兎の女神のヒーローアカデミア   作:眼球舐めは通常性癖

6 / 32
ワラワ、ボコボコに殴られる

 脳無。ヴィランがそう呼ぶ脳味噌丸出しの化け物。様々な異形系の個性はあるがあれほど異質な存在は見た事が無い。瞼も無く常に開きっぱなしの眼球には感情の色がなく、ワニのような口にびっしり生えそろった臼歯は人を簡単に噛みちぎれるだろう。表皮は真っ黒で巨体に筋肉が内側から張り裂けそうな程詰め込まれている。

 

 単純な異形系の個性を持つ人物というよりは、どこか人工的で生体兵器のような印象を受ける。異形系の個性持ちから戦闘に不必要な要素を削ぎ落とし、悪意の元に強化改造した存在のように思えた。

 

 ヴィランの一人、死柄木の命令で私を見つめるその瞳からは意志が読めない。次の行動を警戒して額の写輪眼に集中した。敵の次の行動を予測するには解析力と動体視力が最も優れている写輪眼が一番だ。洞察力に長けた白眼も悪くは無いが、写輪眼に比べると戦闘面では劣る。

 

「では私は13号を仕留めに行きますか……」

 

 もう脳無に任せておけば良いと判断したワープ男が黒い靄を出してワープしようとする。せっかく足止めしていたのにここで移動されたら皆を移動させた意味が無くなってしまう。

 

「待てッ! 痛ッ!?」

 

 瞬間脳無が動いた。USJの入り口の円形庭園を見下ろす位置にいた私の元へ、長い階段を助走も無しにひとっ跳びでやって来た。本気を出した写輪眼は移動する物体をスローでコマ送りで捉えるほどの動体視力にも関わらず、奴の動きはスロー空間の中を通常時の動きのままで移動している。それは私の意識が体に命令するのが追いつかない程の速度で、高速で動いていることを表す。

 高速移動と同時に放たれた拳は回避する間も無く私の胸部に命中した。今度は私が後方に吹き飛ばされた。先ほどのワープ男の焼き増しといった展開だ。

 

 胸の酸素が衝撃で吐き出され、肺が新鮮な酸素を求めて掠れた呼吸音を繰り返す。飛行していたから吹き飛ばされた体が地面に打ちつけられて更なるダメージを受けることはなかった。

 

「むっ!?」

 

 しかし、攻撃はまだ終わってなかった。私を吹き飛ばすと同時に、地を蹴り上空から襲撃してきた脳無は太い足で息を荒げる私の腕の付け根部分を踏みつけて地面に固定させた。巨体に見合った体重と怪力も合わさって、飛行能力で直ぐに逃げ出すことも出来ない。

 

 そこから始まるはーー連撃。動きのとれない私に向けて放たれるは容赦の無いマシンガンのような拳の連打。写輪眼で次の動きは見えるが、反抗しようも両手は塞がれている。弾かれた頭が動いた先を狙いうつように拳が放たれ、また弾けた先を狙って拳が放たれた。ボクシングのパンチングボールのように弄ばれる頭。どこか滑稽な程に打ちのめされる。

 

 唇はキレて、鼻血も舞う。私だって女の子だ。途切れぬ弾幕の嵐に、痛い、此処から逃げ出したいなんて気持ちも湧いてくる。

 

 こんな状況、訓練で想定していない。つまりそれは本当の訓練じゃなかったってことだ。

 

 一方的な戦闘。ヴィラン相手に私は何も出来ちゃいない。

 

 写輪眼が最早働いていない。戦うことをもう私自身何処かで諦めてしまっている。

 

 意識が……薄れる……。

 

 

『だったら頑張ろ。ウチだってカグヤと一緒に行きたい』

『あ……普通に楽しいよウチは』

『彼女の優秀さは知っていますが流石にそれは厳しいのでは? よろしければ私がヒーロー側で加勢致しますが?』

『ちょカグヤ。ウチもうそろそろ息苦しいから離してッ』

『……お前には負けない。一応、それだけだ』

『カグヤ……貴女は……』

 

