インフィニットストラトスー可能性に満ちた閃光ー   作:のらり くらり

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past.8

ヘリコプターから移動して数時間、僕らはフランスの国境近くにある拠点に到着した。物資を拠点に運び込み、自分の装備を置いて大きく息を吐く。

 

「ふぅ…」

 

「少し休んでろよ、体が慣れていないから疲れただろ?」

 

「いえ、そんな…それに、下っ端の僕が休むわけにはいきませんよ」

 

「まったく、坊っちゃんは気を遣いすぎるね…」

 

シベットさんに声をかけられた僕は慌てて返事をする。そんな僕を見兼ねてか、目を引くオレンジのISスーツを着たエメラルダさんが僕の頭に手を置いた。

 

「休む事も大事な仕事さ、起きたらちゃんと働いてもらうよ」

 

「……はい」

 

そう言われて大人しく引き下がる事にした。シベットさんに仮眠室を案内され、一足先に休む事になった。壁の薄い部屋からは外の音や声が聞こえてくる、後ろ髪を引かれる思いで僕は目を閉じた。

 

それから数時間して、僕は部屋を移動した。物資の搬入は既に完了していて、ISや武器の整備が始まっている。

メッサーの近くには見慣れたが女性いる。二つに下げたトレードマークが目に付き、僕は声をかけた。

 

「マックスさん、お疲れ様です」

 

「あぁ、一夏か。よく眠れたかい?」

 

僕を一瞥して作業を続ける「マックス・ハリエット」にドリンクを渡した。見上げたメッサーはいつもと違った。違和感を覚えながら僕はマックスさんのフォローとして着いた。

マックスさんの指示に従いながらメッサーの整備を続けると、やはりいつもの「F型」と呼称するメッサーとは外観が違う。間違い探しをしているようなワクワクとした感覚もあり、整備を終えてもそのメッサーが気になった。

 

「どうしたんだ?」

 

メッサーを見ているとガウマンさんが僕の肩に手を置いた。このメッサーのパイロットはこの人なのかもしれない。

 

「いや、いつものメッサーと違うなって…」

 

「おう、こいつは「M型」っていうやつだ。内部構造に違いはないが、動作にクセがあってな。俺が乗っているんだ」

 

「愛機、ですか」

 

「そんなところ。そういや、レイモンドが探してたぜ?」

 

忘れてた事を思い出したようにガウマンさんが僕に伝えた。一礼して部屋を探していると、レイモンドさんやシベットさんといったいつものメンバーが見えた。

シベットさんが手を挙げると、僕は駆け足で部屋に入っていった。

 

顔を覗かせると少し広い部屋に人が押しかけていて、中央のデスクに広がる地図やタブレットとにらめっこをしていた。先に部屋にいたであろう面々は、マフティーのメンバーを見て作業の手を止めた。

 

「待たせたな、始めよう」

 

レイモンドさんの一声が空気を締める。この部屋に集まった人達が陸戦部隊として参加するらしい。マフティーだけでなく、スコールさんの亡国企業からも人員が共有されるそうだ。陸戦部隊はAからFの六班、四組のスリーマンセルで一つの班になるようだ。

 

各班から二組ずつがフロアの制圧、一組がバックアップをして残りの一組が周辺警戒を担当する。ISも警戒に配備されるらしい。

 

「特に質問が無ければこれで行く、以上だ」

 

レイモンドさんが会議を終わらせる。部屋を出る人達から訝しげな視線を向けられるが、一瞥して頭を下げると何も言われる事はなかった。

 

「おいおい、ウソだろ…?」

 

「あの時の坊やなのか?」

 

そう言われて視線を移すと見知った顔がそこにはあった。束さんやハサウェイさんから僕の救助を依頼された人々だ。向こうは僕の存在に気づくと、とても驚いた顔をしていた。

それもそうだろう、助けたハズの子供がテロリストの中に紛れ込んでいるのだから……。

 

