朝、目が覚めた俺は一番初めにつくりかけにしている黒歌のフィギュアの状態を確認した。状態は良好。綺麗に乾いていて、滑らかなボディに仕上がった。まぁまだまだ作業は残ってるんだけど。
「一、朝ごはんできたにゃ」
コンコン、と扉がノックされて黒歌が声をかけてきた。
「わかったよ。すぐに行くね」
返答に納得したのか、黒歌はリビングに戻っていったようだ。
黒歌は今日も今日とてミニスカメイド服だった。でも今までと違う部分が一つ。ニーソだ。ニーソが今日は白だった。白ニーソだ!! 絶対領域もあったし、カメラを探しそうになったよ。あー写真に収めたかったなぁ………
パジャマを脱いで、ハンガーにかかっている制服に着替える。本棚から適当に本を取って、いつも学校に持っていっている鞄に入れる。そして鞄を持ってリビングへ向かう。
あぁ………すぐに行くって言ったのに五分もかかっちゃったよ………
「ごめん黒歌。遅くなっちゃった」
「大丈夫にゃ」
机の上にはすでに朝ごはんが用意されてた。今日のメニューはごはん、味噌汁、焼き鮭、冷奴、緑茶だ。
「「いただきます」」
手をあわせていただきますをして、箸を手に持つ。まず始めは焼き鮭、テメェからだ。焼き鮭を口に入れる。おぉ………相変らずうまい。
「おいしいよ、黒歌」
「ありがとにゃ」
朝ごはんを食べ終わったので、食器を台所に持っていく。そのまま洗面所にいって身だしなみを整える。
「それじゃあ行ってくるね」
「いってらっしゃいにゃ」
「いってきます」
今日も一日頑張りますか。
†††
「おはよう結衣さん」
「おはよう一くん」
髪を切ってから、あれだけあった男からの妬みの視線がなくなった。でも代わりに女子からの視線が痛い。ただ俺は結衣さんと話してるだけなのに………
自分の席について、鞄を机の横に下ろす。そのまま鞄から本を取り出して読む。
「今日は何の本?」
「ヴェーダ神話だよ」
「やっぱり内容は分らなさそうだから訊かないでおくね」
「あ、あはは………」
に、苦笑い以外の選択肢が浮かばないんだけど………
この後、すぐに教師が来てくれたからそこまで悩まずにすんだ。ナイスタイミング!!
†††
昼休みになった。いつも通り鞄から弁当を取り出して食べようとした時だった。
「は、一くん。い、一緒に食べない?」
結衣さんが遠慮がちに言ってくれた。
「いつも食べている人たちは?」
「なんかね、『私たちのことは気にしなくていい』って………」
あれか? いつも一人で弁当を食べてる俺を気遣って唯一話をしている結衣さんを送り込んできたのか?
うれしいんだけどね。素直にうれしいんでけどね。だってさ、結衣さん程の可愛い子とお昼ごはん食べれるんだから。
「「いただきます」」
今日の俺の弁当は、ご飯、から揚げ、卵焼き、サラダ、そして魔法瓶に入れてきた豚汁だ。
「一くん、その魔法瓶には何が入ってるの?」
「あ、これ? これには豚汁が入ってるんだよ」
「そこまで………そこまでして汁物がほしいかっ」
「うん、かなりほしい」
学校での汁物ってさ、ある意味夢だよね。給食では当たり前だったんだけどさ、弁当だと当たり前じゃないからね。やっぱり汁物があるのとないのじゃ楽しみが違うでしょ?
