ドMなので優しくしないでください   作:ヤンデレ好き好き大好き

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待たせて申し訳ありません。……え? 誰も待ってなかったって……? 


2話 この世界は美しいです

 

 

 どこまでも広がる黒を纏った森の中。

 そこで、【屍神】に仕える『二柱』と呼ばれる者達の姿が、並んで見えていた。

 

「悪い! 遅れちまった」

「……構いません、貴方が遅れるのは今に始まったことではありませんから。(はふり)

 

 二柱の姿見は、非常に酷似しており、身に付けている衣装の色が違うこと以外は、殆ど瓜二つだ。

 表情は笑っているが、生み出された時からの付き合いでもある片割れの気配が、非常に悪いことに、祝は感づいていた。

 

「ほんとに悪かったってば。村の奴等が【屍神】様の素晴らしさをもっとご教授願いたい! て五月蝿かったんだよ」

「【屍神】様の良さを……? ふふ、良いことではありませんか。【屍神】様への信仰が高まれば、それだけ【屍神】様の望む環境になり……状態良く顕現できるというもの」

 

 屍村の者達の献身と、それが結果的にもたらす未来の結末に、巫は怪しく笑みを浮かべる。

 

「……もう近いのか?」

「……ええ。確実に……次の『人身供犠』を捧げれば【屍神】様は"完全復活"なされることでしょう。そうすれば今度こそ……世界に蔓延る害虫達をっ! ふふ、楽しみで堪りません」

 

 巫が、うっとりとした表情で、空を見上げた。

 空間を支配する黒い森森も歓喜しているかのように、ざわざわと音をたてて騒ぎだす。

 

「上手くいけばいいんだけどな」

「……なにか懸念事項でも?」

「まぁ……懸念は二つあるんだけどよ」

 

 祝が顔をしかめて、腕を組む。

 怪訝な空気を出す祝に、巫も不安要素の確定と排除を実行するべく、今しがたまで浮かべていた笑みを完全に消して、祝へと視線を向けた。

 

「……話してください」

「あぁ。まず一つ目は……今回の『人身供犠』はかつてないまでに出来損ないだろ?」

「……そうですね。四百年の歴史の中でも最悪の出来です」

「だろ? だからさ、本当に一度の顕現で、完全復活できる程の『負の意識』を徴収出来るのかって思っちまったんだ。あの時のダメージのせいで【屍神】様が一度の顕現につき集められる負の感情には限りがあるし」

 

 【屍神】が一度に奪える負の感情は、恐怖に犯された『人身供犠』一人分。

 もし、足りずに完全顕現出来なくなった場合、次の顕現までかなりの年数がかかってしまう。

 ずっと待たされてきた祝は、どうしても今回、【屍神】に復活してほしくて仕方がなかった。

 

「恐らく、問題ありませんよ。前回の貢ぎで、あと一歩というところまで来ていたのです。アレがいくら出来損ないでも……確実に足りる筈です」

「だったらいいんだけど」

「……安心しなさい、念には念。なにか不測の事態が発生した時の為……『予備』の負の受け皿は既に用意しています。良き環境の為に揃えた村の民を……一度に二匹(・・)も削るのは少々痛手ですが」

 

 巫の念の入れように、祝も舌を巻く。

 【屍神】の完全顕現を、ずっと待ちわびていたのは、祝だけではなく、巫も同じだったということだろう。

 いや、ひょっとすると祝以上かもしれない。

 

「うわっ悪魔かよ。急に虐げられるようになった子可哀想……」

「? なぜ? 【屍神】様復活の礎になれるというのに」

「そう言われれば光栄だけどさ……」

「私ほど慈悲深い生命体もいませんよ? 『外界』の人類は兎も角、『屍村』の民たちは、最後の一匹が寿命で生き絶えるまで面倒を見るつもりなのですから」

 

 本当に自身のことを慈悲深いと疑っていない巫を見て、祝は思わず溜め息を溢した。

 

 言っていることは全面的に同意するが、全く悪びれることなく断言できる胆力は、見習いたいものがある。

 

「それと、二つ目はなんですか?」

「……ああ、二つ目ね。二つ目は……『呪剣(カタラ)』のことだ」

「……あの忌々しい呪いの剣ですかっ」

 

 巫が憎々しいと言わんばかりに歯軋りをする。

 我が絶対の主である【屍神】の天敵。神を殺すことのできる悪魔の呪宝。

 かつて、【屍神】を葬る為に、人類が危険を顧みず使用した呪いの証であり、主をこんなところにまで追いやった忌むべき存在。

 

 

「……【屍神】様は四百年前のことを未だに恐れてる。人類の反逆の灯火になったあの呪いの剣を」

「……それが一体? まさか、またあの呪剣を使おうとする輩が現れるとでも?」

「……ありえなくはないだろ」

「絶対にありえませんよ。そうならない為に、【屍神】様は自らの作り出したこの『次元防壁』内北部に呪剣を閉じ込めたのですから」

 

 巫は祝の懸念を絶対にありえないと断言した。

 それは、外界から遮断された【屍神】の信仰者しかいないこの世界に圧倒的自信と、そこにある以上、誰も手出しすることはできないという四百年間の実績があったからだ。

 

「祝。【屍神】様の復活が近づくにつれて、慎重になるのは悪いことではありませんが、余計なことに気を取られていては、その後……『外界』での"殲滅作業"で不覚を取りかねませんよ」

