兎の女神のヒーローアカデミア 作:眼球舐めは通常性癖
「大筒木ちゃん、ご飯一緒に食べましょ?」
体育祭について知らされたその日の昼食時間。蛙吹ちゃんが誘ってくれた。
「う、うむ。蛙吹……いや、梅雨よ」
「……けろろっ正直、大筒木ちゃんが一番早く言ってくれるとは思わなかったわ」
「な、何じゃ……悪いか!?」
「いえ、とっても嬉しいわ大筒木ちゃん」
蛙吹ちゃん改め梅雨ちゃんはなんというか真っ直ぐ言葉をぶつけてくれる。いつもの調子を崩されそうにはなるが、人付き合いという点ではむしろ助かる。このナリと上から口調なので結構人間関係の構築には苦労したのだ。元々私自体がコミュニケーション得意な方では無いというのもある。
「……その大筒木というのもよい。ワラワだけ名前呼びなのもおかしかろう?」
「そうかしら……じゃあカグヤちゃんと呼ばせて貰うわ」
そういう訳で私は梅雨ちゃんを、響香は何処からか上鳴君と尾白君と葉隠ちゃんを連れて食堂に向かうことになった。恐るべしはコミュ力の塊である響香。今まで響香と二人で食べてたのが一気に6人での大所帯での昼食だ。やはり敵連合の襲撃を切り抜けて1ーAメンバーにどこか団結力が生まれたのだろう。
「いや〜でも皆無事で良かった〜。今朝皆の顔を見た時なんかホッとしちゃったよ!」
“透明”の個性持ちである葉隠ちゃんが服だけが浮いた状態で身振り手振りで言うもんだから微笑ましくなる。彼女なりに自身の表情が周囲に伝わらない事をどうにかしようとしているのか、いつも葉隠ちゃんの動きは大きく、声も感情豊かで単純に人として好ましい。……いや、例え透明の個性を私が持っていたってああまでの明るい振る舞いは出来ないから、私と違って生来“陽”の者なんだろう。本当そうだよなぁと頷く尾白君。前々から思ってたけど二人の距離かなり近い感じするわ。一般女学生並みには私も色恋沙汰は大好きだ。でも今まであまり絡みがないのにいきなり出す話題でも無いし、それで空気悪くなったらと思うと頷くことしか出来なかった。
「尾白はほぼ一人で撃退したんだっけ? スゲェよなぁ。俺は八百万と耳朗がいなかったらと思うとゾッとするぜ」
「いうてアンタの電気なかったらあそこまで敵は減らせてなかったと思うし、まぁ頑張ったんじゃない?」
一応軽く話は聞いていたけど、上鳴君もあの響香にあそこまで褒められる(当社比)とはかなりの活躍をしたみたいだ。幼馴染で付き合いが長い私には『まぁ頑張ったんじゃない?』は褒めかたとしてはベスト3に入るレベルの賞賛の仕方だ。
「俺の所は強い個性持ちもいなかったし……同士討ちする敵もいたからなぁ。運が良かっただけだよ」
「そんなことないわ尾白ちゃん。あの状況で多数相手に一人で戦うなんて普通じゃ出来ないわ」
「そうだよそうだよ! 私は轟君に任せっきりだったし!」
なんか……ええなぁ。こういう和気藹々とした雰囲気。青春って感じだ。……イカン、和んでばかりいたらこの会話の輪に入り切れなくなってしまう。せっかくの友達が出来るチャンスを活かさなければ!
