迷宮都市にて咲く菖蒲   作:にがりって…美味しいよね。

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問答(ネイザー)

 

 

 

「あぁ、アリーゼ…輝夜(カグヤ)…ライラ………早く行ってください。私にばかり構っていられないでしょう?リオンのこともあります。」

 

 

 

「だが…!」

 

 

 

「だけどよ…お前!」

 

 

 

私達の言葉は届かなかった。私達は…無力だった。

 

 

目の前の仲間の身体はグズグズと溶けて崩れているのに、私達は何も出来なかった。

 

 

 

「別に死ぬ訳じゃないですよ……ーーーーーーーーーーーーーー…そういう訳で、アリーゼ、頼みました。」

 

 

 

彼女の表情は見えない。その背中は今も崩れ落ちている。

声音に震えはなかった。でも私には、それがどこか強がりに見えてしまった。

 

 

 

「………行くわよ。今も闇派閥(イヴィルス)の被害は続いてる。」

 

 

 

団長殿(アリーゼ)の声は、間違いなく震えていた。

 

 

 

「…承知した。団長殿。」

 

 

 

「……わーったよ!」

 

 

 

私が背を向けて走ると、隣のいけ好かない小人族(パルゥム)も頭を掻きむしってから付いてきた。

 

 

今はできる事を。多くの無辜の命を救わねばならない。

そのために、算盤(そろばん)を弾いて(仲間)を切り捨てた。

 

 

これでは、勇者様を笑えない。

私も同じ穴の(ムジナ)だった訳だ。いや、今更か。

 

 

 

「全く、笑えないな…」

 

 

 

瞬間、とてつもない規模の“恐怖”の発露を感じた私達は、振り向く間もなく背後より殺到した黒泥の奔流に呑まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーディ!」

 

 

 

物思いに耽っていたらしい。それを叩き起したのがコイツというのも気に食わんが。

 

 

緩い神々なら「解釈違いだ〜!」とでも言うのだろうか。

 

 

だが、青二才(リオン)も起きたか…

今この堅物に配慮する時間はない。我々は止まれないのだから。

 

 

 

「ここは…?」

 

 

 

「私達の本拠(ホーム)だ。」

 

 

 

放心した蒼い瞳がこちらを捉えた。

 

 

 

「輝夜…」

 

 

 

その幼子のような態度が気に食わず、思わず鼻を鳴らす。

どうやら私も、少なからず気が立っているらしい。

…馬鹿馬鹿しい。それよりも今は…

 

 

 

「ようやく起きたか。立て。準備を済ませろ。」

 

 

 

どうせまだ動けるのだろう?と暗に含める。

 

 

 

「今、闇派閥の攻撃が断続的に続いていてな。奴の“護り”だけでは防げない“漏れ”が生じつつある。ネーゼ達はもう出た。私達も行くぞ。」

 

 

 

あのような姿になっても、奴はまだ戦っている。

なればこそ、我々も動かねばならん。

 

 

私はそのまま部屋の扉に手を掛けた。

 

 

 

「…どうして。」

 

 

 

「なんだ?」

 

 

 

しかし部屋からは出られなかった。

リオンの問いが妙に部屋に響く。

 

 

 

「どうして、あんな事があったのに…平然としていられる!?」

 

「多くの者が亡くなったのに…一度は救った命をも奪われたのにっ…それを責められて石を投げられたのに…!」

 

「どうして…そんな顔をしていられるんだ!アーディをあんな方法で傷つけられて…ルリスだって…あのような姿になってしまったのに!」

 

 

 

己の中の苛立ちが収まらない。

この青二才と私との間に横たわる温度差に憎しみすら覚える。

目の前の温度は、私が既に失ったものだった。

 

 

 

「……はぁ」

 

 

リオンは一息に全てを吐き出した。

私も言うべき事を言わねばならない。

 

 

 

[輝夜の強みはその俯瞰した物の見方と、冷静さ、或いは冷徹さだと思うんです。だからこそ私達家族(ファミリア)の最後の理性で居てくれる。私はそう思ってます。]

 

 

 

妙に耳に残った奴の言葉が脳裏をよぎった。

 

 

 

「ぶぁ〜〜〜〜〜かめ。」

 

 

 

「なっ!」

 

 

 

「『正義』を名乗る時点で、批判、中傷、叱責…そして『犠牲』など覚悟して然るべきものだ。」

 

 

「私達は覚悟していた。お前は覚悟をしていなかった(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

「っっ━━!!!」

 

 

 

「私達の中で最も遅く入団したお前が、最も腹を括れていなかった。それだけの事だ。エルフのリュー・リオン。」

 

 

 

こいつは本当に、青過ぎる。

それだけ純粋であり。また、無垢に過ぎた。

 

 

 

「私は常に言っていたぞ。全てを守ることも、全てを救うことも不可能だと…」

 

 

 

直近は…18階層で闇派閥に網を張った時か。

あの時なら反抗しても「近い将来理解するだろう」と後回しに出来た。今は、もう違う。

 

 

 

