TSして容姿にも才能にも恵まれたけど、漫然と生きる転生者。 作:フル圧
騎士学校において、ガードラ・ベルルギスの同期には二人の女傑がいた。
一人は“閃姫”と呼ばれる少女。
千年前に魔物と人類の存亡をかけた戦いで、人類を守るべく戦ったという騎士の一族の一人娘。
その楚々としてされども
そしてもうひとりが――“雷母”ミリリアンナ・アルトハルト。
閃姫の家系とは数百年前に騎士としての派閥争いを繰り広げた歴史を持つアルトハルト家の四人目の息女。
今は決して険悪な関係ではないものの、古くからの因縁を持つ立場にあった。
そんな二人の女騎士は、どちらも騎士学校始まって以来の天才と呼ばれるほど才能に溢れていた。
彼女たちを信奉する騎士候補生も多く、両家の因縁もあってそれが対立関係になるにはそうかからない。
気がつけば、閃姫派閥と雷母派閥の派閥が発生し、騎士学校は二分されてしまった。
ガードラは閃姫派閥の人間だ。
理由は閃姫の一族とガードラは親戚だから。
よくある話だ。
しかし、閃姫派閥に所属していながらその運営に特に関わっていなかった――単純にガードラは口が悪く嫌われていたからだ――ガードラにとって、むしろ閃姫よりも雷母の方が関わっている時間は長かったといえる。
そんなガードラから見て、雷母ミリリアンナはとにかく自由な存在だった。
というよりも、騎士学校においてミリリアンナを指して評される言葉はこの一言に集約される。
“破天荒”。
ミリリアンナ本人にその気は一切無いが、ミリリアンナの振る舞いは常識はずれもいいところであることが殆どだった。
その最たるものは、彼女の戦闘スタイルだ。
両手足に雷光を身にまとい空中を飛び回るなど、騎士の戦い方ではない。
だが、残念ながらミリリアンナにそれを指摘する人間はいなかった。
この戦い方はミリリアンナが派閥のトップになってから身につけたものであり、周囲の人間がそれを突っ込めるはずもない。
これで剣の腕が未熟であれば、教師がストップをかけていたかもしれないがミリリアンナは入学当初から剣で教わることがないほどだった。
そして、一番の理由はそもそもミリリアンナのライバルである閃姫の戦い方の方が、もっと派手で奇抜だったからだ。
なのでミリリアンナだけを変だと指摘するのはおかしいという空気になった。
そしてそれはそのまま、ミリリアンナが卒業するまで継続することとなる。
何なら未だにガードラはミリリアンナに彼女の戦い方がおかしいと指摘する勇気はない。
ここで、じゃあ閃姫だって“破天荒”扱いされなきゃおかしくないかとも思うが、しかし。
閃姫は騎士としての矜持か、ギリギリ剣を握っていた。
だから一応騎士の戦い方として周囲も納得できたのである。
剣を握りすらしないミリリアンナは当然それをぶっちぎって変だった。
あくまで派手で奇抜であるというだけで、一応閃姫の戦い方は騎士のそれだったのだから。
他にもこんな話がある。
ミリリアンナは、ある時騎士団の秘蹟調査に同行した。
秘蹟といえばこの世で最も美しい光景が広がる空間と言われている。
騎士にしてみれば憧れの仕事。
騎士学校の成績優秀者であるミリリアンナが、それに同行して騎士団の仕事を学ぶのは当然の成り行きである。
が、そこでミリリアンナは不慮の事故により騎士団から逸れ、遭難してしまう。
具体的にいうと、その時騎士団が調査したのは地下深くまで伸びる谷の秘蹟だったのだ。
美しい光景だが、足をすべらせるとそのまま谷の底まで真っ逆さま。
ミリリアンナは運悪く、そんな場所で足場が崩れてしまったのである。
幸いにもミリリアンナは手足を稲妻に変えて飛び回ることができたので、落下しても生存することは容易だ。
そのため騎士団もミリリアンナの生存を前提に捜索を行ったのだが――