「梅雨……は確か緑谷と峰田と一緒におったな?」
「ええ。水難ゾーンに飛ばされたから相性は悪くなかったけど、それでも緑谷ちゃんと峰田ちゃんの力が無ければ突破は出来なかったと思うわ」
ほとんどが飛ばされた先の災害ゾーンと相性の良い個性持ちの敵が待ち構えていたということらしい。災害ゾーンと相性の良い場所に飛ばされた梅雨ちゃんは運が良かったほうだろう。優秀な雄英ヒーロー科といえど入学したばかりの一年生であの難関を乗り越えた皆の実力は相当なものだ。オールマイトも言っていたが大人の敵相手を退けた経験は得ようと思っても得られるものでは無い。
「あの後相澤先生とカグヤちゃんに助けて貰った感じね。……本当にあの時はありがとう」
深く下げられる頭に困惑する。そして少し納得もした。きっと梅雨ちゃんはあの時のお礼を言う機会を窺っていたのだ。ただでさえあの襲撃事件が起きた後は警察の事情聴取やら、家族に連絡やらなんやらでワタワタしていたし、私たち生徒も初めての実戦の興奮とアドレナリンが切れた後に押し寄せてきた恐怖やら焦りやらで精神状態が安定とはほど遠かったのは確かだ。きっと昨日の休校で家にいる時にお礼を言ってないなと気づいたのだろう。律儀だねぇ。
「気にするな……ワラワも先生の指示がなければあそこまで上手く救出出来なかっただろうしな」
「それでも助けてくれた事には関係無いわ」
「う、うむ。気持ちだけ受け取っておこう」
正直私はほとんど脳無にボコボコにされていただけだしなぁ。他の皆と違って直接的に敵を倒していないから引け目があるのよね。唯一の活躍をした共殺の灰骨も使えなくなった以上話してもしょうがないし……せっかく仲良くなりそうなのに威力を話して引かれても嫌じゃない? 現場を見て引いていた爆豪君、轟君、切島君、緑谷君みたいにさ。いや、彼らは全然悪くないんだけどね。普通生き物が崩壊して灰になっていくのを見たら引くよ。
「カグヤは……大分顔のアザも消えたみたいだね」
「うむ。ワラワ傷の治りは昔から早いし……」
脳無にボコボコにされて鼻血も出たけど直ぐ止まったし、軽い脳震盪になってあの後病院に精密検査に行ったけど特に異常は見当たらなかったみたいだ。まだ口内は切れた痕が染みるけど、切れた箇所を避けて飲んだり噛んだりすれば(痛いが)問題はない。乙女の顔に傷跡が残らなくて本当に良かった。右隣の響香が心配そうに顔を覗き込む。下手に心配されるのも嫌なので真っ直ぐ食事に集中していたら、怪我を隠してるのでは無いかと逆に心配されてしまったらしい。突然顎クイされて響香の整った顔が目と鼻の先の距離で顔全体をチェックされた。これは……流石に少し恥ずかしい。
「カグヤちゃんと響香ちゃんって仲良しなんだねー!」
「まぁ幼馴染じゃしのぅ。ーーもういいじゃろ響香?」
「あ。……うんそうだね」
解放された私はチキン南蛮定食に向き合った。ジューシーなチキンもさながら自家製のタルタルソースが絶品だ。タルタルソースに沢庵の刻んだのが入っていて、若干のしょっぱさと小気味良い歯応えが濃いめの味付けのチキンに合うんだなこれが。大盛りのご飯にしたんだけどおかわりが欲しくなってしまう。
「大筒木……さん? って思ったより話しやすいんだな」
「……呼び捨てで良いぞ。ワラワも上鳴と呼ぶが良いな?」
「おっ、おう」
「こんなツラだけど成績は多分上鳴より悪いよ」
「やめんか響香!」
事実は人を傷つけるって美香ママと響徳パパに教わらなかったのかよ! せっかく男子で飯田君の次に話せる相手が出来そうなのにワラワの評価を下げようとするのは止めないかッ。あと皆ッ、笑わない!
