兎の女神のヒーローアカデミア 作:眼球舐めは通常性癖
「1年生の
1年時でのヒーローインターンの話は着々と進みつつあった。思いの外皆ヒーローインターンに興味津々で先生への要望が多かったのもここまで話が進んだ要因だろう。私個人としてはミリオ先輩の実力を見せつけられてヒーローインターンを経験したい気持ちはあるけど、その間の学業の遅れが致命的なものにならないか戦々恐々としている。実際学校に行けない間も関係なく授業は進むから予習、復習は前以上にシビアな時間管理となる。
元々勉強の出来ない私はヒーローインターンの所為でガッツリ成績落とす未来しか見えないんだよね……。
他の皆はそんな不安どころか歓喜の声が上がる教室内で、このまま私だけ学校に残って勉強というのも寂しい。マーシャルレディーか八百万ちゃんと響香に泣きつくしかないか。
幸いマーシャルレディーの方は直ぐに受け入れてくれるらしい。しかしタイミングやヒーローの都合もあって梅雨ちゃんはセルキーさん、麗日ちゃんはガンヘッドの所から受け入れが難しいとの応えが返ってきたらしい。2人で色々探してるけど今の所ねじれ先輩のインターン先のドラグーンヒーロー『リューキュウ』の所にしないかと考え中。やはり実際目にしたビッグ3の実力が目の前で見れるし、ビッグ3は3人とも今の立場になるまではパッとしない実力だったそうだ。だったらそこで学ぶ事が多いのでは? って流れだ。
響香は仮免の時のヴィラン役として暴れたギャングオルカの超音波攻撃に自らの個性と通じるところがあると障子くんと一緒に申請したらしい。芦戸ちゃんは酸を盾のように活用したりするところからシールドヒーロー《クラスト》の所、八百万ちゃんは職場体験先のウワバミさんの紹介でマジェスティックの所に、そしてそこに最近光の屈折をかなり自在に扱えるようになった葉隠ちゃんも一緒にお世話になるらしい。
女子としてはそんな感じ。男子の中には普通に行かない人もいるらしい。まぁ希望制だし当然か。爆豪くんは仮免とってないから当然行けないので歯噛みをしながら悔しがっていた。
「そういえばカグヤのインターン先のマーシャルレディだっけ? 活躍場所って確か博多でしょ。雄英の授業も公欠扱いには限度もあるし、通うの大変じゃない?」
私の部屋でタピオカミルクティーを飲みながら響香が聞いたので、それに寝転んで雑誌を見ながら適当に返す。あっ、この服響香や芦戸ちゃんが着たら可愛いかも。
「今週の土曜日には向こうに一度挨拶しに行く予定じゃが、元々暫く仕事で関東で出張活動する予定だったみたいでの。他のヒーロー事務所とも協力して、こっちでも一時的に事務所を借りるみたいじゃし今回のインターンだと遠くまで通う必要は無さそうじゃ。……博多まで毎回新幹線は金銭的にキツいから飛行で通おうかと思っとったが」
本来ならどうせこっちに来るのだからその時で良いと言われたんだけど、まぁそこは此方からお願いしてヒーローインターンを受け入れてくれるのだから最低限の礼だ。ホンダさんにも挨拶したいし、お昼頃に行けばまたあの美味しい中華料理を作ってくれるかもしれないという下心もある。
「それどっちにしろアウトだったんじゃない? 明らかにヒーローの仮免で許される個性の範囲を越えてるでしょ。多分別種の特殊な免許が必要になってくるよ。なんか前相澤先生がそんなこと言ってたし」
「……ま、マジか」
軽くネットで検索して見るとやっぱ響香の言う通りに別の免許が必要になりそうだ。超人社会だから個性をヒーロー活動以外の用途で使う人も当然いる。ヒーロー程幅広く個性を使える訳じゃないけど専門的な分野においてはヒーロー以上の個性を使う権利を有していることも多い。
この場合、博多に緊急的な救助やヴィラン退治目的なら飛行で移動することも超法規的に許されるけど、仮免の私がヒーローインターンの通勤で個性を利用するのは難しいようだ。
いやぁ……マーシャルレディーがこっちに来る用事があるみたいで本当に良かった。
(……そういえば何故マーシャルレディーが態々こっちに出張して来るのだろう? あんまりマスコミ好きじゃないとは言ってたけどヒーロー同士の横の繋がりは意外と広いのかな?)
