TSして容姿にも才能にも恵まれたけど、漫然と生きる転生者。   作:フル圧

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 転生してチートももらったけど、特にそれで何かしたいわけでもない転生者が漫然と生きるお話。


人生を漫然と生きる転生者の話。

 異世界に転生し、最初に目を向けたのは鏡に映る自分の顔だった。

 当時まだ四歳程度。物心がつくと同時に前世の記憶を取り戻した私は、自分の姿に疑問を感じて鏡を覗き込んだのだ。

 

 そこにいたのは、思わず目を瞠るほどの可愛らしい少女。

 美しい金髪と透き通るような碧眼は、アニメか漫画のキャラクターのようで。

 それが自分であると認識するにはしばらくの時間を要した。

 

 それから私は魔力の総量が他人よりも数倍多いことが判明。

 剣技においても、幼くして大人たちに混じって撃ち合えるほどの実力を開花させた。

 というよりも、体をどのように動かせば有利に戦いが運ぶのか、考えなくても解ってしまうのだ。

 前世では剣道すらまともに学んだことのないはずだったのに、体は最初から染み付いていたかのように剣を自由自在に操った。

 

 生まれ落ちた家は、食べるにこまることのない裕福な家系だった。

 ただ、どうやら貴族というわけではないらしく、割とふわふわした立場だ。

 代々国に仕える騎士を輩出する名門らしいのだが、それでも貴族ではないらしい。

 貴族は後からなることができないのだとか。

 だから、貴族ほど窮屈な生活ではなかった。

 むしろその方が、前世の庶民的感覚にとっては善かったかもしれない。

 

 美貌と、才能と、そして家柄。

 全てに恵まれた転生は、ある意味この世で最も恵まれていると言えるだろう。

 少なくとも、前世の冴えないサラリーマン生活と比べれば天と地の差があると断言できる。

 

 それでも、だ。

 それでも私は――別にこの生活を恵まれているとは思えなかった。

 

 むしろ、その逆。

 私は別に前世の社畜生活を苦しいとは思っていなかった。

 むしろ休日を心の拠り所に給料を稼ぐその生活に、一定の満足を得ていたのである。

 一体いつ私が死亡したのかは思い出せないが、それが神のいたずらなのだとしたら余計なお世話というものだ。

 

 とはいえ、だからといって元いた世界に帰りたいか? というとそれもまた否である。

 そりゃ前世の方が満足の行く生活を送れていたからといって、今の生活を捨てられるかといえば話は別で。

 客観的に見れば、前世よりも今の方が私は素晴らしい生活を送っていることくらいわかっているのだから。

 

 結局。

 どっちでもいいのだ。

 現代のオタク生活も。

 異世界のチート生活も。

 

 ただ、明日のことを特に考えず。

 漫然と生きていく分には。

 どっちでも。

 

 だから、私は――

 

 

 私はそれなりに毎日を送っている。

 

 

 <>

 

 

 見知らぬ土地のギルド会館に入ると、最初に感じるのは男性の不躾な視線だ。

 無理もない、私は自分で言うのもなんだが美人極まりない。

 ちょっと身長はおもったよりも伸びなかったが、発育は決して悪くない。

 線が細いだけで、恵まれたスタイルであると自負している。

 日々のケアだって――元男性としては心中複雑だが――欠かしていないからな。

 

 だからか、私を見知っていない男は大抵私の胸か尻を最初に見てくる。

 一人でいることも理由としては大きいだろう。

 冒険者になってからこっち、こういうセクハラ目線にも慣れてしまったが、それにしたって見過ぎじゃないだろうか。

 

 そんな視線を無視してギルドの受付にツカツカと歩いて行く。

 受付では、にこやかな笑みをうかべた受付嬢が私に軽やかな声音で挨拶をしてきた。

 

「ようこそいらっしゃいました、本日はどのようなご用件でしょう」

 

 この決まり文句は、どこにいっても変わらない。

 ギルドといえばコレ、冒険者がギルドにやってきて真っ先に聴くセリフ。

 これだけで、ああ自分はギルドにやってきたのだなと思えるのは、ある種の状況反射といえる。

 そして、私も既に聞くべきことは決まっているので、つらつらとそれを伝えた。

 

「依頼を受けたい。ランクはDからB、討伐依頼であれば何でも」

「かしこまりました。ギルドカードの提示をお願いします」

 

 受付のお姉さんはそう言いながら手元にある水晶のようなものを中央に持ってくる。

 これは異世界らしい見た目こそしているものの、ギルドで手続きをするための端末みたいなものだ。

 これにギルドカードをかざすと、ホログラムのパネルが空中に出現する。

 

 お姉さんは少し操作をして、私がDからBランクの依頼を受けられることを確認する。

 このパネルのUIは見た目こそファンタジーっぽいが、かなり現代的だ。

 ソート機能等の便利機能を兼ね備えていて、パネルに表示された依頼をスクロールして見ることができる。

 

「……ここのギルドは初めてですか?」

 

 受付のお姉さんが依頼を探す間、ぽつりと言葉をかけてくる。

 いい感じの依頼を探すのにも時間はかかる。

 その間の世間話……というのもあるが、おそらく物珍しかったからだろう。

 ソロで、二十にもなっていないような小娘の冒険者というのは。

 

「ああ。このあたりには初めて来るね」

「お一人で、ですか」

「珍しいかな? とはいえ、心配はいらないよ。これでも腕には自信がある」

 

 そりゃあまあ、Bランクの依頼を受けることができるのだからお姉さんも解ってはいるのだろうけれど。

 それでも同性として気になってしまうというのはわからなくもない。

 余計なお世話とは言うまい、そもそもこういう会話はこれが初めてでもないしね。

 

