六対目は最後まで取って置く ~これでいいのだ!~ 作:アルポリス
木々で塞がれた空に向けて無理やり飛び立てば、枝などが肌を傷つける。それを過ぎれば眼前に広がるのは澄み渡る青い空と、そこを悠々と飛ぶあいつだった。
「シャァァァァァ」
私たちの存在を視界に捕らえ怒りにも似た咆哮を上げた、あいつ――種族名をラティオスと称され、御伽噺では空の覇者などと呼ばれているドラゴン族。名を…
『蛆虫で十分です』
ちょっと、ちゃんと名前があるから。
『では、バカドラで』
いやだから……
『バカドラで』
……バカドラと私たちは呼んでいる。
私たちのやり取りを聞いて…というか、わざとアイは聞かせたのかもしれない。
『ふざけるなぁぁぁぁぁ』
先ほどの咆哮と同じような強い念波が私たちに送られた。
『てめらぁ、久方ぶりに会ったかと思えば、ふざけたことを抜かしやがって!!』
『お久しぶりですね、気にいって頂きましたか、バカドラ』
『ちげぇぇぇ!! 俺の名前はぁ――』
『結構、満場一致でバカドラか蛆虫に決まりました、私としては蛆虫押しですが』
『虫はてめぇだろ、糞虫がぁぁ』
『フッ』
あ、鼻で笑った。念波なのに分かりやすい。でもさ、そんなことすればあいつはきっと。
『殺す、殺す、殺す、殺す、てめぇのその小さな体をこの世から跡形もなく消し去ってやらぁぁぁぁ!!』
完全にキレるに決まってるわな。まあ、トキワの森上空だから他の人に被害は行かないだろうから大丈夫だと思うけど、私がだいじょばないかもしれない。
『バカドラ如きに遅れは取りませんのでご安心下さい』
まあ、そこは信頼しているから体を預けられるわけで、けどさ、心労の問題があるんだよ。
『取り敢えずよぉ! お前が後生大事に抱えてるそいつを奪ってやらぁ!!』
バカドラの口に淡い光が点る。
『させると思っているのですか、この蛆虫が!!』
ほらな、やっぱりこうなる。私が彼らの戦う理由に挙げられるのは毎度のことだ。理由は分からないが。
『食らいやがれぇ、竜の息吹』
轟音と共に息吹とは思えない衝撃がアイに迫りくる。しかし左旋回をもってアイはそれを避けた。だが、バカドラは予想済みなのか、次いで発射された二射目の息吹が既にアイの避けるべき場所に打ち込まれていた。
『動きます、対閃光防御を』
念波が送られ、咄嗟に瞳を瞑る。自身が何かに引っ張られるような感覚を抱けば次の瞬間、私の開いた眼にはちょうどバカドラの背中からの両翼が映し出されていた。
『背後ががら空きですよ、はっぱカッター』
葉とは思えない鋭利な刃が十枚、高速に近い回転でアイの周囲に展開される。そのすべてが反撃とばかりに撃ちだされた。
バカドラならば十分直撃を避けられるのにも関わらず何故か回避行動に移らない。
『馬鹿の一つ覚えのテレポートかよ、分からねぇと思ってかぁぁぁ』
そう言って、数百もの数に相当する星型のエネルギー弾を口から発射した。
その一つ一つが追尾するかのように背後にいる私たちに迫り来る。そして十枚の刃は星型の着弾と共に爆散、すると爆心地から小さな星型エネルギー弾が無数に現れ、残りのエネルギー弾共に上空を飛び避けるアイと私を追尾しはじめた。
『追尾機能搭載のホーミングですか、バカドラの癖に考えましたね』
まだ、余裕で念波を送れるようなら、アイは焦っていない証拠だ。私もアイの負担とならないよう強張った体の力を抜く。飛び交うホーミングを縫うように回避しながらアイ自身も速度を上げればそのスピードに着いてこられないのか若干の距離を置いて追われる形になった。
『残念です、主を抱えてこんなにも早く飛べるのに、町と町の間を飛ぶことが出来ない。あのバカの力を借りることもないのに……真この世はままならぬ、ですね』
そう、あのラティオスは町と町の移動に便利な空を飛ぶという技を持っているのだ。しかし、活用したことなど片手で足りるぐらいしかない。必要な時にあのバカドラがいた為しがないからだ。あいつ自身が言うには修行でいつか私を倒すのだと豪語しているが実際バトルをするのはいつもアイなのである為、私としては少し寂しい気持ちもあるし、役に立たないなというトレーナーに有るまじき想いを抱かせてしまうので可愛さあまって憎さ少量といったところか。
『ホント、あのバカドラは報われませんね……私の主は鈍感です』
後半の意味が良く分からないがどうやら私は何か思い違いをしているらしい。ただ、余計な心労が増えそうなので正そうとは思わないが。
『それにしても、逃げているだけでは埒が明きませんね』
膠着状態が続くのはかなりまずい。唯でさえ、三日も遅れているんだ。あの人にどんな無理難題を引っ掛けられるか分かったものじゃない。
『それならば多少無理してでも反撃に移りたいと思います。多少の揺れはご勘弁下さい』
そう念波が来ればアイはいきなり急加速で飛行し始めた。急に掛かるGに私の顔が歪むのにも目をくれず、流れる雲を突き抜けて飛んでいけば、後方から追尾していたエネルギー弾は米粒よりも小さくなっていた。やがて、それすらも見えなくなるとアイが反転、灼熱に輝く太陽を背にその場に静止する。
『太陽は出ているか』
セレビィーの特徴的な薄い羽が開かれる。その羽は太陽に透かされ淡い輝きを見せていた。しかし、次の瞬間淡い光は急激に輝きを増し始めた。そしてそれは後光のような輝きへと変わり、その光は目の前の空中に集まりだす。
『ソーラーウェーブチャージ。チャージ終了まで五秒、四、三』
集まった光はカウントダウンの終了と共に小さな太陽のような輝きを放つまでになった。
『チャージ完了、照準修正よろし、対閃光防御作動』
私の前に薄い緑の膜状のバリアが展開される。すべての工程を終えてアイの得意技の一つが発動するようだ。
『念動拡散モード展開、ソーラービーム……シュート』
小さな太陽から撃ちだされた巨大なエネルギーの本流はもの凄い速さでターゲットに突き進む。やがて迫り来る星型との衝突する瞬間、一本の本流は何千という小さな光の筋となって星型に降り注いでいった。
溜め込まれた太陽のエネルギーに星型弾は成すすべなく爆散、勢いを止めない力に中の小型星すらも消し去っていく。すべての星型エネルギー弾を消し去ってなお、その力が衰えることは無い、何千という光の筋がすべて星型を打ち出した張本人、バカドラを囲うように向かっていた。
『糞虫が!! 予想していやがったか!!』
あの技は追尾機能を念動力で行うために発動後は自身も動けない。それをアイは看破、敢えて拡散した無数の力で逃げられないよう鳥の籠にバカドラを押し込めたのだ。
一本の光に対して力は無い、それでも無視できないのはあの囲う様に伸ばされた光の雨である、すべてに当たれば、いかなバカドラとて瀕死の重傷を受けることになるだろう、最悪二度と大好きな空を飛べないかもしれない。
ここに来て、攻勢に出ていたバカドラは、防御、そして籠の中とはいえ全力で回避行動を行うこととなる。
結果……。
この空戦はトキワの森上空で起きた大爆発とそれに紛れたあるドラゴンの悲鳴によって終わりを告げられたのだった。
戦闘はこれにて終了です。