「今の状況が(こた)えてない訳がなかろう。しかし、予め覚悟していたなら、受け止める事はできる。」

 

 

 

「ばかな…馬鹿な!予め犠牲を見据えた覚悟など、『正義』と呼んでいい筈がない!少なくとも、アストレア様の掲げる『正義』は違う!あの方が導こうとしている『正義』は、そんなものじゃない!」

 

 

 

目の前のエルフは現実を否定し、絵空事に浸ろうとしている。

だが、出来ない事を掲げ続けるのはただの傲慢だ。

 

 

 

「『現実』を見ろ。『世界』という物を知れ。誰しも『選択』する日を迫られる…そう言っても、今のお前には届かんな。」

 

 

 

このエルフは…やはり…

 

 

 

「どれだけ強くとも、やはり私達の中で、お前の心が最も弱い。お前は潔癖で…青過ぎる。」

 

 

 

「輝夜ァ!」

 

 

 

リオンは激昂してこちらに掴みかかった。

やはり、人というのは…儘ならん。

 

 

リオンはふらつきつつも、こちらを掴んで離さない。

椅子は音を立てて転がり、怒りの程を表していた。

 

 

 

「輝夜!何やってるの!?」

 

 

 

団長殿は私とリオンを見て、引き剥がしに掛かる。

 

 

 

「リオンも起きたばかりなんだから落ち着いて…」

 

 

 

リオンは、そのまま団長殿に縋り付いた。

 

 

 

「アリーゼ!教えてください…貴女も、『犠牲』を覚悟していたのですか…?」

 

「『しょうがない』と言って、惨状に納得するのですか!?」

 

 

 

その姿は、冒険者としての鎧も、エルフの矜恃も全て剥がれ落ちた、そのままの『リュー・リオン』だと分かった。

 

 

 

「アリーゼ、お願いっ…教えて!我々が追い求める『正義』とは、何なのですか!?」

 

 

 

その慟哭は妙に耳に残った。

 

 

 

「ごめんなさい、リオン。………今の貴女を納得させられるだけの答えを、私は持っていない。」

 

 

 

団長殿の言葉を咀嚼したリオンは外へ駆け出した。

 

 

 

「…!リオン!」

 

 

 

その姿は、一瞬で見えなくなった。

全力で疾走したのだろうと、分かった。

 

 

自らの顔が苦々しげに歪むのが分かる。

 

 

 

「団長…馬鹿正直に言い過ぎだ…」

 

「あの未熟者では受け止めきれん…私が落として、貴女も落としてどうする…」

 

 

 

団長の横顔を見て分かるのは、違和感だった。

一日前とは、明確に異なる顔をしていた。

 

 

 

「いつも通りにしなきゃ行けないって…分かってる。こんな時にこそ笑って、声を上げて、自分に正直にならないとって…」

 

「でも…自分に正直なるなら、今のリオンに嘘はつけなかった。ううん…私が、嘘をつきたくなかった。」

 

 

 

沈黙が部屋を支配する。

私も団長も、言葉を発するには重すぎる空気だった。

 

 

木の柱が軋む音がした。

 

 

 

「景気が(わり)ぃ声出すなよ、2人揃って。」

 

 

 

「ライラ…」

 

 

その桃髪の小人族(パルゥム)は飄々と唇を曲げていた。

全く、こいつは…

 

 

 

「アタシがリオンを追う。後はそうだな。輝夜も来い。二人で見回りって体なら迷子探しにも格好が着くだろ。」

 

 

 

「なら、私も…」

 

 

 

団長殿が声を上げるが、それをライラが制する。

 

 

 

「お前はノイン達の指揮をとれよ、団長。そんで、アタシ達が帰ってくるまでに『いつものお前』に戻っとけ。」

 

 

 

「同感だ。真面目腐った顔は、貴女には似合わない。」

 

 

 

「ライラ…輝夜━━んっ!分かったわ!頬にビンタね!」

 

 

 

団長殿も自分の頬を叩いて切り替えたようだ。

だが…

 

 

 

「リオンへの『正義』の答えを用意して、闇派閥の前で高笑いしておくわ!清く正しく美しい後光を背負って!」

 

 

 

これが(ルリス)の言っていた過剰摂取(オーバードーズ)か…今は表層だけだ。しかし、団長殿は立ち直ろうとしている。

“アリーゼ・ローヴェル”ならば『正義』の答えを見つけられる。そう確信できた。

 

 

 

「そこまでは言ってねぇよ………じゃあ、後は頼んだぜ。リオンの事は任せな。」

 

 

 

私はライラと共に団欒室から出た。

青二才を探しに行く。

 

 

 

「先ずは、南東の区画からだ。」

 





思ったより早く投稿出来ました也。




という訳で、輝夜視点からのスタートでした。
どうだったでしょうか?


リレー形式で様々な人々の視点から暗黒期のオラリオにフルルドリスが齎した影響を描いて行けたらと思います。

それでは最後に、

どうだったでしょうか?

よろしければ評価、感想よろしくお願いします。
(ツァラトゥストラはかく語りき)
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