アニメ最終話で、喜多ちゃんがぼっちちゃんのこと抱きしめながら腹話術してる場面あるじゃん?最後後ろからその二人が描かれてるところを見てさぁ 作:明太子美味しい
気絶しているひとりちゃんを前に、先程の出来事を思い返す。
そこそこ長い間活動してきたが、男性ファンに詰め寄られたのは初めてかもしれない。
私達の音楽が届いたのは嬉しいが、あの勢いで寄って来られると少しだけ恐怖を覚えてしまう。
ひとりちゃんも最初はデレデレとしていたけれど、段々と余裕が無くなり最後には爆発してしまった。
今後はファンとの、特に男性ファンとの距離感を上手く考えなくてはならないだろう。
――俺、リードギターの貴女が好きで、カッコよすぎです、めっちゃ好きっす! 俺にギター教えてもらえませんか? てかロイン交換しましょうよ!
イラッ。
先程の光景が頭によぎった私は、苛つきながら目の前で眠るひとりちゃんに覆い被さる。
アイツの顔は覚えた。
今後は郁代バリアで、ひとりちゃんには近づけさせないと心に誓う。
大体、ひとりちゃんは私にギターを教えているんだ。
ファンとはいえ、ぽっと出の男に彼女を渡す訳ないだろう。
ひとりちゃんは私達の。いや、私の女なんだ。
絶対、絶対渡してやるもんか。
そんな独占欲に濡れた想いを溢れさせた私は、彼女に跨ったままジャージのファスナーに手をかけ、ゆっくりと下に降ろしていく。
全く。
ひとりちゃんもひとりちゃんだ。
最初だけとはいえ、褒められるとすぐにデレデレしちゃって。
ひとりちゃんは隙が多いのだから、あんまり心配させるようなことはやめてほしい。
目の前には、少しだけ露出した彼女の首元。
私はそこから目が離せない。
ひとりちゃんは未だに気絶している。
そんな無防備な彼女との距離を、私は少しずつ縮めていった。
僅かに汗を浮かばせた、白くて綺麗な彼女の首元。
私はそこに向かって――
チュゥゥゥゥ。
……ひとりちゃんは、私のものだ。
++++++
突然ではあるが先日、STARRYでライブを行った。
手応えとしては、中々のものだったと思う。
お客さんは以前と比べて随分と入っていたし、スタジオも結構盛り上がっていた。
当日の歌っている最中、お客さんが楽しそうに体を揺らしていることが分かって嬉しくなった。
そんな彼ら彼女らの様子を見て実感する。
やっぱりライブって楽しいなって。
SNSでエゴサしても悪い意見は見当たらず、むしろ結束バンドが凄かった! なんて呟きもあった。
ミュージシャンのように、上手な演奏が出来る訳じゃない。
歌手のように、沢山の人に響く歌を歌える訳じゃない。
それでも。
私達の演奏は、確かにお客さんの心に届いた。
今はそれだけで十分だ。
まだまだ私達は上手くなれる。
先日の経験を生かして、これからも積み重ねていこう。
そう決意した私は、アルバイトのためにSTARRYへと向かった。
+++
STARRYにて。
時刻はあっという間に進み、チケット販売の時間になった。
今日の私はドリンク担当だ。
大変嬉しいことに、ひとりちゃんと一緒である。
どうも今日はバイトスタッフが多いらしく、それぞれの受付や担当に二人
それだけ今日のセトリは、人気バンドばかりなのだろう。
今日は忙しくなるぞ!
そう気合を入れた私は、ひとりちゃんと一緒にドリンク受付に立った。
一組目のライブが始まった。
忙しかった。
ただその一言に尽きる。
お客さんが続々と入ってきてから暫く。
私達には常にドリンクの注文が入っていてずっと大変だった。ここまで忙しいのは久しぶりだったかもしれない。
けれど、漸くゆっくりできる。
隣にはいつかのように、真っ白になったひとりちゃんの姿。
そんなひとりちゃんを必死に励まし、私達は一息入れ始めた。
それから暫くして、私達の元へと歩いて来る男性の姿が視界に映った。
ドリンクの注文かと思った私は、息を吹き返したひとりちゃんと共に背筋を伸ばして待ち構える。
そして、受付前に来た彼は一言。
「あの、結束バンドの方ですよね?」
……!
もしかして、私達のファンかしら!
