TSして容姿にも才能にも恵まれたけど、漫然と生きる転生者。 作:フル圧
さて、騎士団とのバッティングは避けたい。
同時に騎士団の要請も私は断った。
単純に集団行動がもう懲り懲りというのもあるし、騎士団の人間と顔を合わせるのが気まずいということもある。
一番の気まずい要因であったガードラと、多少は打ち解けることができたとしても、だ。
そもそも私は騎士の名門アルトハルト家の長女。
騎士団の中では、相応に注目される立場にある。
というか、我が家の家長と長男はそれぞれ自分の騎士団を持っている幹部職だからね。
ガードラの鎧の紋章を見る限り、お父様や大兄様ではないようだけど。
というかそもそも二人の騎士団だったら彼らが要請にやってくるだろうし、そうなると私は断れない。
仮にも騎士の立場を逃げてるからね、家の中ではカーストが低いのだ。
まぁ、冒険者になってから帰ったのはAランク昇格の報告だけで、その時は盛大にお祝いもしてもらったけど。
ともかく私は騎士団よりも先に秘蹟を踏破したい。
別に騎士団の調査が秘蹟の環境を荒らすようなものではないとはわかっているけれど。
人の手が入ったという意識があると、大自然の神秘も堪能しにくくなるというものだ。
そして騎士団の調査は明日、明後日という話ではないにしろ、数日後には始まる。
集団で行動するから踏破スピードは私より遅いだろうが、それでも今日明日中には出発しないと、おそらくダンジョンの最奥あたりでブッキングする計算だ。
そうなってくると、呑気に秘蹟挑戦の資金稼ぎをしている余裕はない。
本来ならそういう資金稼ぎまで含めて秘蹟挑戦の醍醐味なのだが。
解決策は二つ、一つは貯金を崩して秘蹟挑戦に必要なアイテムの補充を行う。
これは非常に単純で、そもそも私は秘蹟挑戦に必要なアイテムが揃っていれば単独で秘蹟の踏破が可能だ。
だからその準備にかかる諸々の時間をお金で解決する。
資金稼ぎが必要ってのも、そもそもはそういう話だしね。
そしてもう一つ。
正直こちらはあまり期待していない。
なにせ言ってる自分ですら無茶な考えだと思うからだ。
でも、やらないよりはマシ、もし成功したら貯金を崩さずにすむ。
加えて安全マージンも確保できて踏破スピード爆上がりだ。
一人で強行軍するとなると、多少なりとも危険はでてくるからね。
つまりやり得。
でも、どう考えても無茶。
とかなんとか考えつつ、とりあえずギルドの受付に依頼を出した。
そして次の日、これで依頼を受ける冒険者がいなければ諦めて今日買い出しして明日の朝に出発しようと考えていたのだが――
「あ、ミリリアンナ様、ミリリアンナ様が希望されていた
朝、ギルド会館にやってきて早々に。
昨日と同じ受付のお姉さんから、そんな風に声をかけられた。
まじかぁ。
<>
依頼とはこうだ。
『当方Aランク冒険者、近日中に秘蹟への踏破を行うためその同行者を募集する。
条件はBランク以上の冒険者で、二、三日で秘蹟の踏破が可能な実力を有するモノ。
募集の期日は明日の朝まで、もし希望するものがいたら名乗り出てほしい。
報酬は要相談。可能な限りそちらの要求に答える。
Aランク冒険者 ミリリアンナ・アルトハルト』
概ねこんな感じ。
何このふざけてるのかって依頼。
こんなの受けるのはよっぽどのお馬鹿さんか、私の知り合いかのどちらかだ。
前者はまぁ流石に依頼を受ける段階で弾かれるだろうから、要するに偶然にも私の知り合いがこの街にいて、私の依頼を目にしたということになる。
なんという偶然。
というか私のこういう依頼に応えてくれる関係の知り合いなんて数人しか心当たりがないから、本当に運命的な幸運だ。
これは私にも、多少なりとも運が向いてきたか? いや、転生してかなり恵まれた境遇にいる時点で幸運なんだけど。
そんなものがまやかしであると、私はすぐに突きつけられることとなる。
「あらぁ、ミリリアンナちゃんまた大きくなりましたぁ!?」
この人が受けてくれましたよと受付嬢が呼び出した“彼女”を見た時、私は回れ右をしたくなった。
ある意味異様な女だった。
まず何と言っても、服装が巫女服っぽいソシャゲによくある感じの露出度の高い服。
いくらこの世界が緩めのファンタジー世界だからって、割と世界観無視してるなって感じの衣服を身にまとった白髪で長身の女性だ。
年の頃はよくわからない。十代にも見えるし、二十代にも見える。
何なら若すぎる四十代にも見える。
総じて言えることは色気が凄い。
露出度の高さもそうだが、こいつの胸の大きさはおそらく世界一だ。
私の知る限りこの世でもっとも大きい爆乳をたゆんたゆんと揺らしながら、そいつは私に笑顔で手を振った。
というか、私にパタパタと駆け寄ってきて、
「……マルセナ、きむぎゅう」
君か、と言いかけた私をその胸でむぎゅう、と包んだ。
声に出るくらいむぎゅう、とされた。
息が苦しい。
「んー、魔力の総量もまた多くなってます。アンナちゃんは毎日が成長期ですねぇ」
「むぐぐむぐ、むぐぐぐむぐぐ、むぐむぐぐ」
「はーい、貴方のマルセナ・フォクセシアですよ?」
マルセナ・フォクセシア。
それがこいつの名前だ。
如何にも“和”って感じの見た目から繰り出されるバリバリの横文字ネームに脳がバグる。
ともあれ、その性格はここまでの流れを見れば一目瞭然。
優しい(含みのある言い方)えっちなお姉さんだ。
ランクはB、だが実力は折り紙付き。
まぁ、ダンジョン攻略の同行者としてはコレ以上無いほどの適任だろう。
「……ぷはぁ! スキンシップが激しい! あと私は別に大きくなってない」
「気にしてるんですか? ふふふ、そういうところは可愛げがありますねぇ、アンナちゃん」
「遠回しに私に可愛げがないと言っているのか?」
マルセナは、ニコニコと笑って答えなかった。
いや、自分でも己に可愛げなんてものがあるとは思っていないが。
それでもこう、近くにいると体力を使うタイプの相手に言われると思うところはある。
何だよその含みのある笑いは、文句があるなら口で言え、口で。
「それにしたって、随分とまた間がいいな、君は」
「うふふ、アンナちゃんがカタラクトに挑戦するっていうのはぁ、小耳に挟んでたんですよぉ」
「……うん?」
「それで? 近く騎士団もカタラクトの調査をするっていうじゃないですかぁ」
「…………」
あれ? それってつまり?
