六対目は最後まで取って置く ~これでいいのだ!~ 作:アルポリス
未だに笑いを堪えている馬鹿を無視して私は目的地のシオンタウン名物ポケモンタワーに足を運んだ。途中、閑散とする町の雰囲気に首を傾げたが、この町は元々静かだったのだと思い直して止まりかけた足を進める。
中は数多のポケモン達が役目と生涯を終えて眠りについた墓が所狭しに鎮座している。私は入り口で鎮魂の意味も込めて深く一礼すると歩き出した。途中、この世界だからこそというべきか、使者が眠る静かな場所でバトルを申し込んできたトレーナーを時間がないという理由で普段やらない力で物言わせるという行為で蹴散らして――それを実際行ったのは女王であるが、私は上階に進んでいく。
何度目かの戦闘を追えて最後の階段を上り詰めるとそこはタワーの最上階に当たる閑散とした場所だ。
時間は経ったが目的地に辿り着いた安堵から深く息を吐き出せば、廊下をコツコツという音共に私のところへやって来る足跡が聞こえてきた。私のある意味、ポケモンバトルにおける師匠の登場だ。
杖を付きながら死者の眠るこの場所でも堂々とした佇まいで歩いてくる高齢の女性、年を重ねてなお、その目は鋭く全身から強者を匂わせる雰囲気を醸し出す。
「三日と一時間十三分、概ね予定通りの到着」
この人に掛かれば私がこの場所にやって来る時間すら予想可能なのだろうと思えてしまう。目の前に立っているだけなのに体が萎縮してしまった。
「しかしながら遅刻は遅刻、如何な理由があろうともお前はあたしを待たせた」
酷く静かな声色で語りながらその声は私を攻めているように聞こえるのは被害妄想か。そう思ったのを感じたのか鋭い目が私を射抜く。はい、実際私は攻められるべき立場なのだから被害妄想ではないです。
「攻めはいかようにも」
まな板の鯉の如き心境でそう告げれば、女性は一瞬、相手を震え上がらせるような悪どい笑みを浮かべた。私も時々、こう言った笑みを浮かべるが、この人の影響だ、と思いたい。もっとも、私の笑みではせいぜい怖がらせるのが関の山といったところか、相手を震え上がらせるにはまだ年季が足りない。
「然り、されど今は再開を喜ぶとするさね」
先ほどの笑みから打って変わって深い愛情を込められた笑みで師匠と呼んでいる女性から手を差し出され、私はその手を迷わず交わした。
「ご無沙汰しております、キクコ師匠」
「そなたが起こす喧騒、あたしの耳にもはいっているさね、されど、あまりお痛は程ほどにしてやらにゃ、お前のところの爺があたしの所に顔をだしてしまうってものさね」
「それはどちらの意味で取ればよろしいか?」
そう問えば、キクコはケラケラと笑い声を上げた。ツボに嵌ったらしい。
「ああ、可笑しいさね。もちろん、裏の意味に決まっている」
彼女が言う裏の意味を知るものは極僅かな人物だけだ、うちの爺様も知らない彼女の秘密。
表向きの彼女はセキエイ高原ポケモンリーグ四天王キクコ、その姿を見るものは数知れず、小さい子から妙齢の大人までもが光り輝く四天王の地位に立つ、彼女を賞賛し、ポケモントレーナーはライバル視する。しかして、彼女の裏の顔は表の光り輝く彼女からは掛け離れた闇の部分、辛うじて扱うポケモンの種族が表に現れているだけで、彼女の裏の部分を知れるものは彼女本人から告げられる以外では無いに等しい。
自慢するわけではないが決して零ではない理由があるのは私という例外があったからだろう。
何を隠そう私は彼女を認識した瞬間に彼女が持つ異様を知覚してしまったのだ。その縁によって師弟関係を結び、四天王としての彼女を倒した今でも師匠と呼ばせてもらっている。
師匠が閑散とした最上階の部屋を見渡すように視線を動かした。そして憎憎しげに舌打ちを繰り返して視線を私に戻す。
