TSして容姿にも才能にも恵まれたけど、漫然と生きる転生者。   作:フル圧

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多分人生で一番TSを実感する瞬間の話。

 本当にいかがわしい話ではない、と予め断言しておく。

 少なくとも私の貞操は今のところ無事だ。

 そろそろ一体どこで捨てるんだという気にもなってきたが、男相手は断固拒否なので今のところ鉄壁の城門は閉ざされたままである。

 

 という下の話はさておいて、私はTS転生者である。

 前世は男、性自認だってどっちかというと男に近い。

 それでもあまり周囲からは奇異の目では見られないが。

 これは幼い頃の厳しい花嫁修業と、二十年にも及ぶ女性としての生活で諸々のことに“慣れて”しまったというのが実際のところ。

 ただそれでも、普段着などはどちらかというと男性的で、地味なファッションであることが多い。

 

 騎士学校時代。

 つまり学生時代は制服だけが私のファッションだった。

 男性らしいずぼらな感覚がそうさせたというのもあるが、単純に騎士学校の制服は中性的で性別を意識させないものだったというのが大きい。

 閃姫なんかは、おそらく参謀の彼女が着せたのだろうけど、それはもうお姫様というか。

 姫騎士! って感じの格好をしていたが。

 というか女性の騎士候補生は大抵制服をある程度カスタムしてくる。

 そんな中、デフォルトの制服を常に着込んでいた私は、逆にかっこいいと女性から評判だったのは、何だか不思議な話だ。

 

 話を戻すと、私はあまり女性的な服装を好まない。

 着れない訳では無いが、積極的に着ようとは思わない。

 この傾向は冒険者になってからさらに加速した。

 理由は荒くれ者である冒険者の下卑た視線もそうだが、何より――

 

 

 騎士学校時代より、そういう衣服を着ることが増えたというのも、まぁ大きな理由の一つだ。

 

 

 <>

 

 

「きゃー! アンナちゃんかわいいですよー! きゃー!」

 

 今現在、私は自分が宿泊している宿屋で、マルセナから一種のセクハラを受けていた。

 直接身体を触られているわけではない。

 強いて言うなら、敢えてアレな表現をするなら。

 

 “視姦”、というのが正しいだろうか。

 

「ねぇ、そろそろいいかな? これ背中が大胆過ぎて恥ずかしいんだよ」

「むしろそれがグー! ですよ!」

 

 言いながら、私は鏡に背中を向けて振り返る。

 大胆というか、殆ど何も身に着けていないあけっぴろげな背中がそこにあった。

 透明感のある白い肌に、浮き出る肩甲骨がなんとも色気を感じさせる。

 ……これが自分でなければ。

 

 そう、私は今かなり大胆な衣装を身にまとっていた。

 

 具体的には、背中が殆ど開かれた、露出度の異様に高い白い軽装鎧である。

 当然おヘソだって見えている。

 逆に胸元はライトアーマーとでも呼ぶべき銀色の胸当てで覆われており、露出はない。

 代わりにふりふりのリボンがあしらわれ、ここだけはどちらかというと可愛げのある感じになっていた。

 下は当然スカートだ。

 それはもうギリッギリまで切り詰められた短い丈のスカートだ。

 

 これ、何かというとマジックアイテムである。

 この世界は、ギルド会館の水晶端末や、マルセナの服装を見ていると解るがかなりゆるい感じのファンタジー世界だ。

 ダンジョンに潜るとこんな感じのちょっとスケベな装備がドロップしたり、日本刀がドロップしたりする。

 私はそういう装備をいくつか保有していて、ダンジョンなどに潜る時はそれを着用する。

 つまりこれは私の私物なのだ。

 

「いやぁー、眼福、眼福。コレがあるから妾は明日も戦えるのです」

 

 ――マルセナの報酬とは、すなわち私を着せ替え人形にすることだ。

 なんというベタな話か。

 TS転生者といえば着せ替え人形。

 ちょっとエッチな衣装をたっぷり着せられて、恥ずかしがって顔を赤らめるのである。

 ……解っていても、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。

 これで、もう少し女性であることを受け入れられれば違うのかなぁ、とも思うが。

 

