DMC5のクリフォトの樹の実をオイチイオイチイしまくってたら人魔問わず全方位から警戒されまくってて草 作:美味しいパンをクレメンス
ヴェルダナーヴァとルシアが亡くなってから数年が経過した。
二人が死んだ原因を作った国を滅ぼして以来、俺には『やる気』というものがごっそり抜け落ちてしまい、丸一日何もせずにだらだらするという全く生産性のない生活を送っている。
起きたらとりあえず何か食って、眠くなるまでだらだらして、寝る。そんな引きこもりのニート生活をいつまでも続けてはいけない、と頭では分かっているのだが残念なことに心と体が反応しない、動かない。
何もかもが面倒で、だるくて、億劫で、何かをする気になれない。
典型的なダメ人間と化していた。
そして周囲はそんな俺を──
「ユリゼン様、お昼ご飯ですよ。食べます?」
──特に何も言わずに許してくれた。
部屋に入って来たのはレイン。相変わらずのメイド姿で、料理を載せたワゴンを押しながら気軽に聞いてくる。
何故レインが引きこもりニート生活をしている俺にわざわざ食事の差し入れをしてくれるのかというと、そもそもここが白氷宮だからだ。更に詳しく説明すると間借りしている部屋はレインのアトリエで、その部屋の隅の一角に寝袋を敷かせてもらっていた。
絵を描くのが趣味のレインは白氷宮内にギィの許可を得てアトリエを所持しており、アトリエ内には写真かと思うくらいに精巧な絵が壁を所狭しと飾られている。レインがこれまで見てきたものが、彼女の手によって描かれていたのだ。
つまりこの部屋は、レインのアトリエは俺にとって思い出がたくさん詰まっていることを意味する。
壁に飾られている絵には人物画が多い。また、日常の一端をそのまま捉えたかのようなものを彼女は好んで描く。絵の中では俺達四人が酒盛りをしていたり、殴り合っていたり、テーブルに齧りつくようにトランプをしていたり、もしくは女性陣だけで優雅にお茶会をしていたり......今では懐かしいなぁ、と感慨に耽る絵がたくさんあった。
もう二度と取り戻せない『過去』が、そこにあった。俺は日がな一日、ボーッと壁の絵を眺めて過ごす。楽しかった過去に浸り、寝て起きてを繰り返すだけ。
「さあ、冷めない内に食べましょう」
食事の準備をテキパキこなすレインに促され、部屋の隅の粗大ゴミと化していた俺は立ち上がる。
「......いただきます」
両手を合わせて言う食事前の挨拶。その一連の言動にレインはくすぐったそうに笑う。
「どうぞ、お召し上がりください」
こうやってレインのアトリエで、彼女と二人で食事を摂るのも最早日常だった。
食後の紅茶を淹れながらレインが口を開く。
「報告によりますと、ミリム様はいつも通りとのことです」
「......そうか。それは良かった」
ティーカップに注がれる紅茶を注視しながら応じる。
ミリムの両親──ヴェルダナーヴァとルシアが亡くなって、あの日以来ミリムはどう暮らしていたかというと、ナスカ王国内にある非常に小さな農村で村民全員から世話を焼かれながら静かに平穏に暮らしていた。
勿論、ただの農村でもなければただの村民でもない。それはあくまで偽装。農村はミリムが平穏無事に生きる為に急遽用意された箱庭であり、村民全員がナスカ王国の騎士団から選抜された護衛である。
あの国を滅ばした後、一度ミリムに会おうとその村に訪問したことがあった。
今思えば、会いに行くんじゃなかったと後悔しているが。
まだ言葉は分からなくても『お父さんとお母さんの仇は討ったよ』と一言伝えようとした時に彼女が見せた目、純粋無垢な眼差しが俺を射抜く。キョトンとした表情でこちらをじっと見つめてくる態度は赤子特有のものだが、俺にはそれが両親を守ってくれなかったことに対して責めているように感じた。
まだ当時一歳になるかならないかの赤ちゃんにそんなつもりがないのは理解している。酷い被害妄想だというのは分かっている。しかし、俺は何故か彼女に見つめられることに耐えられなかった。
自責の念と罪悪感に押し潰されて俺は逃げるように彼女の前から姿を消し、過去に縋る為にレインのアトリエまで足を運び、結局そのまま住み着くようになってしまったのだった。
