願いを何でも(何でもとは言ってない)叶えてくれる優しい魔女さんが、これまた優しい王女様と出会って心を入れ替える話。

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願いの魔女と狂った王女

どうも皆様。そちらの天候は良いでしょうか?お体は?元気にしていますか?

 

ああ……そうですね、こちらはなかなかです。 辺りに赤色の何かが広がっていることや、吐瀉物が飛び散っていることなどを除けば、概ね。

 

……一人言とは、史上最もつまらない遊びです。考えた者を殴り倒したいくらいに。

 

いやまあ私が勝手にやっているのでなんとも言えないんですが……私はため息をついて、そして目の前で転がっている生き物がビクリと震えた辺りでやっとこさ思い出しました。

 

まるで王城……いえ、実際そうなのでしょう。そんな様相の玉座の間には、倒れ付した萎びた老齢の男が、無くなった首など気にせず居座っていました。その回りに忠誠でも誓うのか、内臓を体外へと排出している騎士達の死体があります。

クスリと私は笑いました。だって、裏切られた国王様に、裏切った張本人達が死してから再び忠誠を誓う――どんな喜劇でしょう?

 

「……な、なん、なんですかっ!あなたはッ!」

 

その血まみれのカーペットの上。一人だけ未だ生命の灯火がある少女が一人います。

 

ああ……これがこの国の王女様。

 

私は灰色の鍔の長い三角帽子を指で弄りながら笑います。長い髪が地面に向かい微かに揺れました。怖がらせないないよう、少し鍔を傾けましたが、果たして私の表情は見えているのでしょうか?

 

薄暗く静まり返った王城で、王女様は震える手をどうにか押さえるように掌を組み私を見上げます。

 

そこで私はふと、不思議に思いました。

 

何ゆえこのような『ありきたりな』少女が、国内を王位継承の対立で破壊しつくし、何ゆえ自らの父をも殺めたのか。

 

私が見つめるその揺れる瞳には、どう見積もっても恐怖が浮かんでいるようで――とても国一つを自身の手で揺らがす覚悟など欠片も見えませんでした。首をかしげます。長いローブがゆらゆらと揺れ、入り込む光に影を作り出しました。

 

しばらく考え、果たして出た答えは諦めという悲しいものでした。

まあ、私はそのような事に興味がないので、別に良いでしょう。

 

……語弊ですかね?

 

あります。ありますとも。その理由には。

 

そうして、私はやっと思い出したここへ来た本来の目的を果たすために、血で頬を濡らした王女様に微笑み掛けました。

 

 

「――さて、貴女の望みをお聞かせ下さい、王女様」

 

 

◆◇

 

 

「――ラールさん!ファラールさん!!」

 

そこで意識が目覚めます。

 

パチパチと何度か目を瞬いた先には、目を惹くような金髪と澄んだエメラルドの瞳。お人形とでも言いたくなる容姿をした齢十六程の少女がいました。

そこで私は回想を止めて、今の状況を思い出しました。

 

……最悪な事実と共に。

 

それを一旦頭から弾き出し、首を何度か振ると頭を下げます。

 

「……ああ、どうも失礼しました、王女様。考え事をしておりまして……」

 

「全く……貴女が『お望みなら何でも叶えてみせます』とか言ったのですから、私は望みを言ったのですよ?……ほら、さっさと行きますよ!」

 

「はあ……」

 

ウキウキと足元を弾ませながら、王女様は足を踏み出しました。羽でも付けてやりましょうか?

何歩か進むと、やがてだんだんと速度を落とし後ろを向きます。其処には何がいるのでしょうか?……はい、私ですね。止まっていてすいませんでした。

 

「どうしたんですか、ファラールさん?」

 

「いえ……」

 

……ですが少し、思う所があったのです。

 

確かに私は血も涙もない化け物とか呼ばれたりしますが、ちょっと王女様のやっている……いえ、やれていることはその私の感性から見てもおかしかったりしたのです。なんだか得も知れぬ違和感のせいで体をかきむしりたくなるような、なんとも言えない衝動に襲われます。

 

がしゃがしゃと何度か髪を掻き回すと、崩れた帽子のバランスを直し、跳ねた枝毛を指先に灯した『魔術』で治しながらしっかりと顔を見て返答しました。

 

「ええ……はい。なんでもありませんよ」

 

「そうですか。では、行きますよ!……返事!!」

 

「……おー」

 

