六対目は最後まで取って置く ~これでいいのだ!~ 作:アルポリス
始まります。
初めてメリー姉さんと出会ったのは俺が6歳の時だ。ポケモン研究の権威として名高い御爺様に連れられてきた片目を包帯に覆われた金髪の女の子、表情を作らず、笑みも見せない、咥えて片目ときたら当時の俺は酷くメリー姉さんを怖がったのを覚えている。結果初対面で俺が盛大に泣き出すとようやくメリー姉さんは表情を繕い不器用な笑みを作って謝罪してきた。そしてぎこちない仕草で俺の頭に手を乗っけると優しく撫でてくれ、もう片方の手で涙を拭ってくれたのだ。単純なものでその行為だけでメリー姉さんを受け入れた俺はその後、御爺様から家族の一員とする旨を告げられ、家族が増える事にいの一番で喜んで見せた。
歳の近いナナミ姉さんは性格もあってか、リハビリが必要だったメリー姉さんの世話をよくやいていて俺はもっぱらその後ろを着いていくという、今考えると邪魔でしかない行為を行っていたがメリー姉さんはそんな俺を不器用な笑みで受け入れ、決して怒ることはなかった。そんな事をされれば単純な俺は更に懐くと言うもの。
リハビリから一ヶ月、姉さんが順調に回復していた頃、友達と称してレッドを家に連れて来たことがある。今より表情が硬かった姉さんと昔から、今もだが表情を殆ど変えないレッドが思いのほか意気投合しだした時は姉さんを取られるという危惧からレッドと殴り合いのケンカを行い、御爺様に怒られるほど凄まじい嫉妬を宿したものだ。
その後、怪我の完治とリハビリが完了すると姉さんはトレーナーとして旅立つのだが、そこに至るまでも俺が随分と駄々を捏ねたものだ。ほぼ毎日、姉さんに引っ付いて行動を共にして事在るごとに旅をやめるよう説得プラス上目遣いの涙目コンボを繰り出して姉さんを思い留まらせようとしていたが、この頃感情をよく出すようになった姉さんは淡い苦笑でその全てを受け流してきた。それが姉さんのあの当時出来る優しさだと理解できなかった俺は今まで大抵の事は望んだとおりしてくれる姉さんからの初めての拒絶に言い知れない恐怖を感じてしまう。6歳の俺はそんな心の機敏に付いていけるはずもなく、痛む心と悲しみから姉さん自身を嫌う事で心の安寧を計った。
その結果、今までべったり張り付いていたにも関わらず、そういった行為を一切止めて旅立つまで姉さんと禄に話す事もせず、俺以外の家族やレッド、町の住人総出での見送りにすら行くことはなかった。後に不貞腐れた俺に御爺様が最低に二年は帰ってこないだろうという言葉を告げられ、姉さんを嫌った事を酷く後悔したのを覚えている。だが、そんな爺様の予想を裏切り、姉さんは翌年の初めにカントーのチャンピオンとして華々しい凱旋を果たしたのだ。
翌日の新聞には大々的に最年少チャンピオン誕生の見出しが飾り、姉さんは一躍時の人となった。御爺様の研究所には多くの取材陣が集り、姉さんも多くの取材、テレビの出演に借り出され親しい友人や家族との時間も取れず忙しい毎日を送る日々、更にナナミ姉さんがポケモンブリーダーとして旅立ち、俺は家に一人でいることが多くなる。姉さんを嫌っていた頃以上に俺は心が痛み、寂しい想いを募らせていった。
凱旋から一週間、その日も朝から姉さんは取材に行く事になっていた。俺はといえば帰って来たら心のそこから謝罪しようとしていたのにも関わらず自分に構ってくれない姉さんの態度に腹を立て、忙しい中、時間を作って話しかけてくれる姉さんを無視するという始末。
一方的に俺が悪いのに中々素直になれないという悪循環、精神的に参っていた最中、レッドが会いに来る。俺が参っているのを見咎めたレッドは気分転換という名目で外に連れ出してくれた。結構強引だったが、家に篭っていた俺は良いリフレッシュになったようでかなり浮かれていた。だからだろうか、ポケモン研究の第一人者の祖父を持つことから普段警戒するような行動が取れず俺とレッドは誘拐されてしまったのだ。
ただ、理由は御爺様ではなく姉さんだった。とある犯罪組織が姉さんの名声と実力をその手にする為、身内である無防備な俺をまず誘拐して姉さんを脅迫しようとしていたらしい。レッドはとんだとばっちりだ。用意周到だったようで誰かに目撃される事なく俺達は組織の所有する建物に監禁された。
結果から言えば俺とレッドは助かった。しかし、その過程を今も知らない。鮮烈に覚えているのは監禁された場所で動けないよう縄で縛られていた俺達の前に血だらけの姉が現れて微笑まれたことだ。縄を解かれた俺とレッドは泣き叫びながら姉さんに抱きついて謝罪を繰り返し、姉さんは黙って俺達の頭を撫でてくれた。思えばこの時から俺達の感情は可笑しな方行に行っていたのだろう。強く尊敬できる姉が俺達の愚かさを無条件に許したことで俺達なら何をしても許されるのだと、傲慢な考えが生み出され、俺達がトレーナーになっても姉さんは別格でライバルになるのもおこがましいという畏怖にも似た崇拝思考が心に刻まれたのだ。
