兎の女神のヒーローアカデミア   作:眼球舐めは通常性癖

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ワラワ頑張っちゃう

「ムッ、もうそろそろ時間か」

 

 腕時計の時間を見て私は頭上に黄泉平良坂を出現させる。空間に裂け目を開ける黒い空間の先は何も見通せないが、私にはこの先がキッチンに繋がっていることが分かる。いつもの飛行能力で裂け目に飛び込むと予想通りにキッチンだった。しかし位置座標は合っていても設定が甘かったのか、上下逆さまの状態で上半身だけ黄泉比良坂から出てしまった。

 

 もしこの光景を偶然見てしまった人からしたら、突然空間に黒い裂け目が現れてそこから上下逆さまのワラワが上半身だけ覗かせて浮いている形になるだろう。敵役ムーブこれに極まり。もしくは物語で主人公が日常から非日常の道に進み始まるキッカケとなるキーパーソンムーブ。……どちらかといえばそっちのがいいな。

 

 いや失敗。失敗とそのまま上下反転してキッチンに着地する。こうした失敗はもしヒーローとして救助活動に黄泉比良坂を使うとしたら致命的だ。ワラワの場合安定した飛行・浮遊能力のせいでカッコ悪く頭から地面に落下することが無いから、どうしてもこういう設定が曖昧になっちゃう。

 

 せっかく天之御中で始球空間の中に閉じ籠っての修行を始めたのにこれでは形無しだ。もっと修行してヒーローとしての実力を身に付けないとね。多重影分身の術さえ使えたら私が雄英に通っている間にも修行してくれるのに……。ええぃ文句言ってても現状は変わらない。今自分に出来る事、出来ない事を明確にするのが大事だって昨日偽オールマイトも言ってた。言葉だけは良い事言うんだよね偽オールマイト。それでも、だからこそ怪しい。化けの皮を被っている彼のことはいつか告発しなければ。本物のフリしてる偽オールマイトも流石に本物そのものの実力は無い筈だ。内臓も欠けてるし動きも十全では無いだろう。実戦訓練で隙を狙って本物らしくなさをクラスメイトの前で暴くのも手だな。

 

 軽くトーストを食べてから制服に着替えて家を出る。

 響香の家の前には響香だけで無く、もう一人の姿があった。黒髪で何処か儚げな印象の美人さん。

 

「おはよう響香、美香さん」

「あっ。ぉはよ」

「おはようございますねカグヤちゃん」

 

 耳朗美香さん。響香のママだ。響香の綺麗な黒髪は彼女の遺伝なのだろう。個性の耳たぶから伸びるイヤホンジャックも彼女からの影響が強い。普段のサッパリした性格や三白眼は響徳パパから引き継いでいるんだろうね。どちらも人格者で幼い頃から私も気にかけて貰っている。

 

「んじゃ。行ってくる」

「はい。いってらっしゃい響香ちゃん」

 

 丁寧で理想的な母親像の美香さん。若い頃は激しいロッカーで、一度酔った姿を偶然見たことはあるのだが響徳さんの胸倉を掴んで無理やり酒を飲ませて荒っぽい口調になり、その後寝潰れて響徳パパの膝枕でイビキをかいていた光景は……最高だった。そういうギャップワラワ嫌いじゃないからっ!

 

 耳朗家にお呼ばれした時は、隙さえあれば黄泉比良坂で美香さんの飲み物にお酒を混ぜたい衝動に抗うのが大変だ。そう言えば、

 

「ん? 何見てんの?」

 

 響香も酔ったら面白くなるんだろうか……。

 

 

 昨日以来無事仲直りというか、いつもの響香との関係に戻った。やっぱりこうでないとね。午前中の面倒な必修科目もそれほど苦では無かった。そしてとりあえず1ーA全員の苗字と顔と個性はだいたい覚えた。個性豊かなメンバーなので中学の同級生を覚える時よりは簡単だった。名は体を顕すと言うが、此処では個性と直結した名前が多い。能力的な個性だけでは無く、性格的な個性を重要視する声も大きく夫婦別姓や結婚した奥さんのほうの苗字に変えるのも個人の自由として当然のように認められている。だからこそ変わった苗字や名前も生まれやすいのだろう。

 

 全員を覚えたおかげで以前よりもクラスメイトを身近に感じる(当社比)。挨拶は出来るけど込み入った話や雑談を出来る相手はまだほとんどいない。飯田くんと八百万ちゃんとは少し会話出来る感じだ。なに、学級委員長と副委員長という太いパイプができたと考えたら悪くない。だから本当お二人これから先もよろしくお願いします。

 

「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制でみることになった」

 

 今日は偽オールマイト先生の姿がまだ見られない。代わりに担任の相澤先生の説明を受ける。3人とは随分大掛かりだ。もう一人と偽オールマイト先生は授業の都合で別の場所に待機でもしているのだろうか?