「お久しぶりです、その節はお世話になりました」

 

「マジかよ、マフティーに脅されたのか?」

 

「ヒドいことするぜ、お前ら…」

 

一人がジロリとレイモンドさんを睨みつけると、僕は苦笑いを浮かべながら割って入った。

 

「僕は自分の意思でここにいます。脅されたわけでも、唆されたわけでもありません」

 

僕の顔を見て、彼はもう一度レイモンドさんを見る。理解したのか、ため息を吐いて僕の頭に手を置いた。

 

「俺たちはこんな事のためにお前を助けたんじゃないぞ?」

 

「分かっています、覚悟の上です」

 

「そうか…」

 

ならば何も言わない、そう言って彼らは部屋を後にした。一行の後ろにいた男の子が僕の前に来る。後ろで縛った髪がふわりと揺れ、左目の泣きぼくろが目を引く。

 

「背、伸びた?」

 

「どうでしょう、あまり自覚は…」

 

「私はハマ、年は同じくらいだから普通にしてよ」

 

気さくに話しかけてくる様子に戸惑いながら、初めて会うはずなのに既視感もある。妙な引っかかりのせいか、まったく話が入ってこない。

 

「……あれ、もしかして分かってない?」

 

「初めて会ったと思うんですけど…」

 

「前は下ろしてたからね」

 

そう言って彼は後ろの髪を解くと、それは彼の肩ほどまで下がる。ホクロのせいか、その目が妖しげに感じる。その時に分かった、この既視感の正体は―――。

 

 

 

『はい、どうぞ』

 

『すいません、ありがとうございます』

 

 

 

「あの時の…!」

 

「ふふ、正解」

 

僕が事情を聞いた時、隣で水をくれた女性だった。少しは女性を見てきたつもりが、髪が解けるまで何も気づかなかった。驚いて瞬きしかできず、言葉を失う僕に彼女は笑みを見せた。それは柔らかくて半年前と変わらない、彼女と分かってから緊張や不安は姿を消した。

 

「驚いた、ここで会うなんて」

 

「ええ、僕も」

 

僕とは別の班だが、ハマも陸戦部隊のメンバーとして前線に立つ。年齢は僕と同じ十三、それにしても彼女は大人のような雰囲気だった。

部屋を出て通路を歩きながら、僕はハマの事を教えてもらった。スラムの出身で紛争が原因で居場所を失い、生きていくために体を売っていたらしい。

 

「どうして、組織に?」

 

どこかシンパシーを感じながら、少し踏み込んだ質問をした。彼女は少し考え込み、僕に笑みを浮かべた。

 

「もっと稼げること無いかなって、紹介してもらったらここだった。それだけ」

 

あっさりとしているハマに相槌を打つが、内心は焦りを感じている。明日の保証も出来ない生活、そんな彼女に与えられた仕事。きっと紹介したのは残酷な人間なのだろう、こんな彼女を死地に追い込んだのだから、そうでないとまともじゃいられない。

 

「あ、あとは…」

 

「なに?」

 

「こんな世界―――無くなればいいなって」

 

僕は足がピタリと止まって動けなくなった。彼女の言葉は本心だと思う、組織に入って間もないという感じもない。この世界に価値がある―――リタとの対話で見出した答え。その対極にあるハマの答えは間違いじゃない、僕も同じ事を考えていた時があったからだ。

彼女に感じていたシンパシーは、心の奥底に潜んでいたこの感情に対してなのかもしれない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明くる日、拠点は慌ただしかった。今日が作戦の決行日だからだ。陸戦部隊は最後のブリーフィング、メカニックも最終チェックに追われている。パイロットたちも同じように配置や作戦を入念に確認していた。陸戦部隊と護衛のISは車両で移動する。国境を越え、フランスの中心街にあるデュノア社を目指す。

 

それぞれの準備を終え、皆の後に続いて車両に乗り込んでいく。

―――その時、僕の背中に声がかかった。

 