最終的に、ミリリアンナは秘蹟に必ず一つは存在する女神の泉に全裸で浸かっているところを発見された。
女神の泉は、一言で言えば泉の女神フォスの作った温泉である。
温泉? という部分は一旦脇に除けるとして、つまり浸かるととても気持ちがいい。
ので、ミリリアンナはそこで入浴していたのだ。
が、当然全裸だった。
幸い発見したのが女騎士であったため、大事には至らなかったものの。
後に自由気ままな雷母の武勇伝として、それは語られることとなる。
そんな破天荒なミリリアンナであったから、当然それを信奉する者たちはミリリアンナの自由奔放な部分に惹かれて彼女の派閥に所属した。
ガードラのような、家柄で所属が自動的に決まった人間を除けば、ミリリアンナとは自由を愛する者たちにとって象徴のような存在だったのである。
騎士とは厳格な規則によってまとまった、統率の取れた集団だ。
だが、その中でも他人より優れた戦果を上げ、認められたい者は多い。
上昇志向の高い庶民にとって、ミリリアンナは憧れになるには十分な存在だった。
逆に言えば、騎士本来の厳格さは閃姫に劣るとも言える。
そして厳格さを第一とする騎士候補生の家柄は、自然と騎士の家系のものが多かった。
ガードラのように、というと他の閃姫派閥に失礼だと今のガードラは考えているが。
ようするにそういうことだ。
結果、何が起きたか。
最終的に雷母派閥と閃姫派閥の決着となった総代選挙。
その勝敗は最初から支持層の時点で決まっているようなものだった。
騎士学校に入学するものは、基本的にただの一般人より騎士家系のもののほうが多い。
――ミリリアンナの敗北は、最初から必然だったのである。
結果、ミリリアンナは実質騎士としての未来を絶たれた。
貴族に嫁入りすることすら困難となり、彼女のコレまでの人生は実質否定されたようなものである。
閃姫派閥にもその状況に同情するものもいたが――彼女の行動は周囲の想像を越えるものだった。
冒険者になってしまったのである。
冒険者は原則、国に縛られない自由な存在とされている。
騎士として国に仕えることのできなくなったミリリアンナの行き先としてはコレ以上無いほど相応しい場所。
ミリリアンナは強い、実際一年でAランクにまで上り詰めてしまうほどに。
だから、多くの彼女を知る人間は、それを
ガードラだって、その一人だ。
正直なところ、ガードラは家柄さえ関わらなければ、間違いなく雷母派閥に所属していただろうと断言できる。
なにせガードラにとって、自分が誇れるものは家柄だけだ。
家柄を盾に皮肉をいっていなければ、周りから排斥されると本気で思っていたコンプレックスの塊。
それが当時のガードラで。
ミリリアンナは家柄も、才能も、美貌すらも関係ないと言わんばかりに自由に振る舞う、自分とは正反対の存在だったのだから。
それでも、当時は家柄以外にすがるもののなかったガードラは、その家柄で閃姫派閥に所属し、雷母派閥と敵対した。
自分の本心を自分にすら押し隠し、雷母派閥へ敵意を剥き出しにしたのである。
調子に乗っていた、というのもあるだろう。
家柄しか誇るものがないと言っても、その家柄自体は騎士学校の同期のなかではかなり上のほうだったのだから。
学校以外に世界を知らないガードラにとって、その家柄というカードは間違いなく最強の手札だったのだ。
ただ、ガードラの代ではたまたまガードラ以上の家柄がさほどいなかったというだけで、騎士団全体で見ればガードラの家柄はせいぜいが中の上程度のものだったのだけど。
そして騎士学校を卒業し、ガードラは騎士団に入団した。
そこで待っていたのは、それまで天狗になっていたガードラの鼻っ柱を全力でへし折る、騎士団の業務だった。
ミリリアンナにしてみれば、体育会系の職場なんてそんなものという感想になるのだろうけれど。
