アニメ最終話で、喜多ちゃんがぼっちちゃんのこと抱きしめながら腹話術してる場面あるじゃん?最後後ろからその二人が描かれてるところを見てさぁ 作:明太子美味しい
「あ、経験者の方でしたか!失礼しました」
「いえいえ大丈夫ですよ」
ふふっ、ひとりちゃんは本当に可愛いなぁ。
なんて思いながら、魂が飛び出ている彼女を抱きしめたそのとき、体中に電流が走る……!
防虫剤の匂いに紛れる、ふわりと香るひとりちゃんの良い匂い。
サラサラで綺麗なピンク色の長髪。
違う、いや違くない。
とても素敵な要素ではあるが、そんなことは幾らでも知っている。
私は今、かつて無いほどの衝撃を受けている。
興奮のあまり頭がクラクラしてきた。
なんだこれは、なんなんだ一体……!!
全神経を右半身に集中させる。
江ノ島に行ったときは感じなかった。そうか、あのときひとりちゃんはチャラ男に話しかけられて破裂していた――だから気付かなかった!
私はこの日、
――この世の真理を知った。
++++++
私、喜多郁代は毎日が充実している。ここ最近は特にだ。
今日も放課後、大好きな人のギターを一緒に買いに行く予定だ。毎日が幸せで、数ヶ月前までの私には考えられなかった。
高校入学当時の私は、新しく出来た友人とのカラオケやクレープ巡り、イソスタ活動といった一般的な女子高生の生活を満喫していて、それなりに充実した日々を楽しんでいたと思う。
そんなある日、私の人生を変える大きな転期が訪れた。
結束バンドへの加入。
そして、ひとりちゃんとの出会いだ。
バンド加入のきっかけは、リョウ先輩への一目惚れという不純なものであった。
当時を思い返すと、我ながら凄い行動力だと感心してしまうが、同時に自分自身の浅はかさに嫌気が差す。歌うことが得意なだけであり、楽器の知識など何一つ無かった私は、案の定上手くいかず初ライブもドタキャンしてしまった。
私って最低だわ……。
しかし、そんな自己嫌悪と罪悪感で押し潰されそうになっていた私を、結束バンドの先輩達は許すと、もう一度バンドに入って欲しいと温かく迎え入れてくれた。
そしてそのきっかけを作ってくれたのがひとりちゃんだ……!
――後藤ひとりちゃん。
第一印象は不思議な子。ギターがとっても上手で、少しだけ人と話すことが苦手。いつもピンクのジャージを着ている可愛らしい女の子。
――けれど、いつだって私達がピンチになったら助けてくれる、そんなヒーローみたいな女の子。
今になって気づく。私が再加入したあのときも、ひとりちゃんは勇気を振り絞ってくれたんだなと。
人見知りのひとりちゃんがあの日、初めて知り合った私を引き止める為に声を荒げるなんて中々出来ることではない。
今ではこれも、ひとりちゃんとの大切な思い出だ。
+++
そんなやる時はやるひとりちゃんではあるが、普段はちょっとだけ変な子だ。お話ししているときに中々目が合わなかったり、何も無いのに突然笑い出したり、体中がドロドロに溶けて小さくなったり。
ひとりちゃんの変なところはまだまだある。
でも安心してひとりちゃん。
そういうところも可愛らしいなって、私は思います!キターン
それに、ひとりちゃんにはかっこいいところもちゃんとある。特に記憶に残っているのは、新生結束バンド初ライブの日だ。
その日は台風が日本に上陸し、朝から土砂降りだった。
その影響かお客さんも
緊張や不安、涙が出そうになるくらい厳しいお客さんの感想。全部が重なってリハーサルのときみたいに弾けなくなってしまった私達。
「一曲目、『ギターと孤独と蒼い惑星』でした!」
そのまま落ち着くことすら出来ず一曲目が終わってしまう。
スタジオの空気は既に冷え切っていた。
どうしようお客さん一人帰っちゃったしどうしようどうしようどうし――
左隣から聞こえて来る鋭いギターの音。
驚いて振り向くとそこには――
初めて見る後藤さんがいた。
見たことないくらい目を見開いて、見たことないくらい集中していて、
そして――
聞いたこともないくらい熱い想いを叫んでいた。
――このままじゃ嫌だ……!
私はその姿から目が離せなかった。その姿が輝いて見えた。
後藤さんを見ていると不思議と緊張と不安が無くなっていく。
私は後藤さんみたいになれない。
ギターの技術は未熟かもしれない。ボーカルの歌声もまだまだかもしれない。
それでも、
――私だってこのままじゃ終わりたくない……!
それからの演奏はあまり覚えていない。
けれど、お客さんの熱い拍手の音は未だに強く耳に残っている。
その日から私は――
後藤さんってかっこいい……!
――後藤さんのことを意識し始めた。
+++
そんなかっこいい後藤さんは、学校では友達が居ないため一人でいることが多いみたいだ。
どうしてみんな彼女の魅力に気が付かないのか、不思議に思う。
だから、後藤さんが文化祭ライブの申請用紙を握りながら保健室で寝ていたとき、ちょうど良いと思った。
後藤さんは文化祭ライブに出たい。
私はみんなに後藤さんのことを知って欲しい。
誰も損をしない。絶対文化祭ライブに出ようと思った。
保健室にもう一度様子を見に来たとき、捨てられていた申請用紙を見て少し悲しくなりながらも、勝手に用紙を提出した。
それを伝えた時、後藤さんは物凄い顔をしていた。
――善意の押し売りをしちゃうのが私の悪いところだわ。
あれから後藤さんは棺桶に引きこもり、セルフお葬式を始めてしまった。
その様子に僅かな罪悪感を覚えてしまうが、それでも後藤さんにはライブに出て欲しい。そう思っている。
そんなとき、廣井きくりさんの紹介で、
先輩達も配慮してくださり、後藤さんのギターソロを曲の途中に設けていただいた。
私は嬉しかった。文化祭ライブは絶対楽しくなるだろう。
それになにより、
――これでみんなも後藤さんのことを!
