六対目は最後まで取って置く ~これでいいのだ!~ 作:アルポリス
始まります。
ゴースに導かれて私はある洞窟の前まで来ていた。シオンタウンより東、本来は洞窟と呼ばれるよりポケモンの通り道として認識さされている通称、ディグダの穴。この場所がどうやら目的の場所らしい。ゴースは二度、三度私の周りを回ると再び姿を消した。
「アイ、今回はお前も姿を消していけ」
『ですが、主。この先に危険なものがあった場合、迷わず姿を現しますよ』
「だめだ、お前という存在は存外目立ちすぎる。元チャンピオンの私という表の顔を出すのはまずい」
そう低い声で告げて、目元まで深々と被った黒のニット帽から僅かに目を出して睨みつければアイが言葉を詰まらせる。
今の私は元チャンピオンではなく、全国を又に掛けて犯罪者を取り締まる権限を持ち合わせたある秘密組織に所属する人間、コードネーム・イケメン。それが今の私だ。
イケメンの時は極力男装することを心がけている。今もタッパを作り出す特殊な服装に着替えて男装中。ニット帽は目立つ金髪を隠すためのもでもあり、普段の靴とは違い、身長を伸ばす特殊なブーツも履いて親しい相手以外なら男性と思わせることができるだろう。
同僚にはハンサムと呼ばれる見た目四十台くらいの男性が居る。もちろん、その人も偽名であり、姿すらも偽っているのだが、本当の姿はコードネームの通り中々のハンサムだ。この人に変装を教わった。ちなみに姿を偽っている時は国際警察に所属しているため、器用に人格すら変えるのだがら恐れ入る。
実のところチャンピオンになって二年目にある犯罪組織に狙われたことがあり、アイや、他の仲間と返り討ちにして逆に壊滅させた事見初められ、その人にスカウトされたのだ。ただ、組織に縛られたくない私は最初お断りをしたのだが、彼はその後も熱心に勧誘してくるようになった。何回も会っていれば情というものが沸くもので、ついつい捜査のお手伝いなどをしてしまう仲にまで発展していく。
やがて、その組織に属するスタッフの中には表向きの顔と裏を使い分けるメンバーもいるらしく、組織に順ずる場合を除き、無償という代償で私は私の自由を了承してくれる旨を提案され、私が折れる形で所属することになった。これが私の組織加入の経緯である。
正式に所属してからもハンサムとはよくコンビを組んで数々の犯罪組織を摘発したものだ。
『分かりました、ですが、気取られない位置で居る事はお許し下さい。それが私のギリギリですから』
それに私は了承の意味で頷いた。流石にこれ以上拒否すれば泣かれることは必須、何回も同じことを繰り返せば見極めが出来る様になった。
いざ、洞窟調査に赴くとしますか。
やはりディグダの穴と呼ばれるだけあって、さっきから野生のディグダやダグトリオがエンカントしてくる。地面からひょっこり現われてあの円らな瞳で見上げられると思わず戦闘意欲を失いそうになるがそれを退けるのは最終的に仲間となったチャーレムと呼ばれるポケモンなので罪悪感は残るものの心情的にはまだ楽だ。元は卵から孵したアサナンである。
このポケモンならカントー地方であまり知られていないのでチャンピオンとしての自分と結びつけるのは難しいはずだ。それにこのチャーレムは他の同種族と少し違う。他の種族は細い体で柔軟性がある格闘タイプなのだが、このチャーレム、一応ガ王と仲間内からは呼ばれているこいつは伊達じゃない、主に筋肉が…そう、筋肉が。重要なので二度言っておく。
卵から産れたアナサンの時は割りと普通だったのだ、いや、少し訂正すると筋トレが三度の飯より好きという趣味を生まれた時から持っているだけの同種族と変わらない体型だったのである。仲間内では唯一マトモな仲間が出来たと喜んだほどだ。
それを手塩にかけて育て、筋トレする姿を微笑ましく、時に頬を引き攣らせながら見守り続ける事数ヶ月、チャーレムに進化したのだが、最初見たとき思わず同じ格闘タイプのゴーリキですか、と問いかけてしまったほどマッスルになっていたのだ。ピンクのズボンがはち切れんばかりの太ももと上半身の鋼のような筋肉、背中なんて思わず鬼の顔に見えてそっと目を逸らしたぐらい凄かった。
唯一、頭の帽子のようなものが辛うじてチャーレム要素を残しているぐらいで、それを視界に捉えようやく自分が育て上げたアナサンだと理解できたのは親として恥ずかしかったのを覚えている。とにかく私の仲間になる奴はやっぱり規格外であったと結論付けた。