 

 

「脳無。やり過ぎるな……と遅かったか……」

 

 死柄木の下に敷かれて必死に惨劇を止めようとする相澤の気力は打ちひしがれた。明らかにあの脳無のスペックは既存のヒーローのそれから逸脱していた。対オールマイトを意識したフィジカルの化け物。本気でオールマイトを殺す性能を奴は持っている。奴に受けた一撃だけで相澤はそれを理解した。それを彼女は何撃も打ち込まれてようやく脳無の手は止まった。それが意味することは、不吉な予感に胸を震わせる。

 

 いくら優秀な大筒木といえど彼女は生徒。雄英でヒーローを目指す将来有望な一人に過ぎない。合理的な思考は本来推奨されるべきだが、この時ばかりは自身の合理的判断を否定したかった。彼女は……もう……

 

 

 

「なんじゃ……終いか?」

「ッ!?」

 

 脳無の拳は彼女の停止を確認して止まった訳では無かった。黒く握り込まれた拳は彼女の胸から突き出した白い肋骨によって腕を貫かれて静止させられていた。

 

「あ〜? 何で生きてるんだお前……」

「大筒木ッ! 逃げろ!」

 

 ……逃げるわけにもいかないでしょ。私だけじゃ無いんだ頑張ってるのは。相澤先生だって、他の皆だって。ヒーローは皆の憧れの職業だ。本当にヒーローを目指すならこの先危険な経験なんて山ほどある。きっとそれが私たちは早かっただけ。口内の出血を脳無に吹きかける。しかし奴は怯む様子も無く、再び動き出そうとした。腕に私の屍骨脈の肋骨が刺さっているにも関わらずだ。刺さった場所が既に塞がりかけていた。

 

「再生能力……?!」

 

 オールマイト並の肉体に再生能力持ちとか洒落ならんしょ。このまま近接戦闘はどう考えても不利だ。鎖骨を背中側から体外に押し出して体を若干浮かせる。そして瞬時に肋骨と一緒に体内に引っ込めた。その時出来た私と地面との隙間。脳無のバランスが崩れたのを見計らって飛行能力で一気に地面を縫うように脱出した。

 

(痛ッ、乙女の顔を本気で殴りやがって……)

 

 殴られ続けて軽い脳震盪でも起こしているのか頭痛がする。いや、軽い脳震盪ですんでいる事に感謝すべきだ。ワラワのカグヤボディの耐久力は想像した以上に丈夫だ。取り敢えず10m程上空に対空。

 

「そのまま逃げろッ!」

 

 自分の身も顧みずに叫ぶ相澤先生。正直怖いとか思っててゴメンよ。貴方は立派な教師で、目指すべきヒーローだ。だからこそ彼の言う事は聞けない。幸いと言うべきか今はワープ男はいない。だったら黄泉比良坂で回収できる。相澤先生の横たわっている地面に裂け目を空けて手元まで引き寄せた。ぐったりとしているが意識は普通にある。

 

「……あ?」

「馬鹿……野郎。お前の機動力を……割くような真似……するな」

「ワラワは野郎では無い……だから先生の言うことも聞かん」

 

 そうこうしている間にワープ男が戻ってきた。あと少しでも遅れていたら間に合わなかったかもしれん。冷や汗を掻きながら状況を見守る。

 

「死柄木 弔」

「黒霧、13号はやったのか」

「行動不能には出来たものの散らし損ねた生徒がおりまして……一名逃げられました。……彼女は落とせなかったので?」

「……はぁ。脳無は生徒一人落とせないわ、黒霧はまんまと逃げられるし、おまえら粉々にされたいのか? はあー……さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ。……帰ろっか」

 

 奴らの会話も気になるが水難事故を想定した水辺に緑谷君、峰田君、蛙吹ちゃんの姿が見える。様子を見守るにしてもヴィランと近過ぎるのが気になった。

 

「大筒木……合わせろ」

「ムッ?」

「お前の個性だ」

 

