TSして容姿にも才能にも恵まれたけど、漫然と生きる転生者。 作:フル圧
私、ミリリアンナ・アルトハルトが転生したのは、先述した通り代々騎士を輩出する名門一族アルトハルト家だ。
アルトハルト家には、上に三人の兄がおり後継者には困っていない。
そのため、最初私はその才能を見込まれながらも、有力貴族との政略結婚のために色々と花嫁修行と称して礼儀作法を叩き込まれた。
元は自分を俺とか言っていたけど、気がつけば私に変わっていて。
やろうと思えばお貴族さまみたいなかしこまった物言いもできるようになった。
今、冒険者として生きている私が身の回りのことに困らないのはこの頃の教育あってこそだ。
とはいえ、あまりにも溢れすぎていた才能を捨てきれず、父は私を騎士学校に入学させた。
騎士学校というのは、異世界ファンタジーモノによくある感じの学園である。
最初はここで才能を活かして無双したりすることに興味もあった。
しかし、すぐにそれも失せてしまう。
なぜならそもそも才能以前に私は有力な一族の息女で、私の周囲にはその威光に与りたい学生がわんさか押し寄せてきたからだ。
結果的に、私は私の派閥を作ることになってしまった。
まぁ、その要因には私の才能も関わってくるわけだけど、一番の原因は派閥を拒めずに流されてしまった自分の意志力だろう。
なんかこう、まるで派閥を作ることが当然のような空気があったのだ。
これを否定するのには、そこそこ以上の勇気が必要になる。
“雷母”と呼ばれるようになったのもこの頃。
母ってなんだ、母って、と思うがまぁついてしまった二つ名を払拭することは難しい。
「雷母派閥」なんて呼ばれて、学園の中で私の存在感が大きくなっていくのを眺めながら、私は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
やがて、私の代の学園は二つの派閥に二分された。
一つは言うまでもなく私の派閥、「雷母派閥」。
そしてもう一つは――「閃姫派閥」と呼ばれる派閥だった。
閃姫とは、私と同じようにとある少女に名付けられた二つ名。
この時問題だったのは、私の実家「アルトハルト家」と閃姫の実家はかつて国一番の騎士を巡って争った家系であったということ。
まぁ、要するに仲が悪い。
今でこそ、敵対関係にないのだが、学生の時分でそれを因縁にしないことは難しい。
私は別に閃姫に隔意などないのだが、派閥の人間があれよあれよと対立構図を作り上げてしまった。
最終的に、教師の介入すら難しいほどに加熱してしまった争い。
決着は「総代選挙」と呼ばれる――まぁ言ってしまえば生徒会選挙によって決定することとなった。
そして私は負けた。普通にあっさり負けてしまった。
いやね、言い訳をさせてもらうと、私は貴族政治の勉強を受けてこなかった。
父が貴族に嫁がせるか騎士にするか決めあぐねてしまったことで、事前にそういった教育を受ける機会に不足してしまったのだ。
これが、最初から騎士にすると決めてそういう教育をしていれば、多少は政治の心得も身についたというものなのだが。
そうなってしまうと、前世ではせいぜいが部門のトップ程度の経験しか持たない一般庶民に政治なんてものが解るはずもなく。
閃姫も政治的な教育は受けてこなかったのだが、彼女の場合そもそも完全にお飾りに甘んじていたので政治はそれが解る人間に丸投げすればよかった。
私の場合は、仮にも船頭に立てる程度の指揮能力はあったものだから、最終判断は私に委ねられてしまった。
それが良くなかったんだろう。
で、総代選挙に負けて、派閥闘争も敗北に終わった。
コレの何が問題かと言うと――私は騎士としての将来を閉ざされてしまったのだ。
なにせ、騎士学校はのちの騎士としてのコネクションに直結する場所。
そんな場所で敗北者になってしまった私に居場所なんてあるはずもない。
かといって、貴族に嫁入りできるかというとそれもまた難しい。
騎士学校での派閥闘争は貴族様の耳にも入っている。
仮に私を嫁に迎えれば、その派閥闘争に油を注ぐ立場になりかねない。
結論を言うと、私はやらかして就職先と嫁ぎ先を失ってしまったのだ。
ただまぁ、そうなった原因は政治教育をしてこなかった父にもある。
そういうこともあって、家で責められることはなかったものの、父は頭を抱えただろう。
ほとぼりが冷めるまで家で飼い殺しにして、そのうち適当な身内に嫁がせるか。
もしくは修道院に預けて一生幽閉くらいしか私の将来に選択肢がない。
そうするには、あまりにも惜しい才能があるにも関わらず、だ。
そこで私は提案した。
それならお父様、私は冒険者になろうと思います――と。
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エネギルホッパーの討伐依頼。
それを受けた私は、街の側にある森に向かっていた。
そこは街道のある私が来た方向とは反対の森で、奥には山々が広がっている未開の地。
ようするに魔物が湧きやすい土地ということだ。
エネギルホッパーはその中でもCランクという高い脅威度を誇る魔物。
この世界のランクはAからEランクまであり、これは冒険者、魔物共通なのだが、普通Cランク以上の魔物は迷宮以外には出現しない。
