アニメ最終話で、喜多ちゃんがぼっちちゃんのこと抱きしめながら腹話術してる場面あるじゃん?最後後ろからその二人が描かれてるところを見てさぁ 作:明太子美味しい
ベッドには、気持ち良さそうにスヤスヤと眠るひとりちゃんの姿。時々寝言で、武道館がどうのこうのとニヤニヤしながら呟いている。
そんな彼女を見て、モニョモニョとした感情が湧き上がってきた。
――私はこんなにも心配したのに……!
もうっ! と勢いよく彼女のベッドに近づき、私もそこに乗り込む。
心配させた罰だ。少し悪戯するぐらいなら許されるだろう。もちろん、私が許す。
ギィ……と僅かに軋むベッドの音に体が一瞬だけ強張るが、ひとりちゃんに起きた様子はない。
ホッと一息、彼女の顔を間近から見下ろす。
相変わらずひとりちゃんは可愛らしい。
整った顔。サラサラで綺麗なピンクの髪。そしてなにより、ふわふわで柔らかい彼女の体……。
そう、私は知っている。
彼女を抱きしめた時の柔らかさは、天上の心地であると。
ふわふわのもちもち、むにっとした柔らかさ。
クラスのみんなにも味わって欲しいくらいだ。いや、あげないけれども。
何が言いたいのかというと――
あの感触を一度味わってしまった私に、この状況で我慢しろというのは酷である、ということだ。
うんうん、と自分を正当化していると、十七時のチャイムが鳴り始めた。
最終下校時刻まであと一時間と少し。
ひとりちゃんが起きるまでは私の時間だ。
そろそろ、いいかしら……。
彼女の頬に手を伸ばす。
ゆっくりと慎重に、ひとりちゃんを起こさないように。
そして指先が――
――むにゅーっ。
キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
++++++
「……憂鬱な月曜日がやってきた」
朝、前を歩くひとりちゃんを見つけて駆け寄ろうとする私に、そんな呟きが聞こえてきた。
動いていた足がゆっくりと止まり、私は悩む。
早く彼女と会話したいという気持ちもあるが、彼女が独り言で何を言っているのかも気になる。
少しの間、脳内で吟味した結果――
集中しているみたいだし、話しかけるのは少し待とうかしら……。
――私の好奇心が勝った。
喜多郁代のひとりちゃん観察教室、開幕である。
彼女は、五メートルほど離れた私から見てもどんよりとした空気を纏い、ボソボソと何かを呟き始めた。
「サボりたい。いや、陰キャが一日でも休んだらその日以降クラスに居ないものとして扱われちゃうか。多分花瓶とか、置かれちゃうんだろうなぁ。いっそ誰か、学校を更地にしてくれないものか……」
ひ、悲観的過ぎるわ……。
そんなに学校が嫌なのかしら?
楽しいことも嬉しいことも、沢山あると思うのだけれど。
「クラスの人とはまだ話せてないし、文化祭でイキった奴とか思われてるのかなぁ。学校とか、本当に行く意味あるのだろうか」
ヘヘッと寂しく笑う彼女に涙が止まらない。
ひとりちゃん、今行くわ!
歩くペースを上げ、今すぐ彼女に話しかけて励まそうとする私の耳に――
「――喜多さんが居るから学校行ってるようなもんだしなぁ」
あはっ。
――ひとりちゃんおはよっ!
「ウェッ! あ、おおおおはようございます喜多さん……!」
口をパクパクさせながら、チラチラと此方を窺うひとりちゃんの様子にほっこりする。多分、今の独り言が聞かれてないか気になるのだろう。
どうかしたの? と惚けたふりをする私に彼女は何でもないと返事をする。
今日は朝から良いことがあった。
やっぱり、学校には行くものだと思った。
+++
学校に着いたらいつものように荷物を置き、一年二組の教室に向かう。
これから、お楽しみの時間だ。
ガラリと扉を開け、ひとりちゃんの机に向かう。
緊張しているのか、手を膝に置いて背筋をピンと伸ばす彼女の様子に、少しだけ可笑しくなった。
最近は寝たふりをしないで、こうやって待っていてくれる。彼女もこの時間を楽しみにしてくれていたら嬉しい。
――今日もお話ししましょう?
「は、はいっ!」
むにっ。
「フゥゥオォォッ!」
当然のように、彼女の膝の上に向かい合って座る。
最近はこれが日課になっている。
今日もこうやって、一日のパワーを充電するのだ。
ひとりちゃんはいつまでも慣れない様子だが、そんなところも可愛いらしいと感じる。
私だって恥ずかしいのだから、少しだけ我慢して欲しい。
この恥ずかしさも、二人で居れば二等分だ。
むにむに、ポヨヨ〜ン。
思う存分味わう私に、ひとりちゃんはアワアワとするだけ。
たまに彼女の顔が溶けそうになるけれど、その時は少しだけ体を離して休憩させる。そして復帰したところをまた味わう。
決して抜け出すことのできない、魔の無限ループ……!
恐ろしい……!
これがひとりちゃんの魔力……!
気付いたら始業のチャイムが鳴っていた。
恥ずかしさからか、真っ白になってしまったひとりちゃん。
そんな彼女の頭をひと撫でし、私は急いで教室に戻るのだった。
+++
今日はお昼のギター練習がお休みであるため、ひとりちゃんをご飯に誘おうと一年二組の教室に来た。
けれど、教室の後ろから覗いてみても彼女の姿が確認できない。
クラスの子に問いかけると、授業が終わった途端に存在感が希薄になり、霞となって何処かへと消えてしまったそうだ。
――ふふっ。
少し笑ってしまった。
彼女はクラスでも、いつも通りの面白い彼女らしい。
以前にもひとりちゃんを誘おうとしたことはあるが、そのときも私のお友達を怖がって何処かへ隠れてしまった。学校では未だに一緒にご飯を食べたことがないため、いつかは彼女とお昼を食べたいなと思う。
それで、私自慢のひとりちゃんをお友達に紹介するんだ!
