三つの選択肢 作:文才鍛える用
「【ディオ・グレイル】!!」
円環が前方に展開され、燃え尽きたとしても消えることのない蒼炎を遮った。
俺の目の前には、黒いローブを全身に纏う人物が一人。この魔法の持ち主は、オラリオを含め、全世界を探しても一人しかいない。
「
神々から【
また、彼女の服装は白を基調とした格好だ。こんな黒色ではないし、そもそも外伝で見たことがある。
「フィルヴィス・シャリア・・・マチガッテイナイガ、イマハ【エイン】トヨベ」
「お前は闇派閥側だろ?俺達の味方なのか?」
「
「分かった。じゃあ、アンフィス・バエナを倒して俺の仲間達を守れ」
「
そう言って、エインは勢いよく飛び出した。本来の魔法から変質した黒い雷が、階層主を焼き焦がす。ステータスは恐らく第一級冒険者と同等以上。相手は階層主だが、下層のモンスターは彼女に太刀打ちできない。
「アラン!」
「あ、エリスどわっ!?」
交代するようにエリスが登場。ガバリと抱き着いてきた。涙を流しながら俺の肩に頭を乗せた。
「悪かったよ、心配掛けた」
「本当だよ、アランのバカ!なんで犠牲になろうとするの!やだ、やだよぉ、居なくならないでよぉ・・・!」
「ごめん」
こんなことしてる場合じゃないけど、エリスの頭を撫でる。慰めは重要だからな。
「アラン様、その・・・ありがとうございました」
「すみません!私が惚けたばっかりに・・・!」
「いいよ、無事ならそれで」
俺が庇った春姫とカサンドラが謝罪する。二人とも申し訳なさそうだ。
「アラン様」
「ん?」
「あのお方はどちら様なんですか・・・?リリの目が確かなら、何もない所から突然現れたような気が・・・」
スキルで喚びました、なんて言えないよなぁ。
「援軍だよ。ちょっとだけ、ホントちょぉぉぉっとだけ訳ありだけどね」
「は、はぁ・・・」
もはや何も聞くまいとリリルカは視線をアンフィス・バエナに戻した。彼が言う援軍は目を疑うほど強力で、あの階層主の頭を一つ消滅させていた。
「
「【ウチデノコヅチ】!」
「いつの間に・・・」
隣で春姫が魔法を発動させる。更にはアンフィス・バエナの動きが結界で封じられている。あれは重力魔法。使用者はヤマト・命。
春姫が魔法を掛ける対象は、
「【ヘル・カイオス】!!」
アイシャ・ベルカ。擬似的に昇華されたステータスは、第一級冒険者であるLv.5に至る。
最後の首が斬られ、残る魔石を【タケミカヅチ・ファミリア】団長の桜花が砕いた。
「どうなるかと思ったが・・・」
「ええ。援軍の手を借りましたが、ベル様抜きで階層主を撃破しましたね・・・」
この戦いで全員一皮抜けただろう。ランクアップする人が多いのでは?
「アラン・・・」
「エリス?」
「例のスキルだよね?あの人誰なの?」
「いや、それは・・・」
「あたしも聞きたいね。あんな冒険者、オラリオにはまず居ないからね」
闇派閥だよ!とは言えないよなぁ。全員気になってるみたいだ。
「・・・エイン、正体を明かせるか?出来れば元の姿になって欲しいんだけど・・・」
「
「「「「!?」」」」
彼女は仮面とローブを脱ぎ捨てた。露になるのはモンスターと人が融合する姿。アイシャとエリス、そして桜花とヴェルフは武器を構え、リリルカ達後衛組は衝撃的な姿に後退する。
息ができない。そんな重苦しい状況で言葉を発するのは、
「フィルヴィス、深層に行けるか?」
「可能だ」
「その触手?みたいなのを引っ込めるか?」
「可能だ」
ニュルニュルと触手を引っ込める。皆が俺に何か言いたげに視線を送るが、フィルヴィスが遮る。
「アラン・スミシー。すまないが頼みを聞いてくれないだろうか」
「なんだ」
「呪縛から解き放たれた今、レフィーヤに・・・友に謝罪をしたい。戦力は半減するが、頼む。分身の許可を」
頭を下げる。半減するってことは、Lv.2~3ぐらいに落ちるってことだよな。そうなると深層行きは困難になるんだが・・・。
「こいつは・・・人では無さそうだが、本当に味方なのか?」
「味方ってよりも、手綱を握ってる状態かな」
「この女を信じた結果、殺させるなんて笑い話にならないよ・・・まあ、判断はお前に任せるさ」
「リリルカはどう思う?」
俺はこいつを信じる。今は人手が欲しいし。
「正直理解が追い付きません。ですが!ベル様を救出できる可能性があるなら、例えモンスターの手でも借りたいです!」
「決まりだな。フィルヴィス、頼んだ」
「了解した。私の力が半減しても、このメンツなら戦力的に大丈夫だろう。“────”【エインセル】
片言に戻った。黒い方がエイン、白い方がフィルヴィス・シャリアか。
リリルカの指揮で一行は深層へ向かった。
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フィルヴィスさんが消えた。
エインと名乗る怪人も消えた。
フィルヴィスさんは先ほどまで隣で戦っていた。その人が、敵として目の前に立ち塞がった怪人と一緒に姿を消した。
透明になったわけではない。本当に、存在ごと消えたように彼女は消えたのだ。
そして───
「!? 撤退!急いで【
迷宮が揺れると同時に、同行していた【ディオニュソス・ファミリア】の恩恵が消滅した。それを意味するのは
アキさんの焦燥めいた指示で撤退が決まる。いくつもの方向から、以前の【
無力にも何もできなかった私は、自分の感情を血が滲みでる下唇と一緒に噛み締めながら撤退した。
「────すまなかった」
「────え?」
地獄のような撤退から次の日のことだった。
消えたフィルヴィスさんが目の前に現れ、自分に謝罪したのは。
フィルヴィスは、アランの所有物になりました。アランの支配下にあるので命令無視は出来ないし、所有者を傷付けられない。
また、スキルと言えど普通なら人を召喚できません。しかし、彼女の場合は一度死んで生き返った。だから『生者』と『死者』の側面を持ちます。簡単に言えば『物』『者』の境界が曖昧になった感じです。バグですね、はい。
読みづらいのでルビを振りました。エインは片言で口調も若干悪くなります。