六対目は最後まで取って置く ~これでいいのだ!~   作:アルポリス

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 始まります。


後編の下 Sideグリーン

 マップ通り、部屋から出て少し歩くと巨大な扉が設置されていた。これまた姉さんの不思議な作業で扉は開かれ、俺達は中で待機していた蜘蛛メカと対峙する事になる。事前に姉さんから戦闘態勢に入るよう言われていたので、ここは俺と相棒が開発した必殺技を披露する意味も兼ねてチャーレムには遠慮してもらった。

 

 相棒が扉の前に立ち、精神を集中させる。そして黒色のオーラを滲み出させて頭上に溜め込む。時間を掛ければ掛けるほどその威力は増すように設定されているのだが、その制御は酷く細かくて難しい。

 何度も失敗を重ね、つい先日ようやく暴発をしないで打ち出せるようになったその技はとにかく時間が掛かることや集中することで無防備になることから完成とは言えず、残念ながら公式戦では使用できないだろう。それでも威力は保障できる代物で命中精度に定評がある『あく』というタイプ故、一度放たれてしまえば回避するのは難しい。

 

「チャージ35秒『シャドーボールβ』発動」

 

 頭上に置いて闇色に輝く直径50センチ以上の球体が黒い火花を散らして放たれるのを待っている。

 

「ブラッキィィィ!!」

 

 扉が開かれるのと同時にそれは放たれ、大型の備品や研究材料などを難なく運べるぐらいの大きさのエレベーター内にひしめき合う蜘蛛メカ、その数二十は起動することなく一瞬にしてその役目を終えた。

 

 その威力に姉さんは純粋な驚きを見せているようで言葉に出ないようだ。その代わりと言えば良いのか、チャーレムが丸い瞳を思いっきり細めて相棒を見据えていた。何処と無く鼻息も荒いのは何故だ。これが人なら絶対ジュンサーさんに捕まるレベルだぞ。

 

「驚いているところ悪いんだが姉さんのチャーレムがめっさ俺の相棒を見ているだけど」

 

「ん? ああ、悪い。これはガ王の癖なんだ。強者に出会うとそんな目をするんだよ、興奮しているのかもしれないな」

 

 完全な変態だと思った俺は間違っていないはずだ。

 

「まじでか」

「ああ、可愛いやつだろう?」

「そこはノーコメントで」

 

 美的センスなどは人それぞれだ、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間にして数分、エレベーターの扉が開かれ、最下層の通路に降り立った俺と姉さんはその場所の雰囲気に息を詰まらせた。

 

「これが狂気ってやつかよ」

 

 思わず独り言のように呟いてしまうほどの重たい空気が充満していて、それが俺の全身に圧し掛かるように張り付いてくる。

 

 地上よりも更に薄暗い通路、自分達が進む先に禍々しい何かがあると思えてなら無い。一見して物理的な綺麗さを保っているのが酷く不釣合いだ。

 

「見た目じゃない、あくまで空気が重いのをヒシヒシと感じるぜ」

 

 霊感のような特殊さを持ち合わせていない俺でも正常な人間が居ていい場所じゃないと理解してしまうのだ、姉さんはどう感じているのだろう。

 

 先ほどから無言の姉さんの方をチラッと見てみればそこにはこれこそ絶望を宿したと思わせる表情を浮かべていた。

 

「どうしたんだよ、姉さん?」

「そんな……嘘だ……なんでこの世界に……まさか」

 

 全身を震わせ怯える姉さんは自身を抱きしめ必死に否定的な言葉を吐き出して蹲る。そんな姿を始めてみた俺は丸まった姉さんの背中を摩りながら姿の見えない相手に向けて声を上げた。

 

「おい! 居るんだろ!! 姉さんの様子が!!」

 

『……ありえないの……この感覚……あの……あの目玉が』

 

 頭に響く普段他人を馬鹿にしたような丁寧語とは違う幼さを残した念波はセレヴィもまた混乱している事を告げているようなものでしかなく、姉さんを気にかける余裕が無い。

 

「どうなってやがるんだ、いくらなんでもこの怯えようは普通じゃないだろう」

「ブラッ」

「ああ、分かっている。俺達だけで進むつもりはないさ、ここは一旦地上に戻って――」

 

 声を遮って警報音が響き渡ると通路に赤い点滅が点る。

 

――セイタイハンノウヲ、サイジュウヨウクニテカクニン、チカシセツヲイチジテキニカクリシマス。クリカシマス――

 

 警報音の後に流れた機械的な声の放送を最後に自分達が乗っていたエレベーターはロック状態に陥り脱出は不可能となってしまう。

 

「くそ、今になって警戒かよ……ここはよっぽど重要な場所らしいな」

 