 突如動き出した死柄木。相澤先生の言う意味が直前まで理解できなかったが流石に意図は読めた。確かに男の動きは速い。しかし脳無のように写輪眼で見切れないほどの速度では無かった。

 

 触れたものを崩壊させる個性。共殺の灰骨を想起させる個性を持った死柄木の手が蛙吹の可愛らしい顔をーー掴んだ。

 

 しかし蛙吹ちゃんの顔は崩壊することはなかった。抹消ヒーロー、イレイザーヘッドが男の個性を阻止したのだ。合わせて蛙吹ちゃんの真下に黄泉比良坂で裂け目を作って、私の上空に繋げる。急に移動させたにも関わらず蛙吹ちゃんはしっかりと私の背に引っ付いた。

 

「大筒木ちゃん……ありがとね」

 

 僅かに震えている。彼女は今の瞬間まで自分がヴィランに殺されると思っていたのだ。表情は読み辛いが、彼女も雄英に入学したばかりの女の子なのだ。本気の殺意に晒されて怖く無いはずがない。

 

「さっきから……うざったいな。脳無、今度こそあいつを仕留めろ」

「やめろっ!」

 

 緑谷が止めようと脳無相手に強烈なアッパーを食らわせた。オールマイトファンの彼は、しかしファンの域に止まらないパワーでのスマッシュがモロにヒットする。しかし、

 

(あやつ、全然効いておらん……)

 

凄まじい打撃音のわりに脳無へのダメージは見受けられない。骨での攻撃はある程度通ったが、緑谷の攻撃は通じていない……衝撃に対して強い耐性でもあるのだろうか。

 

「んっ!?」

 

 嫌な予感がした私は推理を中断して直ぐに回避行動に入る。真横に素早く移動して直ぐに脳無の黒い巨体が、直前まで私のいた空間を薙ぎ払う。直撃こそ避けたものの風圧によって掻き乱される。危うく相澤先生を手放しそうになった。背中の蛙吹ちゃんだけなら軽いし問題無いけど、相澤先生は結構身長もあるので重量は無視できるが片手で抱えての飛行はやり辛い。とはいえ相澤先生の怪我は放置出来ない。

 

「一度……降ろしてくれ」

「ならぬ」

 

 攻撃の為に片手を空けといたが今は回避が最優先。両手で相澤先生を抱える。いわばお姫様抱っこの形だ。無精髭とボサボサ頭のお姫様はグッタリとしながらすごくメッセ顔を浮かべている。我慢してほしい。一番私が移動しやすいのがこのスタイルなのだ。

 

「もう大丈夫、私が来た!!!」

 

 USJ中に大声が響き渡った。入口の巨大な扉が轟音を立てて吹き飛ばされる。現れたのは偽オールマイト。流石にこのタイミングで現れた偽オールマイトがヴィランの可能性は低い。案の定、入口付近のヴィラン集団を一瞬で気絶させてこちらに凄まじい勢いでやって来た。……あれ? 偽物にしては流石に強過ぎない?

 

 まだ死柄木の近くにいた緑谷君と峰田君を一瞬で回収する。その隙を作る為に死柄木に一撃加えることも忘れていない。速さ、そして判断力がずば抜けている。

 

「皆入口へ早く! 大筒木少女も良くやってくれた!」

「オールマイトだめです!! あの脳ミソ敵!! ワン……っ、僕の腕が折れないぐらいの力だけどビクともしなかった!!! きっとあいつ……」

「緑谷少年……大丈夫!」

 

 ワン……っ? 緑谷君……ひょっとして…………犬キャラ狙ってる?

