六対目は最後まで取って置く ~これでいいのだ!~   作:アルポリス

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 始まります。


中篇

 薄暗い洞窟の道から漆黒の獣を連れた少年、逆立った茶色の髪が特徴で二週間前旅立ったはずの新人トレーナーが私の存在を視界に捉えて驚きを見せる。それはこちらも同じで私としては相手の為とはいえ一方的に蔑んだという手前、再開を喜ぶ気持ちより僅かな恐怖の方が勝る。

 

「あれ、こんな所に人がいるじゃねぇか」

 

 いや、まだ大丈夫だ。私の今の格好は少し小柄な少年と言った格好、いくら身内でも明かりのないこの薄暗い場所なら近づかれなければ。

 

「ていうか、あんた……え、姉さん!?」

 

 断定ですか、ちくしょう! ホント、可愛くない……嘘です、可愛い弟だよ!!

 

 頭の回転が速い弟の事だ、この格好にも理由があるんだと瞬時に理解を示しながらも表面上は驚いてみせたのだろう。ホント、可愛いな、おい。

 

 私は一つ溜息を吐き出して弟の名前を口にした。

 

「……グリーン」

 

 よりにもよって、神様、どうしてばれる確立無限大の身内が来ちゃうんだ。いや、それよりも弟よ、君は二週間でもうこんな所をウロウロしているわけ? どれだけ優秀なんですか。

 それに何だが、軍用犬宜しく横についているブラッキーが私の姿を見て威嚇をしているし、何だが二週間で大分逞しくお成りになりましたね。うん、こいつ私のこと相当恨んでいるわ。その目が今にでも射殺さんばかりに輝いていますから。そうなると私のポケモンも黙っていないようで、チャーレムのガ王が一歩前に出て私を守るよういつでも動ける構えを取る。

 

 互いのポケモン同士が一触即発の状態の中、爺様のように弟はガ王を見て目を輝かせ始めた。こう言った未知なる者に対する興味を抱く様が似ているのは血筋だからだと思うのだが、それを認識するたびに少し疎外感を抱いてしまう。

 

「何でそんな男みたいな格好しているわけ、ていうか、そのポケモンなに? うわっ、珍しいこの地方ではあんまり見かけないチャーレム……なのか、どう見ても突然変異のゴーリキにしか見えないけど?」

 

 その問いに気持ちが沈んでいた私は片目を釣り上げて憤る。

 

「失礼な!! 私の可愛いチャーレムだよ!!」

「可愛いか?」

 

 私はガ王を連れてグリーンの前まで移動すると、唯一可愛いと思えるチャームポイントを指差した。

 

「ほら見ろ、瞑らなで可愛い瞳だろう?」

「いや、姉さんも酷いだろう。そこしかねぇのかよ」

 

 いやいや、そんな事ないから沢山ありすぎて困るなか敢えて、そう敢えて一つ決めたのがこの場所だから、その他がゴツすぎて、とても人様に可愛いと見せられるものじゃないと認識しているわけではないから、勘違いしないで欲しい。後、私の可愛いと言う認識と他者の可愛いと言う認識に山よりも高い差異があったら困るから、色々と。ほら、色々とね…察せよ。

 

「何が察せ、だよ……別に姉さんが第三者と認識が違っても俺は別に嫌いになんてならな――」

 

 薄暗くても分かるくらい顔を赤くしながら私に聞こえないぐらいの声量でボソボソッと呟いたグリーンに今がチャンスだと念波を送る。

 送られた側のガ王はすぐさま行動を起こすとその太い腕をグリーンの首に向けて振りかぶった。瞬きの間の出来事に私は安堵の笑みを僅かに浮かべる。これで失神した弟を楽々外に連れ出すことが可能となり、この先に待つ危険と対峙させずに済むのだと思っていた瞬間もありました。

 

 甘かった。ああ、甘かったよ。どうやら見た目や雰囲気だけでなく経験も積みかさせて強者の高みに上られたようだ。そして相棒の為、その力を惜しみなく使う気概に脱帽です。

 

 ガ王の腕はピンっと伸ばされたブラッキーの尻尾で見事に受け止められていた。

 

 思わずどんだけ尻尾を強化してんだとツッコミを入れるお姉さんは悪くない。それに対してブラッキーは誇らしげにブラッと鳴きながらガ王を睨みつけているだけ。ここもまた成長の証と見てもいいだろう。二週間前ならば相棒の意を汲み取りすぎて、言い方を悪くすれば深読みしすぎて、すぐさま反撃に移っていたはずだ。それを踏み止まり、相棒が芯に何を望むか見極める為ジッと構えるだけに留められる心の余裕は二週間の旅で得た掛け替えのないものと言えるだろう。

 

「ちっ こんくらいの年の頃は成長が早いとは言ったもんだな。あわよくば記憶を、この出会いを無かった事にしてやろうと思ったのに」

「怖ぇ……何しやがる!!」

「だまらっしゃい!! 元を正せばお前がこんな所にのこのこやって来るのが悪いんだろうが」

「俺はトレーナーとして旅しているだけだろうが、理不尽にも程があるぞ」

 

 そんな事は言われなくても分かっている、そrでも言わずにはいられなかった。

 弟には自分が秘密的組織に入っている事を知らない。別に守秘義務が明確されているわけではないから爺様は知っているが、これ以上秘密を知られるのは活動する上で妨害されかねない。まして弟は知識欲が爺様並に豊富で、依頼の事を話そうものなら喰いつくに決まっている。

