TSして容姿にも才能にも恵まれたけど、漫然と生きる転生者。 作:フル圧
マルセナがミリリアンナと出会ったのは、今から二年ほど前のこと。
二人が出会ったのは、とある戦場と化した森の中であった。
人が住んでいないような森の中。
そこに、数体のBランク魔物が突如として出現したのである。
普段はせいぜいがDランク魔物が年に一度現れるかどうかという森だ。
当然、人々の対応は遅れた。
普通こういった魔物を討伐するのは騎士団なのだが、その森はあまりにも辺鄙すぎて、騎士の到着にはかなりの時間を要する。
そんな場所に、偶然通りかかったのがBランク冒険者のマルセナだ。
一般的に、Bランク冒険者にはBランクの魔物をタイマンで勝率五割程度の実力があればなることができる。
だから、数体のBランク魔物が出現したこの状況を一人でどうにかするのは明らかに無茶だ。
彼女が“幻月”マルセナ・フォクセシアでなければ。
実際のところ、マルセナがBランク冒険者をしているのは様々な事情があってのことで。
本来の実力はもっと上。
ミリリアンナ曰く「本当はSだけど、面倒だからB」。
いや何の話だ、マルセナはよく解らなかった。
ともかく、幸運にもマルセナが居合わせたことで、なんとかその森での騒動は大きな被害なく沈静化する。
……はずだった。
討伐に向かったマルセナの側を、一人の少女が雷光を纏って通り過ぎていくまでは。
言うまでもなくミリリアンナである。
――信じられないものを見た。
まず最初に信じられなかったのは、ミリリアンナの服装である。
彼女が身にまとっているのは黒に近い緑を基調とした衣服なのだが、それは主にEランクからDランクの冒険者に最適とされるマジックアイテムだ。
それを身にまとうということは、彼女がこの場にいてはいけないランクの冒険者であるという証。
慌ててそれを止めようとマルセナは幻術をミリリアンナにかけたのだが――
彼女はその幻術を
殆ど自殺行為である。
最終的に、問題なくミリリアンナがその魔物と戦えたこと。
止めるよりも、協力して魔物を討伐した方が早いと判断したことから、マルセナはミリリアンナの静止を諦めた。
終わったら目一杯お説教をして、二度とこんな事はしないと誓わせると心に決めて。
――そうして話をしてみると、ミリリアンナはあっさりマルセナに自分が悪いと全面的に認めて謝罪をした。
意外、というか。
思ってもみない反応だった。
Bランクの魔物と問題なく戦闘ができるEランクの駆け出し冒険者。
どう考えても別の分野――例えば騎士――でその才能を磨いてきた実力者である。
だから今回の件は、マルセナが誤解をして彼女の邪魔をしてしまったとも言えなくはない。
とはいえどちらに問題があったにせよ、マルセナはミリリアンナは自分の非を認めないだろうと思っていた。
才能があり、自負もある。
あのくらいの魔物なら問題なく倒せる実力者。
相応にプライドというものがあって、マルセナもそれは尊重されるべきだと考えている。
ただそれはそれとして、言うべきことははっきりと言うとマルセナが決めていただけで。
しかし、ミリリアンナは素直に認めた。
全部自分が悪かったのだと。
そう端的に言って頭を下げたのである。
そうなってしまうと、次に困るのはマルセナだ。
決して今回の件はミリリアンナが全面的に悪いというものでもないのだから。
迷惑をかけてしまった詫び。
そして何よりも、マルセナが感じた直感。
それらを総合して、マルセナはある提案をした。
“冒険者としての心得を貴方に教えます。それでどうか、この件は手打ちということにはできませんか?”
――と。
マルセナの感じた直感。
それはとても、あまりに単純な話だった。
この少女は、放っておけない。
まるで、雲をつかむような雰囲気が、かつての“彼女”を想起させたのか。
マルセナの、ながい、長い――あまりにも永い人生の中で。
たった二回しか感じたことのない、その直感を。
マルセナは、どうしても無視することができなかったのだ。
<>
休憩ポイントとは、ダンジョンの中で唯一魔物が湧かず、そして入ってこない場所だ。
なんでそんな都合のいい場所が、と思うがダンジョンは神の創作物。
そういう都合のいいことができるから神なのだ。
実際、それがあるから私たちは問題なくダンジョンを攻略できるわけで。
これで到達済みの休憩ポイントをつなぐワープとかあったら、ユーザーフレンドリーなんだけどなぁとか私は思ってしまうが。
これら休憩ポイントはダンジョンの各階層の最後に設けられている。
だからダンジョン攻略を目指す場合は、一日でこの休憩ポイントに到達することを目標とする。
本来ならまずはそのためにじっくりマップ作成に励み、準備が整ったと判断したら一気に一日で休憩ポイントに到達。
そこを拠点に次の階層を探索……というのが一般的だが、私達の場合は違う。
ダンジョンの中を他人の数倍速で行動できる私と、強敵を幻術で無視できるマルセナ。
この二人なら、一日もあれば五層あるダンジョンの半分を無理やり踏破することも可能だった。
まぁ流石に、一人で探索する場合はもう少し慎重にやるんだけど。
事前の準備も含めて一ヶ月からニヶ月。
……それでも、普通の冒険者なら秘蹟踏破は一年かかると言われているから、随分早いけどね。
他にも例外はある、騎士団だ。
彼らはそもそもダンジョンのマップを持っているので探索に時間をかける必要はない。
騎士団がダンジョンのお宝を物色するのも、冒険者から悪印象を持たれる。
なので彼らはさっさとダンジョンを攻略してしまうのだ。
ともかく、私とマルセナは魔物溜まりをなんとか幻術で突破して三層の休憩ポイントまでたどり着いた。