 

 いやふざけてる場合じゃなかった。ワープ男の様子を窺いつつ、飛行で緑谷君たちと一緒に入口の扉に向かう。派手な登場と戦闘力でヴィランの注意は一人に向いている。今なら移動しても大丈夫だろう。破壊された扉の周囲には既にクラスメイトがある程度集まっていた。私が黄泉比良坂で送り出した芦戸ちゃんの姿もある。軽傷を負っている者もいるが、皆無事そうだった。

 

「……無事で良かったの。芦戸、先生の応急処置を頼む」

「わっ先生大丈夫!? ッて大筒木ちゃんも他人の心配出来る立場? あぁ……傷だらけじゃん!?」

 

 甲斐甲斐しく顔面に負った傷を確認し悲しんでくれるのはありがたいが、いつまでもこうしてはいられない。ヴィラン相手にまだ一人戦ってる人がいるんだ。背中の蛙吹ちゃんを降ろそうとしたら一瞬蛙の足がくっついて離れない。目が合うと恥ずかしそうに蛙吹ちゃんは自ら降りてくれた。前々から可愛いとは思ってたけど本当に可愛いな蛙吹ちゃん……優しくしてくれた芦戸ちゃんとも絶対友達になりたい。

 

「や…やめろ……大筒木、さっきは緊急事態で大目に見てやったが……今から……戦闘に参加した場合……除籍処分に……するぞ」

「ケロ、大筒木ちゃん危ないわ……」

「ほら相澤先生もそう言ってるし〜止めときな」

「……後は頼んだ」

 

 私のやろうとする意図を読んだ相澤先生が止めようとするけど、聞こえないフリだ。蛙吹ちゃんと芦戸ちゃんも然り。というかもう既に私の前を緑谷君が先行して走っている。そして奥から轟君と爆豪君、切島君の姿も見える。一人ヴィランに立ち向かってワープ男と脳無とのコンビネーションで抑え込まれている偽オールマイトを助ける為に。

 

 否、最早彼は偽オールマイトでは無い! 例え偽物であろうとも本物に迫る為に努力して本物に近い実力を身につけた彼は、身一つで生徒を守る精神性も相まって本物のオールマイトといって良いだろう。いや、私がそう決めた。彼はこれから偽オールマイトからオールマイト<本物>だ。No. 1ヒーローだ。

 

 厄介な個性持ちであるワープ男は横合いから爆豪くんによる爆破で地面に固定された。どうやらワープ男は実体部分をモヤで覆い隠していたようで、超近距離で爆豪君が実体部分に触れながら動くと爆破すると脅して身動きをとれなくさせている。まるでヴィランそのものの言動だがやってることはヒーロー。脳がバグりそうになる。しかし爆豪くんの功績は凄まじい。これで動きがだいぶ楽になった。

 

 次いで、轟君の氷結能力で脳無を半身だけ凍らせた。密着しているオールマイトを避けての繊細な個性使用。いくら脳無の怪力といえど細胞自体が凍らせられてはその力も発揮出来ない。これによりオールマイトが拘束が緩んだところを狙って無事脱出成功! 

 

 実践訓練の時から思っていたけど二人のセンスは素晴らしい。個性も強力だが、なにより自らの個性を効果的に使う発想と感性は学ぶべき事が多い。ワープ男を捕らえている現状、残ったヴィランは死柄木と脳無だけ。こっちは生徒だが緑谷君、轟君、爆豪君、切島君と私の5人。そして何よりオールマイト<本物>がいる。

 

 そんな私たちの意気を削ぐように脳無が動き出した。凍った半身も気にせずに動いたせいで砕け散って腕と脚がとれるが、見る間に胴体から修復してゆく。再生の個性だと思ってたけど死柄木の言うことを信じるなら超再生らしい。ちょっと卑怯すぎるでしょこれ。

 

 しかし超再生持ちなら、私の共殺の灰骨でも相手が引きちぎって対処してくれるなら使えるか? いくら超再生と言えど限度はある筈だ。オールマイトに少しでも貢献出来るなら……やるしかないか。脳無と一度相対した私はあいつの危険性を嫌と言うほど実感できている。皆を危険に晒して後悔するぐらいなら…

 

 脳無が動く。私は写輪眼で追えるが、オールマイト以外の皆は動きが追えていない。でも私もあいつの動きに体が追いついているかというとそうじゃない。相手の狙いは爆豪君だ。正確には爆豪君が捕らえているワープ男の救助。高速で接近する脳無から爆豪君を助けるのに黄泉比良坂は展開速度が間に合わない。ならば使うしかない。覚悟は既に決めてる。

