TSして容姿にも才能にも恵まれたけど、漫然と生きる転生者。   作:フル圧

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強くてかっこよかった頃のお姉さんと戦う話。

「どうした、この程度か!? 妾に攻撃の一つも届いていないではないか!」

 

 霧の中を駆け回りながら、襲いかかるマルセナ本人を回避する。

 このマルセナ、めちゃくちゃ数が多い。

 幻術によって複数のマルセナが四方八方から飛びかかってくるのだ。

 当然雷撃で迎え撃つが、大半は幻である。

 時折攻撃が当たるが、これも幻。

 全盛期マルセナの空間に干渉する幻術で作られた質量を持つ空間といったところか。

 

「そういうマルセナも、こちらに攻撃を当てられていないようだけど!?」

「猪口才! 今に叩き落としてくれる!」

 

 改めてマルセナの幻術についておさらいしよう。

 まず、視覚や聴覚に作用する精神的かつオーソドックスな幻術。

 私に襲いかかってくる無数のマルセナはこれによって見せられている幻覚だ。

 他にも、私の視界を惑わせて空を飛んでいるつもりが地面に向かって墜落しているなんて状況を作ることもできる。

 

 次に、全盛期マルセナの空間に影響を与える幻術。

 幻術というか、もはや空間創造に近いそれは、戦闘中は目に見えない壁を作る能力になると考えるとわかりやすい。

 物理的に影響を与えるといっても、剣を生み出したり、毒を生み出したりはできない。

 あくまで目に見えない壁を作って他人と自分を切り離したりする程度。

 戦う相手が目の前にいないといけないから、主な使い方は強敵を隔離して孤立させたりする感じ。

 集団戦だと便利だけど、タイマンだと特性の一つが潰される弱点があるな。

 

 さっきから幻覚のマルセナが襲いかかってきているけど、あのマルセナたちの手に握られている錫杖の槍は、先端に鋭利な見えない“空間の壁”が存在する。

 そのためそれで刺されるととても痛いし、実質的にあいつらは武器にだけ質量を持っているのと変わらない。

 また、一部のマルセナには手応えがあるが、これもまた中に見えない空間の壁がある。

 

 つまり全盛期マルセナの戦い方は、強敵を他者とは隔離することで孤立させる。

 その後は、無数のマルセナによる人海戦術で敵を追い詰めつつ。

 その敵の感覚を狂わせ、さらには見えない壁を作るなどして相手の逃げ場を潰す。

 

 死ぬほど面倒くさいね?

 

「こちらの速度に追いつけていないようだね! そりゃそうだ、身体能力は高いけど雷に追いつけるほどではない!」

 

 霧の中を、私の雷光だけが文字を描くように空中を奔る。

 追いかける無数のマルセナは、私の速度に追いつけないから私の前方に配置するしか無い。

 それも、四方八方に飛び回ってしまえば難しい。

 そういう意味では、向こうにこちらへの有効打が存在していないといえる。

 

 だが、それは普通ではない。

 どういうことか? 単純だ。

 

「莫迦な……! 何故視界が狂わない! 妾の幻術を前に、正常な感覚を保つことなど不可能であるというのに!」

 

 驚愕するマルセナの声が聞こえてくる。

 そもそも前提がおかしいのだ。

 視界を狂わされ、さらには突如見えない壁が出現する。

 空を飛び回るとなればそれは、マルセナに取っていつでも相手を地面に墜落させられると同意義。

 だというのに私は飛び回っている。

 

 感覚器官が狂う。

 今、自分が空を飛んでいるのか、地に墜ちているのかわからなくなる。

 だから、私は()()に従って上を目指す。

 突如として目の前に壁が出現する。

 それが、私には()()で予め解っていたから、出現と同時にその場で回転し、方向転換する。

 同時に、死角を突いて迫るマルセナの槍も首をひねって回避。

 真横を穂先が通り抜けた。

 

「……何故!」

「悪いね、どうしてか解っちゃうんだよこれが」

 

 私には才能があった。

 剣の才能、戦いの才能。

 それは、殆ど直感で体をどのように動かせばいいのか解ってしまうほどの。

 文字通り、()()()それが解る。

 

 私の才能(チート)は、端的に言えばそういうものだった。

 

「私が何故こんな戦い方を選んだか。それは、これだけ自由に飛び回っても問題なく戦闘ができる才能があるからだ」

「ふざけている。それではまるでクリスだ……! そんな才能、この世に二つとあるものか!」

「あるんだな……時代が違うから!」

 

 いや、黒姫どんな怪物なんだよ。

 私のコレは、前世になかったことから明らかに何かしらのチートだと断言できるが。

 黒姫のそれは天然じゃないか?