 鏡を見る、そこに映っているのは自分で言うのも何だがとんでもない美少女だ。

 背丈が低いせいで、あまりハタチには見られないが、凛としていて意思の強そうな顔立ちであることは確か。

 普段だとこれがもう少しジトーッとした眠そうな目をしているのだが。

 戦闘中とか、今回みたいに恥ずかしい思いをしていると緊張するので、自然と目がツリ目気味になる。

 

 コケティッシュな、イケメン女子がそこにいた。

 当然、私である。

 

「じゃあ、次はこれお願いしまーす」

「……もうそろそろいいんじゃないか? ここらへんでおしまいにしてもさ」

「だめでーす。アンナちゃんが後一着、新しい装備をダンジョンで見つけたって私、リサーチしちゃってるんですからね?」

「どこ情報なのさ、それぇ……」

 

 ぶつぶつと言いながら、アイテムボックスから小さな杖のようなものを取り出す。

 アイテムボックスはその名の通り……というと変だけど、異次元の収納スポットだ。

 創作でよくあるアレは、この世界にも我が物顔で存在していた。

 流石に高級品だけど。

 

 杖の方は、強いて言うなら魔女っ子ステッキとでも呼ぶべきだろうか。

 所持している衣服を自由に切り替えることのできるマジックアイテムだ。

 私の場合地味な冒険者ルックから、派手なソシャゲルックに変身するので、魔女っ子ステッキと呼んでいる。

 それを振るうと、私の衣装はさらに変化した。

 

 白を基調とした衣装から、黒を基調とした衣装へ。

 シルエットの印象は、制服のようなドレス。

 肩には金の刺繍、軍服についてるようなアレがあしらわれ、胸元はちょっとひらひらして開けている。

 胸以外を開けっ広げにする代わりに、胸元はしっかりガードされていたさっきの衣装とは正反対に。

 私の、華奢なスタイルにしてはそこそこ出ているバストが強調される感じの衣装だ。

 下はスカート、丈は結構長くて、膝くらいまである。

 

 ちょっと胸のあたりが大胆に見える以外は、結構フォーマルな、それでいて可愛らしい衣装だ。

 正直、個人的には出ているところが少ないので先程よりは恥ずかしくない。

 で、この服装、先程制服だとか、軍服だとか評したが――これには理由がある。

 

「……どうかな?」

「まぁ、まぁまぁまぁ」

 

 こういう場で見せるとなると、それでも多少は気恥ずかしくなるために、おずおずと問いかけてしまった。

 しかし、マルセナの反応はやはりというか好意的なものだった。

 

「――()()()()!」

 

 その言動は、ちょっと不思議なものではあったけど。

 

「“黒姫装束”じゃないですか! まさかまた見かけることになるなんて。相変わらずアンナちゃんは運がいいですねぇ」

 

 黒姫装束というのは通称だ。

 そもそもこの衣服、実は私の国の騎士学校の制服に近いデザインをしている。

 違うのは女性が着るための服であるということ。

 それを男女どちらが着ても違和感ないようにデザインしなおしたのが、騎士学校の制服なのだ。

 

 というのも、この服は今から千年前、魔物との激闘を繰り広げた騎士、“黒姫”クリスノートの身にまとっていた装備と同じものなのである。

 ちなみにこの黒姫は閃姫の先祖ね。

 なのでそこからこれは黒姫装束と言われている。

 

 元はダンジョンのドロップアイテムだったのだ。

 なので時には同じものが二つドロップすることもある。

 今回は千年越しに時代をまたぐ事となったが、ドロップすることは何らおかしなことではない。

 それがまぁ、いろいろあって黒姫に拾われて、人類と魔物の戦争の最前線で使われた。

 故にある意味象徴的な装備ではあるが、もちろん性能だってとんでもない。

 コレを着ているときの私と、普段着の私では倍近い戦力差がある……とここでは言わせてもらおう。

 

「これはアンナちゃんも、雷母ではなく雷姫とよばれることになるかもしれませんねぇ」

「いや、語呂悪いし……閃姫とかぶるのはなんか嫌だよ」

 

 あの子の事は嫌いじゃないし、むしろ好ましい相手だが。

 比べられるのは御免だ。

 もう飽きた、とも言う。

 