午後からのヒーロー基礎学も話としては雄英体育祭についての話がメインだった。基本種目は基本的に全員参加なので、それ以外の参加種目に感しての話し合いと体育祭に向けて個々で開催される二週間後まで準備や特訓を重ねると言う感じだ。今回ばかりは1ーAの他のメンバーも基本的には競争相手。私も本来なら特訓したいところだが一週間は相澤先生との補講が待っている。憂鬱な気持ちで放課後、相澤先生の待つ別室まで向かおうとしたところで教室の外が騒がしいことに気付いた。入口を塞ぐように雄英生が1ーAの生徒を見ようと詰めかけていた。
その多くは普通科で経営科や上の学年のヒーロー科らしき人もちらほら見える。
私たちと同じように今日体育祭について聞かされたのだろう。敵襲撃をやり過ごした一番の競争相手であろう私達を偵察にしに来たのだろうと……爆豪君が荒々しい態度で言ってた。普通科の人や隣の1ーBが爆豪君相手にメッチャ煽ってて気が気じゃなかったのは私だけでは無かっただろう。怖い事にならんうちに私はさっと行列の隙間を縫って出た。遅れたら相澤先生に補講時間を延ばされちゃ敵わんしね。
既に別教室に相澤先生は待っていた。補講って何するんだろって思ってたけど最初にやらされたのは各教科のテスト。中学の範囲から今習ってる範囲までが詰め込まれた実質雄英の筆記テストのようなものだ。嫌な気持ちになりながら一通り済ませて相澤先生の答え合わせを待つ。結果は60〜70点と言ったところ。数学が良く無かったけど英語は他の教科より点数はとれた。
「大筒木……予習復習はしているか?」
「……そ、そんなに」
「……正直共通科目は始まったばかりだ。やっている内容も基礎的なところが中心。お前が普通科なら予習復習をこれからはしっかりしろよで終わるところだが……」
「ところ……ではないと?」
「知っての通りヒーロー科の偏差値は高い。午後からのヒーロー基礎学は法律関係の専門的な内容もあるし基本的な学力はどうしても必要になる」
「う、うむ」
「これから先ヒーロー基礎学は実践的な活動をより多く取り入れた内容になっていく。それこそ二週間後の雄英体育祭で活躍すれば雄英外での活動も増える訳だ。2日や1週間近く通常の授業を受けられない場合もあるだろう。その場合、基礎的な部分で満点近くとれないと中間や期末テストでどうなるか合理的に考えてみろ」
無言でコクコクと頷いた。シャフ度でこちらを見る相澤先生の眼光が鋭い。
「ただでさえ大筒木、お前は推薦を除いて通常18人のみの合格のところ特例で1ーAに合格した身だ。合格に関しては特例だが進級に関しては特例などない、甘えるなよ。周囲の煩わしい視線を取り払いたいのなら、お前自身の努力で黙らせろ」
「……Plus Ultraじゃな」
「……先ずは一週間後のテストで基本教科80点以上だ。合格するまで続けるぞ。それまでは補講と帰宅後の学習を欠かすな」
「うむ」
その後は間違った問題の解説と苦手な数式の解き方について教わってその日の補講は終了となった。確かに私の成績は決して良いものでは無い。それでも授業をこれから受けていけば大丈夫だろうと心の何処かで甘えていた。ヒーロー科は始業式も無しでいきなり個性テストをするぐらいにはぶっ飛んだクラスだから、通常の授業を飛ばすことなんてこれから何度もあるだろう。まだ基礎的な部分で周囲との学力の差がこれ以上開くことが無いうちに学力をつけさせようという相澤先生の思いが伝わってきた。そうして考えると補講の話を罰として言い出したのはこの為だったのだろう。……見た目によらず熱い先生だ。
一週間後の再テスト。なんとか全体で80点ギリギリを取ることに成功して無事私は先生のマンツーマン補講から解放された。いや、実際は現代文の解答で漢字間違いしていて78点だったんだけどそこは相澤先生も見逃してくれたみたいだ。本来なら雄英体育祭にむけての準備を皆がしている中での補講だったので、これ以上差がつくのもという心持ちだったのだろう。正直、今回の補講続きで改めて予習復習の大事さと、それとは別にしっかりとした学習時間をとる必要性を実感した。もう二度とこんな補講を受けないように勉強はしっかり続けよう……。
そして、更に一週間後。諸々の準備を終えた私達1ーAはいよいよ雄英体育祭当日を迎えた。
