散らばり砕けちった魔石に、モンスター消滅時に舞う灰が辺り一面に広がっていた。
そんな場所には、心臓近くに幾つもの剣が突き刺され、倒れている女が一人。神から得た恩恵の力で絶命できず、また治療できないせいで苦しんでいた。
「ガハッ、ゴホッ・・・ハハ、ハハハ、アッハハハハハハハハッ!! てめぇらぁぁぁぁ!!こんなことして只で済むと思ってんのかぁぁぁ!?私を殺した所でてめぇらが死ぬことには代わりないんだぜぇ?フィ~~~~ン?今も苦しんでんだぜお仲間がぁ。助けに行かないのかぁ?優しい優しい勇者様よぉ?」
「こいつ、まだ生きてるのか・・・!?」
誰かが呟いた。その言葉には恐れが含まれていた。だって死ぬ寸前の女が嗤い、怒り、愉しんでいるのだから。
それでも【勇者】は通常運転だった。
「君の言う通り苦しんでいるのなら助けに行くさ。
手にはアルファベットのDが刻まれた球状の魔道具が握られていた。これこそが、この迷宮の扉を開く文字通りの鍵である。
「ゲホッ、それがどうしたぁ?この迷宮は馬鹿みたいに広ぇのにどうやって探るつもりだぁ!?まさか、さっきみてぇにその男を頼る腹か?」
その男。つまり俺である。まあ、何にせよ。
「安心しろ。だいたいの位置は
「そういうことだ。全く、嫌になるよ。彼が居なかったら僕達は君の思惑通り死んでいたかもしれないんだからね」
それは【勇者】の心の底からの言葉。事実、俺が不参加だったら、怪人に斬られ分断され死者をだす。今は自分が甘かったと自責の念に囚われてるのかな?
「じゃあねヴァレッタ。あの世で待っていてくれ。最も、すぐには逝けそうにないから気長にね」
「!! フィィィィ「黙れ」ブギャ!?」
名前を呼ぶ前に【凶狼】が頭を踏み潰した。シトリー、お兄さんの仇は討ったよ。それにしても・・・おえぇ、あまりのグロさに吐き気がする。
「ハハ、彼が吐く前に退散しようか」
だからナチュラルに心読むのやめて・・・いや、多分俺の顔色はすっごく悪いと思う。この人じゃなくても察してるね。
あ、背中撫でてくれるの?ありがとう、気持ち吐き気が治まっオロロロロ!!
「結局吐くのかよ!!」
これはヴァレッタ・グレーデの供え物ってね。
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一方その頃。
「アリア、貴様が来るのを待っていたぞ」
「私はアリアじゃな・・・
涙目で苦しそうな怪人に、アイズは頭の上に疑問符を浮かべた。
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俺のスキルと鍵の力で次々仲間と合流し、
「チッ、ここまでか・・・!」
「待てやぁぁぁぁ!!なんで充血してんだてめぇぇぇぇ!!」
【剣姫】と怪人が戦っていた場所に辿り着いた。小説だと斬られてなかった?
「よく無事だったね」
「うん、なぜか苦しそうだったからかな・・・?」
「「「「・・・」」」」
「・・・ん?」
まあ、至近距離で
それにしても、この呪詛中々強力やね。ランクアップを果たした今の俺でも完全に癒せねぇわ。これ癒せる聖女様すげー!
