六対目は最後まで取って置く ~これでいいのだ!~   作:アルポリス

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 諸事情で二つに分けました。


 始まります。


後編の上 Sideグリーン

 人の気配はなくともこの私設の電気は生きているようで非常灯の淡い光りを頼りに廊下をひたすら歩き続けていれば前方に扉が現われた。堅く締められた扉は自動制御されているようで横の壁についている端末で操作しなければ開けられない仕組みになっているようだ。

 

 姉さんは顎に手を当て考え込みながら端末を操作するもエラー音が響くだけで開かれることはない。扉の質感から頑丈に出来ている事が伺え、ポケモンの全力でもそう簡単に壊せる代物ではない事が分かる。

 

「どうすんだ、姉さん」

 

 仕組みからしてそこ以外の端末で開かれる事は無いだろうし、一本道だったことから別の道に繋がる扉も見当たらなかったことを問えば軽く首を横に振り溜息を吐き出した。

 

「単純な造りだと思っていたらここまで重厚な扉が待ち受けているとは思わなかった。余程この先に入らせたくなかったんだろう。洞窟前のカモフラージュも凝っていたことからも中になにがあるのやら」

 

 言って姉さんは市販で売られているようなもとはどこか違う携帯端末を取り出し、コードを抜き取ると扉の端末に繋いだ。そこから忙しなく指を動かして端末を操作すれば数分後、エラー音と別の音が響き、重厚な扉がゆっくりと上に向けて開かれていく。

 

 どうやって開かれたのか疑問に思ったのが顔に出ていたのだろう、姉さんは口元に人差し指を置いて僅かに笑みを浮かべた。携帯端末を含めて俺に教える事は出来ないらしい。姉さんは昔から行動を制限される事を嫌うのだが、もしも俺の予想通りなら姉さんがそこに至った心境を聞きたい―――けど、俺が弟だからこそ語ってはくれないのだろう。家族に対する優しさは人一倍旺盛である姉さんだが、俺やレッド、ナナミ姉さんから見れば強迫観念に囚われているような危うさを時折感じていた。

 

「別にいいけどよ、先に進むんだろう、行こうぜ」

 

 言葉で尽くしても姉さんは止める事をしないだろうからこれ以上無理に問いただそうとは思わない。姉さんを守れるように強くなるだけだ。

 

 ブラッキーを連れて歩き出そうとする俺を姉さんは肩を掴んで止めた。

 

「何で止めるんだ…」

 

 咎めて振り向けば険しい表情を浮かべて前方を見据える姉さんの姿があった。不満に感じながら俺も習って前方を見据えるものの、薄暗い廊下が続くだけで変化は見られなかった。痺れを切らして姉さんに問い詰めようとしたその時、前方の薄暗い空間に赤い点の様な光りが数にして十以上浮かび上がってきたのだ。

 

 それを捉え、姉さんが焦り声を上げる。

 

「ガ王!!」

 

 飛び出した何時見てもチャーレムとは思えない、ガ王は俺達のいる場所から駆け出した。次に響き渡ったのは何かが破壊される轟音とテレビなどでよく聞こえる銃撃音、俺は咄嗟に体を竦めるも姉さんに体ごと抱きこまれ、その場所から移動する。その直後、今までいた場所の地面には無数の小さな穴が開けられていた。

 

「これって」

「全自動で動くガーディアンだ。扉が開かれたと同時に作動したんだろうさ」

 

 ガ王によって破壊された蜘蛛のような六本の機械仕掛けの足を壊されたメカが火花を散らしてそこに横たわっていた。胴体部分と思われる場所にはセンサーといえる赤い点灯がついていてこれがあの薄暗い場所で浮き彫りになっていたのだろう。センサーの下には黒い筒のようなものが設置されていてこれが銃機に当たるようだ。

 

「待てよ、こんなメカが十以上あるのか!?」

 

 薄暗い前方で浮き彫りになる十以上の光りに驚きを見せれば普段見せたこの無い焦りを浮かべた表情で頷かれた。あの数を一匹のポケモンに任せるのは酷というもの、俺は迷わず相棒に声を掛けた。すると、漆黒の相棒はメカの無機質な赤い光りとは比べ物にならない生命力を感じる赤い瞳を輝かせ、駆け出していく。

 

 相棒のブラッキーは電光石火の速さで一体の蜘蛛メカに接近すると鍛えあげた尻尾で銃器の部分を破壊、再び電光石火を行ってメカの上部に移動するとその鋭い犬歯でセンサー部分を噛み砕いた。技としては噛み付くだが、相棒の顎は最早砕くまで高められている。機能を失った蜘蛛メカは右往左往しながらやがて他の蜘蛛メカに突撃、爆音と共に二機が破壊された。

 計算通り、そう言いたげな眼差しで次の獲物に食らい付く様は流石俺の相棒と言ったところか、姉さんのガ王が残り一匹をその拳で上空に打ち上げればその更に上まで飛翔した相棒がダメ押しの一撃を与え機能を停止させると十以上いた蜘蛛メカは全て破壊された。

 

 俺の相棒の活躍をその目で確かめた姉さんは不適に笑うと何も言わず駆け出した。俺もそれに続きながら思う、きっと俺は姉さんに少しだけ認められたのだろうと。

 

 

 