そんなこんなでヒーローインターンが始まって二週間。それぞれ授業を普通に受ける日もあればインターン先にお世話になる日もある。ヒーローを目指す重要な過程とは言え女子や男子が公欠で21人全員揃わない日も多くちょっと寂しい。なんだかんだ今まで誰かが欠けた状態で授業を受ける事は無かったし空っぽの席の空白が大きく感じる。
インターンの活動は基本的にパトロール。暴れているヴィランがいれば捕縛したり、迷子を派出所に送ったり、お爺さんお婆さんの荷物を代わりに持ってあげたり一般的なヒーロー業務だ。
しかしたまにただのパトロールとは思えない事もさせられる。マーシャルレディーに着いて行って指示された屋敷を白眼で透視して、中の人員の数や容姿を伝えて人相書きの手伝いをしたりなんてこともした。
明らかにヤのつく自由業の人たちの事務所だったり屋敷だったりで正直ビビる。この世界ではだいぶ衰退したとはいえお近づきになりたいタイプの人たちでは無い。
マーシャルレディーの家もかつてヤーさんだったと聞くが、それと何か関係があるのだろうか? まさか抗争先の事前調査の手伝いでもさせられてるのでは……。
「……相変わらズ言いたい事ガ顔に出過ぎるのハお前の悪い癖だナ」
「ほへッ?」
「ここまで面倒を見テ……信用されない自身の人徳の無さを反省すべきカ、お前の簡単に絆されず疑う力を認めるべきカ? 正直分からなくなって来たヨ」
普段はあまり感情を表に出さないマーシャルレディーが珍しく暗い雰囲気を出して落ち込んでいる。そんなつもりは一切無かった……といえば嘘になるけど私が彼女を傷つけてしまったのは確かだろう。なんとかマーシャルレディーに機嫌を取り戻してもらわなければ!
「い、いやほら、あれじゃ。その……マーシャルレディーは善い人というのは分かっておるんじゃが美人過ぎるし! 美人で料理も出来て性格も良いとかちょっと完璧過ぎて一般人のワラワからしたら逆に疑ってしまう気持ちも分かるじゃろう!?」
「そ、そうカ?」
「そうじゃそうじゃ!」
何より一番疑わしいのはその糸目だと言わないだけの情けがカグヤにもあった。糸目キャラは個人的に大好きだけど、どうしても世間一般の裏切り者とかそういった印象は自分の中でも消せなかったんだよ……。
落ち込んだ姿から普段の姿に戻った彼女は渋々と口を開く。
「……詳しくは説明出来ないガ、これも今回の他事務所との協力で必要なことダ安心しロ。お前がもっと腹芸の出来るキャラなら話しても良かったガ今回の仕事は幾ら慎重に行動してモ過ぎることは無イ」
「そうか……了解したのじゃ」
他事務所と協力するぐらいだから今回の仕事はよっぽど大きいものなのだろう。ヒーロー扱いはされてるけどまだまだインターンの身。彼女の邪魔をするなんてもってのほかだ。
「とはいエ何も説明が無いとそれはそれでお前ハ面倒を起こしそうダ。……
「ん? 誘拐されてた時以外は続けておるがそれが何か──」
「私が信用できなくてモお前の続けて来タ
まぁ私はマーシャルレディーが偽り無く答えているかどうかは分からないんだけど、これも彼女なりのぎこちないコミュニケーションの一つなんだろう。彼女との付き合いは長いとは言えないけど何事も卒なくこなす癖にこうした変に不器用なところもあるイメージだ。
「で、では
「早速だナ良いゾ」
「この仕事はマーシャルレディーの……実家の家業と関係しておるのか?」
「ふム。関係は多いにあるナ。だがお前の気にしている抗争とカ利権を狙っテ家業を復興させようとする意図は一切なイ。信用しロ……といっても難しいカ」
「いや、ワラワはマーシャルレディーを信じるぞ! というか信じたい気持ちのが強い!」
「……嘘は言ってないようだナ」
「それも『個性』の力かの?」
「いや、ただの女の勘サ。これがなかなか馬鹿に出来なイ」
不敵に笑うマーシャルレディーの表情はヴィラン顔負けの怖さだ。そういう怪しげな事いうから信用しきれないのに〜。……しかし
「ならばこれより
「嗚呼」
そこからもちょくちょくヤーさんの屋敷の情報を調べるヒーローインターンが続いた。手合わせで組み手を何度かやったけどいまだに一度も勝った事が無い。前より一撃多く当てる事を目標に日々精進している。
彼女の個性も流石にだいぶ掴んだ。おそらく一定の動作を続けて行う事で威力と速度を上げた一撃を放つ事が出来るというものだろう。職場体験の時もビルの屋上に一気に飛び上がれたのも、その前に地面で何度かジャンプして一定の動作を繰り返していた為だ。
事前準備で一定の動作を繰り返す過程が必要になる代わりに単純な肉体増強系や異形系よりも一発の威力は大きい。八卦掌という拳法をベースに時間を稼ぎ大きな一発を決める。八卦掌の腕前自体だけで並のヴィランは相手にならないのだから、個性と組み合わさった時の彼女の強さは単純な接近戦ではヒーローの中でもかなりの上位だろう。