「……そりゃそうだが」

「本当は貴方もわかっている筈です。……あんな悪魔を使いこなせる人間などいないことを」

 

 四百年前、呪剣を使用していた、人間の形を保てず、言語能力すら消失し、ただひたすらに生命を屠るだけの肉の塊になった『勇者』と呼ばれる者の愚かな末路を思いだし、祝は眉をしかめる。

 

「そもそも、呪剣がある森北部は、赤子が見てもわかるほど負の気配で溢れています。……私達でも近づくことはできないのに、誰があんな『呪域』に足を踏み入れるというのですか。入った瞬間常人なら呑まれて即廃人ですよ。……早速『掟』で縛る必要がないのが良い証拠です」

「……わかった、わかったよ! 私が悪かったってば!! だから、捲し立てて正論攻めするの止めろよ!」

 

 巫の猛攻に、祝は数歩後ろに下がった。

 確かに、呪剣を手に取る最低限(・・・)の資格は、あの呪剣本体が放つ『洗礼』を乗り越えることだ。

 あの『洗礼』を乗り越えられた者は、歴史上、【屍神】に楯突いた者を含めて二人しかいない。

 

 二柱のような上位存在ですら入ることができないのに、ぬくぬくと幸せそうに暮らす村人達が、乗り越えるのは不可能だ。

 

「……たくっ。早口でよ、一番ビビってるのは自分じゃねぇか」

「……なにか言いましたか」

「い、いや……なにも」

 

 威圧を放つ巫から視線を反らし、祝は遠くからでも分かる程に『洗礼』を仕掛け続ける呪剣のある方角を眺めた。

 

 

 

 悪意、負の『洗礼』の向こう側。そこは、未だに呪剣が封印されている未開の地。

 

 乗り越えた者しか知らない情景は、どんなものなのか。

 

 『闇』を越えた先には一体どんな世界が広がっているのか。

 

 きっとそれは、酷く『理不尽』な世界なのだろうな、と祝は静かに思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

「明日……早く来ないかなぁ……」

 

 村を暗く静める夜の時間。ボロボロの小屋に独りでいる時に、つい思わず口に出してしまう位には、僕は浮かれていた。

 

 嬉しさのあまりに辛抱ならなくて忙しなく脚をバタバタとさせた結果に生じた、腐りかけの小屋が悲鳴をあげたかのように軋む音を聞きながら、僕はだらしなく頬が緩んでしまっている。

 

 なにを隠そう明日はレネと一緒に遊ぶ約束をしているのだ。

 初めてできた友達と遊ぶということで、僕の鼓動は高鳴りっぱなしなのである。

 

 

 やっぱり失礼のないように脳内でどんな会話をするべきか、どういう風に立ち回るのか、一通りシミュレーションしておくべきだろうか。

 こういうのは初めが重要なのだ。ここでもし、『貴方と一緒にいるのはつまらない』みたいな結論を出されてしまっては、レネとの友情関係があっという間に瓦解してしまう。

 

 折角できた最高の友達を、失望させるような真似は、絶対にしたくない。

 そのような結末を回避する為にも、僕は僕のできることを最大限思考して、レネとの時間をより良いものにしたいと思っている。

 

(……あれ? レネに心底失望された視線を向けられるのも……それはそれで興奮しちゃうかも)

 

 あの無機質な瞳で、村の人達同様に出来損ないの『人身供犠』を見る目を向けられたら、それだけで僕は呼吸が乱れる自信がある。

 

(ダ、ダメダメ! レネに失礼すぎるよ!)

 

 そこまで考えて僕は思考を一旦クリアにした。

 村の人達ならいざ知らず、レネは純粋に僕と友達になってくれるかもしれない大切な人。そんな人をわざと怒らせるように仕向けることを考えるなど、言語道断だ。

 

 それに、レネ本人から攻撃されるより、レネの周囲にいる悪意溌剌(あくいはつらつ)な人達から攻撃される方が、ずっと効率的かつ気持ちが良い。

 好みの問題だが、普通に無条件で憎しみを向けられるというのが、『理不尽』って感じがして非常に興奮する。

 

 なので、僕はレネの抱えている問題や負の感情を、肩代わりできるようにいつ如何なる時でも、目を光らせて頑張るつもりだ。

 それがレネの平穏にもつながる筈だし、僕のご褒美にもなる。実に楽しみで、待ちきれない。

 

……色々と思考が飛んでいるけれど、今はもう夜も深い時間帯だ。遅くまで考えて、それでレネとの待ち合わせに遅れたりしたら、本末転倒もいいところである。

朝まで眠って、それからレネと会ったときの計画を練ろう。

 日の出まで眠ることに決めた僕は、剥がれかけの床に身体を丸めながら寝転がって、スッと目を閉じた。

 

……早くレネに会いたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

(結局……眠れなくなっちゃった……)

 

 あれから、目を閉じて眠りにつこうとしたのだが、直前までの思考のせいで、完全に頭は冴えきってしまっており、いくら寝ようとしても頭の中を過る神々しいイメージが、僕を眠らせてはくれなかった。

 

 どうしても我慢できなくなってしまった僕は、小屋を出て、いち早くレネとの集合場所である村区域の少し外で、立派にそびえ立っている大木にまで足を運ぶことにする。

 計画自体は、大木に座りながらでも考えれば問題はないだろう。

 

 レネとの集合時刻は正午の時間(真昼九つ)なので、まだ太陽が昇ってすらない今からいっても全然意味はないけれど、全部が初めてのことばっかりで、そういうのも、何故か楽しく思えて仕方がない。

 

(あ……見えた!)