 黒姫は転生者じゃないんだぞ!?

 

 ともあれ、こうなってしまえば戦闘は膠着する。

 私はマルセナの本体を見つけることができず、マルセナはこの方法では私を捉えることができない。

 状況を変える必要があった。

 

「だが、どうするかな? こちらの魔力が尽きることはない。妾はお前が朽ち果てるまで付き合うことができるぞ」

「……無茶言わないでほしいなぁ」

 

 いや、何日かかるのよそれ。

 まぁでも、しかけるならこちらからしかないか。

 第一、これ以上マルセナの遊びに付き合うのもそろそろ飽きた。

 私は、上へ向かって飛び上がる。

 途中何度も感覚が反転しながらもそれに対応し、壁とマルセナを避ける。

 

「とはいえ、対応自体は簡単だ」

「莫迦を言うな、妾の幻術を破れる者はいない!」

「――破る必要がないからね」

 

 くるりと反転して、空中の天井と思われる場所に足をつける。

 バリバリと足の稲妻が発光したまま、私は地面を見下ろす。

 空間全てを覆う霧は、視界と呼べるものを許さない。

 だがそれでも、私の目には()()()()()()()が見えていた。

 

 私がしたことは単純。

 空間の地面から天井までを図ることで、空間の体積を計ったのである。

 それを為したのは私の才能によるものもあるが、もう一つ。

 

「私は知っているからね、この空間の体積は比例するって」

 

 この空間は箱だ。

 どこか一つを拡大すれば他も比例して拡大される箱。

 だから、高さが解ってしまえば他の部分も計算することができると私は知っている。

 確かにマルセナ――ディアクラには無限に近い魔力がある。

 だが、私には知識がある。

 幻月老狐マルセナの知識が。

 

 ――未来のマルセナ・フォクセシアから、それを教えてもらったのだ。

 

 

()()()()

 

 

 空間の全景が見えてしまえば、そこからその空間で動く全ての物体を直感的に把握することができる。

 マルセナの本体も、幻術を見破ることなく発見することが可能だ。

 

 私は手に雷の槍を生み出す。

 槍使い相手に、槍で返すのは一種の意趣返し。

 散々人の首やら心臓やら狙ってくれたお返しだ。

 まぁ、人々を愛する神が作った守護者は人間を殺さないので、実際にはちょっと急所からずらすんだろうけど。

 でも死なないだけで痛いからね。

 痛いのは嫌だ。

 

 そうして出来上がった槍を、正確無比にマルセナ本体へ向けて私は投擲した。

 

「莫迦な!!」

「さっきからそれしか言わないね」

 

 槍は弾かれるが、弾いたということはそこに本体のマルセナがいるということだ。

 

「この幻月老狐の、神より齎された秘技を()()するなど、許されることではない!」

「言っている暇があったら、避けないとだめだよ」

 

 私はそのまま連続で雷槍を射出し、マルセナを追い立てていく。

 幻術で感覚を狂わせてくるが、それが無駄なことは既にわかっているだろう。

 さぁ、状況を動かしたぞ。

 

「ぬぅ……致し方あるまい!」

 

 ――直後、霧が張れた。

 

「まさかクリス以外に、これを見せる時が来るとはな!」

 

 そう言いながら、地に立つマルセナが()()()していく。

 いや、これもまた幻覚だ。

 だがその幻覚はこれまでとは違う。

 マルセナの作り上げた空間の集積体。

 大量の魔力によって作られた質量を持つ巨大なマルセナである。

 

「はぁ!!」

 