 

ーー共殺の灰骨

 

 手の平から射出させた灰骨は脳無の右腕部に命中。写輪眼による先読みはFPSが下手な私でも予想軌道上に添えて撃つだけで当たる。尤も脳無は私の攻撃に気づいていた。一度私の骨による攻撃を喰らって脅威度が薄いと判断し、爆豪君を守ろうとするオールマイトへの攻撃を優先させたのだろう。私が撃ったのが先ほどまで屍骨脈で使っていた骨ならその判断は正しかった。

 

 残念ながら爆豪君への攻撃は止めることが出来なかったせいでオールマイトが庇って攻撃が直撃してしまった。しかし脳無は直ぐに自身の体に起きた異変に気づいたのだろう。私の共殺の灰骨が刺さった部分から肌がヒビ割れて崩壊が始まりだした。

 

「……崩壊? 死柄木、脳無を攻撃するのはーー」

「ーーやる訳ねぇだろ? ……あの女か?」

 

 原因が刺さった骨である事に気づいた脳無は骨を体から抜こうとするが、骨自体は直ぐに崩壊してしまった。しかし崩壊の侵攻は止まらない。脅威性を判断した脳無が、左手でまだ侵攻の進んでない右脇を掴みそのまま引きちぎって捨てる。地面に投げ出された右腕はポロポロと端から崩れていって、そのまま灰になってしまった。私自身が狙ってやったことだがその恐ろしさに竦む。況やクラスメイトの恐怖は私以上のものだったろう。脳無への恐怖が私への恐怖に移り変わるのを視線で感じる。ワラワ、でも自分の行動に後悔していない! 皆が酷い目に遭うぐらいならこのぐらいなんて事ないぞ。

 

「しかし容赦はしないッ!!」

 

 超再生で腕が生えるまでの隙を見逃すようなオールマイトでは無い。相手はヴィランで、彼には守るべき生徒がいる。ならば利用出来る隙は当然利用する。正義の象徴として偽、否。オールマイト<本物>のヒーローとしての判断は正しい。オールマイトの格好にこだわらなくても彼なら真っ当にヒーローとしてトップを獲れる器だろうに……勿体無い。

 

 高速の連撃が脳無を捉える。しかし脳無はショック吸収でまともなダメージを受けている様子は無い。それでも真正面からオールマイトは逃げない。互いの拳が真正面からぶつかり合う。

 

「無効ではなく吸収ならば限度があるんじゃないか?! 私対策!? 私の100%を耐えるなら!! さらに上からねじふせよう!!」

 

 嵐のような弾幕のぶつかり合いで風圧が私たちに押し寄せる。ワープ男も靄を操る以上、真正面からの風圧で手出しは出来ない。気のせいか脳無の動きも若干鈍い。一度私の灰骨を喰らって警戒しているのだろう。お互いしか見えない状況で後方の私を警戒せざるを得ない脳無はこの戦闘において後手に回っていると言っていい。あそこまで近距離での殴り合いでは誤射を恐れて私も灰骨を撃つ事は出来ないのだが、フリだけはして構えている。戦闘機械じみた脳無はそこまでの判断が出来ないのだろう。

 

「敵よ、こんな言葉を知っているか!? Plus Ultra!!」

 

 遂にショック吸収の限界を超えたのか脳無を、目にも止まらぬ速さで殴り続けたオールマイトがUSJの外へ殴り飛ばした。勝者は誰の目にも明らかにオールマイトだ。出鱈目で漫画のような力に轟君や切島君からも感嘆の声が漏れる。

 

「さてと敵。お互い早めに決着つけたいね」

「チートが……!」

 

 オールマイトの力は凄まじい。しかし本物と違って<本物>は活動時間に制限があるように見える。白眼がオールマイトの見た目とは裏腹にガリガリに痩せた体で立っているのを見透かした。ここは勢いがついている時に押してしまった方がいい。

 