 

 このような危険な行為は出来ればさせたくないのが姉心だ。

 

「で、姉貴様よう、こんな所で何やってるんだ?」

 

 さても、どう諦めさせればよいのか妙案が浮かばない現状で唯一の救いはグリーンが後方の研究施設を見ていないことなのだ……が、弟相手ではそれも時間の問題だろう。

 

「別に天然の洞窟を通って、ニビシティーに向かう途中なわけで」

「へぇ、そうかよ」

 

 言いながらグリーンの視線が私の後方にある施設の入り口に向くのを常態移動で塞いでいく。そんな事をすれば怪しい動きになるわけで、私が動く毎に弟の視線も険しくなってくる。何度か右往左往を繰り返せば痺れを切らした弟が涙目で私を睨みつけてきた。まだまだ、身長が足りず上目遣いで見上げられるとお姉さんは悶えてしまう。

 

「教えてくれよ、お姉ちゃん」

 

 お姉ちゃん、お姉ちゃん……グハッ、姉さんの心に萌え属性の攻撃がクリティカルヒット&効果は抜群だ!! ああ、抜群だとも。小さい頃はお姉ちゃんと言ってくれていたのに最近は生意気になっていく一方、それでも可愛い弟に変わりはないが、何より二週間前の出来事のせいで嫌われたと思っていたから尚のこと嬉しい。素直に認めよう、そこに打算的な考えがあろうとも私は今歓喜している。

 

「そう、だな……うん、教えても―」

 

『駄目に決まっているでしょう、主』

 

「いや、駄目だな、うん、残念だけどお姉ちゃんはお前のためを思って拒否します」

 

 良いかな、なんて思い始めた私の心を悟っていたアイが念波で止めてくれなければ素直に口から吐き出していたところだった。大丈夫、弟の舌打ちに心を痛めているけれど、涙が出そうだけど、本当に言わなくて良かった。

 

「とにかく、ここで見たものはお前の記憶から消してくれ、そうじゃないとお姉ちゃん、色々不味いんだ。内容は話せないけれど私の師匠からの依頼でね、どうしてもこの先に行かなきゃいけないんだけど本当に危険なんだ。お姉ちゃんとしては可愛い弟に危ない真似はしてほしくない」

 

 しどろもどろになりながら私の想いを告げれば、弟は一瞬表情を歪めるもすぐに強気な表情を浮かべて鼻で笑った。

 

「姉さんは随分と都合が良いことを言ってくれるな。旅立ちの時はライバルとして俺を突き放して今度は弟として危ないから突き放すのかよ」

「それは……」

 

 グリーンの言葉の一つ一つが刃となってグサッと心に突き刺さる。

 

「なら、俺は一トレーナーとして未知の場所を探索する。姉さんがそれを止めるって言うなら俺はバトルしてでも進むぜ?」

 

 そう言って、悠然とボールを私に向けて突き出してくる。対して私は弟のもっともな意見に掛ける言葉を失ってしまった。何故なら仮にこれが逆の立場だったら私は無理やりでも首を突っ込むだろうこと自分自身が理解できてしまうからだ。

 未知なるものに目を向けることもトレーナーとして必要なファクターだと私は思っている。ここで無理やりにでも弟を止めてしまったら私自身が今まで行ってきた未知なる探求行為を否定する事になるだろう。それはその度に出会ったライバルや敵、それらに打ち勝ってきた自身の誇りを侮辱する事にも繋がり、それを私は許せそうにない。

 

 私は被っていた帽子を外し、一度深く息を吐き出すと普段眼帯として包帯を巻いているその場所を晒してグリーンを見据えた。視線が合わさりあるべきモノがない漆黒の空洞を見て僅かに息を呑むグリーン。

 

「この先は本当に危険な場所だ。下手すれば私のように何かを失う可能性もあるだろう。それでもお前は行くというのか?」

 

 強い瞳を宿してグリーンは頷いた。そして口を開く。

 

「俺はトレーナーとして行きたいと思っている、けどそれ以上に弟として姉さん一人に危険な想いはさせたくないから付いて行きたい。もう、守られるだけの弟じゃ嫌なんだよ」

 

 その言に私の片目が見開いた。弟が見せた心情に内心で苦笑を浮かべながら心の中で二週間の成長を喜びを感じる。そうなれば答えなど一つしかない。

 

「なら、何を言っても無駄だな」

「!」

「言ったからには最後まで付いて来い、この先にあるのは人間の業が深い場所だ。その目でこの星に生きる人間の愚かさを学び、この星に存在するポケモンと人間の在り方を、お前自身の考えで導き出してみろ。それがこの先に行く為の覚悟だ」

 

 言って私は包帯を巻きなおし、帽子を深々と被るとガ王を引き連れ、愚者が作り出した薄暗い施設の中を歩き出す。一つ遅れて歩き出したグリーンが私の隣に並ぶ。

 

 一人で行かれるより私が一緒に行ったほうが安全なのだという姉心を背後で呆れているアイに向けて送れば返ってきたのは諦め交じりの溜息と了承。

 

 ホント苦労を掛けます、アイ様などと煽て機嫌を伺いながら私は進み、グリーンはこの先に待つものを見据えながらしっかりとした足取りで進んでいく。

 

 

 

 




 ここに弟との即席タッグが組まれ一行は研究所に足を踏み入れるのでした。



 次回は中篇Sideグリーンです。
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