 

 案の定、人命救助訓練で少し離れた場所でやるらしくバスで移動するらしい。おそらく二人は移動先で待っているのだろうな。今回はコスチュームはそれぞれの判断で着用してもしなくても良いとのことだ。正直、前回は実践訓練で勝利を優先する為と傷付けない為に戦闘らしい戦闘は避けたのでコスチュームの問題点も浮かんでない。それに人命救助となれば戦闘とは違った面で戦闘服の問題点や改善点が発見出来るだろう。そういう理由で私は戦闘服を着込んで出発した。

 

「おい。大筒木」

 

 バスに乗り込む前に氷ブッパ君改め轟君に声をかけられた。前回の実戦訓練で若干煽る感じになってしまって正直気まずい。

 

「……お前には負けない。一応、それだけだ」

「はん?」

 

 そんなこと言われても……これからやるのは人命救助訓練なんじゃ……。流石に災害時に周囲のヒーローに負けないって人命救助の速度を争うのは少し違う気がする。まっ彼なりのそういうモチベーションが適切な人命救助の邪魔をしない限りは問題無いだろう。クラス一番のイケメンに声をかけられるのは悪い気しないけど。

 

「ほらっ遅れるよ」

「う、うむ」

 

 バスは車体の前半分は左右に座席があってクラスメイトが向かい合って座れるようになっていた。後ろ半分は普通のバスのように座席が並べられていて、なんとなく最初にバスに入った人は後ろから詰めて行く形となり響香と離れ離れになってしまった。しかもよりによって荒っぽい性格の爆豪君の隣だ。本人はそんなに気にすることなく音楽を聴いてリラックスしている。すごい肝の据わりっぷりだ。

 

 私は前半分の向かい合った座席へ。少しキツめだがしょうがない。なんなら最悪座席に捕まって浮遊しとこう。端っこで座ってるとカエルの個性もちの蛙吹ちゃんが出久君へ、

 

「あなたの“個性”オールマイトに似てる」

 

と投げかけた。思わぬ所でオールマイトの名前を聞いてズッコケそうになった。デク君は増強型の個性の持ち主で、自らの強すぎる力で体を傷つけてしまうことを除けば増強型のトップであるオールマイトの個性と似ていると言えなくもないだろう。出力が違いすぎてオールマイトの大ファンを公言している彼は恐れ多いのか焦って否定している。……そういえば気になる。彼なら今のオールマイトに違和感を持っていないだろうか? えい、どうせなら流れで聞いちゃえ!

 

「出久……、オヌシ今のオールマイトの事を……どう思う?」

「えっ!? どう思うってーー」

「ーーオールマイトはオールマイトだろ? やっぱスゲェぜ!」

「珍しいね大筒木ちゃんが混ざってくるなんて? ひょっとして大筒木ちゃんもオールマイトのファン?」

 

 そこから話はオールマイトトークに代わってしまった。やはり皆その存在に憧れているらしく、エピソードがどんどん出てくるは出てくるは。しかしワラワ見逃さない。最初にオールマイトの事を出久くんに聞いた時の焦りを。その後もオールマイトトークに一番白熱しそうな出久くんがいつもよりかなり控えめだ。これは彼も同じ違和感を覚えていると思って間違いない。流石にこれ以上深い話をするには場所が悪い。ヒーロー基礎学が終わってから内々で声をかけよう。

 

 到着した先で私たちを待っていたのは想像の100倍広い巨大な施設だった。災害救助のヒーローである13号さんの監修したウソの災害や事故ルーム。施設には火災や土砂災害、水難事故etc.さまざまな環境を想定されていて、パッと見でも滝やら倒壊した建物やらがある。ふっくらとした宇宙服のような見た目の13号さんは逸る私達を見て、

 

「えー始める前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ」

 