遂に私達は、バイト中に話しかけられるくらい有名になったのね!
やったわー!
なんて内心を隠して、全く驚いて無いですよって顔で彼の質問に肯定する。
「やっぱり! 先日のライブ見ました! 俺凄い感動して、ほんと良かったですよ!」
おぉ!
割と普通のファンじゃないか!
正直嬉しい。
隣のひとりちゃんも、パァァァって表情を明るくさせている。
「特にピンクの貴方! ギター上手でびっくりしましたよ!」
おぉ!
この男、分かっているじゃないか!!
確かに、先日のひとりちゃんは程よく緊張も抜けていて、まるでプロみたいだと感じる程の演奏だった。彼女も、バンドでの演奏に段々と慣れてきたのかもしれない。
ひとりちゃんも成長している。
まだまだ私も頑張るぞー!
そんな、改めて決意をする私の耳に――
「――俺、リードギターの貴女が好きで、カッコよすぎです、めっちゃ好きっす! 俺にギター教えてもらえませんか? てかロイン交換しましょうよ!」
はっ?
はっ?
「ぅえ!? そ、そんな好きとか、そ、そういうのあっ、あっえと、ちょっと、その……」
「いやー、ほんとカッコよかったっすよ! で、ロインどうすか?」
彼の勢いに、ひとりちゃんはデレデレとした表情から焦ったような表情へと変わった。
次第に彼女の目がグルグルと回り出し、最終的には――
「ぁっ、あ、ああアアアアアアアアアッ!!」パァン!
――爆発した。
……。
「ひっ! お、お化け!」
アイツはそんな捨て台詞を残し、大慌てでSTARRYから出ていった。
……店長。
私は店長を呼んで事情を説明する。
休憩を貰った私は、スカスカになったひとりちゃんを引っ張ってスタッフルームへと向かった。
++++++
気絶しているひとりちゃんを前に、先程の出来事を思い返す。
私達の音楽が届いたのは嬉しいが、あの勢いで寄って来られると少しだけ恐怖を覚えてしまう。
今後はファンとの、特に男性ファンとの距離感を上手く考えなくてはならないだろう。
――てかロイン交換しましょうよ!
イラッ。
先程の光景が頭によぎった私は、苛つきながら目の前で眠るひとりちゃんに覆い被さる。
大体、ひとりちゃんは私にギターを教えているんだ。
ファンとはいえ、ぽっと出の男に彼女を渡す訳ないだろう。
ひとりちゃんは私達の。いや、私の女なんだ。
絶対、絶対渡してやるもんか。
そんな独占欲に濡れた想いを溢れさせた私は、彼女に跨ったままジャージのファスナーに手をかけ、ゆっくりと下に降ろしていく。
目の前には、少しだけ露出した彼女の首元。
私はそこから目が離せない。
ひとりちゃんは未だに気絶している。
そんな無防備な彼女との距離を、私は少しずつ縮めていった。
僅かに汗を浮かばせた、白くて綺麗な彼女の首元。
私はそこに向かって――
チュゥゥゥゥ。
――吸い付いた。
チュパッと一度、唇を離す。
そこには、赤い斑点がひとつだけ残っていた。
ゾクゾクッ!
私の大好きな人が、私のキスマークを付けている。
その事実を認識して、お腹の奥がジュンと熱くなった。
そうだ。
またいつ先程のアイツみたいな男が来るか分からない。
だから、こうやって私のものだという証を残しておかないと。
私は自分の行為を正当化し、再び彼女の首元に向かって唇を落としていった。
チュゥゥゥゥ。
「……んぅ」
……!
夢中になって彼女を味わっていると、ひとりちゃんが僅かに声を上げて身じろぎをする。
そんな彼女から一瞬で離れた私は、素知らぬ顔で携帯を弄っているフリをした。
起きちゃったかしら?
そっ、それより、バレてないわよね?
内心ドキドキとしながら様子を窺っていると、ひとりちゃんの目がゆっくりと開き始める。
彼女は目線だけで辺りを見渡し、最後に私の姿を捉えた。
「あっ、お、おはようございます」
気絶から復活した彼女は、一言目にそんな言葉を発した。
せ、せーふ!
ホッと一安心する私に対して、彼女は不思議そうな顔をしながらも当然の疑問を尋ねてきた。
「ど、どれくらい私は寝ていましたか?」
私は腕時計を確認する。
驚くことに、彼女が気絶してから既に約一時間が経過していた。
そ、そんな。
体感では五分くらいだったのに……!
