アニメ最終話で、喜多ちゃんがぼっちちゃんのこと抱きしめながら腹話術してる場面あるじゃん?最後後ろからその二人が描かれてるところを見てさぁ 作:明太子美味しい
※2023/3/19追記
誤字報告ありがとうございます。大変助かります!
私、伊地知虹夏は考える。
かの
彼女には苦労している。
特に最近の彼女は、いつもぼっちちゃんを揶揄ったり、辱めたりしている気がする。あまりの羞恥心にぼっちちゃんが蒸発してしまったのは一度や二度ではないだろう。
おかげで練習を急遽中止にしたことだってあった。
ぼっちちゃんのことが好きなのは理解出来る。なんなら応援もしている。ぼっちちゃんだって楽しそうだし、仲が良くなるのはいいことだと私は思う。
だからといって、何をやっても目を瞑ります、許します! とはいかないのだ。
曲がりなりにも、私は結束バンドのリーダーなんだ。
練習に支障をきたす悪戯や、過度な風紀の乱れは防がなくてはならない。このまま放置していたら、いつかSTARRYはスタジオセット付のラブホテルにされてしまう。
考えて考えて考えて、そして思い付く。
そうだ!
彼女にもぼっちちゃんと同じ気持ちを味わってもらおう。
普段、どれだけぼっちちゃんが恥ずかしい思いをしているのか、彼女に分からせてやるのだ。
そうすれば流石の彼女でも少しは慎みを覚えてくれる筈だ。
頼む。誰かそうだと言って欲しい。お願いします。
そんな祈りを神に捧げた私は、喜多ちゃん更生大作戦を開始するのだった。
++++++
――ねぇ、喜多ちゃん。
「はい? なんですか伊地知先輩?」
時刻は放課後。STARRYでのアルバイトが終わったタイミングで、私は喜多ちゃんに声を掛けた。
今はリョウもぼっちちゃんもいない、絶好の機会だ。先日考えた作戦を実行し、彼女を分からせてやるのだと気合いを入れる。
まず始めに、ジャブ代わりの一発を打ち込んだ。
――わ、私、喜多ちゃんのこと、け、結構好きだよ!
……。
おいおいおい。
喜多ちゃんはぼっちちゃんにいつもこんなことを言ってんのか。
私の方が恥ずかしいわ。
なんか吃っちゃったし、私が意識してるみたいじゃねぇか。
内心でそんなことを思っていても、決して表情には出さない。いつも通りの明るい笑顔で、私は喜多ちゃんのことを見た。
「私も伊地知先輩のこと、結構、いえ、とっても好きですよ?」
んなっ!
なんだこの陽キャ最強か……!
恥ずかしげもなくそんなことを言う彼女に戦慄する。
一体どれだけの経験を積めば、そんなどストレートな言葉を口に出来るか。
喜多ちゃんへの認識を改めなければならない。
彼女はこの程度のことでは動揺すらせず、反撃してくる余裕さえも持っている真の陽キャであると。
第一プランの失敗を認めた私は、動揺を悟られないように、次のプランへと移行した。
私はポケットに仕込んだ機械のスイッチを入れ、彼女に話しかけた。
――ち、ちなみに、どんなところが好きとか、聞いてもいいかな?
ぐっ。少し恥ずかしい。
けれど、彼女を分からせるためには必要なことだ。
そう自分に言い聞かせて我慢する。
「明るいところとか、笑顔が素敵なところとか、ドラムが
ほほう! 嬉しいことを言ってくれる。
機嫌の良くなった私は、その勢いのままどんどんと質問をする。
――リョウのことも好きって言ってたよね。因みにどんなところ?
「なんと言ってもあの見た目ですよ!
強い(確信)。
彼女の勢いに少しだけ引いてしまう。
今後は彼女にリョウのことを聞くのはやめておこうと強く決意した。
けれど私が求めていたデータは手に入った。少なくとも、私が考えていた第二のプランは無事に成功するだろう。
そして最後に、私はぼっちちゃんのことを聞く。
――ぼっちちゃんのことは大好きなんだよね。どんなところが好きなの?
「んなっ!」
おぉ!
今日一驚いた反応をする彼女に、私の機嫌がさらに良くなった。
彼女は頬を染めて、口をパクパクとさせている。突然の恋バナに思考が停止してしまったみたいだ。
「ど、どうして伊地知先輩がそのことを?」
いや誰でも分かるから。
喉元まで上がってきたその言葉をギリギリで呑み込んだ私は、無難に偶然知ることができたと伝える。
そうですかぁ、なんて彼女は一度呟いてから、内緒ですよと前置きして私に切り出した。
「……ひとりちゃんってかっこいいじゃないですか」
うん。
……。
えっ、終わり?
「い、いや、もっとありますよ! ひとりちゃんはかっこいいし可愛いんです。それにふわふわで柔らかいし、むちむちで、ほんとにむちむち! もっちりしてて
――おっけーお疲れ!
彼女の言葉を遮って、私は何とか会話を終わらせる。
なんだ。一体なんなんだこの陽キャは!
途中から何故か私にマウント取ってきやがった。
全く。
喜多ちゃん、恐ろしい子……!