そういえば――
私がひとりちゃんについて尋ねたとき、何故だかみんな微笑ましい様な雰囲気で私のことを見ていたわね……。
私は首を傾げるのだった。
+++
あと少しで最後の授業が終わる。
今は問題を解く時間なので、既に終えてしまった私には関係ない、実質自由時間だ。
私は脳内でこれからの予定を確認する。
今日はSTARRYでバイトがあるため、クラスのお友達とゆっくりする時間はあまり無い。それに今日は私が教室の掃除当番だ。サクサクと終わらせて、ひとりちゃんと下北沢に向かうこととしよう。
――あ、でも、帰り道にクレープ屋さんが来てたわね。
定期的にやってくるクレープの移動販売。
ひとりちゃんと仲良くクレープ。
したい。
とてつもなく、したい。
むむむと渋い顔で悩んでいると、授業の終わりを告げるチャイムが耳を揺らした。
途端に弛緩した空気が教室に流れ始める。
私は思考を早々に打ち切って、一先ず掃除を終わらせることにした。
ふうっと息を吐き、掃除用具を片付ける。
予定より少し押してしまったが、掃除は問題なく終わった。このクラスは掃除にも協力的だからありがたく感じる。
仲の良い友人達にまた明日と声を掛け、私は荷物を背負い込んだ。
さぁ今日も頑張るぞ!
バイトのことを思い浮かべ、私は気合を――
「喜多ちゃん!」
……?
「後藤さんが――」
……ひとりちゃん?
「――後藤さんが保健室に!」
+++
――走る。
先生が注意しようとするが関係ない。
全力で保健室へと向かう中考える。
なんで……どうして……?
朝に会った時はいつものひとりちゃんだと思った。体調も悪そうには見えなかった。それなのにひとりちゃんは倒れ、保健室に運ばれた。
どうして私は気が付かなかったの……!
無数の後悔が頭を駆け巡る。
必死に走っていると、ようやく保健室が見えてきた。
その勢いのまま、あまり音を立てないように扉を開ける。
そんな私の視界に――
気持ち良さそうに眠るひとりちゃんの姿が映った。
……あら?
戸惑う私に、追い付いてきたひとりちゃんのクラスメイトが語りかける。
「文化祭ライブの話をしていたら、後藤さんのダイブの話になってね?そしたら急に何度も頭を机に打ちつけ始めて、私達が止める間も無く気を失っちゃったんだよ〜」
あははと笑いながら話す彼女にがっくしと肩を落としながら、私は大きく息を吐き出したのだった。
++++++
急で申し訳ありません。
今日のバイトは、ひとりちゃんの看病のためにお休みます。
伊地知先輩に連絡するとすぐにオッケーの返事と、お大事にという言葉が返って来た。
これで一安心、と一息入れて椅子に座る。
全く、人騒がせなんだから……。
ひとりちゃんの奇行には困ったものだ。
今度からは私がそばに居てあげないと。
他にも言いたいことはある。
あるけれどそれよりも――
――ひとりちゃんが無事で良かったわ……。
微笑みながら彼女を見ている私の耳に――
「ウェヘヘヘ。武道館、とっぷすたぁ」
……。
モニョモニョとした感情が湧き上がった。
――私はこんなにも心配したのに……!
もうっ! と勢いよくベッドに近づき、私も乗り込む。
整った顔。サラサラで綺麗なピンクの髪。そしてなにより、ふわふわで柔らかい彼女の体……。
最終下校時刻まであと一時間と少し。
ひとりちゃんが起きるまでは私の時間だ。
そろそろ、いいかしら……。
彼女の頬に手を伸ばす。
ゆっくりと慎重に、ひとりちゃんを起こさないように。
そして指先が――
――むにゅーっ。
キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
なになになに……!?
ひとりちゃんは頬っぺたも柔らかいのね!
凄い……!
凄いわひとりちゃん……!
あまりの興奮に体が勝手に動き出す。
彼女の頬を夢中で触っていると、無意識の内に私は馬乗りになっていた。
ポーッと頭がふわふわし始め、呼吸も段々と荒くなる。
自然と視線が、彼女の唇に向かう。
……今ならいける。
私は身を乗り出して、それで――
下校時刻十分前のチャイムが鳴った。
……またこのパターンか。
自分のタイミングの悪さに少しだけ凹むけれど、体の興奮は少しも収まらない。
悶々とし続けた私に、我慢なんて出来なかった。
だから私は、
自分の唇を親指で拭い――
ゴクリッ……。
――ひとりちゃんの唇をなぞった。
+++
これでも随分と勇気を出したのだ。ヘタレとか思わないで欲しい。
ぶつぶつと謎の言い訳をしながら、ひとりちゃんを起こす。
「あ、おおおおはようございます」
ムクリと起き上がる彼女にほっこりしていると、妙に顔を赤らめた彼女にチラチラとされる。
どうかしたの? と尋ねてみても、彼女は答えてくれない。
……なにかしら?
もう少し問い詰めてみたい気もするが、下校時刻も迫っている。
ひとりちゃんの手を引き慌てて校門へと走り始めた私の頭には、先程までの疑問は欠けらも残っていなかった。
喜多「そろそろ狩るか…♠️」