アニメ最終話で、喜多ちゃんがぼっちちゃんのこと抱きしめながら腹話術してる場面あるじゃん?最後後ろからその二人が描かれてるところを見てさぁ 作:明太子美味しい
私は暗闇の中、息を潜める。
いつも彼女がここに入っているからだろうか。少しだけひとりちゃんの香りがする。
暗くて狭くて、それでいて少し不安だったけれど、彼女を感じたことで心に余裕が生まれた。
ふぅと一つ息を吐き、私はもう一度だけ作戦を確認する。
彼女が来る、捕まえる、以上!
あまりにも適当だが、これくらいしかやることがないのだ。決して私の頭が足りていないからではない。本当だ。
実は一度、この作戦は失敗している。対象を間違えて、伊地知先輩を相手に実行してしまったのだ。
その時はとても気まずかった。またなんかやってんのか、とでも言いたげな先輩の視線に、私は口を結んで耐えるしかなかった。
でも今回は失敗しない。伊地知先輩とリョウ先輩は既に来ており、いつものテーブルで駄弁っている。人は失敗から学ぶ生き物だ。同じ過ちはもう犯さない。
携帯画面を起動して時間を確認する。集合時間まで後十分。そろそろの筈だ。
彼女が――ひとりちゃんがもうすぐやってくる。
そう思うだけで心が躍り出した。
体をソワソワとさせて、早く、早くと心の中で急かす。
――トン、トン、トン。
そんな私の耳に入ってくる、入り口の階段を降りる足音。
来たわ!
音の発生源は、あと数秒で私の目の前を通るだろう。私は体勢を整えて準備する。
――トン。
あと少し。
――トン。
次、次ね!
――トン。
今よ!
私は勢いよく立ち上がる。
それから、目の前の存在をガバリと捕まえ『完熟マンゴー』の中に吸い込んだ。
「ピェッ!」
私達は暗闇の中で密着する。目の前の存在はふわふわとした弾力を伝えてくれた。
その感触に、私は作戦の成功を確信する。これは、この女の子はひとりちゃんだ!
「な、ななな!?」
彼女は突然のことに混乱しているご様子。私は彼女を落ち着かせるために、優しく抱きしめて頭を撫でた。
「あっ、き、喜多さん」
暗闇に目が慣れたのか、彼女は私の顔を見てから落ち着き始めた。
――おはようひとりちゃん。
「お、おはようございます。あ、あの、これは一体……?」
私は何も答えない。そのまま彼女に優しく微笑み、頭を撫で続けた。すると、彼女も恐る恐るではあるが腕をこちらに回し、抱きしめ返してくれた。それから彼女は目を瞑り、体から力を抜いて私に体重を預けた。
あはっ!
その様子に嬉しくなった私は、抱きしめる力をさらに強める。すると彼女は、頭を私に擦り付け始めた。
か、可愛い〜〜〜!
ひとりちゃんって甘えん坊なのね!
なんだか懐いた猫ちゃんみたいだわ!
彼女のあまりの可愛さに感動する。人は、ここまで可愛らしくなれるのか。
少しだけ体が震えた。いけない、今は彼女が寛いでいるのだ。あまり揺れては駄目だろう。
必死に堪えていると、耳元でスゥーッという規則的で、落ち着いた吐息が聞こえてきた。
なんと彼女は、私に体を預けて眠り始めたのだ。
その様子に、今まで感じたことのない感覚が湧き上がる。どこか温かくて、そして微笑ましいようなこの感覚。
彼女の頭を撫でながら、私は考える。
ずっとこのまま、彼女を甘やかしていたい。
ずっとこのまま、彼女は私に甘えて欲しい。
その気持ちの名前に、一つだけ心当たりがあった。
公園で遊ぶ親子。街を歩く家族の和やかな雰囲気。彼ら彼女らは皆、自分達の子供に愛情を向けていた。顔に愛していると書いてあった。その人達に共通して存在するこの感情。
あぁそっか。これが――
――これが母性か。
++++++
金曜日の夕方、私達はいつものように練習を終える。今日も非常に充実した練習であった。着実に自分が成長していることを実感する。次のライブでは、演奏面もそれなりに活躍できるだろう。私達は汗を拭きながら、機材を片付け始める。
「あ、明日もここで練習だし、楽器はSTARRYで預かるよ!」
おぉ、なんと素敵な提案。今日はもうヘトヘトで、自主練を家ですることもないだろうからとてもありがたい。
みんなで伊地知先輩にお礼を伝え、片付けを終えた。ちょうどそのとき、店長の星歌さんがスタジオにやってくる。
「お疲れ。ぼっちちゃんいる?」
「ヒェッ!」
……ひとりちゃん?