 

 暫く歩いた後、目的地である大木が見えてくる。

 僕は歩く速さを上げて、大木に近づいた。

 

(……あれ? 誰かいる……?)

 

 大木に近づくと、根元付近に背をつけて、誰かが膝を抱えて座っている姿が目に入った。ていうか、あれって……。

 

「…………レネ!?」

「…………クギ?」

 

 よくよく姿を視ると、座っていた人物は僕が会うのを楽しみにしているレネだとわかった。

 僕は大慌てでレネのいる大木の根元まで走って向かう。

 

「どうしたの!? まだ真昼九つじゃないよ? それどころか、日の出ですらないけど……」

「……家にいても……息が詰まるから……」

 

 レネが顔を俯かせる。

 驚いたけれど、レネにも色々と事情があるみたいだ。この前言っていた『殃禍の忌み子』という言葉と何か関係があるのだろうか。表情がなんとなく沈んでいる感じがする。

 

……でも、これからはそこら辺の厄介だと思われる問題も全部僕が頂戴するから、大丈夫。

 そうすれば、レネは今のような憂鬱な顔じゃなくて、安心した顔を浮かべられるに違いない。

 そして、僕も笑顔満開で元気いっぱいになることができる。

 

「そっか。僕は今日がすっごーく楽しみだから早く着いちゃったよ!」

「………たの……しみ?」

「うん、そうだよ。レネに会うのがとっても楽しみだった!」

「…………ッッ」

 

 色々と計画を練る時間等もなくなったけれど、それ以上にレネに会えたのが嬉しい。

 僕が笑顔で伝えると、レネは更に顔を俯かせてしまった。

 

「あ、ごっごめんね! 気に障ること言っちゃったかな……」

「……っ。そんなことない……」

「……ほんと? 無理してない?」

「……うん。私もたのしみ……だったから」

「! ……えへへ。じゃあ僕と一緒だね! 嬉しい!」

「……………ッッッッ」

 

 またしても、レネは顔を伏せて僕から視線を逸らした。

 こういう時の経験が僕は皆無だから、何か失礼なことを言ってしまったのかどうかがわからなくなる。

 多分ギリギリセーフだとは思いたいけど……。

 

「じゃあさ、何しよっか? やっぱり、村に行ってみる?」

 

 日も昇ってきたし、村の人達も起床した頃だろう。

 僕は早速、需要を満たす為に村へと赴きたくなった。

 村に行けば、村人たちから、僕の分に上乗せしてレネへの悪意も徴収できる。

 どんな非道なことをされるのか、凄く気になります。

 僕のお楽しみ計画の一つでもあるので、できれば早い内に叶えたい。叶えさせてほしい。

 

「……村で……いい……よッッ」

「………………レネ?」

「………………っ。なに?」

「……ごめんよ。やっぱり村に行くのはまた今度にしよ!」

「……!! で、でも貴方は─────」

「ほんとにごめん! 急に気分じゃなくなった!」

 

……色んな角度からどう観察しても、乗り気ではないレネの顔を見て、僕は村に行くことはまた次の機会にすることにした。

 

 本音で言えば、物凄く行きたい気持ちでいっぱいなのだが、どうしても今すぐ! というわけでもないので、今回は……引き下がろうッッ。

 

 それに、どっちみち早いか遅いかの違いでしかない。

 メインディッシュをお預けされて、焦らされている最中だと考えれば、頬が若干染まる程度には興奮できる。

 

 今回僕は、これからの諸々の友情関係維持の為にも、レネを優先で行動するつもりなのである。

 よって、レネには楽しい思いをしてもらわなければ困る。当然、僕も一緒に楽しんで、はしゃぎたいけれど。

 

「……でも、村以外に行くところなんて……」

「んー。なら『屍森(かばねもり)』にでも行ってみる?」

「……屍森」

 

 僕は、レネに屍森に行ってみないかと進言した。

 『屍森』は、村やそこから距離のある僕の小屋までも大きく円形に囲むように存在している、広大な森だ。

 限りなく黒色の森森が、村やその周域を密封しているかのごとく閉じ込め、連なっており、村の住人達はその森森を抜けることは固く『掟』で禁じられている。

 しかし同時に、魔獣等の払い除けみたいな効果もあり、【屍神】様が作り出した『次元防壁』とまで言われているらしい。

 

 まあ『掟』で禁じられてはいるが【屍神】様絶対至上主義の村人や【屍神】様大好きな僕が村から離れるなんて、確実にあり得ないから『掟』の意味はあんまりないけれど。

 

 そもそも抜けられないし(・・・・・・・)

 

「僕はこう見えても『屍森』については結構詳しいんだよ。だから、レネを案内したいなって思ったのです!」

「……………迷惑じゃないの?」

「? なんでさ? レネと過ごしたいのは僕の方なのに」

「…………ずるいッッ」

 

 レネがほんの少しだけ表情を歪めた。また気に障る発言をしてしまったのかもしれない。いい加減学習しなければ。

……それと全然関係ないのだが『ずるい』なんて、生まれて初めて言われたものだから、ちょっぴりだけ……気持ちよくなってしまった。

 悪口ではないのだけれど、レネの少し睨み付けるかのような表情と相まって、結構な破壊力……不覚である。

 

