六対目は最後まで取って置く ~これでいいのだ!~   作:アルポリス

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プロローグ……、


前編

 意識と無意識の狭間、夢と現実の隙間、生と死の邂逅。

 

 私はそれを繰り返していたらしい。

 

 なぜ、過去形かといえば、お医者さんがそう言っていたからです、はい。

 

 どうやら私、生きているようです。お医者様も助からないだろうと思っていたようで、意識を取り戻した私に酷く驚いていましたね。同意します、私の方が驚きですが。

 

「体の調子はどうかね?」

 

 お医者様のご登場です。

 

 白髪の優しそうなお爺さんですよ。白衣を着た典型的なお医者様で、どうやらここはこの方の個人で経営なされている病院のようです。

 

 どうして分かるのか、だってこの病室、個室なのに狭いんですよ。ええ、もちろん口には出しません。一応、助けられた身ですからね。

 

「自分でも順調だと思います」

「そうか、そうか。君が私の所の敷地に血だらけで倒れているのを見つけたときは腰を抜かすところじゃったよ」

 

 お医者様が苦笑して腰をさすっています。そうですか、本当は抜かしたのですね。ですが、私は気づかない振りをしておきましょう。要らぬ確執は作りたくありませんから。

 

「こうして助けて頂いた件も含め、感謝してもしきれません。私に出来ることがあれば何でも言って下さい」

「これはまた、随分と大人びておるな。子供が気にすることではないぞ。まずは体を治すことが優先せんとな」

「では、お言葉に甘えてそうさせていただきます」

 

 割と無難な会話を徹底しておきましょう。ぶっちゃけ、様子見です。このご時勢、善意だけで人は成り立ちません。後から何か要求されるとも限りませんし。

 

 それにしても、ここはどこの町なのでしょうか。私の故郷ではないのは理解できます。もしかして摩天楼が立ち並ぶビックシティーでしょうか。それとも海とケーキの町でしょうか。まさか、秘境ではないでしょうね。私、虫とか嫌いなのですよ。

 

「それじゃ、わしはもう行くからゆっくりお休み」

 

 お医者様が出て行きました……さて、素に戻らしてもらおうか。あのしゃべり方は頭で整理しながら喋るから疲れるんだ。

 

「まったく、あんだけ、死ぬと思っていて生きていたら世話ないな………そうは思わないか、そこにいる虫モドキ!!」

 

 攻撃に転ずる力を解放して部屋の隅に打ち込んだ。

 

「ビィィィィ!」

 

 独特の泣き声が聞こえたかと思うと、何もいなかったその空間から物体が飛び出した。

 

 上半身を起こしていつでも次の攻撃が出来るよう飛び出してきた物体を見据える。

 

 体長60センチほどで上半身が淡い緑色、下半身が濃い緑色の物体は虫のような羽宙を高速で羽ばたかせて浮いていた。その真丸な目は私を一心に見つめてくる。

 

「生憎と私はほかの人間とはちょっと違う力を持っていてね。お前の姿はぼんやりとだが見えていたよ」

 

 虫モドキは私の言葉に体を僅かに震わした。どうやら意思疎通はできるようだ。

 

「さて、お前に答えるすべがあるのなら答えてもらおう、何故私を監視する?」

 

 その言葉に虫モドキの大きな瞳が僅かに光りだした。次の瞬間、私の脳内でノイズが走る。

 

「思念波だと…私を舐めないでもらおうか」

 

 何をされるか分かったものではない。こちらも精神防御系の力を脳内に巡らす。

 

 脳内念波の応酬を何度か繰り返していると虫モドキは大きな瞳からポロポロと涙を零し始めた。

 

「ビィビィビィ!」

 

 そして必死に鳴きだした。いや、泣き出したといった方がいいかもしれない。

 

「何故…泣く……精神支配の類じゃないというのか…」

 

 だが、これが演技だとした場合、最悪だ。一度念波を受け入れた状態からの防御はかなりの力と精神を酷使する。まして、体の状態も万全ではないとなると更にリスクが上がる。

 

 到底受け入れるわけにはいかないというものだ。

 

「悪いが、一度繋いだ命、そう易々と手放すわけにはいかないんだ。お前がどうしても望むなら、私の手にその小さな体を預けろ」

 

 仮に支配しようものなら、そうされる前にその体を消し去れる。

 

 虫モドキは怯えるように体を震わす。さすがに、野生昆虫、いくら知能があるとはいえ、早々体を預けるなど出来るはずもないか。だが、知能があるからこちらの誠意も伝えやすいというものだ。

 

「私も命を預けるようなものだ、お前にも預けてもらうのが筋というものではないか?」

 

 そう言って手を差し出すと虫モドキはゆっくりその手に乗った。チョコンと手のひらに立つ姿に不覚にも胸がキュンっとさせられる。

 

「約束は守る。だからお前も守ってくれれば嬉しい」

 

 私がそう言えば虫モドキは頷いた。あ、不覚にも可愛いと思ってしまった、嫌いな虫なのに。

 

 

 

 虫モドキの目が輝くと脳内に優しいと表現できる思念波が送られてくる。

 

 私はそれをゆっくりと受け入れるのだった。

 

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