アニメ最終話で、喜多ちゃんがぼっちちゃんのこと抱きしめながら腹話術してる場面あるじゃん?最後後ろからその二人が描かれてるところを見てさぁ 作:明太子美味しい
実際にいただけると予想外に嬉しいものですね。
今度から作者も、感想を書くようにしようかしら。
突然の出来事に、私の頭は真っ白になった。
その光景から目が離せない。口も半開きのまま、その原因となった彼女を見つめる。
――今、ひとりちゃんがお茶を飲もうとしている。
私のペットボトルから。ついさっき口を付けたばかりのペットボトルから、お茶を飲もうとしている。
彼女はお水を買っていた。お茶とお水のラベルは異なる絵柄であり、中身も緑色と無色透明。簡単に見分けがつく筈だろう。
それなのに彼女は、私のお茶を飲もうとしている。
気が付いていない……?
それともわざと?
いや、人見知りのひとりちゃんが人の飲み物をわざと飲むとは考えづらい。
それならやっぱり気付いていないのかしら……?
分からない、どうしてなのか分からない。
けれど一つだけ、確かに分かっていることがある。
あと一秒もすれば彼女が、ひとりちゃんが私のお茶を飲むということだ。
ひとりちゃんの――同性の私から見てもプルプルだと感じる――柔らかそうな唇で。
ゴクリと息を呑み込む。
あまりの緊張に、少しだけ手が汗ばんでいる気がする。
――ペットボトルを握る手が持ち上がる。
彼女は未だ気が付かない。
私はその光景から目が離せない。
――首を僅かに傾ける。
無意識に呼吸が止まった。
心臓が激しく脈打つのを感じる。
あと少し、あと少し……。
そして、
ひとりちゃんの唇が触れ――
++++++
「そろそろライブもしたいねぇ〜」
バイト後、伊地知先輩が机に突っ伏しながら言う。
確かにあの文化祭の日以降、ライブには参加していない。
「そういえば、新曲の方はどんな感じ?」
あ、ひとりちゃんが震え始めた。
「こればっかりは曲のインスピレーションが湧かないとどうしようもない。今はお腹が空いて力が出ない。だからご飯――」
「はいはい分かった分かった」
伊地知先輩とリョウ先輩の気の抜けた会話を聞きながら、私はひとりちゃんの様子を窺う。
彼女はゴミ箱に隠れようとしているが、お尻が収まっていないため全く意味がないように思える。
「ぼっちちゃんは――」
振り向いて、その様子を確認した伊地知先輩の目からはハイライトが消え、
「――ダメそうだね」
「すすすすいませんッ!」
「あはは!全然怒ってなんかないよー。いつも良い歌詞書いてくれてありがとね!ぼっちちゃん!」
「ヴッ!ヴゥゥ……」
グシュグシュと涙を流し、顔のパーツが崩壊し始めたひとりちゃんに私は慌てて駆け寄り――
大丈夫、大丈夫!
ひとりちゃんはいつも頑張ってて偉い!
ギターもとっても上手で素敵!
私にも優しく教えてくれるしひとりちゃんは最高よ!
それにひとりちゃんは可愛い!良い匂い!柔らか――
「チョチョチョチョチョッ!それぐらいで良いって!ぼっちちゃんの表情見てみ」
そう言われて彼女の顔を見ると、
「ウェヘヘそんな私なんてフヘッた、大したことないですよアハッアハハ」
相変わらずひとりちゃんは直ぐ顔に出るのね!
でも元気になってくれて良かったわ。ひとりちゃんが嬉しそうにしていると、私まで嬉しくなるもの!
「いよーし!気を取り直して、今日も練習頑張るぞー、おーっ!」
おーっ!
+++
今日の練習はまず、曲合わせから行うことになった。
ボーカルは入れずに数回程繰り返したのち、問題箇所を意見し合い、重点的にその部分を練習する。
そして最後にもう一度曲を通し、自主練へと移行。自由解散という流れになった。
スタジオを使っているのだから、少し自主練の時間が勿体無いと感じる気もするが、まだライブも決まってないし余裕を持って大丈夫だと伊地知先輩が言っていた。
それもそうかと納得し、演奏するために私は意識を切り替える。
それじゃあ早速。喜多郁代、気合入れていきます!
+++
練習を始めると、やはり私の未熟さを感じる。少しづつ成長していることは分かるけれど、同時にまだまだ先輩達との差が埋まらないことも実感してしまう。
チラリと横目で確認すると、落ち着いて演奏するひとりちゃんの姿が目に入った。ギター歴数ヶ月の私ですら、彼女の演奏が上手であると感じる。
年季が違う、と言ってしまえばそれまでだが、そんな事を言い訳に手を抜くなんて有り得ない。
数回演奏を繰り返した後、私はグッとギターのネックを握りしめ、唇を僅かに噛みしめた。
自分自身の不甲斐なさに少しだけ嫌気が差し、心が冷えていく。
私に、特別になれるような才能はないのだろう。
もう少し、家でも自主練の時間を増やそう。
寝る時間を削っても良いかもしれない。とにかく、もっと必死に練習して少しでも先輩達に追いつかないと。
そうじゃなきゃ、ひとりちゃんを支えられるギターになんかなれない。結束バンドにふさわしいギターボーカルになれない。
だからもっと、もっと練習して、それで――
「き、喜多さん!」
――ひとりちゃん?
