「そう言えばまたエロガキが襲われたにゃ」
「ぶふっ!! ごほっごほっ………はぁ………やっぱり?」
朝食を食べているときに、不意に黒歌がそんなことを言ってきた。
「なんだ、知ってたのかにゃ」
「いや、昨日はぐれ悪魔狩りをし終わったあとにさ、堕天使の気配がしたんだ」
でもまさかまたイッセーが襲われるとは思わなかった。イッセーて本当に運がないな。まぁ
「ごちそうさま。それじゃあ行ってくるね」
「いってらっしゃいにゃ」
とびっきりの笑顔で黒歌が言ってくれた。今日はいいことがありそうだ。
†††
学校に近づくにつれてざわついているのがわかった。なんだろう? そう思ってざわついている方に向かうと、そこにはリアス・グレモリーと一緒にイッセーが登校している姿が見えた。まさか二人は付き合っているのか? と、普通の人なら思うだろう。でも俺は違う。黒歌からイッセーがリアス・グレモリーに悪魔に転生させられたことを聞いていたからね。
辺りから男女問わず悲鳴が上がっている。ショックで気絶している子もいた。ていうか気絶はさすがにないだろ。たかが駒王学園一の変態のイッセーと駒王学園二大お姉様のリアス・グレモリーが一緒に登校したぐらいで―――ま、まぁしょうがないかもね。
それを横目に校門を抜けて学校の玄関に向かう。変に絡んでリアス・グレモリーに正体がバレたら面倒だ。サーゼクスには黙っているように言ってあるからまだバレていないはずだし。
教室に入ろうと扉を開けた瞬間、教室にいた生徒が一斉にこちらを向いた。そしてすぐに目を逸らした。多分イッセーじゃなかったからだろう。失礼な奴らだ。
自分の席に座り、鞄から本を取り出して読む。すると隣の席の女の子から声を掛けられた。
「おはよう一くん。今日はいつも通りの時間だね」
「おはよう結衣さん。まぁ今日は何事もなかったからね。しいて言えばイッセーがリアス先輩と一緒に登校しているのを見かけたくらいだね」
「あ、それ本当だったんだ。もう学校中の噂になってるんだよ」
駒王学園の情報網恐るべし。今朝の出来事がもう学校中で噂になっているとは。まぁ今はSNSやら何やらでいくらでも情報は出回るからね。当たり前といえば当たり前か。
そんな女の子がさえない俺に話しかけてくれる理由は俺が結衣さんをはぐれ悪魔から守ったからだ。
あれはいつも通りサーゼクスの依頼ではぐれ悪魔狩りに行った時だった。対象のはぐれ悪魔が出現した場所へ移動すると、今まさに襲われそうな人がいたのだ。それが結衣さんだ。はぐれ悪魔に殺される寸前で俺が《
俺の容姿は前髪で両目を完全に隠していて、いかにも目立たない、アニメのモブのような姿だ。おかげで結衣さんと話していると周りからの視線が痛い。
「どういうことだ!!」
教室の後ろの方で誰かが叫んだ。声がした方を向くと、そこには変態三人組がいた。多分イッセーに今朝のことを問い詰めているのだろう。まぁ俺には関係ないけど。
「お前ら何騒いでいるんだ!! 席に着け!!」
先生の一声で変態三人組の騒ぎは静まった。あっけねぇ………
†††
イッセーがリアス・グレモリーと一緒に登校してから数日後の夜。
ここ数日間は特に変なことは起こらなかった。いつも通りサーゼクスからはぐれ悪魔狩りの依頼がきてそれをこなす。そして口座に報酬が振り込まれる。さすがに黒歌の安全の保障だけを条件に命懸けでのはぐれ悪魔狩りはできないからね。割に合わない。
今日もいつも通りサーゼクスからはぐれ悪魔狩りの依頼が来た。今回は情報もかなり手に入った。
はぐれ悪魔の名前はバイサー。性別は一応女。下半身は獣型で四本足。上半身は裸の女型らしい。武器は槍が二本。蛇でできた尻尾があるらしい。大きさは5mを超える。
ここまで丁寧に情報がもらえたのは初めてだ。いつもは大体の容姿と出現場所だけ知らされるだけだからね。
「それじゃあ行ってくるね」
「気を付けてにゃ」
黒歌といつも通りのやり取りをして向かおうとした時だった。不意に背中に柔らかい感触がした。