 今も赤い点滅を繰り返す通路の先、俺達が向かう本来の場所を見据え、小さく舌打ちする。

 

 行くしかないか、姉さんにはここに居てもらって俺だけでも。

 

「相棒、この先何が起こるか分からないけど一緒に立ち向かってくれるか?」

「ブラッ! ブラッ!!」

 

 赤い目を光らせ興奮気味に頷いてくれた。それに対して不適な笑みを返すと俺は姉さんが鞄に仕舞い入れたカードキー、地上で手に入れたそれを抜き取り駆け出した。

 

「姉さん、待っていてくれ俺が必ず、ここから出してやるからな」

 

 長い通路をひた走る事数分、ようやく目的地となる巨大な扉の前に辿り着いた。扉の横にある端末にカードキーを差し込めばパスワード入力を求められる。

 

 これも地上のパソコンで調べ上げたキーを打ち込むとそれは認証された。

 

――トリプルAノショクイントシテカクニン、チカケンキュウジョヲカイホウシマス。

 

 重圧の扉がゆっくりと開かれる。俺と相棒はその先に待つもの見据え、何時でも攻撃出来る様構えを取る。すると、何時の間にか付いてきたのか姉さんのポケモンであるムキムキチャーレムが静かに佇んでいた。

 

「お前、姉さんを守らなくて良かったのか?」

 

 チャーレムは首を横に振る。では、何故この場所にいるのか。戻る気配も無く自然体で立つ姿はそれでも隙などを見つけるに難しい。つまりはこの先に待つものと対峙するという事に繋がるわけで。

 

「お前……ここを解決する事が姉さんを守る近道だから来たのか?」

 

 まさかと思いながらもそう問えば、チャーレムは一つ頷いた。

 

 本当に姉さんのポケモンは知能指数が高すぎる。あの氷の女王を含め、一見してトレーナーである姉さんの命令を聞いていないように見えてその実深いところで繋がり姉さんの望み通りの答えを出す。そして時に命令無くポケモン自身の考えで行動することは俺の手持ちでもあるが、その殆どはトレーナーから敢えて離れるという選択を取る事はない、いや、考え付かないといった方が良いだろう。それなのに姉さんのポケモンは躊躇することなくトレーナーの憂いとなるものの排除に尽力する。そこに多大な絆があることは理解できるけれどその選択を行える知性に脱帽してしまう。

 

「ホント、超えるには高すぎる壁だよな」

 

 知性があるということはそれだけ自分で考えられる幅が広いということ、端的に言ってしまえばトレーナーなど不必要であり、人間と共にする必要性が無くなることに繋がるだろう。伝説級と呼ばれるポケモンを扱うトレーナーが殆ど居ないのはそんな理由からだ。つまり姉さんのポケモンは伝説級のポテンシャルを秘めているといことになる。

伝説級のような知性を持ち合わせ、姉さんの手持ちみたいな我の強いポケモンと共にすることを望むならば、そのポケモンが考え、共にあることで望み得たいものをトレーナーが与えてやらなければならない、それを示すことでようやく本来どおりのポケモンバトルが行われ、ボールでの勝利を得れば晴れてパートナーとなれるのだ。

 そんな姉さんの一員であるチャーレムの存在は未熟な自分の心に巣くう恐怖を僅かに軽くしてくれる。

 

「今はライバル関係を忘れ、共に姉さんの障害になるものを排除するか?」

 

 俺の共闘宣言にチャーレムはしっかりとした頷きを見せた。

 

 完全に開かれる扉、漆黒の空間に電灯が点るとそこは確かに人間の業とも呼ぶべき場所であった。

 

 

 御爺様の研究所が丸々入ってしまうほどの空間に数多の機材やポケモンが入りそうな試験管、それを監視するモニターが置かれていた。これだけ見ても多額の資金が使われていることを伺わせるも、そんなものでは今更驚けない。

 

「何だよ、これ……」

 

 その巨大な研究施設の一角に積まれたそれは最初ゴミだと思っていた。しかし、鼻に掛かる不快な悪臭が気になり、その一部を凝視して導き出した答えは倫理上あってはならないもの。その光景を平然と作り上げた人間の神経を疑ってしまう。

 

「これが人間のすることかよ……」

 

 多種多様のポケモン――その死骸が八つほどの山を作り出せるほど積まれ放置されていた。

 

 それは数多の属性を持つポケモン達だった。それを平然と、それもゴミのように積み上げられて放置、施設の温度が一定で近づいてみる限り腐敗は僅かであるが、逆にそれが不気味さを上げている。

