アニメ最終話で、喜多ちゃんがぼっちちゃんのこと抱きしめながら腹話術してる場面あるじゃん?最後後ろからその二人が描かれてるところを見てさぁ   作:明太子美味しい

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稀に見る長編。五千字でもちもちを伝えていくスタイル。



一番体がだらしない

 

「コヒューコヒュー」

 

 膝に手を付き、顔を青白くさせたひとりちゃんが必死に呼吸を繰り返す。彼女はびっしょりと汗を掻き、体をフラフラとさせていた。

 

 ――ひとりちゃん大丈夫?

 

「ヒューヒュー」

 

 返事がない。ただの屍のようだわ。

 

 ひとりちゃんは未だに苦しそうな表情をしている。まだ五分もランニングしていないけれど、彼女は既にヘトヘトらしい。

 

 その様子に心が痛む。

 今すぐに休憩を提案したくなったけれど、私は心を鬼にして我慢した。甘やかすだけが彼女の為になる訳ではないのだ。

 

 その代わりに、私は彼女に近づいて持参したタオルで汗を拭ってあげた。

 

「ヒュー、あり、ありがヒュー」

 

 あはっ。

 

 呼吸が整っていないせいか、全然言えてなかった。けれどそんな彼女を見て心がほっこりする。

 

 ――よしっ! それじゃあまだまだ行くわよ!

 

 心も和んだ私は、ひとりちゃんにランニングの再開を告げる。

 

 彼女は絶望の表情を浮かべ、ただただ空を見上げて立ち尽くす。それから悲しそうにポツリと一言呟いた。

 

「どうして、どうしてこんなことに……!」

 

 いや、ひとりちゃんのダイエットなんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

++++++

 

 ある日、私は学校の休み時間にひとりちゃんを見かけた。彼女は顔を青白く染めて、体をフラフラとさせている。

 

「あっ、き、喜多さん」

 

 ――ど、どうしたのひとりちゃん?

 

 戸惑いながらも尋ねる私に、彼女は掠れた声で答えてくれた。

 

「あっ、さっきの体育の時間がマラソンでして。わ、私のミジンコみたいな体力じゃ全然持たなくて、このまま体が溶けてしまいそうなんです」

 

 そ、そっか。

 今にも消滅してしまいそうな彼女に掛ける言葉が見つからない。

 

 何か力になってあげられたらいいのだけれど……。

 

 そんなことを思う私は、ひとりちゃんが壁に右手を付いて体を支えていることに気が付いた。手で支えているにも関わらず、彼女は今にも倒れてしまいそうなご様子。

 

 見つけた。これなら私でも力になれそうね!

 

 私は意気揚々と彼女の隣に並んだ。それから、フラフラな彼女の左肩を抱き抱えて支える。彼女も私の意図を察したようで、お礼を告げてから体を預けてくれた。

 

 

 ずっしり。

 むっちりむわぁ。

 

 

 ふぉ!

 す、凄い!

 これは凄い!

 すごく、すごいわ……!

 

 あまりにも唐突な快感に語彙力が消失する。

 決して邪な思いなんて無かった。本当だ。だからこそ凄いとしか言えなくなってしまった。

 どうやら私は、意識しなくてもひとりちゃんに対して気持ちいいことをしてしまうらしい。これも普段から色々と考えているからだろうか。グッジョブ私! と自画自賛してしまう。

 

 感動に打ち震えながらひとりちゃんを味わい続けていると、何を思ったのか彼女が私から少しだけ体を離し始めた。

 

 な、なぜ!?

 一体どうしたのひとりちゃん!

 

 あたふたとする私にひとりちゃんは告げた。

 

「あっあの私、体育の後なので、汗が、そのぉ、ちょっと匂ってしまうかも……」

 

 匂うなんてとんでもないわひとりちゃん!

 むしろ良い匂いよ。こう、なんというか。とても興奮する匂いがするわよ!

 汗の匂いで私を誘惑するなんて。全く、ひとりちゃんは悪い女だわー!