「あたしとお前が揃ったことで死霊がざわめいているさね、声が煩いから少し黙らせるかい」
師匠の横に影も無くゲンガーが現れると、不気味な闇色の光を周囲に発していった。次いで師匠が杖の先を力強く地面に叩き付ければ、甲高い音と共に、私でも感じていた重い空気が一瞬にして飛散する。
彼女の裏の顔とは死者と言葉を交わし、時に受け入れ、時に払うという、俗に言うところの霊能力者なのだ。彼女としては俗称を嫌い、己を死霊使いと呼んでいるのだが、やっていることはテレビで見るような霊能力者と変わらない。
「これでいいさね、少しばかりこの空間をゲンガーの領域にさせてもらった。これで、へたな死霊は入ってこれないさね」
「随分とこの場所に集まっていたんですね、どちらですか?」
「場所柄、当然ポケモンの方さね。お前が来る間、ここに集まる死んだポケモン達の声を聞いていたんさね」
それにしても、畑が違う私ですら重々しいと感じた空気にどこか、私の中にある警報が鳴り響く。今回、呼ばれた理由、妹がわざと三日も遅らせた理由、そしてこの場にいた沢山の死んだポケモン達の理由、そのすべてがこれから話すのであろう師匠の言葉に集約されているような気がした。
私の思考を読んだかのように師匠は神妙な顔で頷いた。
「そうさね、お前をここに呼ぶに辺り、妹に三日後に告げて欲しい書いた手紙も遣しておいたんさね。理由はこの場に留まり続ける死者の声を聞くため、お前には昔言ったと思うが、この世に残り続ける死者の多くが死する前後の想いしか覚えておらん、尚且つ恨み辛みを残した死者の言葉は酷く支離滅裂なんさ、その死者の言葉を丁寧に受けいれ、真実を見つけ出すのがあたしら死霊使いの役目とも言えるんさね」
「私は故意に遅らせられた日にちに焦っていたというわけですか」
自分で言っておいて悲しくなる。結構大変な想いをしたのに。
「そこに関してはお前の自業自得、家で気を抜きすぎていただけさね」
「家は寛ぐものです」
「ならば、誰も悪くないさね、これ以上グダグダ抜かすならゲンガーの特性ナイトヘッドをお見舞いするが、どうする?」
「勘弁して下さい。ですが、誰も悪くないのなら遅刻も何も無いでしょう?」
「馬鹿言いでないさね、遅刻は遅刻、十三分は遅刻の範疇に入るだろうが」
「そこだったんですか!!」
私にとっては驚愕の真実につい叫んでしまった。つまり、如何様という言質は取られたままだというわけである。
「なに、お前に頼みたいことが今回あった、だから断れないようにしただけさね」
何もかも師匠の思い通りというわけですか。まったく、バトル以外で師匠に勝てたためしがない。
深く息を吐き出すことで敗北の意思表示を行えば、そんな私の様子を見て悪どいからドス黒い笑みを浮かべた。
そして瞬時に真面目な表情を浮かべる。どうやら本題に入るらしい。
「先ほどようやくこのタワーに溢れるほどいた死者の理由を突き止めたさね」
言って、師匠は杖を握りこんだ。このような仕草をする師匠の内心では怒りや嘆きが渦巻いているのだろう。死者と語る師匠は時折こう言った仕草で冷静さを保とうとする。
「ここに溢れる死者達は皆、一つの場所で生きておったさね、その理由が……身勝手な人間によって連れてこられ、挙句ろくな世話もされないまま、死んだものが殆どさね。けどね、それだけならあたしもここまで内心怒りに満ちることはない、死霊使いは死者に引っ張られないため常に冷静であらねばならないからさね」
杖が折れんばかりに撓る。よほどの怒りなのだろう。ここまでの怒りは私にも初めてだ。