彼女は私に近づき、ギターを握りしめる私の掌をさらに上から包み込む。
それからゆっくりと、強く握りしめた私の左手を解いていく。
「き、喜多さんはいつも頑張ってます!ギターだって、バッキングも上手になってますし、今日も前回より上手になってました!だ、だから、落ち込まなくていいです!わ、私なんかより喜多さんはよっぽど出来た人間で、いつだって優しくて、眩しくて、だから、その、私なんかが隣にいて良いのかって、勝手に私が凹んだりして……」
彼女は必死に想いを伝えてくれる。
「だから――」
滅多に目が合わない彼女と目線が交わる。
「き、喜多さんはちゃんと前に進んでいます!焦る必要なんてないんです、喜多さんじゃないと私は駄目なんです!」
プルプルと体を震わしながら。顔を真っ赤にしながら。それでも目を見開いて真っ直ぐと私を見つめ、励ましてくれるその姿が――
いつかの私達を救ってくれた、かっこいい彼女と重なって見えた。
目頭が熱くなる。
私はこんなにも想われていた。
私じゃなきゃ駄目だと言ってくれた。
あはっ。
唇が震えて、上手く言葉が紡げない。
だからその代わりに、優しく彼女を抱きしめた。
この想いが――
好き。
――ひとりちゃんに、伝わると良いな。
+++
自主練の時間になった。
私はいつものように、ひとりちゃんからギターを教わっている。
今日は解散でも良いよと、気を遣ってくれた先輩達が言ってくれたが何も問題はない。
夢中になってギターをかき鳴らす。
少しでも早くみんなに追いつき、そしてひとりちゃんを支えられるようになるために。
今の私はやる気が漲っている。
何だってできる。何にだってなれる。
勇気を出してくれた、ひとりちゃんのおかげだ。
このまま徹夜で、明日の朝まで練習したいぐらいにはやる気がMAXである。
もう負ける気がしないわ……!
そんな、謎の自信に満ち溢れた私の視界に――
あら……?
――水分補給をするひとりちゃんの姿が映った
++++++
――今、ひとりちゃんがお茶を飲もうとしている。
私のペットボトルから。ついさっき口を付けたばかりのペットボトルから、お茶を飲もうとしている。
気が付いていない……?
それともわざと?
分からない、どうしてなのか分からない。
けれど一つだけ、確かに分かっていることがある。
あと一秒もすれば彼女が、ひとりちゃんが私のお茶を飲むということだ。
ひとりちゃんの――同性の私から見てもプルプルだと感じる――柔らかそうな唇で。
ゴクリと息を呑み込む。
あまりの緊張に、少しだけ手が汗ばんでいる気がする。
――ペットボトルを握る手が持ち上がる。
彼女は未だ気が付かない。
私はその光景から目が離せない。
――首を僅かに傾ける。
無意識に呼吸が止まった。
心臓が激しく脈打つのを感じる。
あと少し、あと少し……。
そして、
ひとりちゃんの唇がふれ――
バンッ!
「お疲れ様〜!もうお店閉めるって!」
――そうなところで伊地知先輩が入ってきた。
伊地知先輩、ちょっとお時間いただけますか……?
「お、お姉ちゃんに会いたい…… 」
ウルウルとしている先輩にニッコリと微笑みかける私は――
耳まで真っ赤に染まったひとりちゃんに気が付くことはなかった。
+++
練習が終わり、ひとりちゃんと二人で駅へと向かう。
月明かりが照らす中、自然と私達は手を繋ぐ。
先日から私達は、手を繋いで帰るようになった。
興奮に体が少し火照り始めるが、少し肌寒くなる今の時間帯であれば丁度いいのかもしれない。
――私は今、幸せだ。
ひとりちゃんもそう思ってくれてると嬉しいな。
気になるけれど、確かめることはしない。
これ以上ひとりちゃんで満たされると、私が破裂してしまうから。
今日はもうお腹いっぱいだ。
もう私は大丈夫。
もしまた、自分の未熟さを意識してしまうことがあっても。自分に特別な才能がないと感じてしまうことがあっても。
彼女が私を照らしてくれる。
今も私達を見守る、夜空に浮かんだ月のように。
そして私は――
月の周りで共に輝く、星座になりたいと思った。
喜多「もう何も恐くないっ!」
ぼっちちゃん間接キス直前。
喜多「あわわわわ……!」