 正確な数は分からないけれど、八つの山を作れる数、少なくとも3千は優に超えた数のポケモン達がこの場所で実験材料のモルモットにされて命を落している事になる。それを平然と行ってきた研究者――自分と同じ人間達はこの光景に何も感じなかったのだろうか。

 

「ひでぇ……」

 

 実際実験が行われていたと思われるその場所を見て、それしか言葉が出なかった。

 

 試験管のようなカプセル状の中には培養液に満たされたポケモン、その一部と思われる部位が当たり前のように浮いている。病院などで見かける手術台には生々しい血痕が付着されていて、それを行ったのであろうメスなどにも血が残っていた。

 このような凄惨な光景を作った当事者ではないけれど同じ人間として謝罪しなければという愁傷に駆られてしまうほど業の深い所業に思えてしまう。

 

 口元に手を当て胃から逆流するものを必死で抑えながら、激流のように沸き起こる憤怒と同種族としての自己嫌悪の気持ちを必死で落ち着かせる。

 

 今は抑えろ、ここに来た目的を間違えるな……姉さんと一緒に地上に帰るんだろう。

 

 そう自分に言い聞かせていると今の今まで一緒にいたことを忘れていた相棒や姉さんのチャーレムが近づいて俺の脚を支えるよう触れてきた。

 

「ブラッ…」

 

『世界には……多種多様の思考がある……だから……素晴らしい』

 

「ブラッ!」

 

『その気持ちを…抱けるのなら……お前は……ここの奴らと……違う』

 

 叱咤するような相棒の鳴き声と語りかけてくるチャーレムの念波は荒れ狂う心の内に入り込み、ゆっくりと静めてくれた。そうなれば自ずと吐き気も収まり少し余裕が出来てくる。

 

「サンキューな。お前らのおかげで落ち着いてきたわ。そうだよな、俺はこんなことをする奴らは許さない。それって俺がこいつらと一緒にならないってことだよな」

 

 もう一度その光景を見渡して自分に言い聞かせれば思考に冷静さが戻り始め、調べなければならないプランが幾つも浮かび上がる。

 

 まずは地上エレベーターの稼動を促す端末の検索が一つ、次にここまで来たならばこの際、この場所で何が起きたのか、どうして破棄されたのか、その理由を調べ上げてみたい。怯える姉さんが二度とこの場所に来なくても済むように。

 

 広い実験場の中、どう見てもこの施設を統括していると思われる巨大なモニター付きの端末を視界に捕らえ、その場所まで足を運ぶと起動させた。

 画面にカードキーの挿入を促す表示が現われ、施設の開錠に使ったカードキーを再び差し込めば、このカードキーの所持者の名前が画面に現われて、人工的な女性の声が聞こえてきた。

 

――オハヨウゴザイマス、ホンジツノジッケンコウモクヲセンタクシテクダサイ。マタ、ソノタニカンシテハオンセイニンシキニオイテ、オネガイシマス。

 

「エレベーター停止の解除を要請する」

 

――カクニンシマシタ、テイシヲカイジョシマス。

 

 画面上に映るこの巨大な地下施設の全体像、その中で赤く点滅するエレベーターの場所が緑の発光に変わった。これで停止状態の解除に成功したようだ。

 

 次にここ数ヶ月の研究データ及び、その内容の映像を求めれば画面にそれらが映し出される。

 映像の日付から少なくとも二ヶ月前までは稼動状態だったようで内容は見るに絶えないものばかりであった。流石に俺も眼と耳を覆いたくなる情景ばかりが映し出され慌てて止める。耳に残るポケモン達の悲鳴やそれを平然と聞き流す職員と思わしき研究者達に抑えていた怒りが舞い戻る。

 

「クソが……」

 

 そう吐き捨ててそれら全てのデータをコピーするよう命令すれば人工的な声はそれを拒否してきた。どうやらこの端末ではそれらの行為は禁止されているようで、それを行うにはバックアップ用端末にアクセスしなければならないらしい。

 

 その場所はこの実験場の更に奥の最重要施設と呼ばれる小さな部屋らしく、そこを開くにはこの端末で操作しなければならないようだ。

 

 俺は音声ガイダンスに従い、それらの作業を行う。すると何処からか電子音が耳に入り込み画面上にも開錠を示すアイコンが浮かび上がる。

 

――コレニテ、サイギョウコウテイヲオエマス………ヨイタビヲ。

 

 人工音声のよく分からない見送りの言葉を聞き終えた俺達は最重要施設の扉の前に行き、中に入った。

 

 

 

 

 

 

 そしてこの実験場の破棄の理由を知ることになる。

 




 次回 研究施設に潜む純粋な悪意






 お時間を頂く形になりますが、次回もお楽しみいただければ幸いです。
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