それは【戦争遊戯】の賭け事が行われていた酒場を出てすぐのことだった。【勇者】フィン・ディムナから依頼を頼まれたのは。
「ここは単刀直入に言おう。敵対する組織を討ち倒すには君の力が必要だ。僕達に協力してくれないか?」
敵対する組織とは十中八九闇派閥のことだ。一介の冒険者である俺に頼んだのは、猛毒を解毒してみせたあの回復魔法が目当てだろう。
「君の考えている通りだ。ゴライアスを倒せるほどの力を持ち、尚且つあの猛毒を癒せる君に頼みたい」
何?心読むの流行ってるの?最近のトレンドなの?
まあ、それは置いといて。
「幾つか条件があります」
「分かった。明日【黄昏の館】に来てくれ。その時詳しく聞こうじゃないか」
「ありがとうございます」
そう言って【勇者】は帰路に着いた。
俺はこの依頼を承諾する。闇派閥に関することといえば、あの【
だから
「準備に取り掛かるか」
ますばあそこだな。
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「こんにちは、アラン」
「ああ、こんにちはシトリー。出会い頭にハグするのはやめて欲しいかなぁ」
「アランは、嫌・・・?」
「嫌じゃないけど・・・心臓に悪いっていうか、そのねぇ?」
当たるんですよ。それに匂いに敏感なエリスに問い詰められるんですよ。怖いんですよ。
「今日はどうしたの?」
「お前の話を聞かせてくれないか?」
「私の?」
「うん。出来ればでいいよ。無理矢理聞く気はないから」
死地に赴くんだ。悔いは残したくないし、シトリーの気持ちが幾分か軽くなればいいかなぁ。
「
「!」
彼女の顔が強張った。踏み込み過ぎたかもだけど、俺は引き下がらない。
シトリーの友人である店員から、詳しくは教えて貰えなかったけど、『私には不可能だったけど、貴方ならきっとあの子の闇を払ってあげられる』って言われたのだ。それにシトリーの口からたまに兄の存在を聞く。武器を造らなくなったのはそこからだし。
知っておきたいな。この先聞く機会なら幾らでもあると思うが、同行する場所が場所だからね。お節介で自己満足かもだけど、可能な範囲で何とかしたい。
「俺に教えてくれないか?お前の過去、そしてお兄さんのこと」
「・・・アランは約束してくれる?」
「ん?誰にも言わないことか?」
その質問に、シトリーは違うと言った。
「多分だけどね?アランは
あの女?
「─────」
俺は了承した。
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シトリーの過去と、約束をしたあの日から数日後。
「おいフィン!なんでこいつらがここに居る!?」
「僕が依頼した協力者だ。治癒士として・・・
「それは・・・」
ここはダイダロス通りにある地下水路。目当ての物を見付けた【ロキ・ファミリア】は、そびえ立つ扉の前に集合していた。
【凶狼】が言うように、俺達がここに居ることを知らなかった周りの団員が驚いていた。知っていたのは【勇者】【九魔姫】【重傑】の首脳陣と主神のロキ。他は捜索で忙しくしていたので今の反応だ。
まあ、【戦場の聖女】が来ることに【勇者】は知らなかったみたいだ。
困惑気味のアミッドがチラリとこちらを向いた。
「俺が個人的に依頼したんです。代金は俺が負担するのでご安心を」
「ええ。彼が絶対大怪我するので来てくれと言ったので・・・」
(((((【戦場の聖女】を連れ出せるこいつは何者だ・・・!?)))))
一同は首を傾げた。優秀な治癒士である彼女を、最大派閥でも、なんら権力もないただの冒険者が店から連れ出せるのは不可能に近い。大怪我したのなら店に行けばいいだけだし。
「よくディアンケヒトが許可してくれたなぁ・・・」
「もちろん反対してましたが、彼の一声で・・・」
(((((本当に何者だこいつ・・・?)))))