「俺の魔力じゃここらが限界みたいっす」
「それでも楽になりましたよ!後は止血すればいいだけだし
!」
「精神回復薬を飲んでおいてくれ。君に倒れられたら終わるからね」
そうだねぇ。回復と索敵を担当してるもんね。実質このパーティは俺を中心に回ってるよね。
「じゃあ撤退しましょう。あの方向に最後の一組がいますから」
「お主の索敵は範囲が広いんじゃのう」
「遠く離れていたら大まかな位置しか掴めませんけどね」
「充分過ぎるよ。よし、部隊を引き上げる───」
【勇者】は最後まで言い切る前に止まってしまう。親指が尋常じゃないくらい痛みだしたから。
それを皮切りに、ドシンドシン!と地面を勢いよく踏み抜く重低音が近付いてくる。それも物凄い速さで。
「これは不味いのぅ・・・!」
「こいつはやべぇ・・・!」
「うわぁ」
次に【重傑】に【凶狼】、気配を感じられる俺が反応する。尋常じゃないほどの存在感を放つそれは、
「逃げろぉぉぉぉぉ!!」
超硬金属を易々とぶち壊す質量を持つ、【穢れた精霊】と呼ばれる新種のモンスターで天の雄牛。
その特徴は、
『アリアァァァァァ!!私ト一ツ二ナリマショォォォ?』
モンスターの常識を覆すほどの知性を持つ。
「走れぇぇぇっ!!」
「あれは遠征で見た同系統のモンスターっす!今の自分達だと勝ち目が薄い!」
「! 団長!前方から新種の群れです!」
「囲まれたか!不味いねこれは・・・」
後ろには精霊、前には食人花の大群。絶望的な状況に───
「
「「「「───!!」」」」
「状況分かってんのかてめぇ!」
勝算が少ないが、今は治療中の怪我人を運んでいる。中には意識が朦朧としている人おり、精霊に割く戦力はない。
「僕達二人だけでできるのかい?」
「正確には貴方だけが戦いますけどね。作戦は───」
「──その提案乗ってあげるよ!僕は君に賭ける。ガレス!部隊を頼んだ!」
「フィン!それでよいのかぁ!!」
「ああ!最後の最後まで彼の思惑通りになるけど・・・僕は今日冒険をする!!」
「ガハハハッ!!ホームに帰ったらお主の冒険を聞かせて貰うからな!」
そう言って部隊は離れた。中には反対する者もいたが、渋々指示に従った。
ちなみにあの人達の進行方向にリーネさん達がいる。怪我をしているだろうが、ヴァレッタが死んだ今、彼女らを追撃する者はいない。
「“魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て”【ヘル・フィネガス】」
フィン・ディムナの魔法。それは能力を大幅に引き上げる強化魔法であり、その代償に判断力を失い
五十九階層と違い仲間もおらず、魔法で敵に隙を見せる愚策。しかしここには、
「【癒光の羽衣】!それとコレあげる!」
「(本当に
後ろには
偶然だったにせよ、結果的に繋がったから良しとしよう。
───金の槍を掲げ。
───白光の衣装を纏い。
───巨悪を見据えるその姿。
同族がこの場に居たのなら口を揃えてこう言うだろう。
───
「これは俺からの八つ当たりだ。死ぬほど恨め。お前にはその権利がある」
フィン・ディムナは(口調は乱暴だが)狂気に呑まれず漲る力だけを纏う。そんなあまりにも強い殺気に、
「!! 生意気生意気生意気生意気生意気生意気生意気生意気ィィィ!!」
壊れたオモチャのように、あるいは恐怖を誤魔化すように精霊は混乱した。
暴力の化身と化した【勇者】と、力及び機動力に特化した【穢れた精霊】が衝突した。
後日、一つの報せがオラリオを湧かせた。
───【勇者】フィン・ディムナ、
小人族がどう思ったかは知らないが、少なからず影響されただろう。
だって、ダンジョンに向かう多くの者がサポーター用のバッグでなく、彼の象徴とも言える
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あの侵攻から帰ると待っていたのは、
「アランお帰り。どうだったの?【ロキ・ファミリア】のお手伝いは?」
「お帰りなのじゃ。さぞかし過酷だったじゃろうて。所々服に傷がある」
殺伐とした戦場ではなく、エリスとラクシュミーが居るいつもの日常。それが堪らなく嬉しくて。
「ただいま、二人とも」
「!! や、ヤバい!微笑みの破壊力が・・・!?」
「き、気をしっかり持つのじゃ!油断するとコロッと逝っちゃうぞぅ!?」
何言ってるか分からないが、俺の口元は自然と緩んでいた。
正解は槍でした。
ついでに【ロキ・ファミリア】は全員生存。応急手当はアランが、完璧な治癒は聖女様がやってくれました。
後日談的なのやって【異端児編】をやります。