「轟よ。奴らを氷で囲うのじゃ」

「……おう」

 

 三人を囲って氷の輪が形成される。本来なら限界そうなオールマイトは別の場所に移動させたいが、此処で明確な脅威が去ってしまったら逆に敵の勢いがつきかねない。続いて私も共殺の灰骨を敵の足元目がけて放った。当てる気は更々ないが、奴らも一度脳無に刺さった灰骨が齎した結果を見ているので警戒して大きく下がってくれた。

 

「どうやら生徒もいる以上……潮時ですね」

「……そうだな……そうだ。帰って出直すか……黒霧。……女、名前は?」

「……大筒木カグヤじゃ」

「……覚えたぞ。その顔。その個性。……お前は敵連合がいずれ連れ帰る……」

「さっさと往ね」

「……ではまたの出会いを」

 

 そう言い残してワープ男の個性で敵は去っていった。

 

 

 はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、股から乙女汁が溢れそうだった。本当の殺意。真正面から浴びて平気なワケが無い。限界まで追い詰められて脳内麻薬がどぴゅどぴゅ出てたからなんとか敵相手にも平静を装えたけど、明確な脅威が去ってからは安心して膝から崩れ落ちてしまった。心配するように緑谷君が支えてくれたけど、力が抜けただけだとわかるとオールマイトの元に駆けて行く。その時きっと緑谷君もオールマイトが偽物だと分かっているんだろうなとなんとなく気付いた。だからあんなに心配するし、私にオールマイトの事を聞かれた時あんなに動揺していたんだろう。

 

 その後直ぐに飯田君が呼んだ雄英高校のヒーローの応援が押し寄せてきた。一瞬もっと早く来てくれたらと思わなくもなかったけど、血相変えて走り回る先生達の姿を見ると何も言えなくなった。出来る限り急いできてくれたんだろう。生徒の無事と数の確認の為に、1箇所に集められた私たちはお互いの無事を確認して喜びを分かち合った。勿論その中には響香の姿もあって、

 

「ほんっっっっっっとっに馬鹿ッ! 芦戸から聞いたらアンタ敵相手に突っ込んで行ったらしいじゃん!? 死にたいの!?」

「いや、本当あれじゃ……あれ、ワラワの前にたまたま敵が現れての……だから必要に迫られて……の? あの……分かってくれる……じゃろ?」

「……はぁっ↑!?」

 

 ヤダ本当怖い響香。ヴィランの10倍怖い。怒りでイヤホンジャックが天をついて鬼のようにも見える。一方的に怒られてる私を見たクラスの皆が情けない姿を見て同情してくれたのか、

 

「なんか……印象変わったね大筒木ちゃん……カグヤちゃんって呼んで良い?」

「大筒木ちゃん……わたしのことは梅雨ちゃんと呼んで」

 

 共殺の灰骨を見た男子にはちょっとビビられてしまったが芦戸ちゃんと梅雨ちゃんとは少し親しくなれた。しかし良いことばかりでは無い。相澤先生にはこってり絞られて、反省文と一週間放課後に補講を受ける約束をさせられてしまった。まぁ除籍の件に関しては無い事にしてくれたみたいなので悪いばかりでも無いか。

 

 真の問題は先生が生徒を集めている時に、セメントス先生がいきなり個性を使った時に起きた。唐突に地面が大きな壁になって切島君の行先を阻んだのでつい音のしたほうを白眼で見てしまった。壁の向こう側はガリガリになったオールマイト<本物>と緑谷君、セメントス先生が談笑している。

 

 ん? 緑谷君はともかく先生もオールマイトが偽物だと知っている? ……妙だな。

 

 セメントス先生が壁から出てきて私と目が合った。当然セメントス先生も私の個性を知っている訳で、

 

「…………」

「…………」

「…………大筒木さん」

「……はい?」

「…………ちょっと学校でオールマイトと一緒にお話ししようか?」

「アッハイ」

 

 表情は笑ってるけど目は全然笑ってないままのセメントス先生に連行されてしまった。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。