ディアンケヒトは金の亡者であることは周知の事実。金を持っていなさそうな冒険者に
疑問が深まる一方だ。
「まあ、君が居てくれるのは心強いよ。アラン、アミッドの配置はどうする気だい?」
「彼女はここで待機させます」
「それはなんでや?」
「このアジトが未だ謎だからです。不明点が多いこの状態で連れて行くのは危険です」
彼女を失うのは痛い。オラリオにとっての損失と言っても過言ではないほどに。
【勇者】も賛同してくれた。
「アランは僕達と、アミッドはリヴェリア達とここで待機。怪我人が出たら頼むよ」
「「はい」」
そんな話をしていると・・・。
「開いた・・・!?」
それなりの重量がある扉が開いた。奥に誰かいたような・・・?
偵察を頼まれた【凶狼】とクルスと呼ばれた青年が戻って報告をする。モンスターと人は不在だったけど、この中はまるで迷宮だったと、彼は自身の見解を述べた。
「君の意見を聞きたい。敵の狙いは何だと思う?」
「俺ですか?」
「ああ。君ならどうする?」
俺ならどうするって?それなら決まってる。
「
「「「「「!!」」」」」
全員の顔が強張・・・いや怒りか。素直に答えすぎたな。【怒蛇】が今にも飛び付いて来そうだし、何なら剣を抜こうとしている人がチラホラ見える。
誤解を解こうか。うん、解いた方がいいな。まだ死にたくない。
「理由を言えば貴方がこの派閥の頭だからです。敵に回ったら厄介な【勇者】を始末すれば、優秀な指揮官が消えると同時に士気が下落する。絶対的な信頼感が貴方にはある」
「なるほど・・・なら真っ先に狙われる僕はどうするべきかな?」
「そんなの決まってます
───
俺は微笑んだ。
悪魔の如し所業に、周りはドン引きした。
絶対に全員を助ける策を思い付いたからね。最悪死ななきゃいいんだ、死ななきゃなぁ?
親指が疼く。
かつてない痛みとなって。
モンスターの波が割れる。
道を作るように、かしずくように。
歩みだすのが。
王の代行者であるかのように。
(赤髪の怪人!?戦闘力が上がっている!あり得ないほどに!!どれほどの魔石を食べれば!?)
「十八階層の借りを返すぞ」
魔法を使わなければ負けるという刹那にも満たぬ迷い。それが決定的致命に
───
「
「!! ぐぁ!?」
剣は振り下ろされなかった。いつの間にか接近していたアラン・スミシーが阻止したからだ。
顔面という至近距離から激臭を喰らった怪人は、視覚と嗅覚をヤられた。
「いやー、これって催涙弾みたいに目もヤられるから取り扱いに神経使うんだ。みんなも気を付けてね」
「誰に言ってるんだい?でも助かった──よ!」
「ぐぅ・・・!チッ!」
【勇者】の追撃を躱し、赤髪の怪人は扉の奥へと逃亡した。残されたのは新種と───
「何やってんだよぉぉぉぉ!!作戦が台無しじゃねぇかぁぁぁぁ!!」
【殺帝】ヴァレッタ・グレーデ。かつて暗黒期に暗躍した主要幹部の一人であり、冒険者や一般人問わず殺戮の限りを尽くした最低最悪の悪人。
「てめぇ、何者だ・・・!?」
「ただの冒険者だ。新人のな」
そしてヴァレッタこそ、
「これで終わりだよ、ヴァレッタ。大人しく降参してくれないか?」
「糞がぁぁぁぁ!!」
人工迷宮に惨めな女の断末魔が響いた。
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今週の【三択からどうぞ】は、
①【限定強化】
②雑巾
③槍
さて、オリ主は何を選んだでしょーか?
掲示した条件は三つ
一つは【ロキ・ファミリア】が得た情報の開示。何で無関係のお前が知ってるんだ?と疑われ、外伝で見ました!なんて言えないからね。
アミッドが来た理由
いつかの話で優先的にアランを治す権利を獲得しているため。また、呪詛を打ち消す薬を超特急で何本か作ってくれました。アラン、許すまじ。
レヴィスに近付けた理由
漆黒のゴライアスが現れる前、アスフィからペナルティの肩代わりと透明化の兜を貰い、さらに無臭袋を使用しておいたので難なく近付けました。実は漏らしそうなくらいビビってたのは内緒。