職場体験の時に次回のヒーローインターンの大きな課題となっていたマーシャルレディーの個性を暴いたのでご褒美に高級なレストランに連れてって貰ったのはいい思い出だ。
女子の皆もそれぞれの事務所で活動して着実に経験を積んでいるようだ。実戦を通じて意識が変わったのかヒーロー基礎学の授業で会うと良い意味で皆慎重に行動しているように見える。現場の空気を味わって精神的に広く物事を捉えるようになったのだろうか。
何よりネットニュースで取り上げられる華々しいデビューを飾ったのは切島くんと梅雨ちゃんと麗日ちゃん。市街地で暴れ回ったヴィランを無事捕らえたらしい。雄英生という事もあり前々から注目されていたことを差し引いても素晴らしい活躍だ。私も負けてられない。
男子の中でも今話題の切島くんや轟くんの動きはかなり鋭い。しかし緑谷くんはどこか憂いを帯びた表情で集中出来てないようだった。どんな場面でも考え続ける事で打開のチャンスを狙う緑谷くんの、『考える』が悪い方向に作用している。インターン先でキツいことでも言われたのか或いは酷い失敗をしたか。
(大丈夫だろうか?)
そんなことをぼんやり考えていたら態々補修時間を設けてくれた相澤先生に教科書で叩かれた。
「大筒木、お前本当にこのままだと留年になりかねないぞ」
「は、はい。すみません……のじゃ」
そうして日々の授業とヒーローインターンで忙しい毎日を送り、マーシャルレディーからさる協力先のヒーロー事務所に集まるよう連絡が来た。普段ならヒーロー活動をする上でコスチュームは必須だが別に必要ないとのこと。
(まぁ、別に必要無いぐらいなら一応持って行っても良いか)
もしかして移動途中にヴィランが現れた時に役に立つかもしれないし、必要無いならないでそんなに邪魔になるものでもないだろうという判断だ。忘れ物とか時間に遅れるのは大嫌いなので、もしもの際を考えて無駄な物とか用意したり約束の時間のかなり前に来ちゃうのはよくある。
部屋から一階に降りていざ出発というところで玄関にはすでに先客がいた。
「おうおはよ! 大筒木、お前も今日インターンか?」
「うむ。切島もか、大阪に行くにしてはだいぶ遅い出発じゃの?」
確か切島くんはファット何とかってビッグ3の天喰先輩もお世話になっている大阪のヒーローの所にインターンに行ってるはずだ。
「いやぁ何か集合場所が違ってさ。今日は駅と歩きで行ける範囲なんだよ」
「ほぅ」
2人してちょっと話してると遅れて緑谷くん、そして麗日ちゃんと梅雨ちゃんまでやって来る。結構いつもはインターンの時間とかバラバラなのでこうも入り口で揃うのは珍しい。奇遇だねぇと和気藹々と駅まで行ったところで行き先が同じ事に気づき流石に偶然にしては出来すぎていると調べた結果、皆の行き先の住所が緑谷くんのお世話になっているヒーロー『サー・ナイトアイ』事務所だと判明。
「え、当の緑谷は何も聞いていないのか?」
「……ゴメン。僕も聞いてないや」
「普通そういうの予め緑谷が聞いてるもんだとばっかり……いや、悪気はねぇんだスマン!」
「全然! 気にしなくていいよ……寧ろ僕の方こそ力になれずゴメン」
「何やろねぇ? ウチらはリューキュウに言われて来たんやけど」
「ケロケロ、今分かってる情報だけでも4つのヒーロー事務所が今回の件に関わっているみたいね。どうやらいつものインターンとは違った内容になりそうだわ」
「……守秘義務とか、そういう理由なんかのう?」
「かもしれないわね」
そうこうしている内に到着したナイトアイ事務所。入り口近くにはそれぞれの事務所でインターン活動中のビッグ3の姿と、案内された会議室には4つのヒーロー事務所以外のヒーロー達も複数集まっていた。よく見れば奥に相澤先生もいる!? 普段は競争相手のヒーローがこうも1箇所に集合して、いよいよ通常では考えられない事態だ。
「こ、これ本当にワラワ達もおって良いのか?」
「な、なんかうちら場違いな気がするわぁ」
「いや、俺らもインターン生とはいえヒーローだ!」
確かに切島くんのいう通りだ。ヒーロー達の真剣な空気に呑まれていたけど私たちも仮免とはいえ歴としたヒーロー。気後れしていてはスピード重視の実戦でも致命的な遅れに繋がりかねない。まだまだ経験・実力共に先達のヒーローに比べれば未熟者だけど気持ちだけは負けないつもりで挑みたい。
そうして始まった会議。招集されたプロヒーローたちを前にナイトアイが語り出したのは指定敵団体、つまりヤクザ『死穢八斎會』についての調査内容について。今までのヒーローインターンでの活動がこの話に繋がってくるのかと内心納得してマーシャルレディーのほうを見ると彼女も無言で頷いた。