「待って…!通信が入ってる」

 

振り返った先にいたのはハーラさんだ、急いで来たのか少し呼吸が荒い。耳に掛けていたであろうインカムを持って僕に差し出した。

何の通信だろうか、さっぱり分からない僕はハーラさんからインカムを受け取って通信を始めた。

 

「―――はい、代わりました」

 

『あぁ、間に合ってよかった』

 

通信相手はハサウェイさんだった。何か急な変更でもあったのだろうか、そんな緊張もあってか身を硬くしてしまう。

 

「何かありましたか?」

 

『いや、伝え忘れていた事があってね』

 

「……何でしょう?」

 

『一夏くん―――もしも窮地に追い込まれたとしても、決して諦めるな。仲間のため、自分のため、がむしゃらに足掻き続けるんだ。それが何よりも、「死神を寄せ付けないおまじない」になる」

 

ハサウェイさんが何を伝えたいのか、いまいちピンと来なくて生返事ばかりしてしまった。健闘を祈る、ハサウェイはそう言って通信を終えた。僕はインカムをハーラさんに渡し、ハサウェイさんの言葉の意味を考える。

 

「ハサウェイ、何か言ってた…?」

 

「あ、いえ…ハーラさん、戦場に死神っているんですか?」

 

「……」

 

パイロットのハーラさんに尋ねると、彼女は無言で眉間に皺を寄せている。その目には憐れみも含まれているようで、戦闘を前に精神を病んだと思われたかもしれない。特別なヒントを得られず、自問自答しながら車両に乗り込むとレイモンドさんが話しかけてきた。

 

「行けるか?」

 

「は、はい。遅れてすみません」

 

「よし、出せ!」

 

僕が車両に乗り込んだ事で車が走り出す、レイモンドさんが幕を下ろして僕の左側に腰を下ろした。

すると、腰のバッグから携帯用の食料を僕に向けて来た。

 

「食っておけ、最後の腹ごしらえだ」

 

僕は頷いてそれを受け取る。袋を破き、食べながらレイモンドさんとヘンドリックスさんの説明を聞く。ふと車両の中を見回すと、護衛につくISのパイロットの人たちは索敵のために待機状態になっているメッサーをチェックしている。ハマたち亡国企業の人たちはあの時のように談笑している。

これから戦うというにはあまり緊張が見えない、戦いに慣れているからなのか自分が緊張しているだけなのか、どちらにしろ違和感のようなものを感じている。

 

「……一夏、聞いているか?」

 

「あ…すみません」

 

「ま、ガチガチに緊張するよりはマシだ。周りが見えなくなるからな」

 

そう言ってヘンドリックスさんは笑って僕の頭を撫で回す。言われてみればそうかもしれない、周りを見渡すくらいの余裕があるという事なのだから。

もしくは危機感の欠如、戦争や現実を目の当たりにして、僕は僕でいられるだろうか……。

 

集中して再びレイモンドさんの説明を聞いて、今度こそ作戦前の確認を終わらせる。

 

「―――というわけだ。俺がお前に言った事、もう一度言ってみろ」

 

「単独行動をしないこと、周囲の確認は絶対、生き残ること」

 

僕の復唱にレイモンドさんは頷いた、右隣のヘンドリックスさんも納得したような様子を見せる。そして、ドライバーが声を荒げた。もうすぐ戦場に着く。全員が臨戦態勢となり、装備の確認や準備を始める。僕も同じように、装備の確認やバッグの中身を確認した。

余計に重く感じる装備やバッグ―――僕は足や腰にあるナイフや銃を触り、最後にアサルトライフルをギュッと握る。

 

「俺からは一つ、死ぬな」

 

「はい、レイモンドさん」

 

レイモンドさんに頷くと、彼は少し不満そうな表情だった。何かを間違えたかと身構えていると、レイモンドさんはため息をこぼした。

 

