TSして容姿にも才能にも恵まれたけど、漫然と生きる転生者。 作:フル圧
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今後もよろしくお願いします。
マルセナ・フォクセシア。
自称ちょっとえっちな優しいお姉さん。
私から言わせてもらえば大いに異論はあるものの、冒険者としては優秀で実力があることは確かだ。
彼女の性格はともかく、彼女に幾度も世話になっている身としてはその実績を否定することはできない。
先ほど私を着せ替え人形にしたように、可愛いものには何事も目がない性格。
だからか有望で可愛い新人に対しては非常に優しいと評判だ。
自称ちょっとえっちで優しい……はここからきているんだろう。
ただ同時に、見込みの薄い冒険者には厳しい存在であるとも言われている。
冒険者はとにかく無茶をして死ぬことの多い職業だから、若い人間がそうやって死んでいくのをみていて許せないのだろう。
ぶっちゃけ私も、最初はそういうダメな新人扱いを受けていた。
そりゃまぁ、最初の出会いがBランク魔物が出現した場所に突っ込んできたEランクの無謀な冒険者とそれを止める先達という立場だったのだから当然だけど。
でも正直な話私には勝算があった。
というかその魔物は騎士学校時代にソロで討伐したことのある魔物なので普通にやれば負けない相手だったのだ。
が、そんなことマルセナにわかるはずもなく。
お互い色々と行き違いをしたまま、その戦場で私たちは喧嘩をしつつBランク魔物を討伐した。
後から振り返れば悪いのは全面的に私で、その頃の負い目もあってかいまだにマルセナには頭の上がらない部分も多い。
マルセナがバカを言っているならともかく、冒険中の私とマルセナの関係は、当時から変わらず。
厳格な先輩と適当な後輩という、そんな関係に落ち着いていた。
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「アンナちゃん、右の方の通路からまた新しい魔物が来ますよ!」
「無視して突っ切ろう、もうすぐ休憩ポイントなんだ。今日はそこまでさっさと進みたい!」
「ちょっとは慎重になってくださいよぉ! やってくる魔物が今のアンナちゃんより速かったらどうするんですか!?」
ダンジョン。
冒険者の探索先として、これほど王道な場所はそうそう無い。
神が魔物を封じた土地。
それは例えば広大な洞窟であったり、煉瓦造りの迷路であったり。
時には火山の中に作られた燃え盛るダンジョンや、深海の中にある特殊な魔術が使えないと入ることすら叶わないダンジョンすらある。
そんな個性豊かなダンジョンの定義は三つ。
一つは魔物がランダムでポップするということ。
もう一つは宝箱が定期的にどこかへ出現するということ。
そして最後に、秘蹟とそれを守る“守護者“が存在することだ。
今私たちが潜っている“カタラクトの巣穴“は、地下へ地下へと進んでいく迷路型の比較的オーソドックスなダンジョンだ。
ダンジョンの危険度は基本的にそのダンジョンの深さによって決まる。
カタラクトの巣穴は、地下五層に及ぶ深度を誇り、これはダンジョンの中でも平均に位置する。
なんというか、プレーンオブプレーンなダンジョンと言える。
そんなダンジョンを今私とマルセナは、
「……ほらやっぱり追いついてきた! スピルドービー、ランクBの危険なモンスターです!」
「追いついてきたら? そんなの最初から決まってるじゃないかマルセナ!」
スピルドービーは、“ビー”から察しがつくかもしれないが蜂型の魔物だ。
とにかく速度が速いことが有名で、私の見立てだとその速度は音速を越える。
針に強烈な毒を持つことも知られているが、ぶっちゃけ毒で殺すよりその速度を活かしての突撃で冒険者を屠ってくることのほうが多い。
とはいえ、私のやるべきことは変わらない。
振り返った私の尾を引いて、稲光が空中を奔る。
その光が私の手の中へと集まり、そしてそれが迫り来るスピルドービーに襲いかかった!
「直接私の雷撃で迎撃するまでさ!」
「もう、どうしてアンナちゃんは戦闘中そんなにイケイケになっちゃうんですかぁ!」
高速で飛び回る蜂。
それらは私の雷撃を、一度は回避する。
しかしこちらはまだまだ何度でも雷撃を放射できる。
回避したところを狙いすましての第二射、直撃を受けた蜂はビビビッとその場で痺れながら停止する。
やけこげた臭いが、周囲に広がった。
「やりましたか!?」
「やってないかも! いやでも、あれだけ綺麗に焦げれば速度は落ちるさ」
そう言うと私は魔物に背を向けて、悠々と迷宮を雷光を纏って飛び去っていった。
背中には私に振り回されるマルセナを抱えて。
詰まるところ、今の私たちは私がマルセナを背負って空を飛んでダンジョンを進んでいるのである。
いうまでもなくこれが移動方法として一番速いからだ。
「仕方ないといえば仕方ないですが、情緒がないですねぇこの探索方法」
「宝箱も全部スルーすることになるしね、強行軍じゃなければやらないよ」
なお、口にすると怒られるので黙っているが、この場合の強行軍とは探索がめんどくさくなった場合も指す。
だって律儀にマップの全部を埋めるのって面倒なんだもん。
前世ではゲームのトロコンとかマップ埋めとか全然やりきったことのない面倒くさがりなもので。
実際に移動する必要があって、ゲームの数倍も時間がかかるダンジョンアタックでそんなことやりたくない。
「そろそろ第三階層も終着。丸一日ぶっ続けて飛び回ったけど、案外何とかなるもんだね」
「今のアンナちゃんの魔力ならコレくらい当然ですよー、とはいえ流石に集中力がひれひれじゃないですか? 休憩ポイントについたらじっくりおねんねしましょうね?」
「待ってくれ何をするつもりだ? 普通に休むぞ私は!」
嫌だ、女子になって赤ちゃんプレイとか男のままより恥ずかしい!