店長が彼女を直に呼び出すとは、珍しいこともあるものだ。私達は一度顔を見合わせてから、彼女達の方へと振り返る。
「ちょっと相談なんだけどさ――」
ひとりちゃんが不思議そうにしている。自分に相談なんて……と思っているのだろう。私も意外に感じた。これから店長が発する次の言葉に、みんなで意識を傾ける。
「ぼっちちゃんのこれ、邪魔だから捨てていい?」
そう言ってから取り出したものは、なんと『完熟マンゴー』!
腕が生えたり大きくなったり、幾度となく進化したそれは中々の存在感を放っていた。
「だ、駄目です! それを捨てるなんて。む、無理です! むむむむむむむむっ!」
あはっ、可愛い。
でも店長も酷いことを言う。『完熟マンゴー』は彼女の心を何度も救ってくれた、いわば歴戦の段ボールだ。出来れば捨てないで欲しいと、私も思ってしまう。
遂に彼女は『完熟マンゴー』に立て篭もり、徹底抗戦の構えを取り始める。
私達は白けた視線を店長に向けた。
「店長、いつかやると思ってた。また出所後に会おう」
「あああ悪かったよ! そんな悲しむとは思わなかったんだ!」
あとお前は帰る前に面貸せ、とリョウ先輩に一言告げて、店長はスタジオを出て行った。
私はひとりちゃんに近付いて、捨てないで済んだことを伝える。すると、にへらとした顔で彼女は這い出てきた。
そんなに居心地いいのかしら?
私は疑問に思った。少しひとりちゃんに頼んで段ボールを支えてもらう。それから私は、屈んでその中を覗き込んだ。
こ、これは!
私は『完熟マンゴー』に可能性を感じた。なにかが私のセンサーに引っかかる。
――思ったより広いのね?
時間を稼ぐために、私はひとりちゃんに話しかける。
「あっ、そ、そうですね。それに、完全に入口を閉じると真っ暗になって、家みたいで落ち着くんです……!」
……そ、そっか。
私はその発言に考えることをやめ、もう一度中を確認する。
広さ的に一人では余裕があって、二人では少し狭いかなってぐらいのスペースに感じる。
――そのとき、私の頭に衝撃が走る……!
キタキタキタキターーーーー!!
突然の閃き。
いける、これはいけるわ!
自分自身の発想力に恐ろしくなった。ひとりちゃんに一言お礼を告げて、私は段ボールから這い出る。
明日は土曜日で、練習はお昼から始まる。それなら、集合時間より早く来ることにしようか。
明日への期待に胸が膨らむ。今日は早く寝て、明日に備えることにしよう。
私はひとりちゃんと先輩達に挨拶をして、それから作戦のために店長の元へと向かった。
+++
時刻はお昼の十二時半。集合時間まで後三十分だ。
私は今、『完熟マンゴー』の中に居る。既に店長には許可をもらっている。事情を伝えたら、何故かOKをくれてお店の鍵を貸してくれた。理由を尋ねると、
「面白そうだから。それに私はサプライズとか、そういうのが好きなんだ」
思ったよりしょうもなかった。その後慌てて信頼しているから、なんて言っていたが、適当に流しておいた。けれどそんな店長のお陰でこの作戦が実行できる。心の中で彼女に感謝した。
これでひとりちゃんと密閉空間で二人きり。絶対甘酸っぱくて、幸せな雰囲気になるだろう。私は確信した。
そんなことを思う私の耳に、
――トン、トン、トン。
階段を降りる足音が聞こえてきた。
よし、よし!
私は息を潜める。そして足音が目の前にやってきた!
確保ー!
私は立ち上がり、目の前の人物を段ボールに吸い込んだ。
「きゃっ!」
……きゃっ?