 

 なんてことは言える筈がないので、私は態とらしくクンクンと匂いを嗅いで、素知らぬ顔で良い匂いだと伝える。彼女はそれに安心したのか、力を抜いて体を預けてくれた。

 なんとか無難にやり過ごすことが出来た私は、彼女を抱き抱えてゆっくりと歩き始めた。

 

 

 ずしっ。

 むにゅぅ。

 むっちりむわぁ。

 

 

 美味しい。ひとりちゃんが美味しいわ。

 

 私はモグモグとこの幸せを味わい続ける。しかし彼女は何を思ったのか、再び体を少しだけ離れさせた。

 

 な、なぜ!?

 私は認めないわよひとりちゃん!

 

 彼女は恐る恐るといった様子で、私に尋ねた。

 

「お、重くないですか? 最近唐揚げとか、油っこいものばかり食べていたので、その、不安です」

 

 ……そうね。

 残念だけれど、江ノ島に行ったときよりは重くなってるわね。

 

 勿論そんなことは言える筈がないので、今回も無難に答える。

 

 ――だ、大丈夫よ、多分。

 

 まずい。少し吃ってしまった。これでは彼女に悟られてしまうかもしれない。

 私はチラッと彼女の様子を窺う。

 

 隣を歩くひとりちゃんは――

 

 

 

「そ、そうですか。ふ、太ったんだ私」

 

 

 

 ――ショックを受けたような顔をしていた。

 

 

 ……やってしまった。

 

 彼女は今尚腰を引かせていて、此方に近づくことはしない。なんとか私に全身を預けて欲しいが、今更何を言ったところで誤魔化すことは不可能だろう。私はしょんぼりとしながらトボトボ歩く。

 

 なんとも言えない空気を醸し出し、私達は一年二組の教室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――着いたわよ。

 

 そう声を掛けて私は、ひとりちゃんを椅子に座らせる。彼女は待ってましたと言わんばかりに椅子に向かって体を蕩かした。

 

 そんなに疲れたのかしら? 体育の授業よね?

 

 なんて疑問を抱いていると、ひとりちゃんに何らかの動きを確認する。彼女は首をコクコクと揺らしながら、目をショボショボとさせ始めた。

 

 あはっ。可愛い。

 

 いつまでも眺めていたいが、もうすぐ授業が始まってしまう。心を鬼にして彼女を起こすとしよう。

 

 決意した私は、ひとりちゃんの頭を一度ぎゅっと抱きしめる。すると彼女はピャッ! と声をあげて飛び起きた。ひとりちゃんのお目目はパチパチとしている。

 

 これでよしっと。

 

 その様子に安心した私は、二組の教室を出ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

+++

 

「これで終わりっと。今日もお疲れ様!」

 

 時間は進み、場所はSTARRYへと移る。

 いつものようにアルバイトをしていると、伊地知先輩が終了を告げた。私達はフロアにあるテーブルに向かって疲れを癒やし始める。

 

 私はジュースを片手に力を抜く。今日もバイトをやり切ったという心地良い疲労感に包まれながら、ぼーっと目線を隣に動かした。

 

 そこには全身の力を抜き、背もたれにぐったりと寄りかかるひとりちゃんの姿があった。

 

 ――ひとりちゃん大丈夫?

 

「あっ、ァハイ」

 

 相当疲れているみたいだ。今日の体育はマラソンだったらしいから、疲労が溜まっているのだろう。

 

 対照的に、正面に座る先輩達は楽しそうに会話をしている。疲れてはいるのだろうが、まだまだ余裕がありそうに見えた。

 

「今日も疲れたねー」

 

「そうだね。私も疲れて寝そうになった」

 

「いやいつも眠そうじゃん」

 

 相変わらず先輩達は仲がいい。この様子なら私達結束バンドは安泰だろう。私はほっこりとしつつ会話を盗み聞いた。

 

「最近は草ばっか食べてるから、体力が凄い落ちてる。だからバイト中に寝るのも仕方がない」

 

 えぇ!? 