「じ、じゃあ……止めとく?」

「ッッ。……私も……貴方と一緒に過ごしたいから。……色々案内してほしいっ」

「! ふふ、任せて。レネに色んなことを教えるからね!!」

「………ぅ、ぅん。ありがとう」

 

 色々とあったが、レネからの了承も無事に得たので、僕たちの目的地は『屍森』に決定した。

 ぶっつけ本番で、アドリブ全開になりそうだが、レネに楽しんでもらえるよう全力で森を案内させてもらいます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◆

 

 『屍森』を進む僕たち。

 周囲を黒く塗り潰す役目を果たしている森から、僅かずつ道や空気を変えていく風景。

 

 僕は、レネに楽しんでもらえるよう、精一杯身体いっぱいで表現しながら、『屍森』の紹介を全力で実施した。

 

 

「レネ! レネ! この先にはね、葉っぱが一際大きい木がいっぱいあってね────」

「……ん。大きい」

 

「次は太枝エリアだよ! そこにある枝だらけの地面は、昔よく独りで転んじゃって────」

「……怪我はしてない?」

 

「みてみてレネ! あそこの若干赤い木からは落っこちたことが────」

「……大丈夫?」

 

「真っ暗ばっかりで迷路みたいだから、道がわからなくなって遭難したことも────」

「……………」

 

 僕が案内しながら、ついでに今までに起こった楽しい実体験談を話していく内、徐々にレネは静かになっていった。

 

(あ、やばいかも……)

 

 レネは基本無表情だから、楽しんでるのかどうかが判断しづらいが、これは明らかに駄目な方向へ進んでいる気がする。

 そして、その悪化の進行度合いに伴って、僕の心も『屍森を完璧に案内して、絶対レネを楽しませてみせるぞ!』の異常興奮状態から、通常平静状態へと元通りに戻っていった。

 

(や、やらかした……! 気持ちが先行し過ぎて、絶対に引かれたっ!!)

 

 正気に戻った僕は自分が犯してしまった罪に、汗が止まらなくなる。

 レネの表情は変わってないけれど、間違いなくこいつはつまらない『人身供犠』だな、と思われていることだろう。

 

 それならば、いっそのことそのまま蔑んだ瞳を向けられた方が………。

 い、いや駄目だ。レネに負の感情を与えておいて、自分は気持ち良くなろうなどと、そんなの友達じゃないし、需要と供給が全く釣り合っていない。

 

 けれど、この調子では結果的にレネを喜ばすことは不可能だ。

 どうやら、僕には会話技術(トークスキル)は備わっていなかったらしい。

 これでは、折角の初遊びが失敗してしまい、僕たちの友情関係は遥か彼方へと飛んでいってしまうだろう。

 

……なんとかして失態を取り返さなければならない。

 ここは、もっと僕が先陣きってレネをエスコートし、少しでも安心感と充実感を与えていくべきか……!

 

「レ、レネ! ここら辺は地形が凸凹してるから気をつけて────うわ!?」

 

 言ってるそばから、僕は地面の凸凹区域に足をもつれさせ、転びそうになった。というか、転ぶ。

 僕は地面に衝突する痛みに僅かながらの期待と、自らの不甲斐なさの二つを同時に感じながら、近付く地面を諦観しながら見つめた。

 

「……ん。無事っ?」

「……レ、レネ? あ、ありがとう……」

 

 しかし、寸前のところでレネに身体を支えられ、僕は転ぶのをなんとか回避した。

 まさか、逆に格好いい姿を見せつけられるとは……。情けないことこの上ない。

 

「……話を聴いている時から……思ってたけど……」

「え? な、なにかな……?」

「貴方は……凄く『ドジ』」

「ド、ドジ!? んくッッ」

 

 唐突な罵倒に、僕は驚愕と高揚の二つをまたしても同時に感じた。息が少し、無意識に乱れそうになる。抑えなければ……!

 

「……なのに……貴方は私のことを考えて……優先して行動している。……怪我をするかもしれないのに……」

「え、えっと……それは当然じゃないかな。レネに楽しく、喜んでもらいたいから『屍森』に来たんだもの」

「っ! …… なんでっ」

 

 レネは、言葉を途切れさせて、影が差したかのように曇った面持ちに変貌した。

 そして、酷く揺らいだ瞳の光になりながらも、僕の瞳を真っ直ぐに見据えてくる。

 

「……一つ……教えてほしい」

「! なんでも聞いて? なんだって答えるから!」

 

 どんな質問をされても、直ぐに答えられるよう、張り詰めた緊張感を抱きつつ準備をしておく。

 もう、何があってもこれ以上の失敗は犯せないと、僕は必死でレネの言葉に耳を傾けた。

 

「なんで……どうして貴方はそんなに眩しくいられるの……?」

「……………眩し?」

 

 思いがけない質問に、僕は頭の中が硬直する。言っている内容が全然理解できない。

 村の人達に殴られすぎて、快楽で溶けかけている脳味噌がこの難解な問いに対して、考えることを放棄した。

 

「え……と。ごめんね、僕は別に眩しくはないと思うんだけど……」

「…………貴方だけ」

「………?」

「貴方だけが……『殃禍の忌み子』と呼ばれて……虐げられるようになった私に……優しくしてくれた。この理不尽な世界の中で……貴方だけがどこまでも眩しくて……綺麗」

 