その事実に心の底から驚く。
彼女を味わっているときは全く時間の流れを感じなかった。それだけ夢中になっていた。
もしかしたら、私の人生の中でも一位二位にランクインするぐらい集中していたかもしれない。
そんなことを考えながらも、私は一先ずひとりちゃんの質問に答えた。
すると彼女は、ぴゃっ! という声をあげながら大慌てで起き上がった。
「バ、バイト!」
きっとひとりちゃんは、バイトをサボってしまったのでは無いかと慌てているのだろう。
彼女は根が真面目で良い子なのだ。
それなりの頻度で、人と関わりたくないとか、バイトを辞めたいとか言ってはいるが、彼女が一度やり始めたことを投げ出すことは殆ど無い。
今だってその真面目な部分が出ているのだろう。
けれど、慌てなくても大丈夫だ。
アワアワとしているひとりちゃんを制して、私は彼女に告げる。
――店長には伝えてあるから、ゆっくりしていて大丈夫よ。
それを聞いた彼女は、安心した様子で息を吐いた。
相変わらず良い子な彼女に、心がほっこりとする。
なんて良い女なんだ。
可愛くて、良い子で、ふわふわもちもちで。
もしかして最強か?
改めてひとりちゃんの素晴らしさを理解した私は、感動に打ち震えると共に、いつか絶対に彼女と幸せになってやろうと決意する。絶対にだ。
彼女に告白して、付き合って。
そして最後には体を重ねて。
――そこまで考えた私は、ひとりちゃんの首元に視線を向けた。
そのまま視線を固定し、ずっと彼女の首元を見つめ続ける。
「ど、どうしました?」
そんな私に疑問を覚えた彼女が、ビクビクとした様子で訊いてくる。
なんでもないわ、と答えながらも視線はそこから動かさない。
彼女の首元には――
ひとりちゃん。
絶対に貴方を捕まえて見せるわ。
――私のものだと主張するように、幾つもの赤い跡が残っていた。
+++
や、やりすぎたかしら?
今更になって不安に思う。
何故私はあんなにキスマークを付けてしまったんだ。
興奮していたとはいえ、不味いとか思わないのか。
沢山有りすぎてちょっとだけ背筋がゾワリとする*1。
誤魔化すために必死で頭を回し続ける。
なんとか策を捻り出した私は、彼女に向かって言葉を投げ掛けた。
――ジャ、ジャージが空いてるわよひとりちゃん。
「あっ、そうですね。なんでだろう?」
彼女はそう言ってファスナーを上げ始める。
よし、よし。
このまま最後まで行って――
「――あれ?」
あっ。
「あっ、あの。わ、私の首元になんか赤い斑点みたいな出来てませんか?」
どうするどうするどうする!?
必死で頭を回し続ける。
この返答に、私の恋愛人生が懸かっているのだ。
頼む。何か、何か思い付いてお願い!
そして私は、彼女に向かって答えた。
――そうね。虫が飛んでいたから、虫刺されじゃないかしら?
あまりに稚拙……!
いや、これは仕方がない。
だって何も思い付かなかったのだ。
むしろ、稚拙とはいえなんとか捻り出した私を褒めて欲しいくらいだ。
「――喜多さん」
そんな私に話しかけるひとりちゃん。
ゴクリと唾を飲み込んで、私は次の言葉を待つ。
そして彼女は――
「たっ、確かに最近暑いですからね。蚊とかでしょうか?」
せ、せーふ!
やった、やったわ!
私の勝利よ!
祝福のベルが脳内に鳴り響く。
いけない。少しだけ涙が出てきたわ。
天井を見上げて涙を堪える私に、不思議そうな顔をするひとりちゃん。
そんな彼女は、ジャージのファスナーを上げきって立ち上がった。
首元のキスマークは完璧に隠れている。
「き、喜多さん。時間も遅いので、そろそろ戻りませんか?」
ひとりちゃんの言葉に頷いた私は、彼女の腕を取って、ルンルン気分でスタジオへと戻るのだった。
ふたり「お、おねーちゃんそれなに!?」
ぼっち「えっ? あぁ虫刺され。喜多さんが教えてくれたんだ」
ふたり「へ、へぇー。そうなんだ(白目)」