「…………………………………………」
そんな食べたそうな目で見ないでおくれよ。
魔法瓶を結衣さんの方に置く。
「よかったら」
「いいの!!」
「う、うん」
「やった♪」
うぅ………そんな笑顔見せられたら文句なんか言えないよ………
「おいしいよ」
「よかった」
本当によかった。今、結衣さんが嘘を言わなかったことぐらい俺にもわかる。やっぱり自分でつくった料理をおいしいって言ってもらえるのはうれしいね。
†††
家に帰ってきて、夜ご飯を食べ終わった俺は、自室で黒歌のフィギュア作りの続きをしていた。
今回はフィギュアのポーズ決めだ。骨組みになっている針金を曲げてポーズをとらせるんだけど………難しい。
今回は団子屋で休憩している黒歌をつくろうとしているんだけど………座らせるって難しいね。いや、座らせることはできるんだけどね、どうも不自然になっちゃうんだよなぁ………
結局、ポーズ決めだけで三〇分かかりました。
ポーズが決まったので、間接部分に石粉粘土を盛って固定をしていく。
「やらかしたかも………」
思わず呟いてしまうほどやらかしたかも。いやね、黒歌フィギュアは座っているポーズをとってるんですよ。その関節部分に石粉粘土を盛っていくって………結構難易度高くない? ピンセット使ってようやくだよ。これを指でやるのは無理だね。断言できる。
次は頭の部品に顔のモールドを入れていく。目の位置を決めて、目の高さになる所をピンセットで削って少し凹ませる。そこからちょちょいのちょいと、いろいろやって顔を完成させる。ここまでやるのに三時間はかかった。もう目がしょぼしょぼしてるよ………首と肩はバキバキだし………
今日はここまでかな………
もう寝よう。これ以上作業を続けたら手元を狂わせて壊しちゃいそうだもん。
†††
今日は久々の休日。というよりもサボりだけどね。今日は黒歌と一緒にピクニックをするんだ。
朝結構早く起きて、黒歌と一緒にお弁当をつくった。お弁当をつくった後は、それぞれの部屋に戻って服を着替える。それが終わったらピクニックに持っていく荷物の準備。
俺の荷物はスマホ、お弁当、レジャーシート、タオル………ぐらいだよね? 飲み物は黒歌が持っていってくれるっていてたしね。
ピクニックってさ、あまり荷物ないんだね………
リビングに戻ると、黒歌が既に準備を終えてソファに座っていた。
「一、早くいくにゃ―――――ってどこ見てるのにゃ?」
「……………………………あ、ごめん」
俺はじーっと黒歌を見つめていた。目が離せなかった。黒歌がホットパンツを履いていたんだ………それでさ、黒ニーソも履いててさ、身が離せなかったんだよ。ていうか、離せるわけないでしょ!! 大好物を目の前にして我慢するなど………俺にはできぬ!!
「じゃあいこっか」
「にゃ」
家を出たら、すぐに俺と黒歌は手をつないだ。そしてゆっくりって程じゃないけど、結構なスローペースで歩き出す。
今日の天気は晴天。まさにピクニック日和だね。
途中で黒歌が手をつなぐのをやめて腕を組んできた。………その、ね。当たるんだよね。母性の象徴っていうか、男の夢というか………ね。黒歌は全然気にしてないみたいだけどさ、俺はすっごく気になるんだよね。
着いたのは公園だ。駒王町の端っこの方の丘の上にあるんだけど、ここさ、景色がいいんだよね。駒王町が一望できるんだ。
公園に着いたのは丁度お昼。レジャーシート持ってきたんだけどさ、ベンチがあるから意味がなかったな………
ベンチに座って、お弁当を広げる。どれもおいしそうです。
「「いただきます」」
黒歌と一緒にいただきますをして食べ始める。
「その卵焼き、もらったぁぁぁぁぁッ!!」
「させないにゃ!!」
「なにをっ」
「ってやめるにゃ!!」
いやいや、ノッてきたのは黒歌だからね。俺はハイテンション気味に卵焼きを食べようとしただけだし(笑)
「なんか眠くなってきたよ………」
お弁当を食べてお腹がいっぱいになったからかな? 天気もいいし余計だよね。
「一、ここ」
黒歌がぽんぽん、と自分の太ももを叩きながら言った。え? 膝枕してくれるんですか? その絶対領域に俺の頭を乗せて寝ていいんですか? じ、自重できませんよ?
