青い山々が色鮮やかに染まり、
季節の移り変わりを伝える花の香りが漂う。

そんな季節のある日、青年と少女は出会う。

始まった時にはすでに終わりの見えていた出会い。


金木犀の香りに誘われた二人の物語。



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もしよろしければ、感想・アドバイスくだされば幸いです。


金木犀に誘われて

 

 

 

 少しばかりの熱気を残し、青かった木々や山々が徐々に鮮やかな色を付けていく。思い出をフィルムに焼き付けるように、葉には色を、花には香りを刻みゆく季節。

 金木犀の香りがするようになると、そのような季節が来たと、沁み沁みと思ってしまうのです。

 そのように感じるのは、あの日"彼女"が私の記憶に"思い出"として深く刻まれたからなのかもしれません。

 

 

 

 

 

 肌寒さを感じて、僕は目を覚ます。見渡すかぎり誰もいない教室。どうやらいつの間にやら眠ってしまっていたようで、帰りのホームルームはとっくに終わってしまったようだ。

 時計を確認すると午後五時半、外に耳を傾ければ、静寂に包まれたグラウンドの中で野球部の掛け声が響き渡っていた。

 

 

 ふと窓に目を見やると、日は傾いている半ばであった。もしも深い眠りについてしまっていたのなら、辺りは完全に暗闇に飲まれてしまっていたことだろう。

 

 

 少し長い帰路を思い、惰眠を貪ってしまった事を軽く後悔する。

 今からだと家に着くのは何時頃だろうか、遅れてしまったぶん自転車を速めに漕いでいこうか。

 帰ったら何をしようか、昼寝をしてしまったから、今日は少し遅めに寝てしまっても良いのではないだろうか。

 いつものようにそんなことを考えながら席を立ち、荷物をまとめて教室を出る。そのまま昇降口へ向かおうと足を前へ、前へと動かす。

 

 

 

 隣の教室の前を通りかかった時、開いていた扉からふっと風が香りを運んできた。

 

 

 

 思い浮かべるは金木犀。思い出へと移り変わる季節が来たことを伝えゆく花。通学路にも咲き、最近良く目にし、香っていた。

 

 

 ただそれとは違うことがあるのだとすれば、その香りを纏っているのが花ではなく、教室にただ一人残っている少女であることだろう。

 

 

 少し丈の合わない大きめの制服を着た、ショートヘアの黒髪にオレンジの花飾りを付けた彼女は教室の窓辺に座り、誰かを待つように外を眺めていた。

 まだだろうか、後どれくらいだろうか。待ちきれないように、心を躍らせるように足をパタパタと揺れ動かす姿は見る者の心を和ませるだろう。

 その反面、ふと目を離したらどこかに消えていってしまうような、儚げな空気を纏っていた。

 

 

 

 僕は人に興味が無いわけではない。同じクラスになった人の名前は覚えているし、学校内で有名な人であれば把握している。

 しかし、三年間過ごしてきた中で僕は一度も彼女を見かけたことはなかった。

 

 

 僕はそれ程社交的な人間ではない。だから見ず知らずの人に語用もなく話しかけるなんて事は無い。

 けれど、彼女の明るく、儚い。そのような雰囲気がそれを忘れさせ、彼女の纏う金木犀の香りに誘われるように、僕は歩み寄っていった。

 

 

 彼女もそれに気付いたようで、こちらに目を向けると、

 

 

「こんにちは、今日は夕日が綺麗だね」

 

 にっこりと笑ってそう言う。まさかあちらから話しかけてくるとは思いもしなかった。

 即席で用意した言葉を引っ込めつつ、僕はどうにか言葉を紡ぐ。

 

「そう、ですね。秋の夕暮れは多くの人にうたわれる位ですから」

 

 

 秋の夕暮れをテーマとした歌、または詩は多くある。

「まっかな秋」、「紅葉」などの童謡をはじめ、枕草子などをはじめとした多くの詩人が秋の夕暮れについて詠っている。秋の空にはそれだけ人を惹きつける何かがあるということなのだろう。

 

 そんな事を考えながら返した言葉を聞き、彼女は眉を少し上げ、少し驚いたような表情を見せる。

 しかしそれは束の間、すぐに人懐っこい笑みを浮かべる。

 