温室育ちの社会を知らないガードラは、それはもう徹底的に折って叩いて治された。
結果として出来上がったのは、今のようにそこそこまっとうな、社会人二年目の青年である。
そんな時に飛び込んできたのが、雷母ミリリアンナ・アルトハルトのAランク冒険者への昇格という知らせだった。
それを初めて聞いた時ガードラは思った。
“変わらないな”、と。
だが、二年ぶりに再会したミリリアンナはこういった。
自分はそんな、自由な存在ではないよ、と。
ガードラは思った。
どこが――――? と。
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「別に自由になんて生きようとは思ってないんだ、コレは本当に。だって本当に自由に生きたいなら、派閥争いなんて目もくれないじゃないか」
「あ……」
そう続けたミリリアンナの言葉に、初めてガードラは納得した様子で言葉を漏らした。
言われてみればそうだ、と。
だが同時に、反論もすぐにガードラの口からは飛び出した。
「だが、何も言わなかったじゃないかお前は! むしろ、派閥のトップとして当然のように振る舞っていた! お前自身がそうしたかったからそうしたんじゃないのか!?」
どころか、完全に派閥の運営を側近にまかせていた閃姫よりも、積極的に派閥のことへミリリアンナは関与していた。
それなら、普通誰だって雷母は派閥闘争を望んでいると考える。
「まぁ嫌ってわけでもなかったけどね」
「なら……!」
「でも、やりたくないと言い出せる空気でもなかっただろう。そもそもそれを言ったらあの閃姫のことだ、絶対本音じゃあ派閥闘争なんて望んでなかったろうね」
ただ……とミリリアンナは少し言葉を考えて……そして諦めた。
「ただ、あの学生特有の熱気みたいなのは嫌いじゃなかったよ」
「何だその、適当な……」
「だからいっただろう、適当なんだって」
ピッと、ミリリアンナはガードラを指さして、語り始める。
思わず呑まれてしまう雰囲気、このあたりはやはり、変わっていないとガードラは思う。
「君、騎士学校を卒業してから随分と苦労してるんだろ? なんというか、一皮むけるとガードラという男はおもったよりも真面目な男だったわけだ」
「……」
「まぁ、昔からどれだけ自分たちがピンチだろうと、皮肉を忘れないガッツのある男だとは思っていたけど……あの性格の悪さをここまで矯正されて、それでも
「そ、そうか……」
でもね、とミリリアンナはガードラを指していた指を振るって続ける。
「別に、ずっと真面目でいる必要もないんだ。我慢して、我慢して、我慢して、それでもだめそうなら一度適当にしてみるといい」
「それは……どれくらい我慢すればいいんだ?」
「そうだなぁ……」
最後に、その指を唇につけて、上を向いた。
態度と奔放っぷりに見合わない小柄さは、こういう時に可愛らしさに変わると評判だ。
憧れこそあるものの、色々と痛い目に遭わされ続けたガードラは、それを素直に可愛いとは受け取れないが。
ともかく、少し考えてミリリアンナは言った。
「――一度死んで、生まれ変わったら……とか?」
いや、実際には殆ど何も考えていないような顔で、そういった。
――適当。
確かにその言葉は、今の彼女の言動と態度を見れば本当なのだろう。
「何だそれ」
気がつけば、そう言ってガードラは苦笑していた。
ああ、まったく。
二年たって、ミリリアンナの本性を知って。
少しばかりは昔より自分自身が大人になって。
それでも、
「……やっぱりお前は、自由奔放な雷母様だよ」
「そうかなぁ?」
――当時の憧れは、微塵も変わることなく。
あの頃のミリリアンナ・アルトハルトは、今もそこで楽しそうに笑っていた。
割りと適当に生きているけど、それが人によっては憧れに移るという話。