たくさんの人間で賑わいを見せる街を歩く。
普段より商売人が精を出しているのは、【学区】と呼ばれる施設から生徒が来航しており、その影響かこの時期は金の巡りが良くなるらしい。これを『学区特需』となんて言われている。
経済の成績はまあまあだった。どうでもいいか。
それは野菜の苗で、この好景気にあやかって都市外からやって来る商人の中には、珍しい物品を持ってくる人が大勢を占める。野菜の苗もその一つで、なんでも辺境の特産品で中々市場に出回らない希少種らしく、家庭菜園が趣味のラクシュミーは昨晩からソワソワしていた。
故に思う。
「・・・あの神なりの気遣いか?」
暗に羽を伸ばせと言っているのか、
(・・・一人。俺をずっと尾けてる奴がいる)
外で何かあるのか。
最近は尾行されることが増えている。大抵はフィルヴィスに二重尾行させて名前や所属なんかを特定し、次やったら潰すぞ♡なんて
俺は大通りから外れ、素早く裏路地に入る。そこから三つ先の十字路を左に曲がる。
(追っ手は・・・すげぇな、着いてきてる)
それも距離を維持して。これは何度やっても撒けないと判断した俺は、
「あばよ、とっつぁ~ん!!」
「!」
全力で逃亡した!追っ手は一瞬驚いたようだが、すぐさま追いかけてきた。Lv.3以上の上級冒険者だろうか、撒けないくらい足が速い。
ならば、
「【恩恵共有】──エリス」
スキル【恩恵共有】を使う。これは同じラクシュミーの【恩恵】を授かっている仲間のステータスを、
戦争時のようにフィルヴィスのを使えばいいが、身の丈に合わないステータスだとかなりの負荷が掛かるリスクがあると発覚した。また、自動回復効果を与える【癒光の羽衣】を使えば負担は減ると思うが、
一通り試した後で、どうにもならない状況と味方が一人もいない状況で使わない。ファミリア内で満場一致で決まった。
逆に言えば、身の丈に合うステータスなら大丈夫だ。エリスは俺よりアビリティが高いが同じLv.4。魔法を使っても筋肉痛になるだけで済む。
強いが強くないそんな矛盾を孕んだスキルだと思う。
「【速まれ】─【
速度を上げるだけというシンプルな魔法だが、超短文詠唱だけに逃走や距離を詰める、相手の意表を突くという点では優れている。
都市の端まで走って加速魔法と共有スキルを解く。足に痛みがあるが、俺の回復魔法ならばすぐに癒せる。
ふぅっ、と一息つけたところで気づいた。
「まさかと思っていたが、その回復魔法は無詠唱で発動できるのかい?」
「・・・いつからここに?」
「ついさっきだよ。目を見張る速さだけどそれだけだね。足に力を入れれば、追い抜くのも不可能ではない。・・・屋根を破壊してしまったけどね」
つまり、俺を超える速さで走ったと。化物かな?なんか獅子っぽいし(安直)。
「・・・あんた、何者だ?」
「私の名前はレオン。レオン・ヴァーデンベルク。至らない所もあるが【学区】の教師をしつつ日々精進している。都市内外で話題沸騰中の君を一目見ておきたかったのさ、アラン・スミシー君?」
レオンと名乗ったこの人かなりヤバい。尾けていたという点もそうだが、
「レオンさん、
この雰囲気からして、下手したらあの【猛者】オッタルと同格かそれ以上ということになる。
「よし、手合わせをしよう」
「───は?」
「話をしたところで、未だ精進中の私では相手の人となりしか分からない。私は教師ではあるが、それでも君と同じ戦いに身を置く者でもある。君がどういう戦いをし、どんな経験を積んできたのかを知るならば、剣を交えた方が手っ取り早いと判断したのだが・・・」
──どうだろうか?
どうだろうか、じゃねぇ。色々考えていた俺が馬鹿みたいじゃないか。
「あんた、さては脳筋だな?」
目の前の獅子を思わせる騎士風の男はきっと、いや間違いなく冒険者をしてきた人間だ。オラリオ色に染まってやがる。
するとレオンは困ったような笑みを浮かべて言う。
「
この男、すごく絵になるな。
でも手合わせか。
「悪くないな」
「!」
人間の格上と戦う機会なんて稀だし、なにかいい刺激になるかもしれない。
「いいですね、やりましょうか」
「!!流石オラリオの冒険者だ!よし、そうこなくては!」
なんかすっごい喜ばれてるんだけど。
「私が勝てば君は【学区】の生徒になってもらおう!」
「・・・えっ、ちょ待っ──」
レフィーヤ・ウィリディス。
そんな彼女が指導員として【学区】に来訪し、生徒の前に立ったことで色めきだす。
憧れ、畏怖、羨望、興奮、緊張、嫌悪など。生徒の多くは彼女に対して好印象を抱くが、それでも快く思ってない生徒も居る。
都市外におけるモンスター被害を真剣に考える生徒は特に。
それでも向けられる質問を、彼女は丁寧に答えた。もちろん派閥内の情報は言わないし、とある白兎の質問については適当になったが。それでもダンジョンという現場の声、真摯に答える姿は好評だ。
時間が限られているのでこれで質問を切り上げよう。教師に目配せで伝えたレフィーヤは、
「はい!レフィーヤ先生!」
大きな声を出した生徒に最後の質問権を与えた。女の子なのに関心関心。
「では最後の質問は貴方にしま───は?」
素っ頓狂な声を出しても仕方がない。
肩まである黒髪をツーサイドアップに纏め、【学区】の制服を着こなしているが筋肉質でごつい。更にはサイズが合ってないのかミチミチッ♡と悩ましい擬音がついている。時折スカートから覗く膝が逞しい。顔はボーイッシュ系てかまんま男のソレ。
つまり女の子ではない。・・・ないのだが周りは誰も違和感を抱いていない。種族はヒューマン。絶対にドワーフじゃない。断言できるのは知り合いだからだ。
「最近コソコソと後を尾けてくるストーカーが増えています!どうすればいいですか!」
「帰れ」
アスフィ作、女生徒なりきりセット。
カツラ、チョーカー型変声機、認識阻害の魔道具。
特に認識阻害はLv.1~Lv.3までなら完璧に誤魔化せるが、魔力に秀でたLv.4の魔導師なら即座に見破れる。ゴリゴリのLv.4前衛だと疑問に思う程度。Lv.5以上なら絶対に看破できる。
某兎の変装よりこだわった一品。アスフィは過労で倒れた。
ラクシュミーが誘導した。ヘルメスがラクシュミーに頼み込んだため。流石に女生徒になるのは知らない。
シリアスとか重っ苦しいのはレフィーヤ担当。アランの役目はベルと同じ。だから変装。