ミリムにはそれ以来会っていない。こうしてレインから話を聞かせてもらう程度。
こんな生活が数年続いている。
なんとも無様な話だ。
「では、失礼します」
食後の紅茶を終え、後片付けを済ませて退室しようとするレイン。
その背中に俺は躊躇いがちに声を掛ける。
「......いつもすまん、レイン......お前だけじゃなく、ギィやミザリーにも迷惑ばかりかけてしまっている」
「とんでもございません」
レインは立ち止まって振り返る。
「もう何度もお伝えいたしますが、ユリゼン様がよろしければ好きなだけいてくれて構わないとギィ様は仰せです。私もミザリーもユリゼン様のことを迷惑だとは思っておりません」
「......」
「それに私、今の生活結構気に入ってるんです。ユリゼン様は受けた恩を倍返しにする方だとよく分かっているので、いずれどのような形で恩返ししてくるのかと妄想を膨らませるのが楽しくて」
強かだなぁ......外見は美人のメイドさんだけどやっぱ悪魔なんだなこの娘も。しかも七柱いる悪魔の王の一柱、
でも、こういう軽口を叩いてくれるのは凄く気持ちが楽になる。衣食住も含めて、本当に彼女には世話になりっぱなしだ。
「お前達には感謝している......必ず、世話になった恩は返す。俺ができる範囲でな」
「約束、いえ、これは契約ですよユリゼン様。忘れないでください」
朗らかな笑みを浮かべてレインは今度こそ退室した。
一人部屋に残された俺は壁に背を預けるようにして床に座り込む。
「いい加減、この引きニート生活から脱却しなきゃな」
それが簡単にできれば苦労はしないか。
絵の中の今は亡き友は、当然ながら何も応じてはくれなかった。
「ふふ、ふふふ、ふふふのふ」
自身のアトリエ、というよりはユリゼンから十分距離を取ったことを確認したレインは、不気味な笑いを零し始める。
「ふーっふっふっー!! もうこれは落ちたでしょ! ユリゼン様、私に骨抜きでしょ! 依存してきたでしょ! もう私がいないと生きてけないでしょ!」
真面目に働くメイドの姿は何処へやら。「アーッハッハッハ!!」と高笑いしながらその場でくるくる踊り出す。
「ここまで来たら私のお願いならもう何でも聞いてくれそう! 昔
すっかり有頂天になって馬鹿笑いをするレインの背後に、いつの間にか現れたギィが彼女の頭に右手を載せ、
「この、馬鹿野郎!!」
凄まじい力で彼女の顔面を床に叩きつけた。
「ぐばっ!?」
汚い悲鳴を上げて床の染みになるレインの上からギィが怒鳴りつける。
「ユリゼンが自分のアトリエに居着いても嫌な顔一つせず甲斐甲斐しく世話してた裏でんなこと企んでやがったのか、てめぇはっ!?」
更にミザリーまで参加してきて、厳しい視線でレインを見下ろしながら吐き捨てた。
「親しい男性が弱った時に突け込んで契約させるなんて......見損なったわ、レイン」
「おいボンクラ、テメーに人の心とかねーのか?」
「まさに悪魔の所業ね」
「いやいやいやいや、私悪魔ですから! 悪魔の中の悪魔、
復活したレインがガバッと起き上がって弁解するが、二人は聞く耳持たない。二人としては、長年の友人であるユリゼンがヴェルダナーヴァ達の死からなかなか立ち直れずにいる状態で詐欺紛い契約を迫った(ように感じた)のがお気に召さないようだ。
「というか、見てましたよね!? 私のアトリエ内、どういうやり取りがされてたのか把握してましたよね!? や~んギィ様のスケベ」
無言でギィはレインの頭頂部に拳を振り落とす。
「ぐおわぁぁぁ!! 割れる、頭が割れるぅぅぅ!!!」
頭を抱えてレインが床の上をのた打ち回る。
「覗き見なんて趣味じゃねぇが、ここは俺の城で、居候のユリゼンは俺の親友だ。たまに頓珍漢なことをやらかすあいつがいきなり切腹してもすぐ止められるように見張るのは義務だろうが」
過去にギィは、ユリゼンが『魔剣リベリオン』を覚醒させる為にDMCシリーズ恒例行事の貫通式(心臓を剣で貫く)をしていたり、『魔剣アラストル』の使い手となる為にやはり貫通式をしていたり、『魔剣ダンテ』を作る為に『魔剣リベリオン』でまた貫通式をしていたり、というような正気を疑う自傷行為を何度も目撃したことがあった。
