ぼうきゃく・ざ・ろっく!   作:勤フィ

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三日目でもう無理でした。


ターニングポイント

 

 目が覚めた時、自分が全く知らない場所に居たらまず何を思うだろう。

 

 誘拐? 夢? 記憶が飛んだ? 

 

 色んなことを考えるだろうが、一言で表すとそれは不安だと思う。

 

 

 今朝の私がまさにその状態だった。

 

 私が朝起きた時、見知ったはずの自室が全く違う光景になっていたのだ。

 

 

 具体的に言うと、部屋の壁と天井が同じ写真で埋め尽くされていた。

 

 

 起き上がった私は、まずここが本当に私の部屋なのか疑った。

 

 机、カーテン、照明、タンス、エアコン……どれも記憶通りの物である。ここは私の部屋だ。

 

 じゃあなんでこうなってる? ふたりのイタズラ? いやでも脚立があっても天井には届かないし、プリンターの使い方も知らないはずだ。

 

 

 私の部屋がこうなっている原因がさっぱり分からず、混乱しているとお母さんが部屋に入ってきた。

 

 

 そこでお母さんに説明されて初めて、私は自分の記憶障害について知った。

 

 前向性のエピソード記憶障害。私は日々の出来事を記憶することが出来ないようだ。今は7月なので、3ヶ月もの記憶が私にはないことになる。

 

 そのため私は体験したことを毎日日記に記しているらしい。机の上にはそれらしきノートが置いてあった。

 

 

 

 部屋の写真についても聞いてみた。

 

 この写真は今から何週間か前に撮られた物で、私が全て印刷して貼ったらしい。お母さんは記憶に関わることかもしれないと心配して、下手に触ることが出来なくてそのままにしているとの事。

 

 

 だがこれを私が貼ったと言われても、記憶が無いので何が何だか分からない。

 

 確かに写真には私が写っていたが、そこに写っている三人のことを私は覚えていない。

 

 何故壁一面に貼ろうと思ったのか? 何故この人たちと写真を撮っているのか? その答えを知るために私は日記を読み込んでみた。

 

 

 

 結論から言えば、私はバンドを組んでいるらしいのだ。

 

 壁一面に貼られていた写真はアーティスト写真。一緒に写っているのはバンドメンバー。右から虹夏ちゃん、リョウさん、喜多さん。

 

 

 日記から推測するに、みんなで写真を撮ったのが嬉しすぎて壁一面に貼ってしまったらしい。重い……重いよ私……。

 

 でも貼りたくなってしまうのが伝わるぐらい、私はバンド活動を楽しんでいた。日記の中の私は生き生きしていて、記憶の中の私とは全く違っている。

 

『喜多さんを結束バンドに戻すことに成功した!』……とか、『過去の私が書いた歌詞にリョウさんが曲をつけてくれた!』……とか、『給料日だったけど、働いた記憶が全くないからなんか嬉しい!』……等々、これ本当に私か? と疑う程に活発に活動している。

 

 

 ひとまず日記を一通り読み終えた。どうやら私の想像よりも活動は進んでいるみたいだ。

 

 作詞が私で作曲がリョウさんの結束バンドオリジナル曲も何曲か完成し、明日ライブに出るためのオーディションがあると昨日の日記には書かれている。

 

 

 

 

 

 そう、つまりは今日である。

 

 昨日の私からの伝言は特になし。『託しました』と一言書かれていたぐらいで、後は今日の私に任せるようだ。

 

 

 困る……荷が重い……。他の日の私もこんな気持ちだったのだろうか……? 初バイトを任された時の私なんてまさにそうだろう。

 

 一日経てば、もう思い入れは無くなってしまうのだ。頑張る理由も忘れてしまうのだ。

 

 それでも、バトンは今日の私まで回ってきている。

 

 

 やるしかない、やるしかないんだ。

 

 昨日までの私の頑張りを無駄にしたくはない……なんて綺麗事かもしれないけど、私に出来ることがあるならやるべきなのだ。

 

 

 そんな決意をした。ギターを背負って、私は下北沢へ向かう。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 スターリーの控え室で日記を読み返していた。もう少ししたらオーディションが始まる。

 

 日記を読んで、なんとなく分かったことがある。

 

 元々は誰も私のことを知らない場所へ逃げたかっただけだった。でも逃げた先でも私は何一つ変わらなくて、些細なことも覚えておくことが出来なくて、むしろ中学時代よりも友達作りは絶望的だったかもしれない。

 

 

 でも虹夏ちゃんに勧誘された日から、日記に書きたいことが沢山増えて、きっと毎日が楽しくなってきていて、明日の自分にもこの気持ちを知って欲しかった。多分そうなんだ。

 

