兎の女神のヒーローアカデミア 作:眼球舐めは通常性癖
仮免をとって翌日。昨日は疲れてグッスリ眠ったので体の調子も良い。始業式では根津校長のいつもの長いお話が来るかと思いきやささっと終わった。これには雄英生もびっくり。
内容としてはヒーローインターンについて軽く触れてたのがちょっと気になった。基本は2年からやるらしいインターン。1年での異例の仮免許取得が済んだ我々(爆豪くん以外)にもチャンスはあるのだろうか?
クラスの皆は何それ、職場体験とどう違うの?って感じだった。私もマーシャルレディーに軽く教えてもらったぐらいで、あまり深く説明は出来なかったけど職場体験の本格版で実戦も行えるらしいとだけ話した。詳しく期間とか学業とどう折り合いをつけるのかは相澤先生に聞かなきゃ分からない。
そもそも通常は2年からのヒーローインターン。例え異例の1年での仮免取得とはいっても法律関係や実際にヒーローとして活動するための基礎知識が1年には足りて無い。皆に期待させるようで悪いけど、恐らくヒーローインターンは無いだろうな。
とか言ってたら相澤先生も軽く説明だけしてくれた。概ねマーシャルレディーの言ってた通りで、追加で基本的に体育祭の職場体験先やスカウトの来た事務所をコネクションとして使うのが常例とのこと。つまり体育祭でスカウトが来なかったらそもそもインターン活動自体が絶望的ってわけだ。
2年と3年での体育祭でまだスカウトチャンスはあるとはいえ、一年に一度の体育祭がどれほどヒーロー科にとって重要なのか改めて深く思い知らされた。
予習してないとまったくついて行けない授業の進度の早さにひいこら言いながら一生懸命着いて行くのに必死な数日を送り、三日後。今日はどうやら座学では無い様子のヒーロー基礎学。
相澤先生の合図で教室に入って来たのは既にヒーローインターンを経験している3年生のトップ3人組。通称ビッグ3のお三方だ。
滅茶苦茶目力の強いイケメン根暗タイプの
ミリオ先輩については自己紹介の前にビッグ3の実力を経験をもって知って貰うという流れで軽く私達1ーAと戦闘しようということになった為、他の先輩方が呼んでいる名前しか知らない。
体操服に着替えて移動するは体育館γ。私たちが必殺技の開発のために利用した場所だ。準備運動していると早々に他のビッグ3から前途ある1年の心を折りかねないとミリオ先輩を止める動きに煽られて流石に私も皆も今までの努力を否定された気になって気合いが高まる。特に爆豪くんに刺さったらしい。仮免の補講が終わるまでヒーローインターンに自分だけ参加出来ないから余計熱くなったみたいだ。
しかし一方私はねじれ先輩に触角を弄られてる芦戸ちゃんを見て煽りで荒んだ心が浄化されていくのを感じていた。先輩に対して普段の強気な芦戸ちゃんがタジタジモードになって一方的に弄られてるのはこう……胸に来るものがある。ねじれ先輩の立場にもなりたいけど、芦戸ちゃんの立場になってねじれ先輩に弄られたくもある。この極限の二択を私は血の涙を流しながら選ぶ事が出来ない。
なんやかんやあってバトル開始。男子は基本近接が多い。真っ先に潰してやると言わんばかりに爆豪くんが先頭。次に緑谷くん切島くん砂藤くん尾白くん、中衛以降がその他全員って感じのフォーメーション。
個性にもよるけど1ーA全員対1人ってのは逆に連携が取りづらくてやり辛いな。芦戸ちゃんや響香、上鳴くん青山くん轟くん爆豪くんは範囲攻撃だから下手に攻撃すると皆を巻き込んじゃう。或いはそこまで考えて全員を相手にすると言ったのか? どちらにしろそれだけで実戦経験の豊富さは窺える。