「お前には姿が見えていなかったから理解できないだろうが、ここに溢れるポケモン達の一部には、皆どこか体の一部が欠損しているものがいるんさね、可笑しな話だ、魂だけの存在にも関わらず、私の目にはそう映ってしまう、これがどういう意味かお前には分かるかい?」
私は首を横に振って答えた。師匠の問いに答えは必要ない、この問いも溢れ出そうな怒りを抑えるための緩和剤みたいな行為なのだ。
「生者たる人間が! 本来犯されてはならない魂に傷をつけるほどの行為を遂行している、それが生者にとってどれだけの苦痛か、死することこそが救いになる行為とは一体何か!! その死者の声に耳を傾ければ恨みの篭った眼差しで見つめられ、呪詛のような言葉で答えてくれたさね、この死者たちは醜い人間たちによって切り刻まれ、実験され殺されたモルモット、それがこの何百というポケモンさね!!」
魂すら犯されるほどの狂気、それが何百という数で師匠には見えているという。それなら、今このタワーに溢れているポケモンの数はいくつなのだ。
「残念だが、あたしにも把握できないくらいさね、そのせいで今もシオンタウンは閑散としているはずだよ、日中でも怪現象が起きるから皆、家から出ないようにしているんさ。このタワーにも人はいないさね」
ちょっと待てと私は言いたい。ここに来るまでに私は何度もポケモンバトルを行ったはずで、まさか……。
「ああ、あれは人間の死者さね、この異常に集まってきてくれたんさ」
サラッと、私に真実を話してきやがった。だが、それはつまり。
「お前にバトルを仕掛けるくらい実態があるとなると、よほど長い期間この世に留まっている霊さね。きっと、一般人にも見えるはずさね。だが、悪い霊じゃない、むしろ、このタワーに生者が入らないよう番人の代わりをしてくれているのだろうさ。死者側からもこれは異常とも呼ぶべき事態なんさね」
これはもしかしたらとんでもない事件なのではないだろうか。もちろん裏の、が付く事件だ。
「お前には原因となる場所に赴き、そこで何が行われたか調べてきて欲しいさね、本来なら私自身が行きたいところではあるが、このタワーの死者を無視することは死霊使いとして許されない、私はこれから溢れる死者の怒りを鎮め、払う準備に入る。その間、代わりがお前というわけさね」
そう言って、師匠はモンスターボールを取り出して一体のポケモンを出した。ゴースと呼ばれるポケモンだ。
「この子が道案内をしてくれる、死者に関してはこの子に任せるさね。ただ、そのゴースは生者とは戦えないくらい弱いからね、その子の護衛も頼むよ」
ゴースは私の周囲を二度、三度回って空気に溶けるかのように消えていった。僅かに気配がすることから目に見えないようにしたのだろう。エスパータイプが使うような姿隠しとは違い、私では気配が分かるくらいだ。
「それだけでも、十分お前は凄いさね。さすが、私の弟子なだけある。メリー、頼んだよ。これ以上狂気が行われていなければいい、けれど、もし今も続いているようであれば」
視線をゆっくりと師匠に向けて頷いた。
「完膚なきまでに破壊を……最悪人間の死者を増やすかもしれませんが」
「構わないさね、こちら側に魂がきたらあたしの手でその魂に苦痛を味あわせてやるさ」
生者には私が、死者には師匠が。ここに最強の師弟コンビ誕生……の瞬間かな。
こうして私は師匠の依頼を遂行するため、久々に表の元チャンピオンから裏の顔にシフトチェンジすることになった。
裏の顔と何かって? それはまだ秘密です。
投稿したものの、今後も遅筆が続きます。申し訳ありません。
ですが、優先的にこちらを書きたいと思っているので、次も気長にお待ちいただければと思います。
捏造キクコ師匠です。口調も違い、完全別物になっているかもしれませんが、ご容赦下さい(笑