アニメ最終話で、喜多ちゃんがぼっちちゃんのこと抱きしめながら腹話術してる場面あるじゃん?最後後ろからその二人が描かれてるところを見てさぁ 作:明太子美味しい
※2023/1/19追記
名前を間違える痛恨のミス……!
誤字報告感謝します!
秀華高校一年二組の教室はその日、朝から異様な雰囲気に包まれていた。
お喋りで笑顔の絶えない女の子や、常に仏頂面の男子でさえ戸惑いの表情を浮かべて様子を窺っている。
教室に入ってきた生徒の誰もが二度見し目を見開く中、その光景を作り出した張本人達はというと――
「あの!あのあのあのッ……!」
――なぁにひとりちゃん。
「どどどどうして私の上に座っているのでしょうか……?!」
――ひとりちゃんは嫌かしら?
「い、嫌というか何というかその!周りも見てますし……」
――駄目、かな……?
「ヒュッ!?」
「も、問題ナイデス……」
――なら良かったわ!
ムギュゥゥゥゥゥ
「ピェッ」
柔らかそうで何よりです。
++++++
「今日もバイトお疲れ様!」
文化祭ライブから数日が経ち、あのときの興奮も次第に落ち着いてきた今日この頃。
私、喜多郁代はライブハウス『STARRY』でいつものようにバイトに励んでいた。
人と話すことは嫌いじゃない。それに他所のバンドの演奏も聴くことが出来るし、早く終わればそのままスタジオで練習も出来る。私にとっては優良バイトだ。
そんなバイトであるが、今日は予想以上に忙しかったため、伊地知先輩の一声で練習せずに解散となった。
またあしたぁ、なんて間延びした先輩の挨拶に応え、ひとりちゃんと一緒にライブハウスを出る。
日が沈んで暗くなった道を進み、二人きりで駅まで向かう。あまり会話は起きないが、ひとりちゃん相手であればこの沈黙も心地良い。
ゆっくりと歩みを進める中で、私は彼女のギターを買いに行った日のことを思い出していた。
そう、私がこの世の真理を知ったあの日の出来事である。
――肩を抱きしめたときのむにっとした感触。
あまりのふわふわモチモチに、このまま腕が沈んでいってしまうのではと錯覚した。そういえばあの日以来、彼女の体に触れていない気がする。
これはまずい、そろそろまずい。
このままでは、私は一体どうなってしまうのだろうか。
私は思う、ひとりちゃんと触れ合いたいと。
思い立ったが吉日!
そうと決まれば早速行動に移してみよう。この時ばかりは、自分の謎の行動力に感謝した。
私はチラリと状況を確認する。
私達は学校からここに来ている為荷物が多い。それにギターもある。ケースに入っているとはいえ、荷物にぶつかってしまうかもと考えると、あの日のように抱きつくことは少し難しい。
……何かないかしら? ひとりちゃんと触れ合えるような何か。
考えて、考えて、考えてそして閃く……!
いける、これならいけるわ!
一つ息を吐き、もう一度彼女の方を確認する。
隣を歩くひとりちゃんとの距離は拳三つ分。さぁ行くぞ!
――ねぇひとりちゃん。
話しかけると同時に彼女の方へと一歩近づく。
「ピェッ!」
「は、はい!何ですか喜多さん?」
ふふっ、急に話しかけられてびっくりしちゃったのかしら? 私相手に緊張する必要なんて無いのに。
――今日は忙しかったわね。
また一歩近づく。もう既に、彼女とは肩が触れ合いそうだ。
「あ、はい、ですね。えと、ドリンクの方も今日は忙しくて――」
えいっ。
「ホワッ!?」
ニギニギ。
「きききき喜多さんっ!?」
プルプルと震えながらも私に尋ねてくるひとりちゃんに、何でもないよと一言。ただ――
ひとりちゃんと手を繋ぎたかったの。
なんて伝えるとひとりちゃんの顔が次第に赤くなる。
可愛いなぁなんて思いながらしばらく手の感触を確かめていると――
「フゥゥゥオワアアアアアアアッ!」
ひとりちゃんが限界を迎えた。やがて彼女の体の線が曖昧になり、私の手をスルリと抜けて空へと飛翔する。そのまま謎の飛行体となって、彼女は実家の神奈川方面へと飛んで行ってしまった。
ひとりちゃんには申し訳ないが、少し面白かった。
結論から言うと、ひとりちゃんの手はスベスベしていたが、私が期待していたふわふわモチモチの感触は得られなかった。それもそうだ。ひとりちゃんと私はギターをやっている。指先なんかは相当硬くなっているだろう。
けれど、私は満足している。
その硬い指先は、ひとりちゃんが今までずっと頑張ってきた証だからだ。直にそれを感じることが出来て良かった、私も頑張ろうと思えた。
今日も良い日だったなぁ。
そういえば――
ひとりちゃんが私を結束バンドに引き留めてくれたときも、私の硬い指先を褒めてくれたっけ……。
この日はニヤニヤが止まらなかった。
+++
「よしっ! 今日はこれで終わりにしよう!」
翌日、私達はスタジオで練習をしていた。
三時間程集中して臨んでいると、伊地知先輩が終了の合図を告げる。
片付けを終え、一息入れて汗を拭いていると、リョウ先輩が話しかけてくる。
「郁代。ギター始めたての頃と比べて随分上手くなった」
憧れの先輩からストレートに褒められて、少しだけ体が熱くなった。
ありがとうございます、これもひとりちゃんのお蔭です!なんて答えながらひとりちゃんの手を掴む。
彼女はビグッ!としていたが、俯きながらもしっかりと手を握り返してくれた。
「二人とも仲良いねぇ〜!」
ニコニコしながら茶化してくる伊地知先輩にあははと笑い返す。その勢いでお疲れ様でした! と伝え、ひとりちゃんと一緒にスタジオを出る。
私達の手は繋がれたままだった。
二人で駅まで向かう帰り道。昨日とは違う、私とひとりちゃんの距離感。
――今日は大丈夫なのね!