 その質量に、マルセナは魔力を通す。

 魔力を通した物体は、魔力を通した物体以外で傷つけることはできない。

 だからこのマルセナは、マルセナが込めた魔力以上の魔力でないと傷つけられない。

 つまり、マルセナは純粋な出力勝負を仕掛けてきたのだ。

 

「幻月老狐の真髄を垣間見たことを誇りに思い、散るがいい!」

 

 勝ちを確信した言葉とともにマルセナが天井の私へ向けて槍を突き出してくる。

 ああ、まったくとんでもないな。

 でも――

 

「……()()()()ね」

 

 私は天井からとん、と足を離して地面へ向けて落下を始める。

 両手には稲光。

 拳を引いて、迫る槍へ向けてそれを突き出す。

 

「笑止! 無謀が極まったな!」

 

 激突。

 私の手から雷光が迸る。

 両者は、完全に拮抗していた。

 

「な――」

 

 ()

 

 押していた。

 どちらが? などと聞くまでもない。

 

 圧倒していた。

 ()()、マルセナの槍を圧倒していたのだ。

 

「悪いね、私はちょっとばかり特別なんだよ」

 

 転生が? チートが?

 それもある。

 だが、それ以上に。

 

「何だ、何だ何だ、何だこれは……お主、一体どれほど」

 

 マルセナの顔が驚愕に歪む。

 

 

「一体どれほど、その身に魔力を有しているのだ!?」

 

 

 生まれながらにして、私の魔力は他人の数倍あった。

 それが、様々な事情で成長を続け今に至る。

 マルセナが、再会の時に“また魔力が増えた”といったように。

 ダンジョンの三層を突破する間、雷を出して空を飛び続けても問題なかったように。

 私の魔力は、もはや数倍では済まないほどに増大していた。

 

「悪いな、私は単純な出力勝負なら、この世界の誰にも負けないんだよ――!」

 

 この世で私に出力勝負で勝てる相手がいるとしたら、それは()()()()()くらいなものだ。

 

 もしも、ディアクラ――ダンジョンの魔力をそのまま全てぶつけるならともかく。

 そんなことをすればダンジョン事態が崩壊してしまう。

 何よりディアクラは模倣の守護者だから、一度に使える魔力は模倣先に依存するだろう。

 だから、私が出力勝負で負ける道理はないのだ。

 

「お主……まさか誘導したのか!?」

「そうだね。幻術を打ち破るよりも、こっちで勝つ方が楽だからな」

 

 最初から、マルセナの本体を見つけたのはこの出力勝負に持ち込むため。

 幻術は破らなくてもマルセナは倒せる。

 

 私なら、それが可能だ。

 

「ぬ、おおお! ぬおあああああああああ!!」

「今更唸っても、遅いんだよな!」

 

 そうして、私はさらに雷光の出力を上げると――

 

 

 巨大マルセナを、その魔力ごと吹き飛ばすのだった。

 

 

 <>

 

 

 正常に戻った感覚を確かめながら、ゆっくりと地面に降り立つ。

 マルセナの奴が、感覚をいじった上からさらに感覚をいじるなんてことを何回もしたせいで私の感覚器官はボロボロだ。

 ちょっと、暫く自分の感覚は無視して直感だけで動かないと、酔いで死にそうだ。

 おえっ。

 

 いや、美少女は吐かない。

 トイレにいかないのと同じくらいの常識だ。

 だから我慢の子。

 

 なんてアホなことを考えながら、マルセナの姿を探す。

 幻術はまだ解除されていない。

 多分、どこかで幻月老狐のマルセナがぶっ倒れているはずだ。

 

「――ダメだ」

 

 声がする。

 

「まだ、ダメだ。まだ、妾は倒れてはならぬのだ――」

 

 声のする方向に足を向ける。

 

「どこだ――」

 

 さして時間もかからず、マルセナは見つかった。

 

「どこだ、クリス――」

 

 マルセナは、探していた。

 

 

「どこにも行かないでくれ、クリス――」

 

 

 今から千年前。

 魔物との生存戦争の最後。

 いなくなってしまった相棒。

 

 世界から消えた伝説の騎士。

 “黒姫”クリスノートを、彼女は今も探していた――――




主人公が強かった話
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