今回は無理矢理な回。頭を空っぽにして見てね!
「ふざけろっ・・・!」
少年は二人を抱えて走る。
現在十七階層に到達し、一直線に進めば目的地の十八階層へたどり着けるのだ。
では少年が走る理由は何か?モンスターから?それとも地獄みたいな場所から離れたいから?どちらも正解であるが、
「ガアァァァァァッ!!」
鼓膜を破り地面を揺るがすかのような咆哮が一面に響き渡る。
少年が走る理由であり、十七階層に出現する超大型モンスターにして【
ゴライアスは絶望に呑まれ掛ける少年の姿を確認し、潰さんと拳を握る。
まさしく絶対絶命。十八階層までもう少しだというのに永遠を錯覚するほど先が長い。
忍び寄る絶望に沈むと思ったその時、
「倒れろオラァッ!!」
ーーーーーーーーーー
「倒れろオラァッ!!」
俺はレイピアで脚の腱を削いだ。ゴライアスの態勢が大きく崩れ、襲われていたベル達は危機を回避したようだ。
このレイピア強すぎじゃね?【ヘファイストス・ファミリア】の団長殿に見てもらうか。
「エリスはベル達を!」
「分かった!アランは!?」
「死なない程度に、本当に怖いから死なない程度に
「了解!(恐怖でビビる)レアなアランを見れて私は嬉しいです!」
「状況分かってる!?」
エリスはベルが担いでいるリリルカを受け取り、ベルの口の中に体力回復薬を突っ込んだ。
俺?ゴライアスを見ながら全力避難!・・・てあれ?
「ガアァッッ!!」
ゴライアスは口の中で何かを貯めて・・・一気に発射!!目標は俺達ではなく・・・天井か!?
「やべぇ!!」
「キャ!?」
「うわっ!?」
俺は二人の背中を強引に突き飛ばした。階層主の放つ
数多の岩が天井から降り注ぎ───・・・、
「・・・詰んだ」
俺とエリス達の間に落ちた。つまり、完全に分断されて孤立した。相手は推定Lv.4の化物。俺はLv.1の新人冒険者。成長速度?そんなん関係ないね。
目の前の化物は俺を見て嗤った気がした。
ーーーーーーーーーー
「ほあぁぁぁぁ!?」
「グルアァァァァ!!」
何時間、何分、何秒経過しただろうか。時の流れが速いように感じるし、逆に遅くも感じる。外には異変を察知した【剣姫】がベル達を保護した頃だろう。ならばあの瓦礫の山の傍に居るのだろうか?
俺は一縷の望みに賭けて絶賛シャトルラン。高校時代の記録は確か67。今の俺なら100以上は余裕でいけるぜ!
「あ」
限界はすぐやって来た。足が縺れた。階層主という化物が近くにいる。プレッシャーは半端なく、思ったより体力がゴリゴリ消耗していたようだ。
ゴライアスの掌が俺を潰さんと迫る。両手両足を地面に着いている状態で前方に進む。ハイハイだね。
そのかいあって、直撃は避けられたが、
「のあぁぁぁぁッ!! ぶべらっ!?」
まあ、風圧でぶっ飛んで壁に叩き付けられたけどね。
「ゴホゴホッ、【癒光の羽衣】フゥー」
魔法で治療する。全身の痛みが消え、体力が戻ってくる。代わりに
くそっ、これでお仕舞いか?まだ完結まで見届けてないんだぞ!
「ガァァァァァ」
迫るゴライアスを睨み付ける。ここまで来れば最早恐怖を感じない。むしろ一矢報いるための戦意が滾る。
唯一攻撃が通じるレイピアで攻撃するか?ダメだ。奴に攻撃が当たっても切り傷。現実的じゃない。目を刺す?これもダメだ。奴が混乱して暴れでもしたら潰される。それに届かない。
あーでもない、こーでもない。正解が見つからない。感覚のズレを直して今日まで約一週間か。もっと上手く立ち回れたら状況は違ったのかな?
・・・ん?一週間?
「
一瞬、勘違いかもしれないが恩恵に熱が灯る。そう言えばまだ一週間経過していない。もし、もしも、今日がリセットされる日であるならば・・・!
①パンツ(トランクス)
②コタツ
③全力投擲
しゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!
「③に決まってるだろうが畜生め!!」
俺は③を選び、
「死ねぇぇぇぇデカブツゥゥゥゥゥ!!」
レイピアを全力で投擲した。
ーーーーーーーーーー
うーん、うーん。なんか鈍くて重くて怠い。腕に自由がなく拘束されてるような・・・。あとは温かくていい匂い?
「・・・知らない天井だ」
重たい瞼を開き焦点の合わない目を動かす。なんか気持ち悪くて吐き気がするが、それを軽減する何かが近くにある。
俺はモゾモゾと動いてみる。右左と寝返りしようにも動けない。いや動かせない。
あ、ちょっとくすぐったい。フサフサした何かが顔に当たってるようだ。
「・・・アラン?」
あらん、アラン、ああ俺の名前か。じゃあ名前を呼んだのは一体・・・。
「目を覚ましたの!?アラン!アラン!」
「あうあう、そんなユサユサしないでよ・・・」
激しく揺らされたら胃の中の吐瀉物が姿を現すから。
「アラン、私のこと分かる?」
「もちろん。エリス・キャルロだろ?俺の大切な存在だ・・・」
「~~~~っ!!」
主神のラクシュミーも仲間のベルもリリルカもヴェルフもみーんな大切な存在だ。そう、大切な・・・まて。
半ば眠っていた意識が覚醒する。
「待った!大切な存在っていうのはファミリアとして!仲間だから大切ということだから!決して告白とかじゃないから!」
「あーはいはい、分かってますよ分かってますよ・・・ムフフ」
「投げやり!?」
顔が赤いぞお前。いや多分俺もか。
「お二人とも目が覚めましたか?」
「「うひゃあ!?」」
俺達はテントに入って来たリリルカに驚いた。
「節度を守ってください。イチャイチャしてるのが外まで聞こえましたよ」
「イチャイチャしてねぇよ!」
「あ、はい。では外に来れますか?これから晩御飯らしいので」
「信じてないな、お前。・・・晩御飯?」
【ロキ・ファミリア】のテントか。そうじゃなきゃおかしいけどさ。
「アラン大丈夫?」
「大丈夫かな。今から行くよ」
「では行きましょうか。皆さんが待ってますよ」
リリルカに案内され行ってみると、ベルとヴェルフはもちろん、多種多様な人達で溢れかえっていた。こちらに向ける視線は様々だ。
俺達はベル達の横に座った。
「皆聞いてくれ。彼らは仲間のためにここまで辿り着いた勇気ある冒険者だ。仲良くしろとまで言うつもりはない。けれど同じ冒険者として欠片でもいいから敬意を持って接してくれ」
仕切り直して乾杯!という小人族の男性。あれが【勇者】フィン・ディムナなのだろう。貫禄があった。
今更ながら気付いたギブスで固定された右腕のせいで、食事がままならなかったけど、エリスが食べさせてくれた。チラチラと男女問わない視線がこちらに向いた。
そんな宴会も中盤に差し掛かり、
「あの・・・」
「?」
「ゴライアスを、どうやって倒したんですか?」
「・・・は?」
【剣姫】が遅れた理由、魔法で退かすと瓦礫のすぐ近くにアランが居た場合巻き添え食らう。だから手作業で撤去を進めました。
【全力投擲】
文字通り全力で投擲する。その際、体力も精神力も全て消費し、投げる時に使った腕にもかなりの負担が掛かる。