「目的は、やっぱり“カタラクトの巣穴”ですか?」

「そうだね、正確に言うと……“カタラクトの巣穴”の()()かな」

「……!」

 

 受付嬢の目が大きく見開かれ、依頼を探す手が止まる。

 まったく想像もしていなかったのだろう、呆けた顔を見ると少し申し訳ない気持ちになる。

 びっくりさせるつもりはなかったのだ。

 

 ――”カタラクトの巣穴”。

 一言で言えば、ファンタジーにありがちな「ダンジョン」である。

 魔物と宝箱が自動的にポップする不思議空間。

 この世界では、神の作った魔を浄化するための場所と言われている。

 

 魔物が多く出現する場所に、外へ魔物が這い出ないよう封じたのがこの世界の「迷宮」なのだとか。

 そして、その証拠がその迷宮の最奥に待ち受ける「秘蹟」。

 これはまぁちょっと説明が難しいが、簡単に言ってしまえば迷宮の最奥は「異界」につながっている。

 

「自分の足で踏破して、その目で見る秘蹟ほど、この世界で美しい景色はないよ」

「ははぁ……」

 

 秘境、もしくは絶景。

 そう呼ぶのが相応しい光景が広がっているのだ。

 神の作り給うた神聖なる異界。

 それが「秘蹟」である。

 

「だからこの依頼は、迷宮に挑むための資金稼ぎだね。蓄えはあるんだけど、秘蹟に挑むとなると入用になるから、現地で一度ガッツリ稼ぐことにしているんだ」

「そうだったんですね……あ、ありましたよ。“エネギルホッパー”の討伐依頼です。あの、魔力の操作技術がございますか?」

「エネギルホッパーか、いいね。もちろん魔力操作は心得ている。エネギルホッパーは私にとってはカモだね」

「なら、これがいいと思います。依頼を発行しますので、手続きをお願いしますね」

 

 とかなんとか。

 話をしているうちにいい感じの依頼が見つかった。

 細かい事は省くが、私みたいな冒険者にとっては非常に実入りのいい依頼だ。

 手続きは、水晶にもう一度ギルドカードをかざして自分の名前とランク、それからこの依頼を受諾すると宣言すれば完了する。

 一応、水晶のパネルを見て、依頼内容を確認。

 うん、エネギルホッパーの討伐依頼だ。

 

 そして私はもう一度ギルドカードを提示すると――

 

「“Aランク”、ミリリアンナ・アルトハルト。この依頼を受諾する」

 

 自分の名前とランクを宣言。

 この依頼を請け負った。

 

「え――」

 

 そこで、完全に停止したのは受付のお姉さんだ。

 私が秘蹟に挑戦するといったときは、驚いたのが目に見えて分かった。

 しかし今度は、完全に思考が停止した様子で、手も止まっている。

 水晶から光が漏れて、依頼の受諾が完了したことが告げられても、受付のお姉さんは動くことができないようだった。

 

 そして、そこからさらに数秒。

 

「ミリリアンナ・アルトハルト……?」

「そうだよ?」

 

 私の名前を復唱し、それから私の体を頭のてっぺんからつま先まで眺め回して。

 

 

「“雷母”ミリリアンナ様!?」

 

 

 それはもう大きな驚きの声が、ギルド会館中に響き渡った。

 

 視線が一斉にこちらへと向く。

 それは先程の不躾な視線とは正反対の、驚愕に満ちた視線。

 半信半疑という空気を感じるが、私自身が水晶にそう名乗った以上事実なのだろうという雰囲気もある。

 ようするに、混沌としていた。

 

 不躾な視線にはいい加減なれたけれど、この視線には未だになれない。

 居心地が悪いのだ。

 

「あ、あの! 私ファンなんです。お会いできて光栄で……」

「ああ、うん。そう言ってくれると嬉しいけどね」

 

 ガタッと受付のお姉さんが立ち上がって、興奮気味にずずっと身を乗り出してくる。

 なぜだか知らないが、ギルドの受付の人は私のファンが多い。

 というか、ギルドの女性スタッフは私のファンが多い気がする。

 多分、女性のソロ冒険者で、特に知名度があるからなんだろうけれど。

 

 まぁ、なんにしても顔が近い。

 

「ええと、そうだ。依頼の受諾も終わったし、失礼してもいいかな?」

「あっ……ご、ごめんなさい。そうですね、依頼の受諾を確認しました」

 

 こほん、とお姉さんは咳払いをして。

 

「冒険者、ミリリアンナ・アルトハルト。貴方の冒険に幸多からんことを」

 

 そう告げた。

 いわゆる定形というか、依頼を受諾した際は、最後にこれで締めるのがお決まりとなっている。

 

「雷母様の秘蹟踏破、応援しています!」

 

 そしてこれは、余計な一言。

 まぁ、居心地は悪いけど、別に嫌というわけではないので素直に受け取ると、私はギルド会館を後にした。

 

 

 <>

 

 

 “雷母”ミリリアンナ・アルトハルト。

 冒険者になったのは今から二年ほど前。

 元は由緒ある騎士の一族、アルトハルト家の長女――四人目の息女として生まれた。

 その才能と美貌から、将来は有力貴族に嫁ぐか、騎士として国に仕えることを期待され騎士学校に通うものの卒業と同時に冒険者となる。

 

 それから、一年という史上最速といえるスピードで冒険者ランクをAランクに到達させると、Aランクの特典である「秘蹟への入場券」を利用して世界各地の秘蹟を回り始める。

 その実力と女性ながらにして単独で世界各地を旅する行動力から、女性のファンが多い。

 

 ――その正体は、元男性のTS転生者。

 今の生活に大きな不満はないけれど、前世の娯楽にも未練を残す、そんな中途半端な存在。

 これは、今を漫然と生きる転生者の物語だ。

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