アニメ最終話で、喜多ちゃんがぼっちちゃんのこと抱きしめながら腹話術してる場面あるじゃん?最後後ろからその二人が描かれてるところを見てさぁ   作:明太子美味しい

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喜多ちゃんのギターストラップが花柄だと、初めて気付きました。
周回しているとOPを飛ばす癖が……。

※2023/1/28追記
意図しないものを匂わせてしまった部分がありましたので修正しました。
ご指摘ありがとうございました!



百合の花

 

 今日は結束バンドで練習をしている。

 今はオリジナル曲を通しで演奏しているところだ。

 

 今日の私は調子がいい。

 いつもより手首が柔らかく動くし、演奏にも着いていけている。

 

 それに何より――

 

 

 チラリとひとりちゃんの右手を見る。

 相変わらず上手でキレのある演奏をしている彼女の右手には――

 

 

 ――私とお揃いのギターピックが握られていた。

 

 

 その事実を確認して、体の奥が熱くなる。この衝動をギターにぶつけて私は必死にかき鳴らした。

 先輩方が一瞬驚いた表情でこちらを見たが、私はにこりと笑顔で応える。

 

 今日の私は絶好調だ。

 

 

 

 

 一曲弾き終えてひとりちゃんの様子を窺うと、彼女は右手を眼前に持ち上げていた。

 

 それから手の中にあるものを確認し、一度私の方へと振り向く。

 彼女の視線は私の右手に向かっている。

 

 そしてもう一度自分の右手を確認して、それから――

 

 

 

 

 

 

 

 嬉しそうにニヘラと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 か、可愛い〜〜〜キターン!

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++

 

  ……ひとりちゃんは何をしているのかしら?

 

 放課後、私は扉の隙間からひとりちゃんの様子を窺っていた。

 

 

 

 

 

 今日はアルバイトもバンド練習もない日である。

 けれども、特に何か予定が入っている訳ではなかったため、ひとりちゃんにお願いをしてギターの練習をすることにした。

 

 いつものように授業を終え、私は練習部屋へと向かう。

 

 今日はどんな練習をしよう。

 彼女のギターに合わせて簡単な曲でも弾こうか。それとも、一度初心に戻ってピッキングやカッティングの反復練習をやってもいいかもしれない。

 

 あれこれと考えていると、いつの間にか部屋の前に着いていたようだ。

 早速とばかりに入ろうとする私は、扉が僅かに開いていることに気が付く。

 どうやら既に、ひとりちゃんは中にいるらしい。

 

 

 ――少しだけ、様子を見ようかしら?

 

 

 彼女に早く会いたい気持ちはあるが、一人でいるときに何をしているのかも気になる。

 

 悩んだ末に私は、好奇心に従うことにした。

 

 先日はそのおかげで、ひとりちゃんが私と会うために学校へ来ていることを知ったのだ。

 実績が既にある。今回も好奇心に従って良い結果を得るとしよう。

 

 抜き足差し足で扉に近づく。息を潜めて隙間から覗くとそこには――

 

 

「ウェーイ! バイブス上げてこ〜う! おねーさんテキーラ追加〜! フゥッフゥ〜」

 

 

 ふふっ。

 ひ、ひとりちゃんは何をしているのかしら。

 

 

 あまりの光景に笑いが込み上げる。危うく吹き出すところだった。

 相変わらず彼女は面白い。口を抑えて笑いを堪えていると、彼女の雰囲気が少し変わった。

 

 

「渋谷に行く人この指とーまれ! ここはイソスタ映えスポットが――」

 

 

 ふふふ。

 友達を遊びに誘う練習……かしら?

 その努力は凄いと思うが、学校でやる理由が分からない。

 

 

「スタバで一緒にフラペチーノでも飲も――」

 

 

 あっ。

 

 

 

 

 

 

+++

 

「ヴッ、ヴゥゥッ」

 

 

 目の前にはさめざめと泣くひとりちゃんの姿。

 慰めようとするが、不意に先程の光景を思い出して笑いが込み上げる。

 

 

「ワ…ァア…ァ……」

 

 泣いちゃった……。

 

 

 ――だ、大丈夫よ! ひとりちゃんは素敵な女の子だもの!