 どうやらリョウ先輩は再び野草生活をしているらしい。また何か高価なものを買ってしまったのかもしれない。

 

「いやなんで草なんか食べてるのよって疑問は置いといて。だから最近はげっそりしてたんだ。体調は大丈夫なの?」

 

「ダメかも。お腹が空いて力が出ない。体重も1キロ落ち――」

 

 体重、という単語が聞こえたそのとき、私の隣からガタガタッ! という音が聞こえた。

 

 あ、まずい。

 

 そう思った私は急いでひとりちゃんの方へと振り返る。

 そこには顔を真っ青に染めた彼女が、椅子の上で膝を抱えて震えていた。心なしか体も溶け始めている気がする。

 

 私は頭を抱えた。折角学校の出来事を忘れかけていたのに、先輩達の会話を聞いて再び思い出してしまったようだ。

 こうなってしまったらもうどうしようもない。時間が彼女の心を癒してくれるまで、ゆっくりと待つことにしよう。

 

 

 ひとりちゃんに椅子を近づけてのんびりとしていると、何かの結論に至ったのか彼女が言葉を発し始めた。

 

「私は豚です。人と上手く会話も出来ず、ぶくぶくと太り続ける雌豚なのです……」

 

 め、雌豚!?

 

 そのやらしい響きに私はびっくりする。どこで彼女はそんな言葉を覚えたのだろうか。そこのところ、改めて詳しく聞きたいと思った。

 

「へぇ、ぼっち太ったんだ」

 

 あぁ! リョウ先輩の言葉がひとりちゃんに突き刺さっているわ!

 

 彼女はウッ! と胸を押さえて苦しみ始めた。

 

「今のはリョウが悪い」

 

 パシッとリョウ先輩の頭を叩いた伊地知先輩はそう言ってからひとりちゃんに告げた。

 

「別にぼっちちゃんは太ってるようには見えないよー。確かに運動不足な感じ*1はあったけど、気になる程じゃないでしょ!」

 

 それ、フォローになってないのでは?

 郁代は訝しんだ。

 

 案の定、ひとりちゃんは再び苦しみ始める。

 私はどうやって励まそうかと悩むけれど、一向に方法が思い浮かばない。このままでは暫く引きずってしまうだろう。

 彼女には出来るだけ笑顔でいてほしい。そんな想いから私は考え続けた。

 

 ウンウンと暫くの間悩み続けていると、ひとりちゃんが突然立ち上がって力強く宣言した。

 

「わ、私! これからダイエットします!」

 

 

 おぉ!

 凄いわひとりちゃん!

 

 

 感動した私は、どんなダイエットをするつもりなのか彼女に尋ねる。

 

「ラ、ランニングします! 元々体力無かったので、痩せるのと体力を付けるの両方やります!」

 

 凄い、凄すぎる……!

 同時に二つの欠点を無くそうとするなんて、ひとりちゃんも成長しているのね……!

 

 感動に打ち震える私をスルーして、伊地知先輩はひとりちゃんに尋ねる。

 

「ぼっちちゃん凄いじゃん! ちなみにどれくらいの頻度でやる予定なの?」

 

 私達に褒められてえへえへとしている彼女はその質問に動きを止める。それから彼女は、悩んだ表情でボソボソと答え始めた。

 

「あっ、週一、いや月一。あ、やっぱ年一でいきます」

 

「決意脆すぎでしょ!」

 

「ぷぷっ」

 

 あはっ。ちょっと面白い。

 

 けれど流石に月一、年一では効果が出ないだろう。なら、私のやるべきことは一つだ。

 私は伊地知先輩の言葉に動揺しているひとりちゃんに声をかけた。

 

 ――私も付き合うから、週一で頑張りましょう?

 

「うっ、よ、陽キャパワーに私が付いていけるか分からないので、そ、それはちょっと……」

 

 む。思ったより旗色が悪い。

 どう説得しようか考えていると、横から伊地知先輩が言葉を発した。

 

「おぉ良いじゃん! 喜多ちゃん痩せてるし、運動神経もいいから助けになるんじゃない?」

 

 おぉナイスアシストですよ先輩!

 その勢いに乗り、私はひとりちゃんをキターン! と見つめ続ける。彼女はそんな私達に押し切られたのか、か細い声で答えてくれた。

 

「うっ。わ、分かりました」

 

 やったわ!