必要なことだから、と宣い自分の武器で自分の心臓を刺す光景がどう贔屓目に見ても血迷ってるようにしか見えず、そんな経験があるせいでとにかく心配でギィは少し神経質になっている。
「ですがギィ様。見守り続けるのは構いませんが、このままではいつまで経ってもユリゼン様の為にはなりません。そろそろ動かれてもよろしいのでは?」
ミザリーの進言にギィは悩ましげに唸った。
「......やっぱそう思うよな」
「お二人がお亡くなりになってからそれなりの月日が経過しました。ユリゼン様も心の整理は大分ついているようにお見受けします。あと一押しすれば完全に立ち直っていただけるかとは思いますが......」
「が?」
「私やレインではその『あと一押し』が思いつきません」
「それは俺もだ」
ギィとミザリーはレインの喧しい呻き声をBGMに顔を見合わせると、揃って溜め息を吐く。
ユリゼンはほぼほぼ立ち直っている。心の傷も大分癒えていた。だがかつての抜き身の刀のような鋭さや覇気といったものが戻ってきていない。原因は、ミリムから両親を守れなかったことについて責められている、という被害妄想。当然ながら実際にそんな事実などない。勝手に罪悪感を持っているだけだ。
二人の死を誰よりも悲しみ、嘆き、その死の元凶に怒り、憎み、呪ったことから分かる通り、ユリゼンは鉄面皮の癖して感情の起伏が激しく、それでいて繊細な部分を持つ。
他に何かしてあげられることがあればいいのだが、と常日頃から考えるギィではあったが、生憎と妙案は浮かばなかった。
「もう少しだけ時間が経つのを待つか」
「畏まりました」
仕方ないと言わんばかりの主の発言に、メイドは文句も挟まず頷く。
結局、ユリゼンが己の力で乗り越えていくしかない。自分達はそれまで見守るくらいしかできない。ギィはそう結論付けた後、まだ床に転がり喚いているレインを容赦なく蹴り飛ばした。
不本意ながら相変わらず自堕落で引きこもりのニートな生活を送っていたのだが、それは唐突に終わりを告げる。
「ユリゼン様! たたた大変、大変です!! ミリム様が行方不明になりました!!!」
「何だと!?」
いつものように床に転がる粗大ゴミと化していた俺は、慌てた様子でドアを蹴破り入室してきたレインの言葉に飛び起き、彼女の両肩を掴み問い詰めた。
「ミリムが行方不明ってどういうことだ!?」
「配下からの報告で、いつものようにあの村の様子を見に行った時点で既にミリム様が行方不明になっていたとのことです。しかも転移魔法が使用された形跡が発見されまして」
ミリムが何処かに遊びに行く時は、生前のヴェルダナーヴァから与えられたペット兼護衛の
村民は全員ミリムの護衛として派遣されたナスカ王国の騎士団だ。皆手練れの戦士や魔法使いばかり。そんな連中がミリムを見失うというのは、可能性はなくはないが限りなく低い。常に陰ながら彼女を見守っているという話だから。
そしてその第三者とやらが護衛の目を掻い潜りミリムを連れ去ったならば、そいつは卓越した魔法使いである可能性が非常に高い。
「ギィはどうしてる?」
「ミザリーを連れて既に転移魔法が使われた場所に向かいました」
現場検証を兼ねた転移先の捕捉を試みているのだろう。魔法を得意とする悪魔族のギィなら何か分かるかもしれないが、もしあいつでも何も情報を得られないなら最悪だ。俺は半魔の癖して魔法が得意じゃないから完全にお手上げになってしまう。
「俺も行く」
「はい」
数年ぶりに閻魔刀の鯉口を切り抜刀、空間を切り裂き転移する。
「ギィ!」
「ユリゼンか」
村に到着しギィの後ろ姿を発見したので名を呼びながら駆け寄れば、彼は振り向き忌々しそうに眉を歪めた。
「巧妙に隠蔽されてて転移先を捕捉するのに時間が掛かりやがる。魔法に関しちゃ相当の使い手だな、誘拐犯は」
舌打ちしたい気分を無理矢理押さえ、思考を巡らせる。
もし本当に悪意ある者がミリムを狙ったとして、こうもあっさり成し遂げるとなると犯人はかなり絞られてくるのでは? 何せギィは魔法を呼吸のように扱う悪魔族で、その王だ。魔法の実力はこの世界でトップクラス。そんな彼が転移魔法の痕跡から転移先をすぐには辿れない?