 

 

 私はなんとか言葉を絞り出すが、効果はいまひとつのようだ。

 

 

「聞いてください。陽キャになりきれなかった上に黒歴史を友人に見られてしまった憐れな女のエレジー……」

 

 

 曲名で全てを察する。

 どうやら彼女は、陽キャになる予行練習をしていたようだ。

 ジャカジャカと鳴り響くギターの音。無駄に上手なのがまた笑いを誘う。

 

 三十秒と少しの弾き語りを聴き終え、賞賛の拍手を送った。

 それでもひとりちゃんは涙を流し続ける。私に見られてしまったのが相当堪えているらしい。

 

 

 どうすれば元気になってくれるのかしら……。

 

 

 考えて、考えて、そして一つだけ思い付く。

 

 これなら恐らく彼女も喜んでくれるだろう。それに私にとっても、嬉しい提案になるかもしれない。

 さぁいくぞ喜多郁代!

 

 

 私はひとりちゃんに近づき、彼女の右手を取った。

 

 

 ビクッ! としているが気にせず続ける。

 ゆっくりと手を開いて、それから彼女の人差し指を掴む。

 

 

「あ、えと。こ、これは一体何を……?」

 

 

 彼女は意図が理解できないようで、ハテナマークを浮かべている。

 焦らす必要もないし、すぐに答え合わせをすることにした。

 

 

 

 ひとりちゃんが言ったんじゃない――

 

 

 

 彼女の目が見開かれる。

 

 

 

 ――この指止まれって。

 

 

 

 一瞬の静寂。

 それからすぐに彼女は再起動した。

 

 

「ウェェエエエッ! こ、これはその! そんな遊びに誘うとかそんなんじゃなくて――」

 

 

 ――次のお休みの日、二人で一緒に渋谷へ行きましょう?

 

 

 慌てる彼女にキターン!と畳みかける。ここが正念場だ、頑張れ私!

 少し強引な自覚はある。けれど、私だってひとりちゃんとお出かけデートがしたいのだ。

 

 

「こ、怖い……。人混みが怖い。私が陽キャ溢れる渋谷に……? だ、駄目だ絶対、ミジンコみたいな私が行ったらネットに晒されて、それで――」

 

 

 ――私と一緒に居ても怖いかな……?

 

 

「ヘァッ! そ、そのぉ。喜多さんと一緒なら……ぅぅぅぅ」

 

 

 目をグルグルさせるひとりちゃん。

 そんな彼女を至近距離から見つめる私。

 

 

「い、行きます……」

 

 

 やったー!

 

 

 

 やる気に満ち溢れた私は、夢中でギターをかき鳴らして練習を始めた。

 

 

 

 

 

 

+++

 

 遂にこの日がやってきた。

 ひとりちゃんと約束をしたこの日が。

 

 

 今日まで長かった。ずっと楽しみにしていた。

 予定日が近づくにつれてソワソワし始め、親に少し心配されることもあった。

 学校では今日という日に思いを馳せ、ニヤついてしまうこともあった。

 

 それだけ待ち望んでいたのだ。みんなにも分かって欲しい。

 

 謎のキメ顔でそんなことを思っていた私は、昨日二時間悩んで決めた勝負服に身を包み、颯爽と家を出る。

 

 天気は快晴。私の心を表すような、澄み渡った青空だ。

 まるで私のこれからを祝福してくれているように感じ、気分が良くなる。

 

 そんな私は鼻歌を歌いながら駅へと入り、颯爽と電車に乗り込んだ。

 

 

 

 今日の待ち合わせは現地集合にしている。

 ひとりちゃんのお家が遠いのもあるけど、現地集合の方がデートっぽく感じるのだ。

 

 もちろん私はデートだと思っているが、ひとりちゃんがそう思ってくれているかは分からない。

 だから、形から入って意識させよう、という作戦である。

 