 負の感情全開な雰囲気で、レネは僕の目を射抜いてくる。レネの内に蔓延る、黒く壊れかけの心の闇が垣間見えた気がした。

……しかし、そうか。

 

「……『理不尽』かぁ」

「……うん。世界は……理不尽で……残酷で……殆ど闇しかない」

 

 僕が『眩しい』かどうかはさておき、レネの言い分も理解できる。

 確かに気持ちよくなって絶叫してしまう程にこの世界は『理不尽』だ。

……だからこそ、ここはドMにとっては最高の【理想郷】なわけだけど。

 

 だが、それと並んで大切なことを忘れてもいる。

 

「確かに理不尽かもね。……でも、それだけじゃないんだよ?」

「………ぇ?」

「だってこの世界には、跳び跳ねちゃう位とっても楽しい場所や、笑顔で溢れる素晴らしい出来事がいっぱいあるんだから!」

「ッッ!! ……な、なぜ……なぜそんな風に貴方は眩しく考えられるの ……? 貴方は……不条理で非道な『掟』に晒されて、 ずっと苦しくて辛い思いをしてきた筈なのにっ。……理不尽な『使命』で縛られているのに……どうしてッッ」

 

 全く納得できないといった表情で、僕の肩を強く掴んでくるレネ。

 不安定な感情の揺さぶりが、そのまま僕の肩を握る手の力へとダイレクトに変換している。

 ダメっ。本当に気持ち良くなっちゃうから、それ以上は力をいれないでくださいっ。

 

……でも……うん、決めた。今のレネには言葉ではなく、実際に見てもらうのが一番だろう。

 僕みたいな『人身供犠』の腐った眩しさではなく、純粋な美しい世界の眩しさを。

 

「レネ、ちょっと見せたいものがあるんだ。ついてきてくれる……?」

「……見せたいもの?」

「うん! 今レネに一番知ってほしいこと。……ダメかな?」

「……っ。か、構わない。……貴方の眩しさを……貴方が感じている世界を……私は知りたいから」

「! いやってくらい沢山教えてあげる! 行こう!!」

「ッッ!?」

 

 レネの手を繋いで、僕はレネをとっておきの秘密の場所に案内することにした。

 

「ど、何処へ!?」

「んーと……綺麗な世界!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 驚いているレネを引っ張って、『屍森』北部に存在している先程までとは比べ物にならない位に、周囲を『闇』で塗り潰した道なき道を僕たちは進んでいた。

 進むにつれて、それより先には来るな、と警告しているかのごとく負を帯びた風が全方位から吹いてくる。

 周辺の気配もどこか不穏に満ちてきており、不気味さが更に倍増している。

 

 僕は、目的の場所に着くまでのこの刺してくる、禍々しいありとあらゆる負の感情を取り込んだような……絶望溢れる道行きが大好きだ。

 何故だか、数多の人から一斉に悪意を向けられている感覚に陥る。

 だから、時間があればしょっちゅう赴いている。

 道中も好きだが、それ以上にあの景色が美しくて、ドM心が洗われるというのもあるけれど。

 本当に美しいので、レネもきっと気に入ってくれるとは思う。

 

 しかし不思議な話、僕以外の村人、巫様や祝様でさえこの先には絶対に向かおうとはしない。

 

 別に『掟』で禁じられているわけではないと思うし、到達地点が危険ということでもないのだが。……多分。

 

 歩くだけで気持ち良くなれるのに、勿体なくて仕方がない。

 

「…………空……重ッッ。息が……っ」

「え……だ、大丈夫!? レネ!?」

 

 急にレネが、その場に踞り、身体を丸めて苦しそうに呻き声を上げた。

 

(……ま、まさかこの負の圧力に? そ、そんなに危ない場所だったの此処!?)

 

 僕みたいな生け贄生活で培われた生粋のドMには最高の場所でも、他の人達にとっては、毒にしかならない忌むべき邪悪な空間だったということか。

 

 ど、どうしよう……。また見誤ってしまった。

 けれど、こうなったらもう諦めるしかない。

 知ってもらうことはできないが、レネを連れてさっさと元の道に引き返すべきだ。

 

(……レネ。頬に拳骨百発……いや、千発で許してくれるかなぁ……)

 

 知らなかったとはいえ、レネからしたら急に知らない所に連れていかれそうになり、その上体調まで最悪にさせられたのだ。絶対に恨まれてる。

 

「ご、こめんよ! レネのこと考えられてなかったッッ。今すぐ引き返そうっ」

「……へい……きッッ」

「ぇ? で、でも苦しそうだし……。僕はレネに辛い思いをして欲しいわけじゃないよっ」

「……わた……しはっ。貴方と……同じ景色をっ……同じ世界をみたいッッッ」

 

 レネが震える足を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。

 余りにも鬼気迫る形相の為、『絶対に譲らないし負けない』とレネの顔に書いてある気がした。

 

 けれど、やはり止めるべきだろう。レネの苦しみを貰うのは全部僕の役目なのだ。

 だというのに、他でもない僕が辛い目に遭わせていては元も子もない。

 

「レネ!」

「………っ!?」

 

 僕はよろめくレネの身体を抱き締めて、レネを説得するため、瞳を無理矢理合わせた。

 

「お願い……無理しないで。引き返そう……? 僕もレネの視ている世界を知りたいんだ。レネのこと……大事だから」

「────────」

 

 僕が想いを伝えて、行くのを止めるよう促すと、あれだけ震えていたレネの体が、ピタリと止まった。

 

「…………………」

「レ、レネ……?」

「……ん、ありがとう。私のことを心配してくれて。……でも、もう大丈夫」

「だ、大丈夫って……そんなわけっ」

「……貴方のお蔭で……打ち勝てた(・・・・・)。……だから……平気」

 

 強がり、だとは思えない。何故ならば、さっきまでの震えを全く感じさせない目の光と、何かを掴んだかのような表情をしているからだ。

……でも、『打ち勝てた』って一体なにに??