そんな未来に期待しながら彼女の方を窺うと、どこか思い詰めた表情をしていて……。
――ごめんなさい……!
私は後藤さんに全てを白状し、わざと申請用紙を提出したことを謝った。
私の告白を聞いた上で後藤さんは私のことを責めなかった。それどころか、
「感謝してます」
「ありがとう」
キュゥゥゥゥゥン
――後藤さん!私、もっともっと練習頑張るから!だから文化祭ライブ、絶対成功させましょうね!キタキターン!
「あ、はい」
――だって後藤さんは……。
+++
そんな誑しの後藤さん。それに先輩達と、ライブに向けて日々練習を行い、遂に文化祭一日目になった。
この日はライブも無いためみんなで後藤さんのメイド喫茶に行く予定となっている。その際に
ライブ本番が翌日に迫り、みんなが気合いを入れ始める。
そんな中で私、喜多郁代は――
――後藤さんはやっぱり甘い系やフェミニン系の洋服が似合うわ……!
などというあまりにも緊張感のないことばかり考えていたのだった。
文化祭二日目、時間はあっという間に進み、遂に私達結束バンドが出演する番になった。
みんなで手を重ねて気合を入れる。
――それじゃあ行こう、後藤さん。
舞台の幕が上がり、私達の一曲目『忘れてやらない』が始まる。
この曲は比較的ポップな曲調ではあるが、流石後藤さん。
――とっても素敵な歌詞だわ……!
後藤さんらしい歌詞に楽しくなりながら、しっかりと一曲目を演奏しきった。
会場はかなり盛り上がっている。みんなで頑張って練習した甲斐があった。
私と虹夏先輩の軽いMCを挟み、二曲目『星座になれたら』が始まる。
私一推しの曲だ。だってこの曲は――
私への想いを謳ったラブソングなのだから!キタキタキタキターン! !
これ程の想いを伝えられて気合いが入らない訳ない。私はより一層力を入れてサビを歌い上げる。
そのとき――
――バツンッ!
後藤さんの音が無くなった。チラリと横目で確認すると、彼女の一弦が切れてしまい、同時にペグの方にもトラブルがあったようだ。
そんな中ギターソロが近づいて、後藤さんが目に見えて焦りだす。
――私にできることは……?
猛特訓したとはいえ、私に彼女のような演奏技術はない。
どうする、どうするどうするどう――
――そうだ、こんなときの為に私は練習してきたんじゃないのか。
後藤さんのように聴いた人を魅了する演奏技術を持っている訳でもない。
リョウ先輩のように独特な世界観、表現技術を持っている訳でもない。
伊地知先輩のように積み上げてきた、全体を支える技術を持っている訳でもない。
でも私は……、
――私は、みんなと合わせることは得意みたいだから。
大丈夫。先輩達なら分かった上でフォローしてくれる。
私は後藤さんにならなくていい。
彼女が立ち直るまで支えるだけでいい。
後藤さんなら大丈夫……!
だから――
「喜多さん……!」
――みんなに見せてよ
――本当は後藤さんは、凄くかっこいいんだってところを……!
+++
――ねぇひとりちゃん。
「あ、はい」
――私、ひとりちゃんを支えていけるようになるね。
「えと、あの……」
――大丈夫、気にしないで。
「どうして同じベッドに……」
+++++
私、喜多郁代は毎日が充実している。ここ最近は特にだ。
今も大好きな人と、それに先輩達とギターを一緒に買いに来ている。毎日が幸せで、数ヶ月前までの私には考えられなかった。
ふふっ。ひとりちゃん、まだ首振ってる。
お店の人も戸惑ってる。
そんなひとりちゃんも可愛らしい。
いつまでも見ていたいけど、そろそろギターを選びに行かないとね。
――ひとりちゃん、もう行きましょう。
「あ、はい」
ひとりちゃんはどうやらヤマハのギターにお熱らしい。
さっきから他のギターに見向きもしないでアレだけを見つめている。
――私もバイト代を貯めて同じものを買おうかしら……。
などと考えていると、いつの間にか店員さんがひとりちゃんに近づいていて、そのギターを彼女に勧めだした。
当然のようにひとりちゃんは縮こまり、アワアワと震えている。
そんなひとりちゃんも可愛らしいと思う程、私は彼女にお熱らしい。
いよいよ魂が飛び出し始めたひとりちゃんを支える為、私は彼女のもとへと向かう。
既に満身創痍の彼女を抱き抱えたそのとき、体中に電流が走る……!
私は今、かつて無いほどの衝撃を受けている。
興奮のあまり頭がクラクラしてきた。
なんなんだ一体、なんなんだこれは……!!
全神経を右半身に集中させる。
江ノ島に行ったときは感じなかった。そうか、あのときひとりちゃんはチャラ男に話しかけられて破裂していた――だから気付かなかった!
そう。
――ひとりちゃんって、とっても柔らかいのね!キタキタキタキタイクイクイクヨーン! !
+++
今日は良い日だ。
結束バンドでお買い物をして、新しいギターも買って。
なにより、ひとりちゃんがとっても柔らかくて気持ち――
「あの……」
――なぁに、ひとりちゃん……?
「今日はありがとうございました――」
「――また明日から、頑張れそうです」
そのあまりにも可愛らしい笑顔に、私は先輩達の存在も忘れて夢中で抱き締めるのであった。
ギュゥゥゥゥゥ
「ピェッ」
< ぼっちちゃんが死んだーッ!