「く、黒歌? ど、どうしたの?」
「………気を付けるにゃ。今日は嫌な予感がするにゃ」
「う、うん。わかった」
黒歌はものすごく胸が大きい。後ろから抱き着かれているのでそれがもろに………いかんいかん。早くはぐれ悪魔殺して無事に帰ってきて黒歌を安心させよう。そうしよう。
「行ってくるよ」
「いってらっしゃいにゃ」
今度こそはぐれ悪魔を狩るために家を出た。と、その前に変装しなくちゃ。狐面に軍服みたいな外套を纏う。あと《
家を出たらすぐに屋根に向かって跳ぶ。もちろん気で身体強化をしている。そして知らされた場所へ一直線に向かう。
知らされた場所は廃工場。やはり廃工場。いつもの廃工場だ。
「ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ」
廃工場の中に入ると、異様な笑い声が響いた。これは人間が発せるものではない。案の定、奥からゆっくりとその姿が現れた。報告通り、下半身は獣型で四本足。上半身は裸の女型。武器は槍が二本。蛇でできた尻尾がある。そして―――宙に浮いている。
ずんっ、と思い足音と同時にその姿が完全に晒された。うわぁ、鋭い爪もあるじゃん。
「はぐれ悪魔バイサー。俺と黒歌の平穏ために死んでくれ」
『ガキがぁぁぁ!! お前の身を鮮血で染め上げてやるわぁぁぁぁぁ!!』
バイサーが叫びながらこちらに向かって突進してきた。それも俺でも余裕で認識できる速度で。これならある程度ならナイフの使い方の練習をしても大丈夫だな。
右手のナイフを逆手から順手に持ち直す。そして気を流し込む。ナイフの刃を延長するイメージで気を流す。すると薄く、しかしはっきりとナイフの刃を延長させるように気が現れた。ナイフの刃が気によって1m程になった。
ナイフを下から上を振り上げる。すると気が衝撃波となって飛んで行った。
『こざかしい!!』
バイサーは衝撃波を二本の槍を使って霧散させた。まだまだ練度が足りないか………
「一撃防いだだけで調子に乗らないでよね」
気を全身に巡らせて大幅に身体の能力を上げる。それによって一瞬―――とまではいかなくても、音速程度の速さでバイサーの背後に回る。そして―――
「その足もらった!!」
四本の足全てを斬り刻む。
『ぎゃあぁぁぁぁぁ!! よくも、よくも足をぉぉぉぉぉ!!』
「うるさい!!」
続けて腕を斬る。もうここまでくれば戦闘訓練にはならないから殺しちゃおう。俺は静かに言葉を紡いだ。
「バイサー―――『塵になれ』」
『―――ッ!?』
いつも通り、いつものようにバイサーは叫ぶ暇もなく塵になって消えて行った。結局最後は神器任せになるんだよね。なんか俺のキメ台詞みたいになっちゃったな。『塵になれ』って。
よし、帰ろうか。はぐれ悪魔も殺したしね。外に出ようと扉の方を向いた時だった。
「はぐれ悪魔バイサー。あなたを消滅しにきたわ」
リアス・グレモリーがキメ顔で言った。………これ、まずくない? まだ俺はリアス・グレモリーに正体がバレていないわけでして………もちろん、リアス・グレモリーは俺がはぐれ悪魔狩りをしていることを知らないはずでして………
「………はぐれ悪魔がいません」
白音が呟いたのが聞えた。よくよく見ればグレモリー眷属が勢ぞろいじゃありませんか。と、ここでリアスが俺の方を向いてきた。
「あなたがやったのかしら」
ど、どうしよう………声かけられちゃったよ。ま、まぁ《
『そうだけど? なんか文句でもあるの?』
「おおありよ。私は大公から依頼を受けたのよ? それにここ駒王を魔王様から任されているの。勝手をされるとこまるのよ」
『でも俺はその魔王様から依頼を受けたわけだから別に問題ないね』
「なんですって!?」
リアス・グレモリーが目を見開いて声を上げた。期待通りの反応をありがとうございます。
『それじゃあ俺はもう帰るよ。じゃあね』
「待ちなさい!! 祐斗!!」