 

「本当に……平気なの?」

「……うん、貴方が一緒にいるのに負けるわけない。……でも、まだ慣れきってない(・・・・・・・)から……て、手を握っていて欲しい」

「そ、そんなことで良ければいくらでも!」

「………っ」

 

 僕はレネの手をギュッと握る。

 そうすると、レネの顔色も若干良くなってきている気がするので、僕はレネの言葉を信じて、先に進むことにした。

 

「……クギ」

「? どうしたの、レネ? あ、やっぱり体調悪くなっちゃったのかな!?」

「……それは大丈夫」

「そーお? じゃあ一体なにかな……?」

「………私は……やっぱりこの世界は負の感情で……闇で支配されている……殆ど真っ暗な地獄にしか視えない。……寧ろアレを浴びて……その思いは強くなった。……呑まれはしなかったけど……それくらい強い『理不尽』だった」

 

 レネの声が(こわ)ばっている。

 僕を見据える瞳は、此処に来る前より、確実に濁ってきており、あの『ご褒美ロード』がよっぽど芯にきたのだろう。

 

……本当に悪いことをしてしまった。

 あとでやっぱり顔面に拳骨一万発貰った方がいいかもしれない。

 

 だが、残念ながらそれはまた後でだ。今は、もう近くまで来ているであろう目的地に向かうのが先決である。

 

「……レネ、ありがとう。視えている世界を教えてくれて」

「…………」

「……だから、今度は僕の番だよ。次はレネに僕のことを教えてあげるね! 行こ! もうすぐそこまで来てるよ!!」

「─────!!」

 

 目的地の証でもある僅かに差し込む光を見つけた僕は、レネの手を引き、全力でその光を目掛けて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「到着ーーーー!」

「!! …………こ、これ……は……」

 

 そうして長い長い負の闇を抜け、差し込む光の先で僕たちを出迎えたのは────見渡す光景を純白で埋め尽くす美しい花畑。

 道中では全く光を通さなかったのが、嘘みたいに輝く美しい世界。

 

 太陽に照らされ、輝いている綺麗な白花の群れは、どことなく落ち着く香りを放っており、穢れ一つない白花と草原と……眩しい光が空間を牛耳っている。

 

 それは見る人を魅了し、まるで御伽の世界にやって来たかのような感覚に浸らせるのだ。

 これが、僕のお気に入りの場所。ドM心が洗われる最高のスポットだ。

 

 レネもまさか、あの闇の向こう側にこんな光景が広がっているとは思ってもみなかったようで、言葉を失っている。

 

「どう、レネ?」

「………………っ」

「ふふ、『理不尽』なくらい……眩しくて、綺麗でしょ?」

「ッッ!!」

 

 レネが目を見開いて、僕の方へと視線を寄こした。

 異常なドMの僕でも心が洗われるのだ。悲観的なレネにだって、多少なりとも良い影響を及ぼしていると思う。

 

「……あと、レネ……ほんとにごめんよ。……ここに来るまで、とっても苦しくて、辛くて、痛かったでしょ」

「……わ、私が選んだ道だから。……貴方が謝る必要はないっ。……それに、悪意を向けられるのには……慣れてる」

「……そっかぁ。僕も皆に憎まれてしかないから、おんなじだね!」

「…………ッ」

 

 レネの雰囲気も、花畑効果で軟化してきた感じがしたので、少し盛り上げようと思い、軽口を飛ばした。

 

 ちょっとしたドMジョークのつもりだったのだけれど、レネは苦虫を噛み潰したかのように眉を顰めてしまい、僕にジョークのセンスがないことが窺える。

 

……けれど、こういう悪意を向けられたりするのも、理不尽な目に遭って、辛い道を歩むのも全て、いつか明るい未来を紡ぐ為に必要な材料になり得るかもしれない。

 

 僕は今の生活が楽しいから、辛いとは全然思ってないけどね。最高の『理不尽』ではあるが。

 

「でもねレネ……そういうのもさ、きっと全部キラキラ輝いている眩しい結末に繋がると思うんだ。……今みたいに」

「…………っ!!」

 

 レネが僕の顔を、驚愕しているといった表情で凝視してくる。

 

 ちなみに、僕にとってのキラキラ輝いている結末は、当然、村の皆に畜生扱いされた挙げ句に、【屍神】様の生け贄として捧げられることだ。

 今からその末路を想像しても、胸がはち切れそうな程に興奮してたまらない。

 

 当たり前だよね!