 と真剣な口調で小言を増やしてゆく。中身がどうなってるんだろうと気になってしまってこっそり白眼で見ると、13号さんはなんと女性のかただった。しかも可愛い。彼女は自らの個性である“ブラックホール”は簡単に人を殺せる力だと最初に前置きして。

 

「皆の中にもそういう“個性”がいるでしょう。一歩間違えれば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないで下さい」

 

 本当に13号さんの言う通りだと納得した。私の個性は簡単に人を殺せてしまう。共殺の灰骨なんて生き物を殺すためだけの力だ。

 

「この授業では心機一転! 人命の為に“個性”をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。助ける為にあるのだと心得て帰ってくださいな。以上! ご清聴ありがとうございました」

「ステキー!」

「ブラボー!! ブラーボー!!」

 

 めっちゃカッコいい人やんけ13号さん……。中身が気になって白眼で覗いたあの時のワラワって本当馬鹿。実際の中身がどうであれ、この人の精神的な中身が最高にカッコいいなんて白眼を使わなくても分かることだってのに! まだまだヒーローとして未熟も未熟だなぁ私。早速私の個性を人命救助の為にどう活用出来るか考えよう。え〜共殺の灰骨の平和的利用法は…………………やっぱ無理かもしれへんなぁ。

 

ん? 白眼つけっぱだったから違和感が……USJの入り口の円形の庭園に黒い靄みたいなのが出現した。ちょうど私の黄泉比良坂の靄バージョンみたいなやつだ。13号さんは……“個性”の発動をしてないようだし、てことは他の誰かの個性? そんな個性持ちは私たちのクラスにはいなかった筈。

 

「相澤先生……アレ」

「……?」

 

 ちょうど相澤先生も私が指差して気になった地点を見ていたみたいだ。小さな靄はあっという間に巨大化して中から人が現れる。似てると思ったけどまさか個性が被ってるとは……。最初に顔面に手が貼りついた人が現れ、その後もどんどん後から人が出てくる。私の黄泉比良坂は基本的に私一人か、頑張ってももう一人ぐらいしか一度に移動出来ない以上、能力としては私の上位互換だ。

 

 出てきた人達は荒っぽそうで、私がヴィランですと言わんばかりの見た目。これもUSJのアトラクションの一つだとしたら雄英のPuls Ultra精神やば過ぎる。

 

「一かたまりになって動くな! 13号!! 生徒を守れ」

「何だアリャ?! また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

 

 相澤先生の怒声が響く。それでも何処かまた訓練か何かだろという現実を受け止めきれない空気が私たち生徒の中にあった。いわゆる正常性バイアスと言うやつだ。異常事態時も、何かの間違いか訓練の一種だろうと思い込んで適切な行動が直ぐにはとれない。合理的虚偽で以前私たちを騙した経験のある相澤先生の指示ということもあって、切島君がそう考えるのも無理もない。私も何処か真剣になれてない。13号の心温まるスピーチと現実の落差が激しすぎて危機感が麻痺しているのだろう。

 

「動くなあれは……敵だ!!!!」

 

 ヴィランを移動させた張本人だろう上体が靄に覆われた人物、先頭の手マスクマン。二人が前に出てきてこちらと向き合う。

 

「13号に……イレイザーヘッドですか……先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいるはずなのですが……」

「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

「どこだよ……せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ……」

 

 何やら不穏な匂いを感じさせる靄男の発言。おそらく雄英バリアが破られた時の話だろう。いよいよ嫌な予感が的中してきた。オールマイトの存在を探しているようだが、ここにオールマイトがいないのは彼らには関係無いのか? 偽オールマイトが内通者だとしたら逆にここに彼がいないのもおかしい。裏切るのなら後ろから人質を簡単にとれるこの状況が最適だ。彼らヴィランもオールマイトが偽物だと気づいていないのだろうか?