逃げようとする俺をリアス・グレモリーが木場に命令して捕えさせようとしている。流石リアス・グレモリーの騎士だけはある。結構な速さでこちらに直進してくる。でもさ、こっちに着く前に転移すれば意味ないよね。
『じゃあね』
簡易転移魔法陣がかかれた御札に気を流す。次の瞬間には、廃工場から家の玄関に転移した。はぁ………びっくりした………
†††
ごきげんよう。リアス・グレモリーよ。今日は最近私の眷属になったイッセーに、はぐれ悪魔を狩るついでに
理由は先に来ていた狐面を被った人間がはぐれ悪魔バイザーを倒してしまっていたから。しかもただ倒すだけではなく、消し去った。気絶させたり殺したりすれば肉体は残るはず。でも私たちがこの場に来たときにはそれすらなかった。
一体何者なのかしら………祐斗に命令して捕えさせようとしたら懐から紙を取り出して一瞬で転移してしまったし………
「ぶ、部長………さっきの奴は一体………? あ、あいつも悪魔なんですか?」
イッセーが驚きながら訊いてくる。
「いいえ、違うわ。気配は人間のものだったし。でも
「なんでですか?」
「
「あー………なるほど」
それにしてもどうしたものかしら………お兄様に―――魔王様に報告したほうがいいのかしら? でもあいつは魔王様から依頼されたって言ってたわね………
お兄様に―――魔王様に訊いてみよう。そういた方がこのもやもやが消えていいしね。
†††
焦った。ものすごく焦った。だってはぐれ悪魔殺して帰ろうとした瞬間にグレモリー眷属のお出ましだからね。マジで正体がバレたかもしれなかった。リアス・グレモリーのバアル家から受け継いだ『滅びの力』を使われたら簡単に狐のお面なんて消しとばされちゃうし。………普通に魔力放たれても消しとばされるかも。ま、まぁ《
「ただいま………」
「あ、一!!」
「うわっ!?」
玄関で靴を脱いでリビングへの扉を開けてあいさつした瞬間だった。黒歌がすぐに駆け寄ってきて抱き着いてきた。倒れそうになったけどそこは俺も男だ。どうにか耐えた。
「ど、どうしたの黒歌?」
「どこも怪我してないよね? 大丈夫だよね?」
「う、うん。面倒なことになる前に黒歌からもらった簡易転移魔法陣がかかれていた御札を使って帰ってきたからね」
「よかったぁ………」
黒歌はそう呟いてもう一度抱きしめ直してきた。俺も今度はしっかりと黒歌を抱きしめる。
「じゃあお風呂入ってくるから少し待っててね」
「わかったにゃ」
そう言うと黒歌はすんなりと離れてくれた。でもなんでだろう。このすんなり感が少し怖いなぁ………深く考えるのはやめよう。
脱衣所で服を脱いで全て洗濯機に入れる。タオルを一枚棚から取って、お風呂場に入る。
頭から順に下に向かって洗っていく。そして泡をしっかりと流してから湯船につかる。
「ふぃ~………あー、気持ちいい」
今日はいろんな事がありすぎた。学校に行く前にとびっきりの笑顔で黒歌が送り出してくれたり、はぐれ悪魔狩りに行く前に黒歌に抱き着かれたり、リアス・グレモリーとはぐれ悪魔狩りが終わった後に会ったり、はぐれ悪魔狩りから帰ってきたら黒歌に抱き着かれたり………ほとんど黒歌に抱き着かれているね。こっちからしたらウェルカムなんだけどね。
そんなことを考えている時だった。勢いよくお風呂場の扉が開け放たれて、
「一!! 背中流すにゃ!!」
黒歌がお風呂場に入ってきた。え………?
「く、黒歌!? 俺がまだ入っているんだけど………」
「だから背中流しに来たにゃ。ほらほら、早く早く」
「う、うん………」
黒歌もタオルを巻いてくれればいいんだけどね………巻いてないから。もうスッポンポンだから。真っ裸。全裸。でも俺からしてみればありがとうございますなわけでして………
あぁ………最後の最後でいい一日になってくれたな………
2014/07/23 「バイザー」から「バイサー」に修正。
2014/11/17 文頭に空白を挿入。文章表現の堅さを調節。
2014/12/24 誤字脱字修正。