とりあえず彼は体操服越しでもかなり鍛えられた肉体であることが現状判断出来る事。拳法や空手、ボクシングなどの格闘技特有の構えも無しか……特定の型がないというのは非常にやり辛い。特に輪廻写輪眼での先読みを得意とする私にとっては行動の予測がつき辛いのは対応の遅れに繋がる。サスケ君がキラービーの柔軟過ぎる攻撃に対応出来なかったように私にとってもその手の行動は刺さるのだ。
私は取り敢えず後ろ気味に彼の一挙手一投足を観察。白眼と輪廻写輪眼の併用だ。必殺技の訓練やAFOとの戦闘の後にある程度併用出来る時間も伸びた。慣れたってより併用時のスタミナの減少量が低下した感じ。まだまだ長時間の戦闘は出来ないけどこの手合わせの間ならおそらく維持出来るだろう。
雄英のビッグ3と呼ばれる先輩の実力だ。是非とも実戦で鍛えたその力を学びたい。
「ご指導ぉ! よろしくお願いしまーっす!!」
胸を借りる気持ちで気勢の大声をあげる私たち。しかしミリオ先輩はそんな私たちの前で突如服を地面に落とした……否、落ちた。本人は脱ぐような仕草も見せず、服だけが体を透けて地面に落ちた。
──理解に苦しむが、それが目の前で起きた事実だ。
「あーーーーー!!!」
今思うと響香の羞恥の叫びも気にならないぐらいには私も気が動転していた。服が体を透けて落ちる……それはつまり体が透けて物理的な干渉を受けなくなるということ。そんな能力に私はとてつもない既視感を抱いている。
(え? ええ、ええええええええええええええ? か、神威ですかぁぁぁぁああ!?)
「嘘……じゃろ」
その後に続く事柄も私の推測をより強固にする結果となる。隙だらけのミリオ先輩の顔面目掛けて爆豪くんの爆発が襲っても彼はその攻撃さえすり抜ける。続いて轟くんの氷、青山くんのレーザーや瀬呂くんのテープ、芦戸ちゃんの酸、響香の音波攻撃もすり抜けて彼は地面に潜った。
「いないぞ!!」
皆に注意を促す事さえ私には出来なかった。
だって
そんな神威のような個性を前にして私は呆然としてしまっていたのだ。初めて自分の攻撃である雷の効かない天敵にあった時の某キャラのような顔をしていたことはまず間違い無い。
そして謎の力で地面に潜ったかと思えば急に何かに弾き飛ばされるかのように突如響香の後ろに出現、
「まずは遠距離持ちだよね!!」
その一言を皮切りに次々と中距離後衛組は次々と腹パンを受けてノックアウトして行く。6秒かそこらで地面に伏せる11人。私も勿論腹パンの被害者の1人だ。痛くはあるけど別に動けないってレベルでは無い。寧ろ精神的なダメージの方が大きかった。
「通形ミリオは俺の知る限り最もNo. 1に近い男だぞ、プロも含めてな」
相澤先生もそうおっしゃっている。神威持ちの相手になんて敵うわけが無い……もうダメだぁ……おしまいだぁ……。
「何したのかさっぱりわかんねぇ!!」
「すり抜けるだけでも強ェのに、ワープとかそれってもう……無敵じゃないすか!」
「よせやい!」
まだまだ無事な近接組もこれには悲哀に混じった叫びを上げる。そんな絶望的な状況の中で緑谷くんがいつもの早口で彼の個性を推測しながら一所懸命に打開策を練ろうとしている。こうしたピンチの場面でも諦めず冷静に状況を分析する彼の精神力は凄まじい。
「大筒木さん、先輩が透ける瞬間を観察してどうなっているか教えてくれない?」
私が呆然としていて戦闘出来る状態だと判断した緑谷くん。諦めるにはまだ早い。今まで完璧足手纏いだったから私も頑張る皆の為に力にならなくちゃ。散っていった響香たちの分まで!
「う、うむ」
「おや? まだ起きるかい。なかなかタフだね彼女、そういうの──嫌いじゃないよ」
地面に下半身が沈むようにめり込み、そして地面の下から斜め方向に私の後ろへ弾き飛ばされるように先輩が現れる。地面の中で足だけ実体化させて地面を蹴って弾き飛んでいる? それにしちゃ蹴るような動作はしていない。何かしらの推進力を有する私のような複数個性持ちか?