 次々と襲い掛かる蜘蛛メカを相棒達が容赦なくなぎ倒し、俺達は非常等の明かりが頼りの施設廊下を駆け抜ける。途中に扉を見つければ姉さんは同じように端末を使って開き、研究室と思われる部屋にあったパソコンからあらん限りのデータを取り出してコピーするという行為を繰り返していた。部屋は薄っすらと埃に塗れて人の手が入ったようには思えない。けれど非常用電源が稼動状態にあることから俺の主観だが大体放置されて一ヶ月と言ったところだろうか、その事を姉さんに告げれば頭を撫でられながら見解は同じだな、という言葉をもらったので同じ考えに至っていたのだろう。撫でられてムスッとした顔を浮かべたことを見られ、その手を離された時、寂しいと思ったのは内緒だ。

 

 何度目かの部屋と邂逅した折、この研究施設の全体図を派底から取り出すことに成功した俺達は今、休憩がてら作戦会議を行っていた。場所はもちろん、蜘蛛メカが入室する事の出来ない研究室の中だ。どうやらプログラムの設定上、研究室が近い場所での戦闘行為は禁止されているようで少なくとも自分達以外の人間がいない現状もっとも安全な場所と言える。

 

「このマップによればこの部屋から少し進んだ場所に地下へ通ずるエレベーターがあるようだ。そしてそこが私達の最終目的地になる」

「どんな場所なんだ?」

「人の業が一心に集まった大規模な実験場だろうよ」

 

 マップに描かれた大きさからかなり大きな空間がこの下にあるのだろう。そのような巨大な実験施設で何を行っていたのか、姉さんの険しい表情から碌な実験を行っていないと思われるもそれ以上に俺は気になることがある。

「なあ、姉さん。どうしてこんな巨大な施設を作り出したのにも関わらず、ここの連中はデータを残したまま破棄したんだろうか」

 そう、見た目からしてかなりの資金を注ぎ込んだように思える施設、いくら入り口をカモフラージュしようと何時かは見つかる恐れの在るものを残して研究員が消えなければならないのか、その二つに関して俺は最初から腑に落ちなかったのだ。

「ここのパソコンに入っていたデータを見る限りポケモンに関して何らかの研究をしていた事は確かだ。もしかしたらそれが理由になるのかもしれないな」

「つまり、俺達が抱く疑問が地下の実験場にあるってことか?」

「確証は無いから何とも言えないが、この場所は綺麗過ぎるんだよ」

「綺麗すぎるって、御爺様の研究所だって綺麗に整頓されているんだ、そう珍しい事じゃないだろう?」

 姉さんは一度考え込んで口を開いた。

「そう言った物理的な綺麗さじゃないだが……何と言えば良いのか……そうだな、私がとある研究施設を調査した時、その施設に入った直後から禍々しい雰囲気が漂っていたんだ。職員の有無に関係なく、その場所にこびり付いた泥のような感じで、これが日常的な狂気なのだと否応無く理解してしまったんだ。そんな感じがここには無い」

「じゃあ、地下にあるって言うのか?」

「少なくともこの階はあくまで実験結果を纏める場所として使われていたんじゃないかと思う」

「日常的な狂気ねぇ」

 言って、顔を顰めた俺は携帯食料を口に含んで考え込め込む。それを眺めていたのだろう姉さんがクスッと笑った。

「狂気は人だけでなくポケモンにも伝染する……っと言っても全ては憶測に過ぎないからな、実際に見てみないと分からないし、私の思い過ごしであるかもしれないからそんな難しく考えなくてもいいぞ?」

 優しい笑みを浮かべながら軽い口調で言われ、自分の体が無意識に強張っていたことに気づいた。ポケモンバトルとは違う初めての戦闘は俺の思っていた以上に緊張を強いられていたようだ。

 

「それが良い事かは別にして場数を重ねればそういった緊張も薄れて馴れてくるものだ。安心しろ、私がいる限りお前に傷など付けさせやしないさ」

 

 そう言って立ち上がった姉さんに釣られ俺も立ち上がる。束の間の休憩が終わりを告げたのだ。

 

「なら俺は“大切なメリー”を守ってやるよ。その片目以外でこれ以上傷なんかつけさねぇからな」

 

 自分を奮い立たせながらさり気無く姉さんとしてだけではない好意を示す二重の意味を込めた宣言すれば姉さんではなく、姿を見せない相棒の念波が俺の頭に直接響いた。

 

『まだまだ新人の癖に大きく出たものですね、グリーン。ですが、その言葉に偽り無ければ見事守って見せなさい。宣言を反故するものに主は渡しませんよ?』

 

 姉さんの相棒――セレビィは何時俺の内心を看破したのだろうか、姉さん何かよりよっぽど恐ろしい存在である。気配すら感じさせないのも褒めるつもりは無いが流石伝説級のポケモンと言ったところだろう。まあ、種族というよりこいつ自体が俺にとって伝説級の障害になりそうだ。それでも負けるつもりは無い。

 

「やってやんよ!!」

「凄い気合だな、けどお前に守ってもらうほど弱くは無いぞ?」

 

 姉さんがやるような念波で返すという行為が出来ないので言葉で持って伝えれば返事が帰ってきたのはトンチンカンな答え、それもさり気無さ過ぎたのか、はたまた姉さん自身が鈍感すぎるのか、名前呼びを見事にスルーされた。

 

「うっせぇ! 鈍感!!」

 

 これ以上心にダメージを負いたくないのでブラッキーを連れて部屋を出ようと歩き出せば背後から「え、これで戦いとなると結構俊敏に動けるんだが」という追加効果に値するダメージを貰ってしまった。

 

 





 次回 後編の下 Sideグリーン
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