 

「オールマイト……平和の象徴……いないなんて……子どもを殺せば来るのかな?」

 

 背筋に寒気がはしり、全身が粟立つ。子どもがよく『殺す』『死ね』なんて冗談で言うが、あれは死とは一番縁遠く、生の重みを感じないからこそ言えるセリフだ。

 

 しかし、奴は違った。澱んだ眼からは死の濃厚な気配を感じる。間違いなく何人かの命を奪って、死の重みを感じ取っている男はそれでも悪気無く純真に『子どもを殺せば来るのかな』なんて幼稚な理論を展開出来ている。それが酷く歪で気持ち悪かった。

 

「先生侵入者用センサーは!」

「もちろんありますが……!」

 

 それらしい警報音も聞こえない。以前の侵入事件でこちらの内部情報を掴んでわざわざこの時間帯に襲撃してきたならば当然センサーは破壊されているか、個性で対応されているだろう。生徒複数人の推理が現状のヤバさを再認識させる。

 

「13号避難開始! 学校に連絡試せ!」

 

 ゴーグルをかけて相澤先生が単身ヴィラン集団の元へ突撃した。人数が相手の方が多く、こちらには先生が守るべき生徒がいる。相手から先手で攻められては守りきれないと判断したのだろう。圧倒的に不利な状況で生徒を逃すための囮としての突撃。

 しかし、初戦の結果は相澤先生の圧勝だった。特製の捕縛布と個性を消す個性、何より単純な体術がズバ抜けている。あっという間にヴィランを5人倒してのけた。流石雄英の教師として選ばれた程の実力の持ち主だ。肉体増強系では無い、磨き抜かれた高度な技術による戦闘能力。写輪眼で学ぶには最高の教材だけど、今は先ずは避難が最優先だ。白眼で周囲を索敵しつつ、13号先生の誘導に従って移動する。

 

ん? あの黒い靄の転移能力持ちがいない? ……後ろっ?!

 

「させませんよ」

 

 誘導する13号先生の前を立ち塞がるように黒霧男が出現する。こいつの転移速度が早い。今の私では天之御中に一瞬で移動出来るのは私一人だけだ。もしもこいつを天之御中で移動させようとした場合、同じ次空間忍術を使えたオビトがカグヤの時空間に干渉出来たのだから、このワープ男の個性も私の個性に干渉できる可能性は高い。私以外の複数人を移動させるとなると体力の消耗も激しいし、クラスメイトや13号先生を置いてこんな危険人物から逃げ出すことなんて出来ない。黄泉比良坂で天之御中の空間に連れて行くにしても、一度に移動出来るのは一人ずつで時間がかかってしまう。それを易々と目の前の相手が見逃してくれるようには到底見えない。

 

 ある程度安全を確保出来る場所まで避難しないと全員の移動は難しいか。

 

「初めまして我々は敵連合。せんえつながら……この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

 自ら狙いを明らかにするとは腑に落ちない。狙いは別か、或いは時間稼ぎか。どちらにしよ隙を見て13号先生が個性発動に備えるのが見えた。直ぐに背後で切島くんが動き出すのに気づいた私は肩を掴んで引き留めた。先生のブラックホールの個性は強力だが、その範囲から制御するのは大変だ。無闇に先生の前に立って敵との間に入ってしまうと先生の実力が発揮できない。納得のいかない表情を浮かべる切島君だが、今は説明している時間が勿体ない。そしてなにも、動いたのは切島君一人だけでは無かった。爆豪くんは爆発する個性を使って突っ込んで行った為、静止は間に合わなかった。

 

 ワープ男に向かって爆豪君の爆破が解き放たれる。爆煙と爆風でワープ男の姿が一瞬隠されたが、白眼で確認したところ男は依然健在だ。あの爆発を受けて無傷なんて……爆発自体をワープ能力で別の空間にでも飛ばしているのだろうか。それとも神威みたいにすり抜け? どちらにしよ厄介な個性だ。

 

「爆豪! 退けッ! そやつ効いておらぬぞ!!」

「うっせぇ分かってるわッ!! 黙ってろ白目女!」

 

 えっ、ワラワ白目女だと思われてたの? 普通にショックだ……。

 

「……危ない危ない。そう……生徒といえど優秀な金の卵。なかなか良い個性持ちが揃ってるようですね」

「ダメだ。どきなさい!」

 

 突如、黒い靄が私たちの間を分断するように広がった。ワープ男の個性だ。私たちを別々の場所にワープさせるつもりだろう。そうはさせない! 見るからに奴の個性は黒い靄を媒介にして対象をワープさせているようだ。黄泉比良坂で私の前に空間の裂け目を展開する。私が今現在できる最大限の大きさの裂け目だ。それで黒い靄を受け止める。繋がる先は50mほど上空。黄泉比良坂を展開出来る範囲は概ね

私の視界内だ。本来ならもっと上空に展開したいが、瞬時に大きな裂け目を作ることに集中してそこまで細かい集中力はなかった。

 