どちらにしろ攻撃する瞬間に実体化して殴っているのは緑谷くんの言う通りだろう。だったら狙うはカウンターか、幸いに私の輪廻写輪眼はカウンターにぴったりの個性。
問題は先輩の透ける個性の範囲。透けて私の体の中に拳を入れた後に実体化した場合、内部から心臓を掴んだり先輩の手が体内に突き刺さった形になるかということ。
それが出来るならまず先輩との近接戦闘自体がかなり危険だ。いや、流石に出来たとしても後輩に強さを見せつける意味では四肢欠損や命に及ぶ行為はしないだろう。今は私がやられるにしても皆へ先輩の個性の弱点や攻略法の一つでも伝える為にリスキーだけど賭けに出る。
こちらにゆっくりと向かってくる腹パン。今なら回避も出来るが敢えて左の掌底で受け止める。透けるにしても本当の攻撃だったとしても先輩と触れて個性発動の瞬間を間近で確認するのが狙いだ。
先輩の拳が私の掌にあたる瞬間、手には何も衝撃が返って来ず私の手を貫通するようにすり抜けた。白眼で透けた部分を確認すると確かに血は流れているし筋肉も彼の動きを反映しているけど、物理的に透過している。個性の力と言ってしまえばそれでお終いだけど改めて考えるととんでもない物理法則の壊れっぷりだ。
分かったことといえばどうやら神威と違って触れてる部分を別空間に飛ばして透けているわけではなさそう。
すり抜けた先輩は巧みに私の首元のあたりで手を実体化して一本背負いの体勢に入る。投げられる前に骨矢を突き出して攻撃しようとしたけど、攻撃の気配に気付いたのか途中で透けられて宙に投げ出されてしまった。
やはり戦闘慣れしている。勘というか予測というか、ヴィランに二度も襲われた私たち1ーAより遥かに経験値が違うのが分かった。
そのままの勢いで飛行して近接組と一度合流だ。
「何か分かった大筒木さん?」
「……取り敢えずあの透ける個性、どうやら本当にそのまま透けているようじゃな。触れた部分だけ別空間に移動している訳じゃないみたいじゃの。あと地面に潜った後、変な挙動をしたら弾き飛ばされるように地面の上に移動しておる」
そう言うと何か滑ってしまったかと思うぐらいの沈黙が近接組の皆の間に生まれる。
「いや流石にそれは考え難いんじゃねぇか大筒木?」
「……別空間に透けた部分だけ移動、そのような考えは最初から僕に無かったな大筒木君、流石だ!」
「……そうか、だとしたらあの移動方法も……地面に潜った後の挙動は僕たちじゃ分からなかったからそこがあの高速移動のキーポイントであることはまず間違いないと思うそれに──」
(そうか、神威を予め知っている私と違ってそもそも別空間に移動させて透けさせるという考え方自体がそもそも皆からしたら不自然なんだ……お恥ずかしい)
自分1人ではなかなか凝り固まった固定観念に気付かないってことだ。皆が私の突拍子もない話に困惑している間、爆豪くんはコソッと私にだけ聞こえるように本気で隠す気あんのかクソ女とボヤいていた。
(あっ、天之御中を知っている爆豪くんは別空間に移動しているって私の推測が隠している個性を踏まえての想像だろうって思ったわけか……そういう理由からの推測じゃなかったけど爆豪くんからしたらそう考えて当然だよね)
スマンとこっそり片手でアピール。色々と考えながらその後も戦ったけど攻略法を見つける前に先輩に1人ずつやられてしまった。私は持ち前のタフさでそこそこ粘ったけど結果的には敗北。戦闘経験の差が大きく出た感じだ。
お互い本気では無いけどクラス全員相手に残り1人まで追い詰められた時点でもう負けだろう。ヒーローインターンという経験を活かせばこんなビッグ3までの実力を身につけられるかもしれない、そんな実力差と未来の希望を身をもってしっかり味わった。
「俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ! ので!怖くてもやるべきだと思うよ1年生!!」
ミリオ先輩はそれだけでは決して強くない個性を努力と経験で強い個性にした。神威のようにエグい個性だと思ってた自分が恥ずかしいばかりだ。
元々強い個性を複数持ち合わせている私は恵まれた力に頼ってばっかりで先輩のように必死に頑張っていたとは到底言えない。せめてこの個性の力に胡座しない相応しい精神性を持ち合わせるために努力しようと改めて思ったビッグ3との貴重な時間だった。