サポート科や普通科も参加するので体育祭の服は共通の体操服で参加。ヒーローコスチュームの変更案をこの一週間で送っておいたのでどちらにしろ体操服で参加するしかなかったので丁度良い。正直緊張で昨日の夜はあまり眠れなかった。活躍も失敗も全国に中継される。前世から緊張するとお腹が痛くなるタイプなのであえて朝食は摂ってきてない。私だけがそんな状況だと信じたくなくて、待合室のクラスの皆を見渡す。キョロキョロしてる私を不審に思った響香が直ぐにやって来た。
「なに緊張してんの?」
「……緊張などしておらんが?」
「けろろっ、いつもより顔が青白いわカグヤちゃん」
私ったら元々顔面真っ白だからそんな違いなど分かる筈が、と待合室の鏡で顔を確認した辺りで鏡越しに後ろで笑う響香と梅雨ちゃんの姿が目に入った。……自分から確認したらその通りだって言ってるようなもんだよね。
「……この緊張感がワラワにとって最高のパフォーマンスを発揮できる状況だと知れ!」
「うわぁ……開き直ったよ」
「頑張りましょカグヤちゃん」
「おっ、ヤル気満々だね! カグヤちゃん!」
……開会式が始まる。プレゼントマイクによる煽りで入場するとスタジアムいっぱいに埋まった人の群れと歓声が1ーAを直撃した。前評判から1ーAの注目度は聞いてはいたが、想像を余裕で超えてきた。東京ドームに実際行ったことは無いけどおそらく雄英のスタジアムは東京ドーム2、3個分はあるんじゃないかな(適当)。私の少ない語彙力で説明するならば、今まで入ったスタジアムの倍以上の大きさって事だ。
正直緊張していてそこから第一種目が決まってスタートする直前までの記憶がほとんど飛んでる。爆豪君がなんか挑発的な事を言っていたような気がするけど、まぁそれはいつもの事か。第一種目は『障害物競争』。スタジアムの外周4kmを設定された範囲内で障害物を避けながらゴールする。何名までかは知らされてないが先着順で第2種目に進出するという話だ。
スタート地点の狭い通路が生徒達ですし詰め状態になる。スタート位置によってはこれから先大きな差が出てしまう。第1種目の始まる前から既に試合は始まっているのだ。
『スターーーート!!』
開始と同時に一斉にスタジアムに雪崩れ込む。スタートゲートはかなり狭く設定されているが飛行できる私にとっては無視できるレベルだ。一番に集団から抜けた轟君の隣まで一気に飛んでそのまま抜かす。
『一番に集団から抜けたのは1ーA大筒木! “飛行”でぶっちぎりィーー! ちっとは空気読メェイ!』
プレゼント・マイクもとい山田先生の声が会場に響く。恥ずかしくなって先生の方を白眼で見たら、口元だけ動かして『わ・か・っ・て・る・な』との事だ。……まぁ流石に分かってますよ。正直この障害物競争は私の飛行能力と相性が良過ぎだ。普通に真面目にやって妨害さえ無ければ私の勝ちは固いだろう。更に黄泉比良坂なんて使ってしまえば視界範囲内に裂け目を作って、また移動しての繰り返しで簡単に1位になってしまう。雄英体育祭を見る観客や、プロヒーローからしてもつまらない結果になってしまうだろう。この種目はいわばアピールタイムなのだ。それぞれの障害にどう対応するかを求められているのに全部飛ばしてしまってはアピールもなにもないだろう。
第一関門である雄英入試時の巨大ロボットゾーンに突入して、どう越えようかと悩んでいると後ろから轟君の氷ブッパ攻撃が迫る。ロボット諸共私も捕らえようとしたのだろう。しかし白眼で予め警戒していた私には通じない。ひらりと躱して調子に乗っていたらロボットが凍って自重で倒れて来た。
(いや、不味くね?)
ヒーロー科はともかく普通科の生徒では潰されてしまうだろう。瞬時に輪廻写輪眼で落下予想地点を読んで巻き添いになりそうなロボットを身を挺して塞ぐ。気分は大蛇丸が操りサスケを襲う大蛇を止める九尾ナルトのイメージ。そこそこ重いけど脳無の一撃に比べれば大したことは無い。倒れそうな先にいたのは何処かで見た顔の男の子だ。
確か雄英体育祭が決まった時に放課後押し寄せて爆豪君を煽ってた普通科の子じゃなかったかな?
「確か大筒木……だったな。アンタは覚えてないだろうけど入試の時同じ会場だったんだぜ」
「フム……スマンな。記憶に無い」
「……なら俺も罪悪感を覚えなくて済むよ」
(へ? あれ……なんか……ボンヤリしてきた……)