「ギィ。お前にそこまで言わせることが可能な魔法の使い手は、この世に何人いる?」
恐らくそんなに多くないはずだ。彼と同じ原初の悪魔と、それと対となる始原の七天使。あとは、あとは、神祖トワイライトの関係者......か? 俺が知る限りではそんくらいしか候補がいない。で、その中から創造神である星王竜ヴェルダナーヴァの力を受け継いだミリムを狙ってた奴となると、一体誰だ?
「......そんなに数は多くねーが、それだけで犯人特定は厳しいぜ」
どいつもこいつも俺は実際に会ったことがなく、ヴェルダナーヴァから話を聞かされただけであるから断定はできないが、誰も彼もがヴェルダナーヴァを敬っていたらしい。そんな連中がヴェルダナーヴァの娘であるミリムを狙うか? 創造物の中で最も創造主に近い位置にいた連中が?
あり得ない、とは言い切れないのが怖い。ある意味、ミリムの存在はヴェルダナーヴァが力を失い死んだ原因、と見えるからだ。
「だが、お前の解析が終わるまで手をこまねいてる気はない。容疑者になり得る人物をシラミ潰しに当たってみる」
「ならレインとミザリーを連れて行け。原初の悪魔は当然として、始原の七天使にも多少は顔が利く。案内くらいは役に──」
立つ、とギィが言い終わる直前に、突如凄まじい
ヴェルダナーヴァに似ていながら少し違う、だが途方もない力を感じさせる存在感。
「......ギィ、今のは」
「まさかミリムか?」
俺の震えた声、ギィの険しい表情。
状況的にミリムのものとしか考えられない。肌を刺すような
俺達二人は顔を見合せ、直ぐ様
転移先は酷い状況だった。
台風のように
隕石の雨でも降ってきたのかのような惨憺たる有り様に思わず顔を顰めてしまう。
都市──だったものが眼下に広がる空の上で、俺はエアハイクを応用し魔力で構成された力場を作って立つ。ギィは隣で体を魔法で浮かせた状態で周囲を見渡す。
「ここが何処か分かるかユリゼン?」
「閻魔刀で転移ができたから過去に一度来たことがある。位置的には確かエルフの国の、超魔導大国ソーマだ。観光で来た当時は平和でまともな国だったはずだが、随分前に国王が乱心して色々とおかしくなった、という噂を聞いたな」
国王が乱心云々は引きこもり生活をする前に得た情報だが。
「乱心?」
気になるワードだったのかギィが目を細める。
「そういや何年か前に配下からの報告で聞いた覚えがある。今まで賢王だったのがある日を境に暴君になったって」
「ああ。別人のような性格になって気に入らない者を即処刑したり、非人道的な人体実験をするようになったとか」
「......まさかその乱心した国王がミリムを狙って、とかじゃねーだろーな」
「分からんが、あり得ない話じゃない」
二人で喋っている視界の奥で、目映い閃光と大きな爆音が生まれて空気を震わせ、一瞬遅れて爆風が襲いかかってきた。
「言ってる場合じゃねーな」
「ああ」
巨大なキノコ雲が出来上がった付近にミリムがいる、そう確信してその場へ急ぐ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
涙を溢れさせ狂ったように慟哭し自身の頭を両手で掻き毟るミリムを一目見て、彼女は完全に理性を失っており、更には覚醒した力を制御できず暴走していることが分かる。
「ミリムだけ、か? ペットの
首を傾げるギィの疑問に俺は嫌な予感がした。
ヴェルダナーヴァが死ぬ少し前、つまり彼が自身の力をミリムに継承した後、娘の為にと最後の力を振り絞って生み出し与えた一体の小さな竜。ミリムのペットであり、護衛であり、唯一の友達だ。
俺もギィも何度か会っており、ミリムのそばを片時も離れようとしないが人懐っこくて穏やかな性格をした竜だったのを覚えている。
そいつがミリムのそばにいないことが、彼女の現状に繋がっているのなら──
「最悪だ」
「ユリゼン?」
今もなお泣き叫びながら、自身の頭や頬、腕や肩を掻き毟り血を流す様から激しい怒りや悲しみ、そして憎悪をひしひしと感じてしまう。
そういった負の感情をトリガーに竜種の力を覚醒させた上で都市を壊滅させたのなら、その際に得た魂で魔王種としても覚醒済みだろう。
だが、彼女は突如目覚めた自身の力を全く制御できていない。力に呑まれ、振り回され、暴走しているのが明らかだ。
どうすればいい? どうやって彼女を止めればいい? 何をすれば彼女は元に戻る?
