「・・・何て言った?」
目の前に立つ男の目付きがさらに鋭くなった。殺気と怒気、それに悪意まで滲ませる。関係のない周りの冒険者が主神を庇うぐらいだ。
「ちょっと待って。・・・ラクシュミー、あの人知ってる?」
「知らないのじゃ。私は他人とあまり関わりがないし。てか、あんな男、一度見たら忘れないじゃろ」
「だよねぇ。あんな不健康で悪人面の男、オラリオでもそういないもんね」
「アランに因縁があるように見えるのじゃが・・・」
「んー、恋人さんが目移りしちゃったんじゃないかなぁ。ほら俺ってイケメンらしいし?」
「罪な男じゃのうそなたは」
「いえいえ、それほどでも」
「誉めとらんわ」
「「アッハッハ!!」」
「全部聞こえてるぞ!一度ならず二度までも愚弄するか貴様ぁ!!」
おおっと。こりゃ失敬。取り敢えず当てずっぽうで言い当てるしかないか。
「冗談だよ冗談。君は裏町のマイケルだ。縄張り争いに負けたと聞いたけど、その後は順調かな?」
「違う!私はマイケルではない!」
やべっ、間違えた。
「じゃあ弟のホイケルだ。欲深い兄貴の面倒は大変でしょ」
「誰だそれは!私はホイケルなどではない!」
ええ、違うのぉ?じゃあ手詰まりだよ。降参だよ。
「貴様ぁ・・・!私を陥れるだけじゃなく、公の場で恥をかかせるとは・・・!」
陥れた?それに恥?あ、神々が肩を震わせてる。必死に笑いを堪えているのか。ごめんね。そんなつもりじゃなかったんだ。
「私は元【ソーマ・ファミリア】団長のザニスだ!貴様が主神を誑かしたせいで全てを失った!私は貴様を許さない!」
「ああ、可哀想で胸が張り裂けそうだ!現主神の私はこの子の気持ちを汲んでやりたい!因縁解消をするならば【戦争遊戯】をするしかあるまい!」
あ~、こいつザニスか。よく見れば面影が・・・ありまくりだわ。本人だわ。てか、そういえばアポロン居たね。ごめん忘れてた。
いや、それよりさ。
「お前が全てを失ったのは自業自得だろ。神酒で団員酔わせて金儲けするだけじゃなく、悪事にまで手を染めていたんだから。完全に逆恨みじゃねぇか」
「言い掛かりだ!私が悪事を働いた証拠でもあるのか!?」
「俺の言葉に嘘があったか?」
「ないのじゃ」
「ぐぅ・・・!」
言い負かされたザニスは苦虫を噛み殺したような顔になる。周りの人達も、ザニスの悪行に不快感を抱いているようだ。
こいつ、全部失ったのを俺のせいにして、自分の非を認めないつもりかよ。
「その話、詳しく聞かせてもらおうか!この俺!ガネーシャにぃぃぃぃ!!」
え?
「【酒守】、我々に同行してもらおうか」
は?
「待て!この子は私の眷属だ!いくらガネーシャでも勝手は許さ「この男の罪を知って庇うつもりなら、貴方も同行していただきます」ザニスよ、行ってこい」
「アポロン様ぁ!?ちょっやめ、離せ!アラン・スミシーィィィィ!!またしても貴様はぁぁぁぁ!!」
あれれ~?
闇墜ちしたザニスと【戦争遊戯】で決着つける流れじゃいの?なんで連行されてんの?
後から聞いた話だが、復讐を誓ったザニスはランクアップを果たし、強力なスキルまで獲得していたようだ。
また、【ガネーシャ・ファミリア】の事情聴取で犯罪の数々が山のように暴かれ、恩恵を刻むことを禁じられたのこと。ついでに懲役二十年。牢屋から出た後はオラリオから追放されるらしい。
「・・・俺の派閥も【戦争遊戯】をするんすか?」
アポロンはブンブンと首を横に振った。
ーーーーーーーーーーーー
おまけ
「ただいまー」
「ただいまなのじゃー」
「おかえりなさい!」
ホームに帰りエリスの出迎えを受ける俺達。こいつに宴のことは話さない。俺とラクシュミーの決めごとだ。
「・・・エリス、ちょっと」
「? どうしました?」
「いいからいいから。アランはリビングで待っとれ。着替えるなよ」
「?」
ラクシュミーはエリスを連れて違う部屋に移動した。俺は言われたようにリビングで待った。冷えたお茶が美味しかった。
待つこと三十分。
「アラン、お待たせ・・・」
「随分長かったねぇ。着替えの手伝いでもしてた・・・のか──な?」
振り向けば、普段着からドレスに着替えたエリスが立っていた。恥ずかしがる彼女であったが、あまりの綺麗さに見惚れてしまう。
ヤバい、なんかドキドキする。
「ど、どうかな・・・?」
「───え?あ、ああ凄く綺麗だよ。ドレス買ってたんだ」
「その、ラクシュミー様がね?用意してくれてたんだ」
へ~ラクシュミーが・・・。本当に頭が上がらないな。いや本当にお世辞抜きですっっっごく綺麗だ。
スーツの俺とドレスのエリス。取り敢えずヤることは一つだよね。
「───俺・・・じゃなかった。私と一曲踊ってくれませんか?」
「───はい、喜んで」
~♪
いつから居たか分からないラクシュミーが、あの音楽を鼻唄で再現してくれた。
エリスとのダンスは気恥ずかしかったが、いつまでも思い出に残るだろう。まあ、こんな狭い部屋じゃなくてもっと広くてきらびやかな場所ならムードがあったんだけど・・・。
「私は嬉しいよ。アランとこうして踊れると思ってなかったから」
「そっか。そうだよな!俺もエリスと踊れて良かったと心から思ってる」
「「フフフ」」
ヤバい、エリスを見てるとドキドキする。
なんだろ、不整脈でもなったのかな?
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アポロンが宣戦布告した【戦争遊戯】は、見事人数差を覆し【ヘスティア・ファミリア】が勝利を収めた。
俺達は参加してない。因縁を持っていたザニスが逮捕されちゃったから。
ザニスというイレギュラーが無くなった今、ほぼほぼベル達が勝つので、
「じゃあ貰ってくね」
「「「「チクショォォォォ!!」」」」
賭博に参加していた。エリスもラクシュミーにも頼んでおいたので決して少なくない金額になったはずだ。
使い道は新しいホームを手に入れること。いつまでも男女が一つの布団で寝るのはよろしくない。最近は変に意識しちゃうから特にね。
ともかく大金を手に入れたのは事実。酒場からウハウハな状態で出ると、
「やあアラン・スミシー。十八階層ではお世話になったね」
はい?
目の前に立つ男は一族の英雄か、それとも腹黒勇者か、はたまたアラフォーショタか。
彼の微笑む顔はとても不気味だった。
【戦争遊戯】に参加すると思った?参加しましぇーーん!不参加でぇぇぇす!ザニス逮捕ルートに突入しましたからね。
次回から新章突入!舞台は【人造迷宮】へ!お楽しみに!