後ろに見える燃え盛る王城。漂う熱気は、それが幻想でなく確かな現実としてそこに存在していることを示していました。

そして目を凝らせば見えてくる、奇妙ななことに体の半分だけ『化け物』のなった、おぞましい、まるで生命の失敗作のような生き物の群勢。

 

左半身だけ巨大な狼で右半身は人間の『化け物』は、そのお互いのあまりの生態の違いのせいか上手く合致しなかったようで、訳のわからない絶叫を上げながら他の顔だけドラゴンや足だけ人間ライオンに向かって突進していました。衝撃でただでさえ半壊だった建物は壊滅します。……半身狼はその後上手く変容できず、人間の部分と、恐らく魔物と呼ばれる種別の動物に分かたれたかと思うと、どす黒い緑へと変色した血と中身をぶちまけていました。

 

そこに寄り付き始めたのは当然ながら他の化け物達。あるものはその鋭い歯で。あるものはその鋭利な爪で。あるものは未だ残る人間の口で。

 

吐き気を催す様な食事の風景が始まりました。

 

ああ――この土地で交わされた長年の人の歴史は、一旦ここで終止符を打つのでしょう。これからは……なんでしょう?…………取り敢えず、人間だった『化け物』達の物語が、始まるのです。

 

……なんかウケました。思わず笑い声が漏れ、笑みが浮かびます。

だって、足だけ人間ライオンとか、顔だけドラゴンって……ふふふ。

 

久々の満面の笑みが浮かびました。怪訝そうに王女様がこちらを見つめて来ますが、無視です。無視。

 

「……どうしたんですか?」

 

無視は許されませんでした。

 

「いえ……見ていてちょっと、楽しくなってしまいまして」

 

そして私は足早に王女様の隣へと並び、そろそろ沈み始めた夕日が色を変え始めると同時、王女様は不思議そうに肩を竦めました。それと同じくして足は動き出します。貴女はあまりにも目立ちすぎるので、と渡したローブは、どうやらお似合いのようです。

 

少し歩くとやがて王女様は速度を落としました。『疲れました』とでもお姫様らしく言うのか――という私の予想とは的外れで、しかしその艶やかな唇から、初めて私を驚かせるような言葉が放たれました。

 

それは、先程の私の返答への会話の続き。

 

 

「…………あの、化け物みたいな国民達のことですか?いつもの事じゃないですか……まあ、これでやっと離れられると思うと清々しますけど」

 

 

「…………なるほど、そうですか」

 

私の笑顔は凍りつきます。せざるを、得ませんでした。

 

世間一般では悪魔と呼ばれる私でも、驚愕に身を襲われることがあるのだとこの時理解しました。それほどに強烈だったのです。その言葉は。

 

ふと、後ろを再び見ます。そこには、肉体のほとんど全てが『化け物』と化しているかつての生命の姿がありました。

 

――そしてなぜか、分かたれた筈のあの狼も。しかも今度こそ完全な姿で。

 

そうして私は歩を進める王女様に追い付こうと足早に近付きます。離れてゆく王国に、安堵の息をつきながら。

 

しかしどうも、考えたくないこと程考えてしまうもの。王女様との会話が、断片的に浮かび上がります。

 

 

 

『……願い、ですか?』

 

『そんなことを言うのは悪魔と相場が決まっています!もう騙されません!!』

 

『それは、本当に……?』

 

『……分かりました。……確かに私と同じような人を見るのは、これが初めてです。ならばこそ、同類である貴女を信じましょう』

 

『私の願いは――』

 

 

 

ザザ――と不協和音が頭の中に響き始め、同時に私を見つめる少女の映像も遠ざかります。

 

そこでふと気が付きます。

()()()()()()()()()()()()()()』この言葉の意味。彼女は魔女ではありません。それは私が保証します。

 

そして彼女は私を『初めて』と称しました。

 

更に、私が叶えた彼女の願い。

 

――彼女には一体()()()()()()()()()()()()()のでしょうか?

 

やがて、静まり返った世界が戻ってくると、目の前には例の少女がいました。

奇妙なことに、その少女はこれまでにないほどの満面の笑みで私を見つめるのです。

 

そうしてしばらく見つめ合うと、少女は――王女様はゆっくりと手を差し出しました。

 

 

「では、行きましょう?」




魔女さん:何でも1つ願いを叶えてくれる魔女さん。対価は容赦なく取り立てる……つもりだったけど、王女様の願いを軽い気持ちで叶えたら予想以上におかしなことになって、『取り立てしないから願い取り消ししてくれないかな』って思ってる。

王女様:とっても優しい王女様。可愛い。ただ1つだけ欠点がある。

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