「それにしても……こうなると、もうアンナちゃんのニュースタイルも見納めですかねぇ」

「……確かに黒姫装束は私が持っている装備の中では一番高性能だけど、部分的には優れた装備もあるからどうかな」

 

 私はこれまで、ダンジョンで見つけた様々な装備を身に着けて戦ってきた。

 新しい装備を見るたびに、マルセナは私のニュースタイルだと喜んできたが。

 黒姫装束を越える装備は、今後そうそうお目にかかることはないだろう。

 

 寂しそうなマルセナにそう返しながら、私はコレまで身につけてきた装備の数々を思い出す。

 ダンジョンでドロップする女性向けの装備というのは、大抵可愛らしいかスケベな衣装だ。

 これはダンジョンのドロップを用意しているのが、戦の神様だからと言われている。

 この世界には神様が色々いるが、戦の神様はスケベで可愛い女の子が好きだと評判だ。

 

 ちなみにこの世界の神は女性しかいない。

 

 そういうわけもあって、私の装備というのはどちらかというと可愛らしい物が多い。

 多分、私の人生でこれほどまでに女性らしい服装を着ているのは、幼少期以来だろう。

 それくらい、今の私はかなりファッションが女性に寄っている。

 

 服装を選ぶ。

 その瞬間は私が人生で一番TSを実感する瞬間だ。

 お風呂に入っている時とかは、いっそ完全に女性であるためTSは意識しない。

 ファッションは、男物も女物も選ぶ余地がある。

 言ってしまえば、衣服とは性別を象徴するアイテムなのだ。

 

 普段は男性的な衣服を好む私でも、戦闘中はこうして女性的なものを着込む事が多い。

 そしてスカート系の装備で下着が見えていないかを気にするたびに、自分が女になっているなぁと実感するのだ。

 できれば、もう少しこの曖昧な性自認で状況をやり過ごしたいのだが。

 男にキュンとしないだけ、まだ私は踏みとどまっていると言いたい。

 

「妾ちょっと寂しいです。最初は何だか危なっかしい初心者だったアンナちゃんが、たった二年でここまで成長しちゃうなんて」

「一応、実力はそんなに変わってないからね? 正直この年齢になると身体能力の向上もだいぶ頭打ちだし」

「冒険者として、ですよぉ。少なくともアンナちゃんの装備は、二年でぐんぐんアップグレードしています」

 

 自分にしてみれば、適当にいい感じの装備にどんどん乗り換えていただけなのだけど。

 そう言われると、何だか自分が成長したんじゃないかなぁ、という気になってくる。

 

「そうだ! 私と初めて会った時の衣装に着替えてみてくださいよ、まだ持ってますか?」

「あれ? アレかぁ。アレはまぁ、初めて手に入れたマジックアイテムだから、記念に残してあるけど」

 

 言いながら、ステッキに意識を向ける。

 懐かしくなった勢いもあって、着替えるのはさして抵抗もなかった。

 まぁ、服装としても黒に近い緑を基調としたスカート以外にさして特徴のない衣服であるから、デザインもあまり気にならないんだけど。

 

 ――ちなみに、ダンジョンで見つかるドロップアイテムはその人に相応しいものが自動的に選ばれる。

 衣服のドロップアイテムはその人がその場で身につけられるものになっているし、同じ衣服でも手に入れる人によってサイズは異なるものだ。

 

 だから、自然と。

 

「むぐぅ!」

「アンナちゃん!?」

 

 昔の衣服に着替えた私は、思わず違和感から胸元を押さえてしまった。

 思わず心配そうにマルセナが駆け寄ってくるが、大丈夫だと手で制する。

 なぜかといえば、答えは単純。

 

 

「……下着がきつい」

 

 

 ――ダンジョンのドロップアイテムは、下着まで一式ついてくる。

 なので、成長するときつくなるのだ。

 身長は、さして伸びていないけれど。

 こういうところは、この二年でも少しは成長しているんだなぁ、なんて。

 

 私はこの時、多分人生で最も自分がTSしたのだと、実感したのだった。




もうすぐハタチでも多少は成長するという話。
身長の割には結構大きいです。
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