神々とその眷属が一堂に会しての宴が始まる。主催者は【アポロン・ファミリア】で、趣向を凝らして神々だけでなく眷属も参加可能にしたらしい。なので神々だけでなく、代表として相応しいように眷属も皆着飾っていた。
それは主神のラクシュミーも眷属の俺も例外ではなかった。新品のドレスにタキシード。着慣れない衣装ではあるが、堂々としていればそれなりに似合うはず。購入した服屋の店員さんの太鼓判だからね。
ちなみにエリスはお留守番である。
「よく似合っておるぞアランよ」
「ナチュラルに心読むのやめてくれます?」
神ってのはこういうことがあるからな、マジ勘弁。
「私はどうじゃ似合っておるか?」
「いつもよりセクシーです」
「ハハハ。めかし込んだ甲斐があったのう」
上品に笑うラクシュミーを横目で見る。
肩らへんと胸元は隠されているが、綺麗な鎖骨と腕は惜しみ無く晒し、足首まで伸びた裾には切れ目があり、それが膝上部まで伸びていた。チラリと見える太ももが何ともエロイ!
誰も家庭菜園が趣味とは思わない魅力が、女神ラクシュミーにあった。
辺りを見渡してみれば、女神が主神の殆どが腕に手を添われて歩いている。対する俺はただ隣で歩くだけ。やべっ、世間知らずがバレる!
「・・・ちゃんとエスコートした方がいいよね?」
「よいよい。気負わず自分のペースでな」
「すげぇ、大人の対応だ」
「? 私はいつだって立派な大人じゃろて」
立派な大人は胡座をかいて座らないし、風呂上がりは下着姿で出歩かないし、お酒飲む時は爺臭くなりませぬ。
そんなことを考えつつ歩く数分後。
ヘスティア、タケミカヅチ、ミアハ、ヘファイストス、それとヘルメスが談笑していた。俺達の姿を見つけた全員が挨拶をしてくれた。
「やあラクシュミー!アラン君!中層ではお世話になったね!」
「こちらこそ、じゃな。そなたの眷属達が居なかったらアランとエリスは大事になってただろう。ヘスティアだけでなく、そなたらに感謝するのじゃ」
「ありがとうございました」
俺とラクシュミーは頭を下げて礼をした。これに対する対応はそれぞれで違った。
「それじゃあ中に入ろう」
「そうだな」
俺達一行は会場に入場した。
優雅な音楽に美味しそうな食事。雰囲気的にもオシャレと感じるか、
「・・・胃が痛い」
この後のことを考えたら純粋に楽しめそうになかった。そんな俺を見兼ねたのか、
「もう少しリラックスしなさい。それと、こういう場では顔に出さない方がいいわよ」
「あ、すみません・・・」
真っ赤な赤髪の女神から忠告を貰う。このお方はさっき一緒にいたヘファイストス様だ。
「椿から聞いたわよ。貴方、異質な装備を持っているんだってね」
「ええ、まあ」
「
女神様の目付きが変わった。職人だから気になるんだろうね。
・・・いや待て。あれ
「今度椿さんに見せると思うので、その時に見てみますか?」
「いいの?じゃあお言葉に甘えるわ」
ここで見せる訳にいかないよな。驚かせるし、最悪締め出される。
「──今宵は新しい出会いの予感すらある。今日の夜は長い。楽しんでくれたまえ」
いつの間にか挨拶をしていたアポロンに、男神と視線があったのかビクッとなるベル。
「アポロンも面白い計らいをするなぁ」
「今日は普段と随分勝手が違うわね」
呑気に感心してる場合じゃないですよ、ヘスティア様。お宅のお子様狙われてますぜ。
「今夜私に夢を見せてくれるかしら?」
「っ!」
ハハハ、狙われているのはアポロンからだけじゃなかったね。
それにしても、すごい筋肉だな。鍛えに鍛えたんだろうなぁ。
「何か場違いなこと考えとるじゃろ」
「滅相もない」
「くれぐれもフレイヤを見るなよ。エリスと違って、そなたは魅了が通じるんじゃから」
「うっす」
だから【猛者】に視線を飛ばしてるんです。視界の隅に捉えただけで美しさが伝わったんでね。
「──妬けるわね。熱い視線を飛ばすのはオッタルだけかしら?」
「うひゃあ!?」
い、いつの間に・・・!音もなく近寄るな!ほ、本当にビビったんだからな!?(泣)
「あらあら、驚かせたみたいね──お詫びに私の寝室に「そこまでにするのじゃ」残念ね」
間に割って入ったラクシュミーによって、フレイヤは残念そうに退散した。こっっっわ。あの女神こっっっっわ!