なんかこう、タダの変態って扱いで済む男より、普通に許容できる範囲な気がする女のほうが自分的にはメンタルに来る!
なんて、意識が完全に休憩に向いて、ちょっと集中が途切れたタイミング。
「――ストップ」
それが、マルセナの真面目な声音で一気に引き締められた。
私は即座に滑走をやめると、安全にスピードを落として地面に着地した。
雷光が若干地面を焦がし、尾を引いて跡を残す。
それをちらりと振り返ってから、前方の気配に意識を切り替えた。
「何体いる?」
「……三十体くらいでしょうか」
「魔物溜まりかぁ……厄介だな」
魔物溜まり。
一言で言えばダンジョンによくあるモンスターハウスだ。
この世界の知識で説明すると、魔物が発生しやすいポイントであるダンジョンの中で、さらに強く魔物が発生するポイントがある。
それが魔物溜まり。
“悪い魔力”が集積してできるとかなんとか、騎士学校では習ったけれど。
結局、そこには結構な数の魔物がうようよしている。
コレをほうっておくと最悪魔物がダンジョンの外に出てしまう。
なので見つけたら掃除するか、即座にギルドへ報告するのが冒険者の鉄則だ。
――それ、強行軍でダンジョンを攻略したい私達にとっては最悪じゃない?
と思うが今回はその限りではない。
「スピルドービーは、ここから湧いてきたんですね」
「三層にしては物騒な魔物だったが、そういうわけか」
私もマルセナもそのことはわかっているので、落ち着いたものだ。
そもそもダンジョンに魔物溜まりができることは珍しいことではないのと、後はもう一つ。
「Aランクの魔物がいなければ、騎士団の方にお任せしてしまいましょう」
「そもそも騎士団が調査に来てなければ強行軍なんてしてないわけだし、それがいいね」
そう、騎士団がいるのだ。
連中はAランクの魔物だろうと、そいつが群れで暴れてなければ普通に討伐できるくらいには強いので、Bランクの魔物しかいない魔物溜まりくらいなら心配は要らない。
流石にAランクの魔物がいた場合は、最悪巣穴外にある街が滅ぶ可能性もあるので無視はしないが。
念のため、探知魔術に反応して応答を返すマジックアイテムを設置しておけば大丈夫だろう。
これは魔物溜まりを発見したけど、訳あって対処できないということを表明するためのアイテムだ。
騎士団に先に秘蹟へ挑戦すると報告したら、もし魔物溜まりを見つけたらこれを設置しておいてくれと言われたので忘れずに設置する。
任せてしまうのは申し訳ない、という気持ちもあるが。
騎士団にしてみれば、自分たちの仕事であるはずの魔物溜まりの駆除を少人数の冒険者に任せるほうが問題だ。
だからこちらの問題は――
「後の問題は、ここを通らないと休憩ポイントにたどり着けないってことか」
「それに関しては――」
ひょいっと、マルセナが私から飛び降りると自身のアイテムボックスから、自身の得物である錫杖のようなものを取り出す。
見た目は錫杖だが頭部に槍の穂先がついているのが特徴の、これまたマジックアイテム。
「この妾、マルセナ・フォクセシアちゃんにお任せあれ!」
「年齢考えて?」
――と即答したらマジ蹴りされた。
スネがいったいんですけど!?
気を取り直して。
マルセナは魔力を集めると、それを杖を介して私と自身に使用した。
“幻月”マルセナ・フォクセシア。
そんな二つ名で呼ばれるBランク冒険者のマルセナが操るは、“幻術”。
すなわち私達にそれを使用すると何がおきるかというと――
「いいですか、アンナちゃん。静かに、しー、しーですからね?」
「わかってる、わかってるから引っ付かないでくれるかなぁ?」
私達は、その後三十体以上もの魔物が待ち受ける魔物溜まりを、我が物顔で通り抜けようとしていた。
いや、正確にはかなり慎重に、バレないように進んでいるけれど。
現在私達の姿は魔物達には見えていない。
足音も、聞こえていない。
そんな状態で、こっそりと魔物だまりを抜けようとしていたのだ。
そう、マルセナは幻術使い。
視覚や聴覚から相手の認識を操作してしまう。
操作されているということすら認識できないほどの幻術。
気がつけばマルセナの術中にハマってしまうそれは、あまりにも驚異であると言えた。
ここまでくれば、マルセナの言葉の意味も理解してもらえるだろう。
自分がいれば探索効率は数倍に跳ね上がる。
その原因が、これだ。
私がいれば、ダンジョンを場合によってはギミックを無視して高速で突破できる。
マルセナがいれば、凶悪な魔物がいてもそれをスルーして突破できる。
はっきり言って、ダンジョン攻略において私とマルセナほど相性のいい冒険者もいないだろう。
自称、ちょっとえっちなお姉さん。
私にとっては、お小言が多かったり何かと人をスケベな視線で見てくる先輩。
それが、マルセナ。
まぁ尊敬はあまりできないが……すごいヤツであるということに違いはない。
そしてコレまでの私とマルセナの言動で想像がついてるモノもいるかもしれないが。
マルセナ・フォクセシアには、ある秘密があった――
一ヶ月が三日になるのは数倍ってレベルじゃねえんだよなぁ…という話