「多分、アンナちゃんがこういう依頼を出すんじゃないかなぁって、スタンバってましたぁ!」
ストーカーじゃないか!
「……依頼を破棄する! やめだやめ! 私一人でダンジョンに潜る!」
「ええー? 一応依頼を出すまで妾、我慢してたんですよ? それなのにやめるだなんてあんまりです」
どうでもいいけど、マルセナの一人称は妾である。
雅だ……いや似合ってるんだけどさ。
というか、顔が近い!
「そもそも、既に依頼は受諾されてますから。破棄するとなれば当然違約金が必要です。それを支払って、ダンジョンアタックの資金を捻出できます? アンナちゃん」
「うぐ……」
できなくはない、できなくはないが。
その後数ヶ月はまた貯蓄に励まなくてはいけなくなる。
それだけあれば、秘蹟一つ回れるというのに。
比較的どうでもいい出費で、それだけの遠回りは御免だ。
何より……
「つまり、君はなんだ? もしかしてこれまでも、私が依頼をだしたらすぐに応えられるようにスタンバイしてたのか?」
「? そうですよ?」
「……マジか」
別に本人の勝手とはいえ、ストーカーした結果とはいえ。
そういうことをされるとちょっと申し訳ない気分になるな。
しかも、あくまでこちらから言い出さない限り目の前に現れることはないとまで来た。
実際これまで、私は彼女がストーキングしていることを知らなかったわけだし。
思うに、こういうところで強く断れないから、私は適当なんだと自分でも思うのではなかろうか。
派閥闘争のこともそうだが、本当に嫌ならはっきり突っぱねてしまえばいいのだ。
そうすることができる程度に、私はこの世界では強いのだから。
でもまぁ、
それをやったら、多分この先もっと嫌な気分になるよなぁ。
漫然と、そう思う。
「……わかったよ、失礼なことを言って悪かったマルセナ」
「いえいえ、それじゃあ一緒にダンジョンに潜って、秘蹟に挑戦してくれるんですねぇ?」
ああ、とうなずく。
流石にここまで来たら、それ以外の選択肢はあるまい。
今回の秘蹟踏破は、マルセナ・フォクセシア同行のもとで行われる。
これは決定事項だ。
ただし、
「それで、報酬の件なんだが」
「それで、報酬の件なんですけど」
――その時、私とマルセナの言葉が綺麗にシンクロした。
「報酬はお金やダンジョンのお宝で――」
「――“可能な限りそちらの要求に応える。”でしたよね?」
「……はい」
書かなければよかった。
どうせ来ないんだから、そんな一文書かなければよかった――
もし来るとしたら知り合いで、そうなるとその一文を書いて後悔することになるのはマルセナと……あとまぁ一人か二人いるかいないかくらいだからと。
せめて誠意を見せないとと思って、そう書き加えたことがいけなかったのだ。
結果として、可能な限り要求に応えると書いたことを、最も後悔する相手が依頼を受けてしまった。
うん、まぁこればっかりは自業自得ですね。
いやしかし、交渉の余地はあるはずだ。
「報酬は後払いで……!」
「ええー? 前払いでいいじゃないですか。報酬に多少時間を使っても、妾がいればダンジョンの探索効率が数倍に跳ね上がるのはアンナちゃんもご存知の通りですよ?」
「…………」
反論できない!
終わりだ……
「分かりました……」
「やったぁ! それじゃあ一緒に――」
なぜ、私がこんなにも報酬の件でマルセナと揉めるのか。
理由はとても単純だ。
いや、どっちかというと、艶やかに。
「――宿屋まで行きましょうかぁ」
「……はい」
私は獅子の前に放り出されたネズミのように、か細くそう答えるしか無いのだった。
あ、いやまって受付のお姉さん! 決していかがわしいことではないんです!
ホントだって! 違うんですってば!
顔を赤らめてひそひそと隣の受付の人と話をするのをやめてください!!
TSモノには主人公を良くない目で見るえっちなお姉さんは必須という話。