 

「たしかにそうかも。でも秋っていうと運動とか食欲、っていうイメージが先走っちゃうからなぁ。あれってなんでそう言われてるんだろうね?」

 

「そうですね、なんでも秋は代謝が高まるからとか、日照時間が短いからセロトニン...精神作用する神経伝達物質の分泌が抑えられるとか、科学的な根拠のもと言われているそうですよ」

 

「へ〜!てっきり子供のしつけのための方便とかだと思ってた!」

 

「言われてみればそれらしいですね。もしかしたら『読書の秋』の謂れはそこにあるのかも知れないですね」

 

「確かに...というか食欲、運動ときて読書って大分仲間はずれ感すごいよね」

 

 唐突に始まった秋談議は思っていたよりも弾んだ。僕自身誰かとしっかり話す機会が最近なかったからか、この不思議な始まり方の会合を楽しんでいたのだろう。彼女も近しい状態だったのだろうか、溜め込んでいたものを一気に消化するように話し込んでいた。

 

 

 こうやって頬を緩ませながら楽しそうに話す彼女を見ていると、先程の儚げな雰囲気が嘘のように思える。もしかしたら秋空のもつノスタルジーな雰囲気に浮かされて感傷的な思考によってしまっただけなのかも知れない。

 

 

 そんなことを考えつつも、彼女との話は途切れることなく、続く。話題は尽きることなく、転々として話は転がる。

転がし転がされた話題の行き着いた先は、僕達の会合の出発地点だった。

 

 

「この時期の夕暮れって他の季節よりもなんだか惹きつけるものがあるよね。なんでかはわからないけど」

 

「黄昏だから、というのはどうでしょうか?」

 

「黄昏だからかぁ...」

 

 

 黄昏。太陽と月が共にある時間帯。薄暗くなり、「彼は誰?」と聞く際の「だれそかれ」という言葉が発祥とされているそうだ。

 意味合いで考えるならば夕暮れは全て黄昏と言えるのだが、特に秋の夕暮れは美しいとされるからか、黄昏は秋の夕暮れを代表する言葉ともされているのだとか。

 

 

「ほかにも黄昏は薄暗く、誰がいるかを認識しづらくなることから"あの世"と繋がっている、なんて言われていたりもしますね」

 

「"あの世"...」

 

 彼女はそういうと、窓の外を見やり黙り込んでしまった。何か思うところでもあったのだろうか。

 僕もつられて窓の外を見る。先程よりも日が落ちており、あと少しすれば日はおちきってしまうだろう。

 もしかするとオカルトチックな話題は好きではないのだろうか。彼女と話していると割と幼い面があるように思える。だから怖い話を聞き、少し怖がらせてしまったのかもしれない。

 

 

「そっか...だから...」

 

 

 そんな風に考えていたところ、彼女はなにかに納得したように頷き、そのまままた暫く考え込み始めた。

 何かいいあぐねてどうしようかを考える、そんないじらしい表情を見せながら。

 時々、何か悲しいことを思い出したかのような、切ない表情を見せながら。

 

 

 どれ位経ったであろうか、長い思考を終えて彼女は深呼吸をする。話す覚悟を決めた、そんな表情を見せ、彼女の瞳に僕を映して言った。

 

 

「少しだけ、私の話をしてもいいかな?」

 

 

それから彼女は今まででを事を確かめるように、思い返しかみしめるように、ゆっくりと語り出した。

 

 

「私ね、中学の始めからずっと入院してたの。」

 

「お医者さんからはしっかりとした準備の後に手術が必要だけれど、しっかり治せる病気だって、そう聞かされてたの。」

 

 パタパタとふっていた足を休めて彼女は頬杖を突く。

 

「だけどすぐに手術できるわけでもないみたいで、ずっとベットの上から動けなかったの」

 

「やることもない私を見かねてお母さんは本を買ってくれたの。お父さんは持ってる漫画を貸してくれたの」

 

「その中に何冊か学園モノの本があって、私もこんなふうに過ごせてたんじゃないかなって思うことがあったの」

 

「お父さんにそれを話してみたら、『具合が良くなったらそんなふうに過ごすことも出来るさ。だから一緒に頑張ろうな』って」

 