 あまりの知将っぷりに自分が恐ろしくなる。

 李白と呼んで欲しい。私が許しましょう。

 

 なんておかしなことを考えていると、渋谷駅のアナウンスが聞こえてきた。

 電車を降りる人の流れに乗り、そのまま改札を出る。

 

 今日の待ち合わせ場所は、かの有名なハチ公前だ。

 

 有名どころなら彼女も分かるだろうと考えてここにしたが、失敗だったかもしれない。

 

 今日は休日で、かなりの人が待ち合わせをしている。

 すぐに見つけることは難しいし、なにより人混みの苦手なひとりちゃんには少し大変だろう。

 

 私に出来ることは、いち早く彼女を見つけてあげることだ。

 

 まだ来ていないだろうが、一応周りを確認する。

 すると、銅像正面に不自然な空間があることに気が付いた。

 

 

 近寄って確認してみるとそこには――

 

 

 

 ハチ公像の足元で体が溶けて、スライムのようになって泡を吹いているひとりちゃんの姿があった。

 

 

 

 ――ちょっとひとりちゃん大丈夫!?

 

 

 彼女からの返事はない。私は急いで彼女を鞄に詰め込むと、慌ててその場から離れるのであった。

 

 

 

 

 

 

+++

 

 一度、ひとりちゃんを人間に戻す必要があるわね……。

 

 せっかくのデートだ。人間状態の彼女と楽しみたい。

 私は頭の中で、何処かゆっくり休めるところを検索する。

 

 

 

 丁度一件、私の知っているお店がヒットした。そこで彼女を人間に戻すとしよう。

 溶けかけた彼女の頭を撫で、私はお店へと向かった。

 

 

 

 

 そして到着。

 

「こ、ここは一体……」

 

 人混みを離れた影響か、喋れるようになったひとりちゃんが尋ねてくる。

 

 ――ここは、足湯カフェよ!

 

 そう、カップル御用達の足湯カフェである。

 一人では行きづらいお店で、今まで入ったことは無かった。

 

 でも今日は入れる。

 何故なら私達はカップル。今まさにデートをしているのだから!

 

 私は彼女を引っ張り、意気揚々と入店した。

 店員さんに二名だと告げ、案内に従う。

 

 それから席に着いた私達は、飲み物を注文し早速足湯に入った。

 都会の真ん中で足湯という不思議な体験をしているが、リラックスには最適だろう。

 

 これでひとりちゃんが復活してくれたら嬉しい。

 チラリと確認すると、彼女も気持ちよさそうにしていて、ぽやぽやしながら顔をテーブルに乗せていた。

 

 

 ――良かったぁ。

 

 

 微笑む私に、ひとりちゃんが笑い返してくれる。

 

 あぁ、本当に幸せだ。

 こんな日々がいつまでも続いて欲しい。

 

 そんな風に思う私だが、突然モニョモニョとした悪戯心が湧いてきた。

 

 えいっ。

「ヒェッ!」

 

 私の足が彼女の足に触れる。

 ひとりちゃんの足はもっちりとしていた。水分を吸って柔らかさが増しているのかもしれない。

 

 えっ、えっ? と戸惑う彼女に構わず、私は足で触り続ける。

 

 ――気持ちいいわね。

 

「は、はい……」

 

 私はこの悪戯を、お店を出るまで続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

+++

 

 それからの私達は、二人きりのお出かけを楽しんだ。

 

 クレープも食べたしウィンドウショッピングも少しだけした。疲れたら公園やカフェで休んでまた他のお店へと向かう。

 途中、ひとりちゃんがあまりの人混みに再び消滅しそうになったが、その度に抱きしめて形を保っていた。

 今日だけでかなり今時の女子高生を満喫している気がする。

 

 ショッピングでは渋谷108に入ったが、ひとりちゃんは随分と感動していた。

 理由を聞くと――

 

「つ、遂に陽キャの象徴である渋谷108デビュー……! そう、私こそがクイーン オブ ウェイ……」

 

 と言っていた。

 目を輝かせている彼女に私も嬉しくなる。

 ピンクのジャージで108デビュー。とてもロックな気がする。

 流石クイーン オブ ウェイ。

 