ナイトアイ事務所が彼らに目をつけた切っ掛けは不審な強盗団の事故からだったらしいが、調べて行く内に出てくるわ出てくるわ違法薬物やらヴィランや裏稼業との接触。組織の拡大の為に金を集めているようだ。
たしかに敵連合やAFOが捕まってから全体的には
それで違法薬物をシノギの一つにしていた彼らに対してその筋の専門家であるファットガムを呼んだという流れから話は更にきな臭くなって来た。
先日追っかけていたヤクザの1人が天喰先輩に撃ち込んだのは『個性を壊す』クスリ。幸いなことに数日で効果は切れたようだけど、開発途中の可能性もあり個性社会に激震が走りかねないヤバいクスリである事に間違い無い。そんなクスリを切島くんが『硬化』の個性で弾いたおかげで解析が進んだらしい。
同じく見つめた相手の個性を消すと言われる相澤先生の個性は、厳密には個性を消している訳では無く個性を発揮する要因となる個性因子の動きを一時的に止めているらしい。しかし今回撃たれたクスリはその個性因子を直接傷つけるタイプのクスリ。何度も撃たれたり、クスリの品質が上がれば本当に個性そのものを消す事が出来るだろう。
ヤクザがそのクスリを手に入れたのは死穢八斎會と交流のある中間売買組織である可能性も高い。その中間売買組織はリューキュウの所で暴れていたヴィランも使っていた個性の違法ドーピング薬を売り捌いていたみたいで全国的に大きな影響を及ぼしているみたいだ。
「その銃弾の中身を調べた結果、ムッチャ気色悪いモンが出てきた……人の血ィや細胞が入っとった」
「つまり……その効果は人由来の“個性”ってこと? “個性”による“個性”破壊」
グロテスクだけど考えられない話ではない。私の髪みたいに個人の“体の一部”がその“個性”の性質や“個性”に対する耐性を帯びていたりするのは珍しい話では無い。個性を消す相澤先生のような個性もかなり珍しいけど全くいない訳じゃないもんな。
「死穢八斎會の若頭治崎の個性は『オーバーホール』対象の分解・修復が可能という力です。分解……一度『壊し』『治す』個性、そして個性を破壊する弾。そして奴には出生届も無く個性の詳細も不明ですが娘がいます。この2人が遭遇した時は手脚に夥しく包帯が巻かれていた」
そこまで説明されたからには流石に察しがつく。その娘がおそらく個性を消すクスリの
くわえて『オーバーホール』という個性が聞いているだけでヤバい。治せる範囲にもよるけど、爆豪くんみたいに爆発する個性持ちの体を刻んで治せば即席の爆弾が幾らでも量産出来る可能性もある。『分解』も合わせると脅威レベルは死柄木の触れたものを崩壊させる個性よりも何倍も高いと見ていい。
取り敢えずは此処にヒーローたちが呼び出された目標は治崎の娘の保護。直接娘のエリちゃんを目の当たりにした緑谷くんとミリオ先輩は落ち込んだ後に義憤に燃えている。よっぽど酷そうな状況だったのだろう。
その為に全国に点在する死穢八斎會の拠点を調査するのが私たち集められたヒーローに課せられた役目。モニターに表示された全国地図に死穢八斎會の拠点が表示された。関東付近にも拠点はあるけど一部は暗くなってる。よくよく考えてみると暗くなった地域はヤクザの物件を調査した場所だ。
(……そうか、そもそもマーシャルレディーが呼ばれたのも実家の事を加味した上でのことか。蛇の道は蛇とはいうけど、普通はそんな素性のヒーローは信用できないだろうに……ナイトアイも見た目によらず大胆な人選をしたな)
「関東で付近が暗くなっているのはどういう事だ?」
「それハ、私とこの子が調査した地点だかラ確認は済んでいル」
「その子が……例の子ねぇ」
前々からマーシャルレディーに興味を持っていたらしい緑谷くんは生の彼女に興味津々の様子で見ている。私はなんか厳つい雰囲気のプロヒーローさんにジロジロと値踏みされるような視線を浴びて戦々恐々だ。
「それぞれのヒーローが調査後、怪しい地点があればマーシャルレディーとインターンである彼女を派遣して娘の場所を特定して貰うつもりだ」
「合理的とは言えませんな。どういう性能かは存じませんがサー・ナイトアイ。未来を予知出来るなら俺たちの行く末を見ればいいじゃないですか」
ナイトアイの個性は『予知』。一日1人という制限だが触れた人周辺の未来を見る事が出来る。『死』さえも予知できるのだからかなり情報を手に入れる事が出来る筈。予知の精度もかなり高い……というか今の所必中レベルらしいので使わない理由が無いと思うのだが、本人曰くダメ押し出来る状況で使うとのこと。よっぽど悪い未来でも見たのだろうか?