 

「……だから貴方は……眩しいの?」

「あ、あはは。僕が眩しいかどうかはわかんないけど。……でも、最近はこの世界が前以上に輝いて視えて……大好き」

「! ど、どうして……?」

 

 僕はレネの顔を真っ直ぐに見つめた。

 空間全体に心地よい風が吹いている。差し込む太陽の光が眩しく、僕のことを、綺麗に明るく照らしてきた。

 

「……君が……レネが僕と一緒にいてくれるからだよ」

「────────」

 

 僕が満面の笑みで告げた言葉に、レネは身体全体がピシッと固まっている。

 

「えへへ。レネがさっき僕と一緒にいるのに負けるわけない! て言ってくれたでしょ? だから、そのお返し! レネが一緒にいるのに、世界が輝いてみえないわけがないよ!!」

「……………ぁ」

 

 僕の心からの気持ちに、無意識なのかもしれないが、レネが小さく声を漏らした。

 

 僕自身、こんな程度で、レネへのこの溢れんばかりの感謝の想いが伝わるなんて思ってはいない。

 しかし、どうしても今、レネに抱いている気持ちのほんの一部だけでも、声に出して伝えたかった。

 

「これが僕の視えている世界だよ! 全然答えになってないかもだけど、レネは満足してくれたかな……?」

「………ぅ………んッッ」

 

 ゆっくり頷くレネ。

 道中に浴びた『ご褒美オーラ』の影響か、まだ顔とか空気がささくれちゃってる感じがするけれど、それでも、さっきよりは瞳の暗さや濁りも払拭できたような気がする。

 

「ふふ、じゃあこの話はおしまい! 折角ここまで来たんだもの! なにかやりたいことはない?」

「……やりたいこと」

「うん、そう! なんでも! なんでもレネのやりたいことしよ!」

「………私の……やりたいこと……」

「……うん、なあに?」

「っ。……貴方のやりたいことが……したい。……貴方と……『一緒』にっ」

「……え? 僕のしたいこと?」

 

 ちょっと意外な返答の為、困惑してしまった。

 

 僕のしたいことは、村に行ってレネの代わりにボコボコにされることだ。

 気持ち良くなること自体は、達成されてはいるのだけれど、やっぱり新鮮なシチュエーションでの暴力を感じてみたい。

 

 ドMライフは新しい息吹を取り込むことで、もっと楽しい最高なものになるのである。

 

……しかし、レネは村に行くのはまだ嫌そうだし、なによりこの花畑空間内で二人でできることをするべきだろう。……勿体ないけど。

 

「うーん、じゃあこの空間内をちょっと探検しよっか!」

「……! うん。一緒に探検」

「あっでもその前に注意事項を伝えておくね」

「……注意事項?」

 

 首を傾げるレネを横目に僕は、花畑の奥の方を指差した。

 

「向こうの方角の、ずっっっと奥に変な剣が地面に突き刺さってるけど、絶対に触っちゃダメだからね? 今のレネだったら体調崩しちゃうかもしれないから」

「変な……剣?」

「そう! 真っ黒い変な剣!」

 

 僕も初めて見たときは、物凄く驚いた。

 なんで、こんな綺麗な世界に、あんな禍々しい気配を放つ剣があるのか、世界観が崩壊してないかな? とまで思ったほどである。

 

 しかし、やはりあの負のオーラはドM的にはワクワクして仕方がなかったので、グリップの部分を握ってみたのだ。

 

 そうしたら、道中の『ご褒美ロード』とは比べものにならないくらいの、凄まじい『闇』を体感し、絶叫してしまった。

 

 これは素晴らしい! と思い、家にご褒美用で持ち帰ろうとしたのだが、如何せん固くて地面から全然抜けないし、挙げ句の果てには気のせいだろうけど、頭の中で『闇が足りない』と言われた錯覚に陥る始末だった。

 

 僕としては最高の『ご褒美剣』だけど、道中であそこまで、息絶え絶えになりながら、苦しそうに悶えていたレネが触れたら、今度こそ体調を崩して倒れてしまうかもしれない。

……レネがこれ以上苦しむ姿は見たくないのだ。

 

「だから触ったらダメ! 絶対に!」

「……わかった。触れないし……近づかない」

「……ほんとのほんとに触ったらダメなんだからね? 約束だよ?」

「……うん。貴方の言葉は……絶対に守るから」

 

 発言通り、約束は絶対に守るという強い気持ちと決意が、レネの瞳からビリビリと伝わってきたのを僕は感じた。

……強すぎて、ちょっとだけ、退きそうになってしまったのは内緒である。

 

「……うん、だったら安心! じゃあ、この世界を思いっきり探検しよう! レネ!!」

「………………んっ」

 

 不安要素も無事に取り除けたと思った僕は、レネの手を繋ぎ、綺麗で眩しい世界……『キラキラ世界』に、一歩ずつ、二人で並んで足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 それから、夕刻に差し掛かる時まで、二人で目一杯全力で遊んだ僕達。

 今は『屍森』を抜け、一緒に帰路を辿っている最中だ。

 

「今日は本当にありがとうね!」

「……私のほうこそ……ありがとう」

 

 『屍森』を十分に堪能できた僕は、ニコニコと笑いながら、レネの方へと顔を向ける。

 レネは……相変わらず無表情なので、変化が読み取れない。

……でも、ちょっとだけ『闇』がなくなっている感じがする。

 

 憑き物がとれたような……そんな表情をしているのだ。……なんとなく。

 

(初遊びは、色々とあったけど、ひょっとしたら成功の部類なんじゃないかな!? よくわかんないけど!!)