そんな思考を遮るように、
「■■■■■■■■!!」
奇しくもミリムと同じ理性があるとは思えない獣の咆哮が響き、瓦礫の山の下から巨大なドラゴンが姿を現す。
「今度は何だ!?」
「次から次へと、一体どうなってやがる!」
体長が百メートルはありそうな、巨大なドラゴン。禍々しい
そして俺は唐突に、かつてヴェルダナーヴァから教わったこと──名付けと進化についてを思い出す。
『
『そう。名付け親が大量の
『なるほど』
『ユリゼンの場合は既に覚醒魔王に進化済みだから、もしキミが名付け親になったらその時点で
『懇切丁寧に講義してくれたところ悪いが、俺は配下を持たん主義だ』
『まあ、知識として知っておいても損はないから。ユリゼンにだっていつか配下にしようと思える誰かに出会うかもでしょ?』
「ギィ。あのドラゴンがミリムの
「はあ!? こんな時に笑えねぇ冗談はよせ! あのチビがこんな化け物になって堪るか!」
「......」
俺の言に納得いかないのか思わず怒鳴り声を上げてしまうギィだったが、こちらの表情から冗談を言っている訳ではないと察し改めてドラゴンに向き直る。
「......流石にミリムのチビ竜って考えは間違いだぜ。半魔のお前と違って俺達純粋な悪魔族は魂を見ることが、できる......」
「いや、だったらいい。俺の杞憂で終われば──」
「魂を見ることができる、はずなんだ」
食い気味にこちらを遮ってきたギィの顔が苦虫を噛み潰したように歪む。
「?」
「あのドラゴン、もうとっくに死んでやがる。魂が見えねー。魂の無い死体が動いてる、そんな状態なんだ。通常ならまずあり得ねーよ」
は?
え? ちょっと待って欲しい。もうとっくに死んでる? 魂が見えない? 魂の無い死体が動いてる?
「ど、ど、どういう、ことだ? つ、つまりあれは、
動揺が隠し切れずどもりながら、ギィ曰く魂が無くて動く死体と化しているらしいドラゴンをプルプル震える右手で指差せば、彼は首肯。
「魂が見えないから、あの化け物はミリムのチビ竜じゃねー、と思う......たぶん、違うんじゃねーかな......だったらいいな......きっと違う、はず、だよな」
後半のほとんどが希望的観測になってるぞおい!?