そうして会議は詳細について報告の後一応終わった。暫くは私達の方はヒーロー達の八斎會事務所の調査の結果次第で動くことになりそうだ。
そしてビッグ3も交えて雄英生で緑谷くんと通形先輩に娘さんを救えなかった経緯を聞いてみたところその場に重苦しい空気が停滞した。あの時助けられたのに色々な事情を加味して助けられなかった2人がかなり落ち込んでいて、いつも明るく天然なねじれ先輩も何も言えないでいる。
「……通夜でもしてんのか」
「先生!」
そんな空気を茶化してくれた相澤先生の登場に内心ほっとした。口下手な私は慰める言葉も見つからないでいたから助かる。相澤先生の私たちに投げかけた言葉を纏めると結局私たちは頑張るしかないってことなんだけど、先生の言葉はスッと心に届いた。
言葉は若干荒っぽい時あるけど生徒の事を信頼し、守ろうとする意思を確かに感じる。
「プロと同等かそれ以上の実力を持つビッグ3はともかくお前たちの役割は薄いと思う。蛙吹、麗日、切島、大筒木。お前達は自分の意志でここにいるわけでもない。どうしたい」
聞かれるまでもない。可哀想な子供が助けを求めているのなら手を差し伸べるのがヒーローの務めだ。皆と同様に、ていうか言いたい事は全部皆が先に言ってくれたから深く頷いておく。
そこから二日間は私もまだ白眼で見ていない各地の死穢八斎會事務所にマーシャルレディーと一緒に忙しくまわることに。車や新幹線、飛行機やヘリで移動しっぱなしですごく疲れた。しかし、残念なことに成果らしい成果は出なかった。
「……今ナイトアイから連絡が来タ。どうやら狙いハ死穢八斎會の本部ニいたようだナ」
「え……えぇ〜〜〜。ワラワの頑張りは一体どこへ」
「娘の居場所ガ分かった事をまず喜ベカグヤ。ヒーローの地道な努力なゾ民衆からすれバ意味は無イ。求められているのハ結果ダ、ヒーローなら努力ヲ誇るナ」
「……すまぬ」
つい疲れから愚痴ってしまった。私の苦労なんて比じゃないぐらい苦しんでいる子がいるんだ。そもそも努力してないヒーローなんていない。ヒーローとしての覚悟が足りてないと嗜められても仕方ないな……反省しよう。
「……取り敢えズこれでも飲メ」
マーシャルレディーから渡されたのはよくあるエナジードリンク。既に彼女のほうはゴクゴク飲んでいる。ここ数日彼女も付き添って疲労の度合いは私以上の筈だ。スケジュール管理やら移動手段の手配、死穢八斎會事務所の周辺の調査と白眼使用中の私の護衛。よっぽど疲れているだろうに疲労の色も見せずに気遣ってくれている。
感謝をしながらエナジードリンクを飲み干すと急に眠たくなって来た。普通こういうのってカフェインが入ってるから眠たく無くなるもんじゃないのか?
疲労はしてるけど……流石にここまでの眠気は、普通じゃない。
「まぁ……しゃる……れ……でぃ?」
「……ゆっくり眠りな」
普段の糸目が見開かれて感情の色が一切ない大きな瞳がこちらを見つめていた。