「強臭袋の効果が切れました・・・」
「「!?」」
リリルカの突然告げられた言葉に、ベルとヴェルフの顔に緊張感が増す。
アラン達と分断された後、取り決め通りに十八階層を目指していた一向は、強臭袋というアイテムの効果でモンスターという脅威から難を逃れていたのだ。怪我人はヴェルフ。落下時にリリルカはバッグを失い、回復薬の残量はポーチに入れている物だけとなった。強臭袋はバッグに一つ、リリルカの懐に忍ばせていた物が一つ、計二つ。つまり、もう無いということだ。
現在十六階層。ゴールはまだまだ長い。
「まあ、なんとかなりますね」
「へ?」
そんな緊張感の欠片もないことを言ったのは意外にもリリルカ。だからこそベルは間抜けな声が出た。
「だって、パーティにはアラン様が居ますし」
「アランさんが?」
「ええ。あのアラン様です」
「おいおい、リリ助。それはいくら何でも楽観的じゃないか?アラン達が落下したのを横目で見たし、俺達と同じ、いや俺達以上に窮地に陥っているんだぜ?」
自信満々な顔をするリリルカに、ヴェルフはツッコミを入れた。Lv.2のエリスが居るとしても、向こうに強臭袋が無いことは知っている。何処にいるか分からないアラン達に期待する余裕がなかった。
しかもヴェルフはアランと知り合ってから日が浅いが、悪い奴じゃないことは分かっている。しかし、こんな状況でどうにかしてくれるとはどうしても思えなかった。
「アラン様は認めるのは癪ですが、あの人は頭が回ります。少しでも手掛かりがあれば正解を手繰りよせる。それがアラン様です」
「・・・そうだったね。ヴェルフも分かるよ。あの人の凄さが」
「おいおい、リリ助もベルも信頼し過ぎじゃないか?」
「「体感したら分かるよ(分かりますよ)」」
「なんだそりゃ」
にわかに信じられないヴェルフであったが、この二人を見て微かに希望を抱いていた。
ーーーーーーーーーー
ベル達が強臭袋の効果を切らしたのと同時刻。
「臭っ!この近くだな」
「臭い!?これがあのアイテムの臭いならそうだよ!臭くて鼻が曲がるよぉ、うわーん」
エリスは泣きながら答えた。そっか、獣人だもんな。俺よりかなりキツイわな。
「バンダナあげるから、これで鼻を覆ってくれ」
「うう、ありがとう・・・スキルで捨てなかったんだね」
「湿布で耐久に+3だけだったからなぁ」
スキル【三択からどうぞ】により手に入れたモノは【断捨離還元】というスキルで捨てられる。捨てたモノは経験値としてアビリティに還元できる。
試しに湿布を捨てたらショボかった。バンダナを残していたのもそれが理由だ。明らかに低そうだもん。
「鼻使えないから耳で頑張るね!」
「おう。ベル達は近くに居るか?」
「いや気配がない。もしかしたら縦穴を使ったのかも」
なら急ごうか。ダンジョンはすぐさま修復を始めるので縦穴は時間経過で塞がるはずだ。強烈な匂いが残っているのを見るに、まだ塞がってないと思う。
「ベル達大丈夫かなぁ」
「ベルはLv.2だし、ヴェルフが怪我してなかったら生存率は上がる。それに向こうにはリリが居るんだ。むしろ俺達より安全かもな」
そうだ。あいつらは強い。
ヴェルフは前衛張れる力と、魔法だろうが放火だろうが無効化できる対魔法封じの魔法。
リリルカはサポーターとして積み重ねてきた経験。周りの状況を把握し指示を出す頭脳。
ベルはというと、詠唱破棄による速攻魔法。蓄力による強力な一撃を放てるスキル。限界突破したアビリティ。
あれ?俺の付け入る隙がない?
「むー」
「? ど、どうしたんだよエリス」
「べっつにー。リリを随分信頼してるんだなぁと思っただけだよーだ」
え?な、なに言ってんの。こんな時に。
何故か機嫌が悪いエリスに疑問を抱く。当然リリルカを信頼してるし、指揮官としての能力を羨むことだって正直沢山あった。でも、
「エリスはエリスの良さがあるだろ。俺がこうして立ってられるのもお前のお陰だし」
うんうん。エリスの前向きな性格に助けられた。リリルカとは違う良さがこいつにはあるのだ。
「そっか」
「? 尻尾ブンブンしてるぞ?」
「っ!? エッチ!」
「エッッッ!?」
痛い痛い、バシバシ叩かないで。ヴェルフかお前は。
そんなこんなで俺達は縦穴を目指した。
合流は次回かな。