その結果、俺達はとんだ馬鹿野朗だったということで。思えばあんな号泣をしたのは誘拐から助け出された時以来だったのだから思わぬ因果関係に苦笑しか出なかった。
マサラを旅立つ時に「号泣で生み出され、号泣で生まれ変わったな」などと呟いた俺にレッドは深く頷いたものだ。
お互い恥じないライバルであろうと心がけ今に至るわけだが、同時に俺らは互いに誓い合ったことが一つある。
トレーナーとしての姉さんではなく、俺達の姉さんが危険に晒されていた時迷わず助け出せるような研鑽を積もうと。
だから俺は無理やりにでも姉さんに付いて行く。あの頃の俺達は確かに傲慢が産れていたけれど、それだけではなく傷だらけの姉さんが悠然と微笑むなか僅かに見せた苦痛の声を耳にして俺達がこの女の子を守れるような男になりたいと言う小さな想いと言う名の芽吹き。小さすぎて今まで埋もれていたその芽吹きを大きな想いと言う名の巨木に育てあげる為、足手まといは覚悟の上で無理を通してもらったのだ。
「ブラッ」
姉さんに付いて歩いている俺の隣から離れず付いてくる相棒が誇らしげに鳴いた。俺の想いを感じて後押ししてくれているのだろう。
幸いにも頼れる相棒やこの旅で仲間にしたポケモン達がいる。自惚れかも知れないがそこらのトレーナーより頭の回転は速い方だ、唯の足手まといで終わるつもりはない。
横を歩く姉さんが相棒の鳴き声を聞いて視線を向けて来た。
「それにしても本当にブラッキーは強くなったな」
「旗から見て分かるものなのか?」
確かにこの二週間、中心となって仲間を纏め上げてくれたのは相棒だ。自ずと戦闘に出す回数も増えて経験を積んでいると思う。身内贔屓を抜きにしても最初の旅立ちの時よりも成長しているはずだ。やはり、旅に出ると多くの事を学べるようで特に敗北は多くを経験させてくれた。
最初のジム、岩タイプを扱うジムリーダータケシとの戦いに敗北した時、俺の存在がこの世界で如何にちっぽけだったのか嫌が負うにも理解させられ、そこから這い上がり勝利した時の喜びは今までのどんな勝利よりも嬉しかったのを覚えている。
「そうだな、良い負け方をしたのだろう。ブラッキーの雰囲気に他者を見下す傲慢さが抜けている。それだけでこいつは強くなったと言えるな」
「そ、そうかよ」
純粋に褒められて恥ずかしいものの、やっぱり姉さんに褒められるのが一番嬉しい。昔から家事の手伝いを行うと一番褒めてくれたのは姉さんで、その癖が抜けていないのだろう。こればかりは変えられそうにないが。
「うん、お前はもう私のライバルになり得る存在になったようだな。二週間で考えが変えられる柔軟さ、姉さんとしては鼻が高いぞ」
ああ、そう言ってくれる姉さんの度量の大きさの方が弟として鼻が高いんだ。元チャンピオンなのに未だ人気があるのはその度量の大きさだと俺は思っているからな。
「…その、さ、あの時、俺達の事を思って怒ってくれたんだろう。爺さんが教えてくれたんだ。そりゃ、言われた時は腹が立って、その後すぐに悲しくなったりしたけどよ、今はもう感謝の気持ちだけだぜ。もちろん、レッドもそう思ってるからな。でだ、姉さんは俺やレッドに優しすぎるからあの後泣いたりしたんじゃねぇかって、レッドと話したんだけどよ…」
もう、泣かなくていいからなと恥ずかしいから小声で言ったのだがどうやら聞こえていたらしく満面の笑みで頭を撫でられ顔を逸らしながらも内心で悶える俺はきっと立派なシスコンなのだろう。これも変えるつもりはない、と言うか、無理だと断言できる。
ちなみに口には出さないが、レッドも立派なシスコンだ。むしろ、一人っ子のあいつの方がその度合いは高いかもしれない。何故なら研究所で姉さんにわざと見捨てられた時、普段ほとんど表情を変えない、下手すれば親の死に目でも変えないのでは、と母親に思われているくらい無表情のあいつが絶望に歪ませた表情を浮かべていたのだ、それだけレッドにとって姉さんは大切なのだろう。
時折、妙に鼻息が荒く姉さんを凝視している時があるので、弟としては姉さんを守る意味で邪魔をしつつ、同じく親友兼ライバルのレッドが犯罪者予備軍にならないよう言い訳を浮かべながらあいつの想いが成就しない事を密かに願っている。
まあ、最後は建前だ。
本音を言えばレッドに取られるくらいなら俺が姉さんを幸せにしてあげたい…なんて口には出さない大層な願望を持っているわけで、そんな時が来た暁にはレッドとポケモンバトルで決着をつけるとしよう。
中篇と言いながら全体的にグリーンのシスコン話でした。
次回は後編 Sideグリーンです。今度こそ話が進むといいなぁ。