 

 

 

 

 

 

 

++++++

 

 金曜日の放課後。私とひとりちゃんは運動着に着替えてストレッチをしていた。尚、ひとりちゃんの服装はいつものジャージである。

 

 あれから彼女と相談した結果、ランニングは金曜日の放課後に集まって行うことにした。ひとりちゃんのお家が遠いこと、次の日が休日であることが主な理由だ。バンド練習とアルバイトはこれから二ヶ月ほど調整してもらっている。

 

 ――それじゃあ、始めはゆっくりと走るわね?

 

「あっはい! わかりました」

 

 やる気十分な彼女に頬を緩ませて、私達は走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「コヒューコヒュー」

 

 膝に手を付き、顔を青白くさせたひとりちゃんが必死に呼吸を繰り返す。彼女はびっしょりと汗を掻き、体をフラフラとさせていた。

 

 ――ひとりちゃん大丈夫?

 

「ヒューヒュー」

 

 返事がない。ただの屍のようだわ。

 

 ひとりちゃんは未だに苦しそうな表情をしている。まだ五分もランニングしていないけれど、彼女は既にヘトヘトらしい。

 

 その様子に心が痛む。

 今すぐに休憩を提案したくなったけれど、私は心を鬼にして我慢した。甘やかすだけが彼女の為になる訳ではないのだ。

 

 ――よしっ! それじゃあまだまだ行くわよ!

 

 彼女は絶望の表情を浮かべ、ただただ空を見上げて立ち尽くす。それから悲しそうにポツリと一言呟いた。

 

「どうして、どうしてこんなことに……!」

 

 いや、ひとりちゃんのダイエットなんだけど。

 

 

 

 

 

 あれから適度に休憩を取りながら、私達はランニングを続けていた。時間にして約一時間。初回にしては随分と頑張っただろう。今日はこの辺で終わることにする。

 

 ――お疲れ様! ひとりちゃんは大丈夫?

 

「ヒューヒュー」

 

 うん、ダメそうね!

 

 そんなことを思いながら、私はひとりちゃんに近づいて声を掛けた。

 

 ――初めてなのに、頑張ってて偉いわひとりちゃん!

 

 本当に私はそう思った。

 ゆっくりとはいえ一時間も走り続けたのだ。流石はひとりちゃんだ。いつだって彼女はやるときはやる、カッコいい女の子だ。

 

 精一杯そう告げると、彼女ははぁはぁとしながらも私を見てにへらと笑った。そんな彼女に私もにこりと微笑み返す。

 

 少しの間お互いに見つめあっていると、ひとりちゃんがふらっと体を揺らした。

 

 危ない! そう思った私は慌てて彼女を抱きしめる。

 

 

 

 むっちりむわぁ。むっわぁ。

 

 

 

 ふお、ふぉおおおおお!

 以前にも増して濃い匂いがする!

 

 ひとりちゃんの、汗の混じった新鮮な匂いが間近から私に直撃する。その事実に私は腰が抜けそうになった。

 

 まずい。このままでは興奮で我慢できなくなる。

 一瞬で頭が茹で上がった私は、そんな頭のおかしいことを考え始めた。

 

「あっ、す、すいません。少し力が抜けちゃって……」

 

 ――大丈夫よ。むしろ興奮ほわぁ!

 

「ピャッ!」

 

 危なかった。うっかり全部、正直に話してしまうところだった。突然の大声に彼女も驚いたようだが、興奮が キタキタ の(くだり)は聞いていなかったみたいで安心する。

 

 ――それじゃあ、今日はお家に帰りましょうか。

 

 先程のことを誤魔化すように、私はひとりちゃんに告げた。

 彼女も表情を明るくさせて、はい! と答えてくれた。

 

「あっ、でも――」

 

 

 

 

 ……でも?

 

 

 

 

「――荷物を取りに行くまでは、この体勢のままでいいですか?」

 

 

 キタキタキタキターーーーーーーー!!

 

 

 ――もちろんよ!

 

 食い気味に答えた私に、ひとりちゃんはにへらと嬉しそうに笑うのだった。

 

*1
156cm、50kg。胸で重い。ぼっちは運動不足で一番体がだらしない。

はまじあき先生のYouTube配信「【送った人】ぼざろ5巻感想マロ配信!【皆忘れてる】」より抜粋。




ぼっち「歩く体力残ってないから助かった……」

喜多「抑えろ抑えろ抑えろ抑えろ」キタキタキタキタ
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