俺と同じようにギィもかなり動揺しているみたいだ。彼らしくない自信無さげな発言が何よりの証拠である。
しかしこの状況下で、ドラゴンゾンビ(仮称)がミリムと全く無関係でたまたま今この瞬間に出現したとは考え難い。
可能性の一つとして挙げられるのは
恐らく、
きっとそれを目の当たりにしたミリムがその小さな体に宿る力を覚醒させ、この国を壊滅に追いやった。
それに伴い得た魂で覚醒魔王へと進化。
進化に合わせてミリムの魂の系譜に連なる
確証はないもののギィに思ったことを告げてみると、彼は暗い雰囲気を纏った。
「ヴェルダナーヴァが復活しない理由聞いた時もそうだったが、こういう時のユリゼンの考えって核心突いてる気がしてこれっぽっちも否定する気が起きねーよ」
それから深く嘆息した後、切り替えるように暗い雰囲気を引っ込ませて促してくる。
「で、あれをどうする? ユリゼンは何かいい案あるか?」
顎でクイッと示す先にいるのは暴れ回り破壊を撒き散らす一人の少女とドラゴンゾンビ。
「力ずくで止めるしかないだろうが、元に戻るかは分からん」
「だろうな。俺も同意見だ」
しかもドラゴンゾンビの方は死亡している以上、力を暴走させているミリムと違い元に戻る可能性が絶望的だ。
だからせめてミリムだけでも何とかしなければ。
二人で同時に頷き合うと、行動開始。
俺は真っ先にドラゴンゾンビの目の前に降り立ち、少し遅れてギィがミリムの前に躍り出た。
今にも噛み付いてきそうなドラゴンゾンビの正面で閻魔刀をいつでも抜刀できるように腰を低くし構える。
「■■■■■■■■■■!!」
「がああああああああああああ!!」
全く同じタイミングで吼えると、ドラゴンゾンビは俺に、ミリムはギィに襲いかかってきた。
大きく口を開き噛み付き攻撃をしてきたドラゴンゾンビ。
迫ってくる丸太より太さがある巨大な牙──前方に突き出た二本の犬歯の内一本を、閻魔刀を納刀したまま左手に握った鞘で打ち払う。
破砕音と共に犬歯が半ばから砕け、鞘で殴った衝撃でドラゴンゾンビは横にぶっ飛ぶ。その巨体が空中で横に三回転してから一度バウンドし瓦礫の山に突っ込んだ。
「ん?」
思ってたよりも力が入ってたみたいだ。もう少し弱めにしたつもりだったのだが、はて?
そこで思い出す。ヴェルダナーヴァとルシアが亡くなって、そのすぐ後にクリフォトの樹を発生させて以来、これが初めての戦闘なのだ。いつもなら増大した力に体を慣らすことを必ずするのに、今回はそれをせずに白氷宮で数年間ずっと引きこもり生活。力加減を間違えてしまうのも無理はない。
「気をつけないといかんな」
追撃はせず、瓦礫の山から這い出てくるのを待ちながらギィとミリムの様子を窺えば、七つ揃えれば何でも願いが叶う玉を集める某人気漫画みたいな大迫力のハイスピードバトルを繰り広げている。
あっちの心配をする必要はなさそうだ。
「■■■!」
騒音を立てて瓦礫の下から漸く這い出てきたドラゴンゾンビが威嚇するように唸り、こちらに狙いを定めて口を開き空気を大きく吸い始めた。
次の瞬間放たれたのは
飛来する破壊の光を前に慌てず騒がず閻魔刀の鯉口を切り抜刀。居合いの斬り上げで
「■■■■■!!」
悲鳴を上げ、どす黒い血を噴出させ大きく仰け反り後退すると、ドラゴンゾンビは翼を広げて羽ばたく。
飛ばれると厄介だな。
刀を鞘に納めてからエアトリック。
「落ちろ」
空中でホバリングするドラゴンゾンビの背中に瞬間移動し、抜刀。居合い斬りで両翼を根本から切断。
翼を失い降下していく背中から元の位置へエアトリック。納刀すれば一拍遅れてドラゴンゾンビが落下して盛大な音を伴って粉塵が舞う。
「■■■■■■■■!!!」
これで大人しくなってくれればいいが、という一縷の望みは咆哮により掻き消える。そりゃそうか、もうとっくに死んでて魂が無いんだもん。期待するだけ無駄なんだよな。
こいつはもうミリムのチビ竜じゃない、ただの動く死体、もうどうすることもできない、そんな残酷な現実を突きつけられる。
悲しくなってきたのを無理矢理押し殺し、再度閻魔刀を構えた。
「すぐ楽にしてやる」
閻魔刀の秘奥義『次元斬・絶』で弔おう。そう決意し鯉口を切ろうとした刹那──
「ユリゼン!!!」
切羽詰まったギィの声に振り向けば、ミリムがこちらに突撃してきたことに気づく。
「ちっ」
「あああああああああああああああ!!」
舌打ちしつつ攻撃を中断、防御に変更。振り返りながら鞘でミリムの拳を防ぐ。
衝撃、そして轟音。高エネルギーがぶつかったことによる魔力の爆発が発生。俺が立っている場所とその背後を除いた地面が消し飛ぶ。大地が変な風に抉れて足下が崖か天然の飛び込み台みたいになっていた。
予想以上の凄まじい威力。秘めたる潜在能力に末恐ろしいものを感じる。しかし暴走状態で戦闘経験も浅いミリムの拙い技術では、いなすのは造作もない。
バカ正直に真正面から受け止めるのをやめ、半身となってミリムを横に反らす。
折角分断したのに結果的にミリムとドラゴンゾンビが合流するのを許すが、それは特に気にはならない。
「すまねーユリゼン、いきなりミリムが──」
「ギィを無視して俺の方に来たんだろう。分かってる」
隣に降り立ち宙に浮いたまま臨戦態勢を保つギィの謝罪を不要と断じて遮る。
むしろ気になるのは、ドラゴンゾンビにトドメを刺そうとした瞬間にミリムが反応し邪魔しに来たこと。
理性はぶっ飛んでいるが、魂の系譜に連なる者に関連することには鋭敏に反応する、のか?