「何だったんだいったむぎゅ!?」
「よしよし、怖かったねぇ。もう大丈夫じゃからなぁ」
セリフの途中だったんですが、あの。まあ、正直今も怖いからお胸に頭を埋められると安心します。もっとこのままでおなしゃす!やべぇラクシュミーの母性があっあっあっ!(性癖が歪む音)
冗談はさておき、フレイヤに骨抜きにされなくて本当によかった。
去り際に【猛者】から何やら見られた気がした。期待でもされたのかな?
~♪
おや、これは何のBGMだ?
「これはダンスのやつじゃな。見てみぃ、皆踊っておるじゃろ」
本当だ。全員が全員、綺麗に踊ってるね。
「そうじゃな。私らも踊ってみるか?」
上手く踊れるかなぁ。
「アランは冒険者じゃろ?並外れた動体視力で私の動きを捉えてみせよ」
それは無茶振りというやつっす。
「・・・私はそなたと踊りたい。何たってアランは初めての眷属じゃからな」
───レディ、一曲どうですか?
「フフ、喜んで」
ラクシュミーと踊った。プロが見たら下手だと言われそうだが、俺もラクシュミーも楽しかったので別にね。
チラッと横目で見ると、ミアハ様、タケミカヅチ様そして。
「ベルくぅぅん!!」
「アイズたぁぁん!!」
二柱の悲痛な叫びを物とはせず、ベルと【剣姫】は踊っていた。【剣姫】の美しさにある意味魅了されギャ!?
「目の前に私が居るのに・・・随分な仕打ちじゃな?」
「す、すいやせん女神様・・・」
「全く、私がエリスだったら朝までコースじゃったぞ?」
え、なんでここでエリスが出てくるんだ?
「そなたというやつは・・・」
頭痛がするんすか?
「刺されぬよう、背中に気を付けるじゃよ」
えぇ・・・。
「ヘスティア、この前は世話になったな」
「あ、アポロン・・・」
躍りは終わり、ベル達のもとへアポロンが歩いてきた。そして───。
「──愛しい我が眷属にこんなことをしておいて、シラを切る気かい?」
「──あくまで自分達が悪くないと言い張るか!」
「──君に、
流れるように宣戦布告をした。それに君に、ではなく君達に、か。ダフネだったか?あいつは御愁傷様と去り際に言った。分かっていたけど、特に何もされなかったぞ。
「ラクシュミー、久しいな」
「・・・ああ、そうだな」
アポロンはベル達から視線を外して俺達を見る。知り合いなのかな。
おっとあまり近付くなよ?用があるならそこで言えぃ!
「世間話はほどほどにして、君にも【戦争遊戯】を申し込むって言えば分かるかい?」
「・・・私らはそなたから嫌がらせを受けとらんぞ?」
「嫌がらせ?まさかルアンのことを言っているのかい?ハハハ!それはヘスティアの眷属が仕出かしたこと。つまらない言い掛かりはやめてもらおうか」
おいおい、いっそのこと清々しいなこやつ。
「正確に言うならば、用があるのはアラン・スミシー君個人だ」
俺?
「
つまり、狙っているのはアポロンではなくこいつの眷属か。その眷属はどういう立場なんだ?
「分かってないようだな。ならば紹介しよう。来たまえ愛しの眷属よ」
カツカツと靴音立てながら近付いてきたのは、
「久し振りだな。貴様に嵌められて全てを失ったこの私を憶えているか?」
眼鏡の奥にある目元には隈が浮き出ており、頬の肉がげっそり落ち、とても弱々しい印象を与えるが、その目にあるのは紛れもない殺気。気付けばラクシュミーの前に立ち身構えるほどだ。
男は不気味な笑みを浮かべる。俺はこいつを知っている。知っているのだが・・・。
「お、お前は────・・・誰だっけ?」
俺の返答に神々は盛大にズッコけた。
ヒント、眼鏡がトレードマークのあの人です。