 

「治せるって聞いてたから、夜に痛みにうなされて眠れなくても頑張って朝を迎えられた。

きっと治せるから今はつらいだろうけど頑張れって、エールを送ってくれてたからつらい投薬も耐えられた。

ずっと私のことを見て支えてくれる人たちがいたから、友達がいなくても孤独じゃなかった。

つらい思い分をしただけ幸せになれるって信じてたから、朝起きたとき髪が抜けていても投げ出さないで生きていられた。

たとえそれが二年間近く続いたとしても」

 

 頬杖をついていた手はだらんとぶら下がり、机に突っ伏して彼女は続ける。

 

「それで手術を受けることになって、なんとか成功して、後は体調がよくなったら退院するだけ!だったんだけどね」

 

 

 

「退院する前に、また体調が悪くなっちゃったの。」

 

 

 

「検査であっちこっちに転移が広がっていた事がわかったことをきっかけに、私がかかっていたのはって若年性のがんだって知らされたの。がんって重い病気のように思えるでしょ?それに私の場合もだいぶ重かったみたい。だから本人には伝えない方針だったみたい。生きる希望を捨てないようにって」

 

 彼女の声は震え始める。

 

「手術を受けた後、両親が私が行きたいって思ってた高校の制服を用意してくれてたの。これをやるから退院した後はそれを着れるように一緒に勉強頑張ろうって」

 

 

 ぽつり、ぽつりと彼女は思いを零してゆく。

 

 

「嬉しかった。その期待に応えたかった。今度こそは学校で友達作ろうって意気込んでた。友達と遊びすぎて疲れて帰ったら、痛みにうなされることなくゆっくり眠るんだって、そう、思ってたの」

 

 思いは言葉となり、雫に融けて落ちてゆく。掬い上げられることの無かった彼女の希望の数々と同じように。

 

「信じていたのに、努力したのに、希望を抱いて生きようとしたのに、叶うことはないんだって」

 

 救い上げられなかった人生。だからせめてと彼女は願うことにした。

 

「病室の外で咲く金木犀が香る中、黄昏の空に向かって祈ったの」

 

 

「夢でも良い。一度だけ、制服を着て友達と思い出を作りたいって」

 

 

 すすり泣きながらも、彼女は腫れた目をゴシゴシと袖で拭く。

そして窓際に立ち、沈みかけた夕日を眺めて言う。

 

 

「たった一日、黄昏のこの時間だけだったけれど、君に話しかけられて嬉しかった。君と話して楽しかった。素敵な思い出をくれたことが本当に幸せだった。だから」

 

 

 たった一筋の光が彼女に差し込む。まるでスポットライトのように。

 最後に伝えることだけは、零さないようにと、まっすぐと僕に笑みを向けて彼女は言う。

 

 

 

 

 

「_____ありがとう。君に出会えて本当に良かった」

 

 

 

 

 

 いつの間にやら辺りは暗闇に包まれて、居なくなっていました。彼女の立っていた場所には、彼女の着けていた_____金木犀の花飾りだけが残っていたのです。

 

 

 金木犀。オレンジの花を咲かせて、秋の到来を伝えゆく花。

その花言葉は「謙虚」、そして"あの世"のことを指す「隠世」。

 

 

 オレンジの持つ明るさと、金木犀が意味する謙虚さを持った自分よりも3つほど幼かった少女。彼女の願いは金木犀に掬われ、時を経て黄昏を通して金木犀は彼女をあの教室へと誘った。

 そして彼女の抱えていた思いが刻まれた金木犀の香りが、私をあそこへと誘ったのだと思います。

 

 

 あの日、木々の葉に色が、花々に香りが刻まれてたように、彼女と私にも深く思い出が刻まれたのです。

 

 

 




ここまで読んでくださりありがとうございます。
最近多くの名作品に出会い、
それらに感化されて本作を書いた次第です。

勢いで書き上げた作品なので推敲が足らず、
拙作であるとは思いますが、退屈しのぎになれば幸いです。

ついでに作者ツイッターアカです。
今後書くことがあればここでお伝えします(_ _)

https://twitter.com/toro6Novel?t=BWkKKR8cO02mhjYnl99LRg&s=09

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