恐れ慄く私に気を遣ったのか、彼女は少し落ち着いた様子で話を続けた。
「いろいろありますけど、やっぱり一番はかっこいいところなんですよ。私達が苦しいときはいつだって助けてくれる、そんなヒーローみたいな女の子なんです」
おぉ。
思っていたよりも素敵な話を聞けてほっこりする。
真の陽キャだってやっぱり女の子なのだと安心した。
しかし、だからこそ私は心を鬼にしなければならない。
親しき仲にも、という諺の通り、彼女にはその辺りをもう一度理解してもらいたい。
既にデータは揃っている。彼女を分からせる日は近いだろう。
ニヤケそうになった頬を必死に押さえる。
それから私は、早く片付けを終えるためにフロアの清掃を開始した。
++++++
喜多ちゃんと色々話してから数日後。
あれからいくつものデータを追加で入手した私は、寝る間も惜しんで毎晩作業を続けていた。お陰で寝不足である。
ここだけの話、途中から楽しくなってしまってアレコレと遊んでいたのは秘密だ。
けれどその甲斐もあって、私の求めていたものが遂に完成したのだ。
今日、漸く彼女を分からせることが出来る。
ハメを外し過ぎた彼女も、これで少しは落ち着いてくれるだろう。
期待を胸に私は、小型の音楽再生プレイヤーを片手にSTARRYへと向かった。
アルバイトも終わり、早速私は喜多ちゃんを呼び出した。出来るだけ自然に呼び出したから、リョウやぼっちちゃんが怪しむこともないだろう。
なんですか? と話しかけてくる彼女に、私は右手に握りしめた音楽プレイヤーを見せつけた。
彼女の顔には未だにハテナマークが浮かんでいる。そんな顔も様になるのだから、陽キャは得だと羨んでしまう。
けれど、これからその顔が羞恥で歪むのかと思うと楽しみで仕方がない。
邪悪な笑みを必死に我慢する私は、彼女に良く見えるようにゆっくりと再生ボタンを押し込んだ。
『私、ユニセッ○ス上手なんですよね。それに気持ちいいし、毎日練習してます!』
……。
「ほわぁ!」
はっはー!
やってやったぞー!
流石の彼女でも予想外だったみたいだ。
彼女はポカンと口を開いて私のことを見ている。
『いや私、とってもユニセッ○ス好きなので、毎日大変ですよー!』
「ちょっと!? 何変なことやってるんですかぁ!」
喜多ちゃんはそう言って私に飛びかかってくる。
彼女の両手は私の音楽再生プレイヤーに向かっていた。
渡さん。絶対に渡さんぞ!
全力で音楽プレイヤーを奪いたい喜多ちゃんと、渡さないと必死に抗い続ける私。
そんな壮絶な戦いを繰り広げていた私達の元に、我らが結束バンドのメンバーとお姉ちゃんがやってくる。
そこそこの大きさで騒いでしまっていたようで、お姉ちゃんの眉間には皺が寄っていた。
その表情を見てぶるりと震えた私に、隙ありといわんばかりに喜多ちゃんが手を伸ばしてくる。
そんな彼女に気付いた私は、慌てて音楽プレイヤーを握りしめる。
――ぽちぽち。
あっ。
どこかは分からないけれど、幾つかのボタンを押してしまったみたいだ。
それから数秒後。
スタジオに響き渡るくらいの大きな音で、とある音声が流れ始めた。
『ひとりちゃんってかっこいいんじゃないですか。い、いや、もっとありますよ! ひとりちゃんはかっこいいし可愛いんです。それにふわふわで柔らかいし、むちむちで、ほんとにむちむち! もっちりしてて気持ちいいんですよ! それに、良い匂いがするんですよ。あっ、伊地知先輩は知らないですよね? 防虫剤の匂いはひとりちゃんのジャージから匂ってるだけで、彼女の匂いは凄い――』
そこで音声が途切れた。
シンとした空気がSTARRYを包み込む。
誰もが呼吸を忘れ、これからどうなってしまうのかとハラハラドキドキしていた。
『ひとりちゃんってかっこいいんじゃないですか。い、いや、もっとありますよ! ひとりちゃんはかっこいいし可愛――』
ループ再生になっていたのか、同じ音声が流れ始める。
しかし、喜多ちゃんが目にも止まらぬ速さで私から音楽プレイヤーを奪い取ったお陰で、二回目の再生は防ぐことが出来た。
それから彼女は、ギギギと音が出そうなくらいぎこちなく、ぼっちちゃんの方へと振り返った。
ぼっちちゃんの表情は、長い前髪と俯いてることが相まって上手く確認できない。
「き、喜多さん――」
徐に言葉を発したぼっちちゃんに、私達はゴクリと唾を飲み込んで次の言葉を待つ。
「――喜多さん。そ、そんな褒めてくれるなんて、それ程でもないですよぉ。ふひ! ふへっへ。ま、まぁでも? き、喜多さんがそう言ってくれるならそうなのかな? ふへへ」
鈍すぎる……!
友達関係の経験値が無さすぎることと、承認欲求高めなことがここにきて裏目に出てしまうとは……!
その悲しき事実に涙が止まらない。
そんなことを思いながらガックリとしている私の肩を――
「伊地知先輩、ちょっとお時間いただけますか?」
――喜多ちゃんの両手ががっしりと掴んだ。
あー。終わったかもしれない。
お、お姉ちゃんに会いたい。
私の呟いたその言葉に、お姉ちゃんはそっと背を向けて歩き去ったのだった。
虹夏「まぁ、これに懲りたらあんまりハメを外さないようにね」
喜多「いやどの口が……?」ブチギレキターン!