「一夏、変に気を遣うな。普通に呼べばいい」

 

「そんな事は出来ませんよ、何より僕が一番の下っ端ですし…」

 

「この組織は上下関係に厳しくない、軍隊とは違ってな」

 

「いえ、ですが…」

 

レイモンドさんとヘンドリックスさんに挟まれて言葉に詰まる。特にそんな事を気にした事はない、他のメンバーに比べて年齢も僕の方が下だ。当然だと思っていた事を指摘されると、それだけが正解では無いというギャップを感じる。

 

「いいじゃあねぇか、生きて帰ったら仲間入りってことでよぉ!」

 

「坊や!終わったら乾杯しようぜ!」

 

周りで話を聞いていた亡国企業のメンバーが笑って、ハマも肩を竦めるような仕草をしている。どちらが正しいとか間違いというわけではないのだろう、今は同じ戦場に出る仲間で遠慮や謙遜は意味を成さないという摂理なのかもしれない。

 

 

 

「生きて帰ります―――レイモンド」

 

「……当たり前だ」

 

「ヘンドリックスも、頼りにさせてもらいます」

 

「おう、死ぬなよ」

 

決意を新たに、僕はついに戦場に足を踏み入れる。装備をして練習を重ね、ようやくまともに動けるようになった。後は、この指で引き金を引く覚悟を決めるだけだ―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先発の陸戦部隊、目標ポイントに移動を開始しました!』

 

ブリッジにいる「ミヘッシャ・ヘンス」が情報を通達する。その一報を受け、準備をしていたドックの雰囲気が変わる。

いよいよだ―――誰もがそう思い、パイロットたちは搭乗するISを起動させる。

 

『ハサウェイ、予定通りレーンたちを先に出すぞ?』

 

「頼む、向こうに到着する前に僕も出よう」

 

同じくブリッジにいるイラムから通信を受け、クスィーの準備をしているハサウェイが答える。ドックの中で一際異彩を放つハサウェイのクスィー、同様にレーン・エイムの人型でありながら生物のような姿のペーネロペーが発進の準備に入る。

 

「先行してデュノア社を包囲する、目標は社長とその夫人。全て墜としていいんだな?」

 

準備を終えたレーンはペーネロペーを動かした。天井が開き、太陽がスポットライトのようにペーネロペーを照らした。ハイパーセンサーのおかけで視界を確保され、綺麗な青空がレーンを待ち受けていた。

 

「あぁ、頼んだぞ。レーン」

 

「……レーン隊、発進するぞ!」

 

ハサウェイの通信を強引に切断し、レーンは部隊長として気持ちを切り替える。軍属だった自分がテロリストに成り下がるとは―――あの頃の気持ちは清廉さの現れだろう。別の世界の理不尽を知った今は、正しさだけが報われるわけでも、すべてを救うわけでも無いのだ。

 

 

 

「ブリッジ!ペネロペー、出ます!」

 

 

 

ペーネロペーが風を受けた木の葉のように舞い上がる。束の手によって再現されたミノフスキークラフト、モビルスーツとISの感覚の違いもあり、体に馴染むまでには時間がかかった。

浮遊した先では、もう一つの支掩船であるシーラックからもメッサーが発進していた。自身が先頭となり移動を開始すると、メッサーはペーネロペーの後に続いてフランスを目指す。

 

ハサウェイは聞き慣れたペーネロペーの駆動音をBGMにしてクスィーの調整をする、その心の内は一夏への心配や配慮があった。自分の体験を偉そうに言ったが、果たしてそれが彼のためになるのかという不安も存在する。

しかし、賽は投げられたのだ。後は彼の努力と運が物を言うだろう、彼に状況を突破できるだけの力があれば、再会は果たされるであろう。

 

他人の心配をする余裕があるのか―――かつての英雄が言いそうな言葉が浮かぶと、ハサウェイは自嘲するような笑みを浮かべた。

 

 

 




次回、初陣―――。
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