田くん方面に伸ばして地面の虫達に伝える彼の姿を隠してくれた。
今度は毛でgoodの意を表す『b』。障子くんもこっそりグッドで返してくれた。あんまり絡み無かったけどこういう細かな気を利かせてくれる障子くん良いね。前よりずっと好きになったよ。
ムック先輩が時間を稼いでくれたお陰で、突如下半身に絡みつくムカデや蜘蛛、ゲジゲジに動転して振り払おうとしたところ肉倉くんの個性で捏ねられて無事テロリストは捕獲成功。
直ぐに他のテロリストが潜んでないか確認しようとしたところで大きく終了のアラームが鳴った。どうやらこれで仮免試験は終了らしい。
『集計の後、この場で合否の発表を行います。他の方は着替えてしばし待機でお願いします』
「やっと……終わったのかぁ」
色々有りすぎて本当に疲れた。今は合否云々よりも倦怠感のが強い。取り敢えず障子くんと口田くんとはハイタッチ。ムック先輩とも握手で互いの貢献を讃えあう。肉倉くんとも握手しようとしたけど彼はさっさと出て行ったみたいでできなかった。残念だ。
制服に着替えて女子と合流。試験のストレスから解放されたら今度は急に試験の結果が気になって来る。受かってるといいけど、正直怪我人の対処法があれで良かったか今考えるとメッチャ不安だ。
「こういう時間いっちばんヤダ」
「わかる」
「皆よ。仮免落ちたとしても続けて仲良くしてくれな」
「ネガティブ思考はやめましょう。人事を尽くしたならきっと大丈夫ですわ」
八百万ちゃんの優しさが胸に沁みるぜ。
そしていよいよやって来る運命の瞬間。公安の人が何か言っていたがほとんど頭に入らない。大事なのは会場の巨大パネルに映し出される自分の名前だけ。
「や、や、や………しゃあッ!!!」
敢えて白眼は使わない、つーか使ったら覚悟が決まる前に分かってしまうから怖くて使えない。自分の名前があると分かった瞬間思わず大声で叫んでしまった。急に恥ずかしくなって、他の人の合格も分からないうちに騒いでしまった自分本位な私に自己嫌悪。
恐る恐る、皆の名前も探す。……うんうん、とりあえず女子の名前は全員ある。男子は──
「ねえ!!」
爆豪くんだけ無かった。アッ……ワァ……。
どうしよう……なんて言ったらよいのか。続けて採点内容の書かれたプリントが配られる。100点満点でボーダーラインは50点らしい
(あ〜〜〜〜ッ被災者の対応と、怪我の確認、骨矢で周囲にアピールするやり方について減点されてる!? 65点……まぁまぁか)
今は何より合格したことが嬉しい!
「響香何点じゃった?」
「75点、アンタは?」
「65じゃ! すごいじゃろ!」
「それ自信満々に言っちゃうかぁ……。ヤオモモ94点だよ?」
「……なんかそこまで行くと羨ましいとかいう気持ちも失せるのぅ」
「そ、そうですの!?」
「えっ凄いやん!」
「誇って良いことよ百ちゃん」
「私77点! 耳朗ちゃんにギリ勝った!」
「へへん、頭が高い! ヤオモモ以外は私に勝てるかな80点だ!」
どうやら女子の最下位は私みたいだな……。まぁ仮免取得したからには関係無いもんね!
そしてどうやらパネルに載っていない人にもチャンスはあるようで、三ヶ月の特別講習を受講の後に個別テストで結果を出せば仮免許を発行するらしい。会場内で悲哀の声を出して嘆いていた人もこの情報には歓喜の声が上がる。爆豪くんも喜んでるみたいで良かったねと肩を叩こうとしたら、
「馴れ馴れしくすんな! 大筒木風情がァ!」
とはたき落とされてしまった。え……でも今大筒木ってちゃんと呼んでくれた? 確か前まではクソ白目女だった筈。もっかい聞こうとしたところでさっさと行ってしまった。
(でも、ようやく。ようやくだ。ようやくヒーローとしての一歩を踏み出したんだな)
試験終了後に別室で仮免用の写真を撮り、発行された仮免許を手に感動で震える。緑谷くんはガチ泣きしてたけど気持ちはよく分かった。周囲に皆さえいなければ号泣していた自信は私にもある。
取り敢えずマーシャルレディーに仮免許の写真を送っておいた。後は響徳パパと美香ママにも送っておこう。
天之御中の黒ゼツも喜んでくれるだろうか?