「あ、はい、えっと……」
――どうしたの?
「喜多さんと手を繋ぐことは、その、嫌いじゃないので……」
……もう! ひとりちゃんは本当にもう!
ニヘラと笑いながら答えるひとりちゃんに胸が高鳴る。
彼女と、ひとりちゃんともっともっと時間を共にしたいと思った。
繋ぐ手に力を込めながら、どうしようか考える。
定期的な昼のギター練習、放課後のSTARRY、休日のバンド練習。今でもそれなりにひとりちゃんとは一緒に過ごしている。
これ以上時間を増やすとしたら、どうすれば――
そして閃く……!
昨日に引き続きまた閃く……!
私に人を惹きつけるギターの才能は無いけれど、ひとりちゃんに関わることを考える才能はあるのかもしれない。
今日も早速行動する。
――ねぇひとりちゃん。
「ヴッ! あ、はい!」
――ひとりちゃんはお家が遠いけど、学校には何時くらいに来ているのかしら?
「あ、えとその、始業の一時間ぐらい前……ですかね」
す、少し早いわね……!
でもそっか、一時間前か。
大丈夫、大丈夫。明日は頑張るぞ!
――それじゃひとりちゃん、また明日!
「あ、はい。また明日です」
+++
翌日、私は普段より一時間早く起きた。
もう少しゆっくりとしていたいが、偉大な目的のためには仕方ない。欠伸を噛み殺しながら家を出る。
今日のことを考えながら歩いていると、いつの間にか学校に着いていた。どうやら、私自身が思っている以上に今日を楽しみにしているらしい。
自分の机に荷物を置いてから、私は一年二組の教室に向かう。後ろの扉から中を覗くと――
居た。
様子を見るに、今さっき教室に着いたばかりらしい。
ギターを机の傍に立て掛け、荷物を置きそして――
寝たふりを始めた。
その様子に涙が溢れそうになりながら、私は扉を開けて教室に入る。何人かの生徒に注目されていることが分かったが、そのまま歩みを進める。
そして、未だ登校していないらしい隣の席から椅子を借りて、彼女に話しかける。
――ひとりちゃん、おはよっ!
ビクッ! ビクビクガバッ!
「あ、お、おおおおはようございます喜多さん!」
教室中の視線が私達に集まるけど、それでも私は気にせず話しかける。
――今日は早く起きちゃったの。始業まで暫くお話ししましょう?キターン!
「エッ! あ、あの、えっとその、わ、分かりました!」
やったわ!
+++
今日は晴れてて気持ちいいわねぇ、なんて天気や気温の会話から始める。ひとりちゃんはアワアワと震えてるし、全然目も合わない。それでも、一生懸命私と会話を続けようとしてくれる。
そんな姿にホッコリとしながら暫くお話ししていると、私が借りている席の子が登校してきた。
……今日はこれで終わりかしら。
なんて少しがっかりしていると――
突然の閃き……!
昨日一昨日に引き続きまたまた閃く……!
やっぱり私には、ひとりちゃんと関わる才能があるらしい。
その子には席を返し、私はひとりちゃんの側に歩み寄る。
彼女の顔にはハテナマークが浮かんでいるが、気にしない。
先程から心臓の音が煩い。心なしか顔が少し火照っているような気がする。
それでもやるぞ喜多郁代、私の行動力は凄いんだ。
ひとりちゃん、と一声かけてから私は――
「ホワァッ!」
――彼女の膝の上に座った。向かい合う形で座った。
私の心臓の音、ひとりちゃんに聞こえてないかな……?
普段は周りのことなんて余り気にしないし、人から注目されることにも慣れている。そのため、恥ずかしいと感じること自体殆どない。けれど――
今の私は、顔から火が出るほどの恥ずかしさを覚えていた。
++++++
秀華高校一年二組の教室はその日、朝から異様な雰囲気に包まれていた。
お喋りで笑顔の絶えない女の子や常に仏頂面の男子でさえ、戸惑いの表情を浮かべ様子を窺っている。
教室に入ってきた生徒の誰もが二度見し目を見開く中、その光景を作り出した張本人達はというと――
「あの!あのあのあのッ……!」
――なぁにひとりちゃん。
「どどどどうして私の上に座っているのでしょうか……?!」
――ひとりちゃんは嫌かしら?
「い、嫌というか何というかその!周りも見てますし……」
――駄目、かな……?
「ヒュッ!?」
「も、問題ナイデス……」
――なら良かったわ!
ムギュゥゥゥゥゥ
「ピェッ」
その光景から周りの生徒は目が離せない。
なんだこの幸せな空間は……!
なんなんだこの美しい景色は……!
片方はいつも明るく笑顔の可愛い、社交的で学校を代表するといっても過言ではない美少女、喜多郁代。
もう片方はクラスでは存在感の殆どない、先日の文化祭ライブで強く印象を残したダイブのロックンローラー、後藤ひとり。
バンドメンバー繋がりがあるとはいえ、あまりにも仲がいいご様子。
そして気がつく。
そうか、そうか――
――彼女達はもう既に……!
その日、クラス全員の脳内にこの光景が深く刻み込まれ、決して二人の邪魔はしないと心に誓ったのだった。
この日の学校では、突然顔を赤らめたり、急にニヤニヤし始めたりする喜多郁代の姿が確認された。