 

 レネとの交友関係も、最初? いや、全体的に間違いを犯しすぎて、消滅寸前というところまできていたけれど、結果的には無難な位置に落ち着いたのではないだろうか。

 

 ひとまずは、友情関係を継続できそうでとても嬉しい。

 

 そんな事を考えながら、歩いていると、レネが急にその場に立ち止まり、スッと顔を伏せた。

 

「? どうしたの、レネ?」

「……私は村の方だから。ここまで」

「あっもうそんな場所にまで来てたの!?」

 

 色々と思考している内に、どうやら別れる場所に着いてしまっていたようだ。

 

「…………じゃあ───」

「ご、ごめん! まって! レネに渡したいものがあるんだ!」

「………?」

 

 別れようとするレネを引き止め、僕は急いで、帰り際に渡そうと思っていた物を、懐から取り出した。

 

「じゃじゃーん! お花で作った冠です!」

「……ッッ! これを……私にっ?」

「うん! さっきの花畑で摘ませてもらったもので作ったんだ。……へ、下手くそな出来だけど……」

 

 実は探検中、レネが色んなものを眺めて見惚れているときに、せっせと作成したのだ。

 あの花畑の花は、決して枯れることがないので、長期間形を保ってくれると思う。

 

 独りで出向いた時に暇だったので、何度か花の冠を作ったことはあるけれど、ついぞ作成能力が上達することはなかった。

 しかし、そうだとしても……レネになにかプレゼントを贈りたかったのである。

 

 『人身供犠』の僕と一緒に遊んでくれた優しいレネに。

 

「い、いらないなら踏みつけて、壊してくれてもいいからね!?」

「ッッ! そんなことするわけない!!」

「……そ、そう」

 

 ドMジョーク……ではなく、結構本気で言ったのだが、レネに強く否定されてしまい、面を食らった。

 

 余りの剣幕に動揺しながらも、僕は不恰好な白花の冠をレネに手渡す。

 

「……ありがとう。一生……大事にする」

「あ、あはは。一生は……無理だと思うけど」

 

 レネが本当に嬉しそうに冠を頭に乗せているので、不恰好でも、やっぱり作って良かったなと思う。

 レネは綺麗だから、僕が作った中途半端な冠じゃ、負けてしまっている感が否めないが。

 

「……クギ。私からも……聞いてほしいことがある」

「? なーに?」

 

 レネは冠を撫でていた嬉しそうな顔から一変、真剣な顔付きにすぐさま変わった。

 

……嬉しそうな顔も、真剣な顔も、変化は少ししかないので、殆んどの人は判別すらできないだろうけど。

 

「……貴方と今日、一緒に過ごすまで……私は貴方にも言ったように……世界は闇しかない地獄だと思っていた」

「……うん」

 

 レネが今までのことを振り返るように、想いを綴り始めた。

 

「……でも、貴方の言った通り……それもいずれ……眩しい結末に繋がるかもしれない。……今までは……村の人たちを憎み、恨んでいたけど……私が頑張れば……きっと皆も、世界だって変えられる」

「………ふふ、大きくでたね」

 

……レネの真剣な顔を見て、僕は馬鹿馬鹿しいと切り捨てることはできなかった。

 

 自分の考え方一つで、世界なんてどうとでも姿を変えられる。

……けれど、まぁ確実に村の人達は変わらないとは思うけどね。

 

 僕達、村の民は【屍神】様を讃えることは最後まで止めないし、普通に僕は欲求を満たしてくれる村の人達が好きだし。

 

……やる気を出しているレネには絶対言えないけど。

 

「だから……これからは私のことを視ていてほしい。必ず貴方の……眩しい希望に……『勇者』に成ってみせるから」

「? ……うん! レネのことは、これからも視てるし、レネならきっと『勇者』にだって成れるよ!」

「ッッ!!」

 

 一瞬、なぜ今、村に伝承されている【屍神】様を、昔殺そうとした最悪の大罪の証、『勇者』の称号を持ち出したのかと思ったが、レネにはもっと別の意図があったのだろう。

 『勇者』にはもう一つ別の意味があった筈だ。『キラキラ世界』に落ちていた変な本にも載っていたと思う。

 

 恐らく、レネはそっちの意味で『勇者』に成りたいと言ったに違いない。

 

「……『勇者』に成るなんて言ったら……良い気分にはさせないと思ってた」

「そんな分けないよ! "勇気のある者"のことを『勇者』って言うんでしょ? 『人身供犠』の僕とも友達になってくれたレネは、もう立派な『勇者』! 誰がなんと言おうとも、世界で一番最高の『勇者』だよ!」

「────────!!!!」

 

 レネが目を大きく見開き、今までで一番、表情を崩した。

……そんなに驚くこと言ったかな。

 

「勇気のある者のことを……『勇者』」

「うん! レネにピッタリな称号だよね!!」

 

 僕が笑顔でレネの顔を覗きこむと、レネはそれに応えるように、僕の頬に手を添えてきた。

 

「………ありがとう。必ず……貴方を救ってみせるから」

「……ぇ?」

 

 先程とは違う妖艶な雰囲気に、僕はドキリとして固まってしまった。

 僕と同じ十二の童だということを、一瞬忘れるくらいには、大人っぽかった。

 

「……今日は本当に楽しかった。じゃあまた、明日(・・)

「……あ、うん。また明日! 僕の方こそ楽しかったよ! 体調には気をつけてね!」

 

 僕が呆けている内に、レネに別れの挨拶をされ、今度こそ僕達は解散した。

 

 

……なんだか無性に村の皆が恋しくなって、早く【屍神】様に捧げられたくなった。

 

 

 

 




ここまで読んでくださってありがとうございました。
おや……? レネちゃんの様子が……?
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