少ないです。
ベルの魔法が漆黒のゴライアスの頭部をぶち抜いた。魔石を狙ったつもりがややズレて頭にいったらしいが、それでも頭部を失って生きられるモンスターは事実上存在しない。
「やったか!」
近くに居た冒険者が叫ぶ。その声色には喜びが多分に含まれていた。
しかーし!そのセリフはやってないんです!失敗フラグなんですそれ!
ゴライアスは逆再生のように元通り、冒険者に再び、いやそれ以上の絶望を与えた。
そして・・・
「ベル様ぁぁぁっ!!」
「桜花ぁぁぁっ!!」
ベルを庇おうと桜花が盾を持って立ち塞がるが、ゴライアスによる無慈悲な一撃で二人は沈んだ。
「【癒光の羽衣】!」
「アラン君!」
「アランさん!」
俺は倒れるベルと桜花に魔法を施す。エリスには一応モンスターが来たら倒すように伝えている。簡単に言えば見張りだね。
「もし英雄と呼ばれる資格があるとするならば───」
ヘルメスの口から紡がれる英雄の資格。このシーンは割りと好きだったりする。
「──それが一番格好のいい英雄だ」
未完の英雄は立ち上がる。主神の呼び声?仲間の魔法?男神の発破?どれも違う。
無数にある分岐点の一つ。
純粋無垢なこの男にとっての。
己を賭す大一番だから立ち上がるのだ。
憧憬を燃やし、願いを吠える。
リィンリィンと鳴る鈴の音は、ゴォォォン!!ゴォォォン!!と鳴り響く鐘の音に変わる。
その音に触発されたように、荒くれ者ども、鍛冶士、くノ一、妖精が奮起する。
「ハアァァァァァァッ!!」
限界まで溜められた白い閃光が、ゴライアスの上半身を吹き飛ばした。
ーーーーーーーーーー
「見たぞしかとこの目で見届けたぞ!ゼウスの置き土産を!動く動くぞ時代が動く!このオラリオの地で時代を動かす何かが起きる!」
ヘルメスは興奮しながら語る。
「
見据える先に居るのは、
「
神の手を借りず英雄候補を導くその手腕。自分相手にも一歩も退かず逆に脅すというその姿勢。いっそのこと清々しいまである。
「見届けるぞ。歴史に名を刻むであろう大事を!英雄達の行く末をその生と死を!親愛なる彼らが紡ぐ【眷属冒険譚】を!」
ハハハッ!!と男神の笑い声が木霊した。
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漆黒のゴライアス討伐から三日後。
「アランアラン!」
「んー?」
ホームでのんびり読書していた俺に、元気のいいエリスが詰め寄る。迷宮探索?装備も修理に出してるしちょっとお休み。これが燃え尽き症候群なのかもしれない。
エリスは片手に持つ手紙を要約して読んだ。
「ペナルティはヘルメス様が肩代わりしたんだって。覗き魔なのに意外と優しい所があるんだね」
「そだねー」
この子ちょっと
俺と同じく読書していたラクシュミーが喋る。興味が湧いたのかな?
「もしかしたら、
「?」
「例えば、仲間がヤられるきっかけになったからとかかのぅ」
「仲間がですか?」
おいおい、ひょっとしてバレてんじゃねぇか?逆にエリスにはバレてなさそうだな。
エリスはんー、と考えて、
「その人はきっと、アランと同じお人好しなのかもしれませんね!」
「ハハハ!お人好しか。それは違いないのぉ!」
女二人の笑い声が響く。笑えねぇよこっちは。
まあ何にせよ、いつもの日常が戻ってきたのは良いことだ。これから先も困難が待ち構えているが、ラクシュミーとエリスで頑張っていこうと思う。
今よりもっと強くならねば。