ここまでが一日目の工程。
二日目に五層まで突破、三日目に“守護者”の討伐。四日目から秘蹟を見て回って、目的が果たせれば五日目には帰途につく。
そんな感じのスケジュールだ。
騎士団の出発は今日か明日。このスケジュールなら、秘蹟からの帰りにどこかで騎士団とすれ違うだろうという想定である。
のでまぁ、今日はゆっくりと休む。
私の魔力総量はチートとしか言い様がない。
なのであれだけダンジョンを雷を纏って走り回っても底をつくことはない。
だが、それでも魔力の回復に睡眠以上に効率的なものはないので、休憩ポイントではぐっすり休むのだ。
幸いにもブッキングする冒険者もおらず、今日は一日快適に休めそうである。
――なんて思って寝袋に入ったのだが。
ふと、夜中に気がついて目が覚めると、その寝袋の中にマルセナが入っていた。
正直、叫び声を上げてふっ飛ばさなかったのは、単に運が良かったからだ。
いやだって、マルセナはなんか私を見る目がやらしい。
同性だから我慢しているだけで、これが異性だったら絶対に距離を取っている。
いや自分としては私はどっちかというと男なのだけど。
ともかく、私は気がつけばマルセナに抱きしめられていた。
私を圧迫する特大の包容力。
爆がついて乳がつく母なる大地に顔を埋めながら。
どうしたものかと思案する。
まぁ、悪いのはマルセナなんだし、起こしてどっかに行ってもらうかとも考えた。
だが、何となくマルセナがこうなる理由にも想像がつく。
私は今、黒姫装束を身にまとって眠りについている。
休憩ポイントだから必要ないといえばないのだが、一応即座に戦闘へ入れるように。
……マルセナにとっては、思い出しか無いこの服を着ているのだ。
顔に出さなくとも、思うところはあって当然。
事実――
「……クリス」
ぽつり、とつぶやいたマルセナの言葉に。
私は、一つ溜め息。
しょうがないと諦めた。
「私はクリスじゃないよ……ミリリアンナだ」
“雷母”ミリリアンナ。
まぁそんな風に呼ばれるわけだからして。
今日くらいは、母みたいなことをしてもいいかな、なんて思うのは果たして間違いだろうか。
<>
聞くところによれば、ミリリアンナはダンジョンの最奥にある秘蹟を巡るためにAランク冒険者になったらしい。
バカなのだろうか。
思わず素で何をいっているのだ? と問い返してしまったが、流石にこれはマルセナが悪いということはないと思う。
一般的に、秘蹟とはこの世で最も神聖なる場所。
神々の眠る場所。
そこに入ることは、選ばれた人間だけに許された栄誉である。
かつて、騎士団の調査に同行したミリリアンナは、そこで秘蹟の美しさに魅了されたのだという。
確かに秘蹟は美しい空間だ。
しかしだからといって、まるでそこに観光か何かのような気軽さで向かうのは果たしてどうか。
ただ、一言言えるのはミリリアンナは本気だ。
決してふざけてなどいない、理由こそ軽いが本気で秘蹟を踏破しようとしている。
さらに言えば、ミリリアンナの実力もまた本物。
マルセナと初めて出会った時は、高ランクの魔物を討伐することでランクを効率よくあげようとしていたらしいが。
そんなことをしなくとも二年もすればミリリアンナはAランクに上がっているだろうとマルセナは断言できた。
結果は、その半分の一年というあまりにも早すぎる速度での到達であったが。
ミリリアンナと出会ってからというものの、マルセナの生活は大きく変化したと言ってもいい。
それまで、マルセナの旅に目的などなかった。
世界のあちこちを当てもなくさまよって、困っている人がいれば助ける。
そんな生活を、果たして
それが、ミリリアンナと出会ってからはまさに波乱の連続。
何故か彼女がどこかの街へたどり着くと、そこでは必ず事件が起きる。
街を騒がす誘拐事件、ダンジョンから溢れ出る魔物、果てはAランク魔物の襲撃など。
普通の人間が生きていれば、一生に一度出会うかどうかのイベントを、彼女は毎日のように体験しているのである。
今回の、秘蹟踏破だってそうだ。
まさか騎士団の調査とブッキングするなんて。
しかも、だというのに騎士団と協力せず一人で秘蹟を踏破――どころか、騎士団より先に踏破したいだなんて。
言っていることは解るが、あまりにも非常識だ。
放っておけないというマルセナの直感は正解だった。
こんな少女、果たしてどこで倒れてしまうかもわからない。
何より、彼女は何時かどこともしれない場所へ行ってしまうかもしれない。
ミリリアンナと旅をすると、どうしてもそう思ってしまう。
掴みどころがなくて、気がつけば自分の手のひらからこぼれ落ちてしまいそうな少女。
誰の手を止まり木にすることもない渡り鳥。
彼女は目を離すと新しい装備をどこからともなく見つけてくる。
あそこまで複数の装備を見つける冒険者は稀だ。
まるで、見るたびに姿を変える雲のように。
そんな少女の姿を見るのが、マルセナは決して嫌いではない。
だから、あの手この手で、ミリリアンナの着せ替えを試みていたわけだが。
そんな彼女が、ついに黒姫装束を見つけた。
いつかはそんな時が来ると思っていた。
それがいつかなんて、考えたくもなかった。
違う、絶対に違う。
ミリリアンナは
ミリリアンナに
ミリリアンナは今を生きているのだから、彼女には彼女の人生があるのだから。
自分がミリリアンナを助けようとしたのは、
決して、ないのだ。
決して――
“黒姫”クリスノートの面影を、ミリリアンナに重ねている、なんてことは。
絶対に。
お姉さんの過去話をしつつ進めて行きます
昨日は色々あって投稿できなかったので今日は二回行動です。
次回は17時ごろ