 

 それが積み重なってきて、今日がある。

 

 

 私に記憶障害がなかったら、何不自由なくバンド活動が出来ていたのかもしれない。

 

 

 でもそれだったらきっと、毎日を大事に出来なかった。

 

 私にタイムリミットがあったことで、ここまで来れたのだと思う。

 

 

 

 きっと私は誰かに救って欲しかったんだ。明日に行くことが出来ない私を恨んで、何も出来ないと決めつけて、ただただ未来に期待して眠るだけ。

 

 分かってはいるはずだった。誰も私のことなんて救ってくれない。虹夏ちゃんは私を見つけ出してくれたけど、それは直接的な救いにはなり得ない。

 

 

 

 

 私を救うことが出来るのは私だけだった。

 

 託すなんて体良く書いているけど、本心は明日の私に後藤ひとりという人間を救って欲しかっただけのように思える。

 

 言葉にするのは難しいけど、後藤ひとりという人間と今日を生きる私は別人みたいな感覚で、毎日を生きる私たちは後藤ひとりを救うために動いていたのかな、なんて考えている。

 

 

 答えが分かる日は来ないかもしれない。忘れたいと願って、バラバラになってしまった記憶たちはもう思い起こすことも出来ないかもしれない。

 

 

 忘れることが私にとっての幸せ。それでも私は私のことを知ってみたい。

 

 

 そう、知りたいんだ。私は私のことすらまともに知らない。

 

「ぼっちちゃーん! 準備できたって!」

 

「……今行きます」

 

 私はこれからもみんなと一緒に活動したい。リハーサルで少しだけ一緒に過ごしたぐらいだけど、今までの私が感じていたように、私もそれは感じていた。それは変わらない。

 

 

 でも、私には少しだけ変わったことがある。

 

 今まで見てあげられなかった私を、疎かにしてきてしまった私のことを想ってあげたい。

 

 

 バンドのことだけじゃない。自分を大事にしてあげよう。

 

 過去の私、今日の私、そして明日以降の私。

 

 全部私だけど、私は君たちのことをまだよく知らないんだ。今までは日記の中の表面上の君のことしか見えていなかったから。

 

 

 自分と向き合ってみよう。そう誓って、私は日記を閉じた。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

「それじゃあ『あのバンド』と『ギターと孤独と蒼い惑星』って曲やりまーす!」

 

 私はみんなでバンド活動をして、私のことも救ってあげたい。

 

 それなら私に止まっている時間なんてない。こんなオーディションで足踏みする暇などないのだ。

 

 演奏が始まる。

 

 日記にもあったように、私には手続き記憶は残る。ギターの記憶は問題なく残っており、今までの練習が体に染み付いている。

 

 でもそれだけじゃきっと足りない。私の今までの全てを発揮する。

 

 頭の中を空にして、バンドメンバーを全力で感じ取って、完璧に合わせてみせる。

 

 

 集中しろよ、後藤ひとり。絶対に出来る。

 

 集中……集中……。

 

 

 

 頭を空っぽにし、思考を限界まで削ぎ落とし、ただただギターに全神経を注ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけばそこは見慣れた光景。いつもギターを弾いてきた押し入れ。

 

 真っ暗で、狭くて、誰もいない。押し入れの外からはみんなの声、音が聞こえてくる

 

 

 そうだよ、この扉を開けるのはみんなじゃない。

 

 

 私だ。

 

 

 私は押し入れの扉を勢い良く開けた。

 

 

 その先の光景はとにかく眩しかった。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

「……いいよ、合格」

 

 気づけば演奏が終わっていた。演奏中の記憶は全然なくて、ただみんながいたことぐらいしか覚えていない。

 

 

 それでも、合格出来て良かった……。

 

「すごいよ! ぼっちちゃん!」

 

 駆け寄ってきた虹夏ちゃんが私の肩を叩く。上手く出来ていたなら良かったけど……。

 

「後藤さん! 本当にすごいわ!」

 

「ぼっちすごい」

 

 隣にいた喜多さんとリョウさんも私を褒めてくれる。

 

 ああ、上手くできてたんだな……。ほっと胸を撫で下ろす。

 

 

 安心した途端、なんだか上手く立てなくなってしまった。その場に倒れ込む私。

 

「ぼっちちゃん大丈夫!?」

 

 心配そうに私を見つめる三人。

 

 はい……大丈夫です……そう言おうと思ったけど上手く声は出せなくて、迫り来る眠気と頭痛に身を任せて、私は意識を手放してしまった。

 

 




上手く行き過ぎだよねぇ!?

ちなみに
山田歌詞イベント→もう歌詞書いてたから起きない
アー写イベント→起きてるけど書かなかった
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