そのガ王が襲い来るディグダを指だけで摘み上げ投げ飛ばす、それを繰り返しながら順調に進んでいる。うん、進んで……いるけど投げられるディグダが可哀想で嗚咽を漏らしそうだ。
私が立ち止まって口に手を当てて我慢していると先に進んでいたガ王が心配して戻ってきてくれた。こいつも体に似合わない円らな瞳で見上げてくる。但し体はマッスルで鼻息が荒い。
『母上……』
卵から育て上げたことでこの子は私のことを母親だと思っている。何回か違うと指摘したのだが、一向に直してくれず諦めた。そのガ王はあまり念波を用いて会話してくれない。言葉自体少なめで、その瞳で語ってくる。まあ、育て上げただけあって、何となく言いたい事は分かるのでそれほど不便ではないが。ちなみに、私以外に対しては肉体言語一筋である。これは仲間も含めてだ。含めたら駄目だけど仕方が無い。うん、仕方が無い。だって、初めて爺様に見せたら研究者モードで発狂しながら突撃、躊躇なくエルボーを食らわせて失神させたんだもの。
基本彼は私以外には凶暴なのです。でも、何だかんだ言ってそんな彼が可愛い今日この頃。
「大丈夫だ、進もう」
ガ王は一つ頷いてまた摘んでは投げて、を繰り返しながら進みだした。心配させるのも嫌なので極力あの子の戦闘は見ないようにすることに……親御心だと思って欲しい。
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天然の洞窟を道なりに歩く事数分、消えていたゴースが現われてどう見ても壁でしかない場所の一点を見つめ始めた。どうやらお目当ての場所に行きついたらしい。私は壁を触り感触を確かめる。継ぎ接ぎなども無く一見してその他の壁と変わりない創りに眉を顰めた。次に叩いてみるも他の場所と変わらない音が響く。
「どう見ても地続きの壁に見えるな」
この場所はディグダ達が作り上げた天然の洞窟、人工の手が加えられていればそれが目立つはずだ。それが無いとなれば考えられる事は限られてくる。手持ちにしたディグダに作らせたるという荒業を行えばそれも可能だろう。
「仕方ない、やってくれ」
私がそっと横に立つガ王に告げれば心得たとばかりに頷き壁の前に立った。危険を避けるため私はガ王から離れて観察する。
瞳を閉じて集中するガ王は不規則的な呼吸を繰り返す。その独特な呼吸法で精神を整えたガ王はカッと目を見開き、その極太い腕を壁の一点に撃ち込んだ。直後、響き渡る轟音と岩が崩れる音、一点集中による力の分散を避けるガ王独特の打ち込みに岩石で出来た壁も崩れ去る。力を与えすぎれば壁だけでなく天井なども崩れ落ちそうだが分散を逃さない一点集中の利点はそれすらも看破できるのだ。案の定、その場所の壁だけが崩れ落ち、その先にある人工的な壁もまた破壊したようだ。そこには長く続くどう見ても人の手が加えられた道があった。
「いや、道と言うよりは廊下だな」
薄暗いその場所の天井には照明機器が均一に続いていたことから過去に壊滅させた研究施設のような印象を受けた。これはいよいよ持って塔の流れた亡霊のポケモンが居た場所だと確信する。こう言った場所で秘密裏に作る施設など真っ当だった例がないのは組織に入ってから何度もそう言った施設を破壊してきたからだ。そしてその都度、胸糞悪い研究を行っていた事を思い出して私の顔は不快に歪んでいるだろう。鏡が無いので分からないが背後で佇むアイが落ち着くようにと念を送り込んで来るので人様に見せられるような顔はしていなはずだ。
さて、精神を落ち着かせて激情を落ち着かせれば表情も元通りに、アイからオッケー念波が届き、いざ行かん、人間だけが持つ愚かな業の深き場所に、と歩き出そうとすれば共に付いてきてくれるはずのガ王が行き成り私の背後、今まで歩いてきた洞窟の方に回り警戒する仕草を見せた。
同時にアイから人間の足音と四足のポケモンらしき足とが近づいてくるという念波が送られてくる。
ゴースも何時の間にかその姿を消していて気配しか分からない。
出鼻を挫かれた形の私も内心で舌打ちしながら振り返り、確実にこちらを目指しているであろう相手とポケモンを見据えた。
メリーの四体目はちょっと筋トレが好きすぎるムキムキチャーレムさんでした。
次回は中篇です。