数少ない例外がこのエネギルホッパーなのである。
Cランクだけあって、結構厄介な魔物だ。
ただ、受付のお姉さんにも言ったが――こいつは、私のような高ランクの冒険者にとってはカモである。
「ははは、効かないよ!」
――森の中に私の声が響く。
同時、バチバチという何かが弾ける音が私の側で響いて、直後。
迫りくる青いバッタのような魔物に、稲妻が直撃した。
ぷすぷすと黒焦げになった魔物の死体が地面に転がって、私はそれに一瞥することなく空中を
そう、私は空を飛んでいた。
正確には木々の合間を縫って飛んでいるので、空と呼ぶには高度が低いのだけど。
そんな私の手足を、“稲光”が包んでいる。
私の異名、雷母。
当然ながら、母の部分はともかく雷の部分には意味がある。
それがこの、手足に雷をまとって空中を滑走する戦闘スタイル。
他にも手から雷撃をぶっぱなしたりと、私の戦い方はとにかく雷属性だ。
そりゃあもう雷母という二つ名もつくのは必然といったもんで。
でも、可能なら雷帝とか雷王とか、かっこいいのがよかったな。
で、そんなふうに森の中を飛び回りながらエネギルホッパーをふっとばすこと暫く。
エネギルホッパーは名前の通りバッタのような魔物だ。
その特性は、“魔力を纏う”こと。
魔力というのは読んで字の如し。
異世界といえばこれ、みたいなやつだ。
とはいえ、それだけではどうして魔力を纏うことが厄介なのかが解りにくいだろう。
魔力とはこの世界においても特異な物質である。
なにせ物理法則に準拠しない。
その上、魔力をまとった物体は魔力をまとった攻撃でないと傷つけられない。
そう、エネギルホッパーの厄介なところは、魔力を纏えないと倒すことが難しいという点だ。
魔力を扱うというのは結構高度な技術で、最低でもCランクの冒険者でなければ不可能である。
結果、魔力を纏えない相手にとっては無敵のエネギルホッパーは厄介な相手。
だが、エネギルホッパーは魔力を纏う以外は、高速で飛び回るくらいの特性しかない。
それで体当たりされれば結構なダメージだが、魔力をまとえるくらい強い人間なら回避は容易。
よって、カモ。
エネギルホッパーを難なく狩れるかどうかが、冒険者として一人前か否かの判断基準になるというのは有名な話。
そして私はAランクの冒険者。
エネギルホッパーはおやつ感覚で討伐することが可能。
今も襲いかかるバッタ相手に、その全てを雷光の速度で回避しながら後ろを取って、反撃の電撃で焼き切って処理している。
これまでかれこれ十体くらいのエネギルホッパーを駆除してきたが、そろそろ十分だろうかといったところ。
稲妻を纏って木々の上から飛び上がり、周囲を見渡す。
影に隠れた魔物までは見通せないが、ある程度森の状況を知ることはできる。
目に見える範囲でエネギルホッパーが確認できないことを認めると、私はそのまま地面に着地。
雷光を引っ込めた。
「……こんなものかな」
ふぅ、と一息。
戦闘終了だ、緊張が一気に抜ける。
――この世界に転生して二十年。
冒険者になる以前から、戦闘経験は積んできた。
魔物の討伐に始まり、ダンジョンを根城にする盗賊の捕縛。
……殺し合いだってしたこともある。
だが、いつまで経ってもなれない。
殺し合いは特に、今でも可能ならやりたくない。
こういうエネギルホッパーのような、命の危機が発生しないけれどもそれなりに歯ごたえのある魔物との戦闘は嫌いではない。
他にも、一対一で行われる騎士の決闘も。
どちらも生命の危険がないというのが一番の理由だ。
ようするに、命のやり取りはしんどい。
単純に力と力のぶつけ合いなら、そこまでしんどいということもないのだけど。
でも、大好きってわけでもないな。
「まぁ、やるしかないんだけどさ」
そう零して、ギルドカードにエネギルホッパーの討伐が記録されていることを確認すると、私はその場を後にした。
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騎士学校でまぁ、色々と大失敗をして。
冒険者に逃げた……というには、今の生活は窮屈ではないので悪くはないのだけど。
それでもまぁ、色々と後ろめたい思いもある。
だから、騎士とはあまり関わり合いになりたくない。
騎士学校の同期とは、特に。
でもまぁ――ときにはそうも言っていられないときもある。
「依頼の達成を確認しました。報酬をご用意しますので少々お待ち下さい」
ギルド会館に戻って、依頼の達成を報告して。
ふと、一息ついたときのことだった。
「そういえば、ミリリアンナ様は聞きました?」
なんて、受付嬢が雑談混じりに問いかけてくる。
大抵、こういうのは結構重要な情報だ。
もし知っていても、一応聞いておいた方が良いので、私は何かな? とそれに返す。
「――カタラクトの巣穴の秘蹟。どうやらもうすぐ騎士団の調査が入るらしいんです」
うわ、と思わず声に出そうになるのを、私は頑張って抑えた。
――顔に出てたかどうかは、正直あまり自信がない。
受付のお姉さんは、特に反応することはなかった。
才能はあってもそれを活かせる現代人は少ないですよねという話。
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