となると、下手にドラゴンゾンビを消滅させたりしない方がいいのだろうか。
分からない。とにもかくにもミリムを正気に戻さないとどうにもならない気がする。
......一応、殴って気絶させて目を覚ましたら正気に戻るかどうかを試してみるか。
パーフェクトクイックシルバー!
同時発動!!!
「時よ止まれ」
時間が止まった世界で青い魔人となり、ベオウルフを装着して駆け出す。
一瞬で間合いを詰めて左ストレートをミリムの顎に、続いて右ボディブローを鳩尾に、左ハイキックを側頭部に、最後にくるりと横に一回転してから遠心力を乗せた右の踵落としを頭頂部に叩き込む。
バックステップを踏んで元の位置に戻ってから、
「そして時は動き出す」
パーフェクトクイックシルバーを解除。
止まっていた時が動き出し、それによってどしゃりと前のめりに崩れて倒れるミリム。
気絶してくれたか?
「やったか?」
「バカ言うなギィ! フラグが立つだろうが!!」
「???」
慌てる俺のリアクションに疑問符を浮かべるギィだったが、こいつは自分がとんでもないことをやらかしたことに気づいていない。
そして案の定、ミリムから放出される力が増大する。
クソッタレめ!!!
ゆっくりと立ち上がりこちらを見る彼女の目は、先程とは大きく異なり虚ろだ。その表情も狂気に染められていたものではなく無表情へと変わっており、やけに不気味に映った。
「っ!!」
ミリムが地を蹴る。その速度は先の一撃よりも格段に速い。
「うお!?」
突き出された左拳への対処として、咄嗟に俺も一歩踏み込み右の拳を相手の左腕に被せるように振り抜く。
俺の右腕とミリムの左腕が芸術的な十字を描き、彼女の左拳のストレートは虚しく空を切るが、俺の右拳のフックは彼女の顔面を正確に打ち抜く。
クロスカウンター。それが綺麗に決まった時、目を灼く閃光が生まれる。ミリムの小さな体はベオウルフが宿す光の魔力による爆発をまともに食らい吹き飛び、ドラゴンゾンビにぶち当たり、それでも勢い止まらずドラゴンゾンビを巻き添えにしながら一人と一匹は大地を深々と抉りながら地平の彼方へと消えていく。
「..............................あ」
間抜けな声が、俺から漏れた。
「やり過ぎだ馬鹿野郎っ!!!」
当然の如くギィがキレる。
「いや、えっと、その、あんまりにも良いパンチ打ってくるもんだから、つい、反射的に体が動いて、手加減できず......」
「ついじゃねぇだろお前はよぉ!?」
ゴツッ、と俺の額に彼の額が押し付けられた。
「ユリゼンお前、本当にミリムに罪悪感持ってたのか!? 手加減できなかったってことは今の本気か!? 本気の全力でミリムのことぶん殴ったのか!! 変身してベオウルフ装備したお前のパンチがどんだけ破壊力あんのか自覚ねぇのかよ!!」
それを言われると弱い。しかも数年前にクリフォトの樹を発生させてから増大した力を確認したり慣らしたりする作業を一切していない。さっきドラゴンゾンビの牙を鞘で殴り砕いた時に注意しなきゃと思っていたのにこれだ。面目ないし情けないし、何よりミリム本人とヴェルダナーヴァとルシアに申し訳ない。
「......すまん」
「いや、俺も言い過ぎた、すまねー。だが次からは気をつけてくれ」
真摯に謝罪すれば彼も我に返ったように謝ってくる。悪魔族の王なのにちゃんと相手を気遣える、そんな彼に対して俺は本当に良い友人を持ったなと改めて思う。
さてミリムとドラゴンゾンビはどうなった? と気配を探れば、彼女らしき高エネルギー反応が地平線の向こうからこちらに急速に接近してくるのを感じた。
「ウソ、だろ? 今の食らって、まだ倒れねぇのか!」
戦慄の声を上げるギィには同意するしかない。俺も真・魔人化のままあんぐりと口を半開きにして間抜け面を晒す。だって、それほどのダメージが入ってもおかしくない一撃だったぞ!?