「お、お借りします」
思わず敬語になっちゃったよ。
黒歌の太ももに俺の頭を乗せる!! その瞬間、むっちりとした感触が頭に!! き、キター!! う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……………ね、眠くなって…………
†††
「ふぁぁぁ………あれ?」
いつの間にか寝ちゃったようだ。夕焼けが見えるってことは………かなりな時間寝ちゃってたな………
「すぅ………すぅ………すぅ………」
規則正しい寝息が聞けてきたんだけど………黒歌だよね。なんかいつもいつも申し訳ないなあ………
「黒歌、起きて。黒歌」
「にゃぁぁぁ………すぅ………すぅ………」
頭をゆさゆさしても起きないか………。それだけ深く寝てるってことか。起こすのも可愛そうだし、背負ってくか。
黒歌に太股からゆっくり頭を話す。そして、帰る準備をする。ゴミは大体まとめてあったので簡単に始末で来た。お弁当も包んであったし、もうすぐ帰れる状態だ。
「よいしょ………」
黒歌をゆっくりと、丁寧に背負う。
「うぅん………」
危ない危ない。黒歌を起こしちゃうところだったよ。
さて、帰りますか。
†††
「うぅん………あ、あれ?」
「あ、起きた?」
「は、一!?」
「もう少しで家に着くよ」
一がやさしい声音で私に言う。私が「あれ?」って言ったのはそのことじゃないんだけどなぁ………
一を膝枕したかと思ったらいつの間にか一に背負われてるし………。悪い事しちゃったな………。でもこんな機会滅多にないから今のうちにしっかりと………
私は一にぎゅっと抱き着いた。
「く、黒歌!? ど、どうしたの?」
ふふふ、うろたえてるうろたえてる。可愛いなぁ本当に。
「なんでもないにゃ」
「そ、そう」
「ふふふ♪」
思わず声が漏れちゃった♪ 本当に幸せ。いつまでもこんな時間が続かないかなぁ………。いつまでも一と一緒に、静かに、安全に、楽しくすごしたい………
でもそれは無理。一は人間で私は悪魔。それも猫又。寿命が違う。人間は一〇〇年生きたらすごいけど、悪魔は一万年を余裕で生きられる。
一との生活もあと長くても八〇年くらい。今のうちにたくさん楽しまないと。
でもなんでだろう。一なら一万年ぐらい余裕で生きそうだよね。
†††
「じゃあ黒歌。お風呂に入ってくるね」
「背中流すにゃ」
「よ、よろしく」
最近、黒歌のスキンシップのレベルが上がってきた。今までは精々抱き着くとか、腕を組むとかだった。でもここ最近は、一緒にお風呂に入ったり、一緒にベットで寝たりとか、俺の理性を削るレベルになってきてる。
ま、まぁ俺は全然いいんだけどね。そのうち絶えられなくなって一線を越えそうだよ………黒歌が。
お風呂から上がった俺は、ソファで黒歌と牛乳を飲む。これはもう習慣だからね。
牛乳を飲み終わったら、自室に戻って黒歌のフィギュア作りの続きをする。
今回は脚だ。滑らかに、そしてリアルに。更に関節に石粉粘土で肉付けをして、なめしていく。ヘラである程度滑らかにしたら、水を指につけてさらに滑らかにする。
今日はこの作業で終わり。続きは乾かないとできないからね。
明日は学校に行くからもう寝ますか。ベットに入った瞬間だった。コンコン、と部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「一、もう終わった?」
「うん。どうしたの?」
「一緒に寝るにゃ」
「わかった」
本当にどうしたんだろう。
黒歌はベットに入った瞬間、後ろから抱き着いてきた。うん、これはオールのパターンだね。まったく寝れないやつだね。まぁいいんだけどね。睡眠なんて、黒歌の抱き着きに比べたら優先順位は天と地ぐらい差があるんだから。