 けれど、お洋服屋さんでひとりちゃんが試着してくれなかったのが唯一の心残りだ。

 甘い系の、地雷っぽいお洋服専門のお店があって、そこの服を着て欲しかったのだが……。

 

 まぁ今日はいいだろう。

 次回来たときは一緒に着て写真を撮ろうと思った。

 

 そして最後に、ひとりちゃんに告げる。

 

 

 ――帰る前に、行きたいところがあるの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達は今、楽器屋さんに居る。

 実は、お出かけを決めた日から買いたいと思っていたものがあるのだ。

 

 入店した瞬間にひとりちゃんが高速で頭を振り始める、なんてことも起こったが、可愛いのでヨシ! とスルーした。

 

 目的のコーナーに辿り着く。

 そこにはいろんな種類のピックが置いてあった。

 

「き、喜多さんは自分のピック有りますよね?」

 

 と聞いてくるひとりちゃん。当然の疑問だろう。

 実際、私は既にピックを持っているしそれが壊れてしまった訳でもない。

 

 それでも欲しい。

 

 だって今日は――

 

 

 

 

 

 

 今日はひとりちゃんと初めてデートした日なんだもの。

 

 思い出が欲しいの……。

 

 

 

 

 

 

 そう告げると、彼女の顔が少し赤くなった。

 

 それから暫く選んでいると、彼女も横に並んでピックを選び始めた。

 私が疑問に思っていると、

 

 

「わ、私も喜多さんと同じもの。ほ、欲しい……です」

 

 

 

 ――なら一緒に選びましょう!

 

 

 

 二人で時間を忘れて一緒に悩み、最終的にお揃いのピックを買ってその日のデートは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++

 

 今日は結束バンドで練習をしている。

 

 一曲弾き終えてひとりちゃんの様子を窺うと、彼女は右手を眼前に持ち上げていた。

 

 それから手の中にあるものを確認し、一度私の方へと振り向く。

 彼女の視線は私の右手に向かっている。

 

 そしてもう一度自分の右手を確認して、それから――

 

 

 

 

 

 

 

 嬉しそうにニヘラと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 か、可愛い〜〜〜キターン!

 

 

 

 あまりの感動に抱きつきそうになったが、ギターが危ないので我慢する。

 

 でも、急にそんな可愛い顔をするなんて。ひとりちゃんも悪い女だわ……!

 

 私がそんな彼女に恐れ慄いていると、先輩方が話しかけてきた。

 

「今日の喜多ちゃん凄いねぇ。気持ちが凄い乗ってる感じがするよー!」

 

「うん、迫力あった」

 

 ありがとうございます! と答えて私はひとりちゃんの方を見る。

 彼女は未だピックを見つめていた。

 

 その様子を見てキュンキュンし、顔が熱くなってくる。

 そんな私の姿に、疲れているのかと勘違いした伊地知先輩が休憩を提案してきた。

 

 分かりましたと答えて私達は楽器を置いた。

 

 お揃いのピックは棚に置き、私はひとりちゃんの手を引いてスタジオを出た。

 

 

 

 

 ――ピック、凄い嬉しそうね?

 

 

 からかい混じりに声を掛けると、ひとりちゃんは私を見つめて――

 

 

 

 

「だ、だって。喜多さんとの、特別……ですから!」

 

 

 

 

 か、可愛い〜〜〜!!!

 

 感動に身を任せ、彼女を抱きしめる。

 プルプルと震える彼女は相変わらず柔らかい。

 

 

 私はひとりちゃんのことを抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

+++

 

「あれ、ぼっちちゃんと喜多ちゃんのピックってこんなやつだっけ?」

 

「いや、ぼっちのはもっと渋い感じのだった」

 

 へぇ〜と私は口に出す。

 

 棚に並んで置かれている二つのピックには――

 

 

 

 百合の花が描かれていた。

 

 

 

 




足湯カフェには必ず二人以上でいきましょう。
周りにはカップルしかいません(一敗)
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