「まさかルドラと同じで、光の力がダメージになってない?」
「なるほど、見た目ほど効いてないってか」
二人で分析してる間にミリムが飛び込んできた。感知した通りミリムだけで、ドラゴンゾンビは置いてきたらしい。
両腕をクロスさせパンチをガードしてる間にギィが彼女の背後に回り込み羽交い締めにする。
「落ち着けミリム! この、暴れんじゃねぇ!!」
「ギィ、ダメだ。何一つ聞こえていない、言うだけ無駄だ」
「じゃあどうすんだ!? ミリムが動かなくなるまで殴り続けるのか? 理性が戻るまでこの暴走に付き合うのか! そんなことしてたらミリムの体が持たねぇぞ!!」
「それは......」
「とにかく今は無駄だと分かってても呼び掛けるしかねぇ!!」
「くっ!」
何もできないという事実に歯噛みする。結局俺達にできることって力ずくで押さえ付けるくらいしかないのか?
亡き友の忘れ形見が、一人の少女が慟哭の声を上げているのに、それを止めることすらできない。
なんて無様なんだろう。
しかし身に付けた力は戦闘に特化しているせいで、それ以外のことにはてんでダメ。
他者の怒りを鎮める、狂気に囚われた者に理性を取り戻させる、暴走状態を抑える、せめてそういう能力を持ってる奴がDMCに存在していたら
......ん?
この時、俺の脳内でベオウルフの秘奥義『ヘルオンアース』が爆裂し目映い閃光が生まれる。
そうだ! こうすれば良かったんだ!!
「ギィ、頼みがある!!」
暴れるミリムを力ずくで押さえ付けるギィが「何だ!?」と聞き返してくれるので告げた。
「ミリムのことは俺が受け持つ、その間にお前には探して欲しい奴がいる!」
「こんな時に一体誰だよ!?」
「他者の怒りを鎮める、精神状態がおかしい者を正気に戻す、暴走状態に陥った者を正常にする、そんな
俺の意図を察したのか、ミリムを押さえ付けながら少し考えるような沈黙を経て彼は返答する。
「もうそれしかねーな。だがその間ミリムの相手を任せて大丈夫か?」
「もうさっきのようなヘマはしない。もう俺は一切ミリムに攻撃しない。ミリムからの攻撃を受け止め続ける」
視線が交錯して数秒、こちらの覚悟が伝わったのか彼はコクリと頷くとミリムの拘束を解き離れた。
自由の身となったミリムが警戒するようにギィを睨む中、彼は今日初めて見せる彼らしい自信満々の笑みを浮かべる。
「らしくなってきたぜユリゼン......急いで戻るが、期待はするなよ。そんな
そもそもそんな
「面倒な役目を押し付けてすまんな」
「謝るなよ、それはお互い様じゃねーか」
言って、彼は空間転移を用いて姿を消す。
ギィがいなくなったことで、ミリムの警戒と敵意が俺だけに向いたのを確認し、俺は
「さあ来いミリム、俺が相手だ」
閻魔刀とベオウルフは使用しないので仕舞う。無手の状態で半身となり、やや腰を落とし重心を低くし、両腕でどんな攻撃が来ても防げるように構える。
これから俺はミリムの全ての攻撃を受け止める。やることはひたすらガードのみ。反撃は絶対にしない。
故に、DMCにおけるバトルスタイルは一択のみ。
「ロイヤルガード!!」