「何ッ!?」

 

 相手の意表を突くことには成功した。しかし相手の個性の方がワープという一点特化の為に範囲が広い。私の裂け目の範囲ではいっぺんにカバー出来る範囲には限界があった。ワープ能力から守りきれたのは、飯田君、麗日さん、障子君、砂糖君、瀬呂君、芦戸さんの6名のみ。響香は守りきれなかったか……ええぃ挫けてる暇なんて無いぞ私。

 

 奴を覆う黒い靄は黄泉比良坂の転移先の上空に漂ってまだ回収出来ていない。今ワープ男の周囲にある黒い靄だけでは残った6名全員を包み込むだけの量には足りない筈だ。虚を突くには今しかない。

 

「皆は早くこの裂け目に入れ、出口の近くに繋げてある。そして学校から応援を呼んでくるのじゃ」

「何だその個性?」

「今は説明しておる暇など無いぞ! 急げ!」

「えっ!? でもそれじゃ大筒木さんは?」

「ワラワには飛行能力もあるッ! よいから急げッ!!」

 

 額の輪廻写輪眼を剥き出しにして、白眼の圧力で有無を言わさず通らせる。白眼で移動先の出口付近を見ると13号先生も近くにいるようだ。後は13号先生に任せよう。

 

「珍しいですね。……私のワープゲートと似た能力ですか。しかし移動距離は狭いようですね」

「随分と余裕じゃの?」

 

 ギリギリ黒い靄の回収は全員を移動させる前に済んでいたようだが、邪魔するでも無くこちらに話しかけるワープ男。こっちはお前を警戒していたから雄英まで黄泉比良坂を連続で使って助けを求めるために移動する事が出来なかったというに。ワープに対抗出来るのは私ぐらいだ。こいつから眼を離した隙に皆に個性を使われたらどうしようもない。私がいない間に更なる増援を呼ばれたり、皆が連れ去られてしまったらと考えると不用意に黄泉比良坂で移動するのは躊躇われた。私の役目はここで助けが来るまでこいつを食い止めること。もしくはブッ飛ばす!

 

「これは良い手土産が出来たと思いましてね」

「……土産ならワラワがくれてやろう」

 

(ワラワの拳で良ければなッ!)

 

 飛行能力で一気に加速してワープ男の顔面に掌底をぶち込む。自身のワープ能力に対抗した生徒がまさか飛行で急接近して、異形系の個性持ちレベルの一撃を放つとは想像だにしていなかっただろう。

 

「グハッ!?」

 

 手の平で靄が実体化したかのような不思議な感覚が返ってきた。生物のそれの触感では無い。油断していたワープ男の黒い靄を衝撃で一時的に吹き飛ばすことには成功したが、戦闘不能にする程のダメージは与えられていない。むしろワープ男にとっては衝撃である程度吹き飛んだことで、返しの一撃を喰らうことなく離脱出来たといったところか……私の戦闘経験の少なさが出てしまった。最早先ほどまでの油断は男に無く、私の一撃を警戒して距離を保っている。2撃目さえ入れられてたら終わってたかもしれないのに……。

 

「……恐ろしい個性の持ち主ですね。ワープだけでなく複数の個性を併せ持つとは……ますます貴女を我々敵連合の元に連れて帰る理由が増えました」

「……ぬかせ。ワラワはヒーローじゃ」

「なら先ずはその貴女の心を折ってからにしましょう。死柄木弔! 脳無を少し借りますよ!」

「は?……黒霧おまえ子供一人に対オールマイト用の脳無を使うのか? いつからそんなビビりになった?」

「彼女は私と似た個性持ちで増強系の個性も持っています。オールマイトの姿もまだありませんし、確実に彼女を連れて帰るのは力量の差を見せて速攻心を折った方がいいでしょう?」

「……それもそうか」

 

「させるかッ!!」

 

 相澤先生が止めようと捕縛布を脳無と呼ばれる人間? に巻き付けるが、奴は見た目通りの規格外の力で布を掴んで繋がっている相澤先生を引っ張った。その力は凄まじく、鍛えている相澤先生の体を何の重量も感じさせなく宙へ浮かばせた。流石に先生でも身動きのとれない空中では抜け出すことは出来ない。脳無はそのまま地面に勢いをつけて先生を叩きつけた。

 

「先生ッ!?」

「さっ、行ってこい脳無」

 

 

 

 

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