おかしい。ひとりちゃんの鳴き声はそんな可愛い言葉じゃない筈だ。それに抱きしめた体はどこか細く、柔らかくはあるものの私を興奮させるには至らない。何だこれは。私は一体誰を抱きしめている。もっとふわふわもちもちな存在を私は求めて――
「――喜多ちゃん」
ま、まままマサカァ。
「一体何をやっているのかな?」
暗闇の中、狭い密閉空間。
私と伊地知先輩の間に、甘酸っぱい空気なんてどこにも無かった。
彼女に事情を説明する。話が進むにつれて彼女の視線が冷たくなっていったが、私は努めて気付かないフリをした。
精一杯しょんぼりとした顔で彼女を見つめる。そんな私のことを、何故か側で見ていた店長といつの間にか来ていたリョウ先輩が爆笑していた。
それから暫く、伊地知先輩はむむっとしていたが、最後には笑顔で――
「まぁいいでしょう。けど、あまりハメを外しちゃ駄目だからね!」
許してくれた。
ありがとうございます伊地知先輩。今度からは下北沢の大天使と呼ばせていただきます。
それから私は、改めて『完熟マンゴー』に入り息を潜めた。先輩の顔は怖くて見れなかった。
++++++
私は暗闇の中、息を潜める。
いつも彼女がここに入っているからだろうか。少しだけひとりちゃんの香りがする。
携帯画面を起動して時間を確認した。集合時間まで後十分。そろそろの筈だ。
彼女が――ひとりちゃんがもうすぐやってくる。
そう思うだけで心が躍り出した。
体をソワソワとさせて、早く、早くと心の中で急かす。
――トン、トン、トン。
そんな私の耳に入ってくる、入り口の階段を降りる足音。
来たわ!
音の発生源は、あと数秒で私の目の前を通るだろう。私は体勢を整えて準備する。
――トン。
あと少し。
――トン。
次、次ね!
――トン。
今よ!
私は勢いよく立ち上がる。
それから、目の前の存在をガバリと捕まえ『完熟マンゴー』の中に吸い込んだ。
「ピェッ!」
私達は暗闇の中で密着する。目の前の存在はふわふわとした弾力を伝えてくれた。
その感触に、私は作戦の成功を確信する。これは、この女の子はひとりちゃんだ!
「な、ななな!?」
彼女は突然のことに混乱しているご様子。私は彼女を落ち着かせるために、優しく抱きしめて頭を撫でた。
「あっ、き、喜多さん」
暗闇に目が慣れたのか、彼女は私の顔を見てから落ち着き始めた。
――おはようひとりちゃん。
「お、おはようございます。あ、あの、これは一体……?」
私は何も答えない。そのまま彼女に優しく微笑み、頭を撫で続けた。すると、彼女も恐る恐るではあるが腕をこちらに回し、抱きしめ返してくれた。それから彼女は目を瞑り、体から力を抜いて私に体重を預けた。
あはっ!
その様子に嬉しくなった私は、抱きしめる力をさらに強める。すると彼女は、頭を私に擦り付け始めた。
か、可愛い〜〜〜!
彼女のあまりの可愛さに感動する。人は、ここまで可愛らしくなれるのか。
そんな感動する私の耳元で、スゥーッという規則的な吐息が聞こえてきた。
なんと彼女は、私に体を預けて眠り始めたのだ。
その様子に、今まで感じたことのない感覚が湧き上がる。どこか温かくて、そして微笑ましいようなこの感覚。
あぁそっか。これが――
――これが母性か。
これだけ密着して彼女のふわふわを感じているのに、少しだけしか興奮しない。興奮はするが、それ以上になんだか守ってあげたくなる。
そうだ。バンドは第二の家族なんだから、ひとりちゃんが私の娘になることもあるだろう。彼女に母性の感情を向けることは何も間違っていない。むしろ母親として当然のことだろう。誇らしくすら思う。
本当に幸せな時間だ。今日はずっとこのままでいよう。
なんだか、私まで眠たくなってきた。何か忘れている気がしなくもないが、この幸せな時間に比べたら些細なことだろう。きっと先輩達も許してくれる筈だ。
私はひとりちゃんの額に優しく唇を落とした。それから頭を一撫でして、目を瞑り眠ろうと――
「――させないよ」
急に視界が眩しくなる。目を細めて明るさに慣れると、目の前にはにっこりと笑う伊地知先輩が居た。
はは、ははは……。
乾いた笑いが喉から出てくる。でも今回は私にも言い分がある。
――ひとりちゃんとゆっくりすることの、なにが悪いんですか!
「もう練習始めるんだけど!」
どう考えても私が悪かった。
私は渋々とひとりちゃんを起こし、機材の準備を始めるのだった。
星歌「お前楽しそうだったな」ニヤニヤ
虹夏「うっさいツンデレ!」